StudyMed医師国家試験

かかとの数滴が未来を守る―新生児マススクリーニングの「誰が・何で・何を」

第118回医師国家試験 F問題 第31問

国試問題にチャレンジ

第118回 F問題 第31問

新生児マススクリーニングで正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.尿で検査される。
  2. b.患者家族の一部負担金がある。
  3. c.都道府県および指定都市が実施する。
  4. d.発見者数はフェニルケトン尿症が最多である。
  5. e.先天性代謝異常にはタンデムマス・スクリーニングが使用される。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は新生児マススクリーニングの制度そのものを問う問題だ。病気の知識というより、「誰が実施して、誰が費用を負担し、何を検体にして、どんな方法で、どの疾患がよく見つかるのか」という仕組みを整理できているかがポイントになる。まず、そもそもこの検査は何のためにあるんだろう。
医学生医学生
生まれたときは無症状でも、放っておくと知的障害などを起こす病気を早く見つけるため、ですよね。
ドクタードクター
その通り。発症前に見つけて治療を始めれば、障害や急性代謝不全による突然死を防げる。日本では1977年にフェニルケトン尿症などの先天性代謝異常症を対象に始まって、のちに先天性甲状腺機能低下症や先天性副腎過形成症が加わった。では検体から。何を使うと思う?
医学生医学生
フェニルケトン尿症っていう名前から、尿で調べるイメージがありました。
ドクタードクター
そこが典型的な引っかけだね。実際は血液だよ。生後4〜6日ごろにかかと、つまり足底を穿刺して、専用のろ紙に血液をしみ込ませて乾燥させた「乾燥ろ紙血」を検査機関に送るんだ。
医学生医学生
なぜ生まれてすぐではなく、4〜6日も待つんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。哺乳が確立して蛋白をとるようになってから、フェニルアラニンなど蓄積する物質が上がってくるからだよ。早すぎると代謝異常を見逃しやすいし、生後早期にはTSHが一過性に上がるので、甲状腺機能低下症の偽陽性も増えてしまう。ちなみに、昔は神経芽腫に対して乳児の尿を使うマススクリーニングがあったけれど、死亡率を下げる効果が確認されず2004年に休止されている。尿のイメージはそこから来ているのかもしれないね。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、有効性が証明されずに中止された検診の例として聞いた気がします。では費用は家族の負担があるんでしょうか。
ドクタードクター
検査費用は公費で賄われていて、保護者が一部を負担する仕組みにはなっていない。採血の費用は医療機関によって出産費用に含めるなどの扱いはあるけれどね。そして実施主体は都道府県と指定都市。母子保健事業の一つとして、自治体が検査機関と契約し、産科で採ったろ紙血が検査機関へ送られ、陽性なら精密検査を行う医療機関に紹介される流れだ。
医学生医学生
市町村ではなく都道府県と指定都市なんですね。乳幼児健診は市町村なので混同しそうです。
ドクタードクター
そこは区別して覚えておこう。次は検査法。先天性代謝異常にはタンデムマス法が使われている。2台の質量分析計を直列につないだ装置で、ろ紙血中のアミノ酸とアシルカルニチンを一度にたくさん測れるんだ。2014年度までに全国で導入された。
医学生医学生
一度に多数測れるということは、対象疾患も増えたんですか。
ドクタードクター
そう。アミノ酸代謝異常症や尿素サイクル異常症、有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝異常症まで含めて、タンデムマス法だけで17疾患をカバーする。これにガラクトース血症、先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎過形成症の3疾患を別の方法で測って、公費対象は合計20疾患だ。
医学生医学生
じゃあ、発見数が一番多いのは歴史的に最初の対象だったフェニルケトン尿症ですか。
ドクタードクター
それがもう一つの落とし穴。最も多く見つかるのは先天性甲状腺機能低下症で、おおむね出生2,000〜3,000人に1人。フェニルケトン尿症は数万人に1人程度だから、桁が違うんだ。スクリーニングのきっかけになった疾患と、発見数が最多の疾患は別だと覚えておこう。
医学生医学生
整理すると、正しいのは「都道府県と指定都市が実施する」と「先天性代謝異常にタンデムマスを使う」の2つですね。
ドクタードクター
正解。最後に発展知識を。スクリーニングの対象になるには、早期治療で予後が大きく改善すること、無症状期に検出できる検査法があること、ある程度の頻度があること、費用対効果が見合うことなどが求められる。最近は重症複合免疫不全症や脊髄性筋萎縮症のように有効な治療が登場した疾患を対象にした拡大スクリーニングも一部地域で行われ、国の実証事業も進んでいる。
医学生医学生
臨床実習で小児科を回ったとき、マススクリーニングで見つかったクレチン症の赤ちゃんが元気に外来に来ていて、早期発見の意味を実感しました。
ドクタードクター
まさにそれがこの制度の価値だね。臨床では、低出生体重児だと甲状腺機能低下が遅れて現れることがあるので再採血を行う点、そして陽性通知を受けた家族の不安に配慮しながら速やかに精密検査につなげる点も大切にしてほしい。

まとめ

新生児マススクリーニングは、都道府県と指定都市が母子保健事業として実施し、検査費用は公費で賄われる公的な事業です。検体は尿ではなく、生後4〜6日ごろに足底から採血した乾燥ろ紙血で、哺乳確立後に行うことで代謝異常の見逃しやTSHサージによる偽陽性を減らしています。アミノ酸・有機酸・脂肪酸代謝異常症などの17疾患はタンデムマス法で一括測定し、ガラクトース血症・先天性甲状腺機能低下症・先天性副腎過形成症を加えた20疾患が公費対象です。発見数が最も多いのは先天性甲状腺機能低下症で、フェニルケトン尿症ではない点に注意が必要です。制度の仕組みとスクリーニングの条件を理解しておくことは、拡大スクリーニングなど今後の動向を読み解き、家族に適切に説明するための基盤になります。

解答・解説

正解はc, eです

テーマ

新生児マススクリーニングは、生まれた時点では症状がなくても、放置すると知的障害や発育障害、急性代謝不全による突然死などを来す先天性疾患を、発症前に見つけて治療につなげるための公的な検査事業である。日本では1977年にフェニルケトン尿症などの先天性代謝異常症を対象に始まり、その後、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)や先天性副腎過形成症が加わった。2014年度までに全国でタンデム質量分析(タンデムマス)法が導入され、検査対象が大きく広がった。

制度の要点

・実施主体:都道府県および指定都市(母子保健事業として実施) ・費用:検査費用は公費負担(採血料など医療機関での費用は別扱いとなることがある) ・検体:生後4~6日(多くは生後5日前後)に足底から採血し、専用ろ紙にしみ込ませた乾燥ろ紙血 ・検査法:アミノ酸・有機酸・脂肪酸代謝異常症はタンデムマス法で一括測定し、ガラクトース血症、先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎過形成症は個別の方法(酵素法・免疫測定法など)で測定する ・発見頻度:最も多いのは先天性甲状腺機能低下症である これに照らすと、c と e が正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  尿で検査される。

    誤り。検体は血液である。生後4~6日ごろに新生児の足底(かかと)をランセットで穿刺し、専用のろ紙に血液をしみ込ませて乾燥させたもの(乾燥ろ紙血)を検査機関に送る。哺乳が確立してから採血するのは、フェニルアラニンなど蓄積する物質が蛋白摂取後に上昇してくるためである。かつて神経芽腫に対して乳児の尿を用いたマススクリーニングが行われていたが、死亡率減少効果が確認されず2004年に休止されている。

  2. ×b.  患者家族の一部負担金がある。

    誤り。新生児マススクリーニングの検査費用は公費で賄われ、保護者が検査費用を一部負担する仕組みにはなっていない。採血にかかる費用は医療機関によって出産費用に含めるなどの扱いがある。なお、公費の対象20疾患以外の疾患(後述の拡大スクリーニング)は、自治体や医療機関によっては任意・自己負担で実施されることがある。

  3. ○c.  都道府県および指定都市が実施する。

    正しい。新生児マススクリーニングは母子保健事業の一つとして、都道府県と指定都市が実施主体となり、公費で行われている。各自治体は検査機関と契約し、産科医療機関で採血されたろ紙血が検査機関へ送られ、陽性者は精密検査医療機関へ紹介される体制がとられている。

  4. ×d.  発見者数はフェニルケトン尿症が最多である。

    誤り。発見数が最も多いのは先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)で、おおむね出生2,000~3,000人に1人程度と、対象疾患の中で群を抜いて多い。フェニルケトン尿症は数万人に1人程度(約6万人に1人前後)とされる。スクリーニング開始の歴史的契機となった疾患ではあるが、発見数が最多ではない。

  5. ○e.  先天性代謝異常にはタンデムマス・スクリーニングが使用される。

    正しい。タンデムマス法は2台の質量分析計を直列につないだ装置で、ろ紙血中のアミノ酸とアシルカルニチンを一度に多数測定できる。これにより、従来から対象だったアミノ酸代謝異常症(フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症)に加え、尿素サイクル異常症(シトルリン血症1型、アルギニノコハク酸尿症)、有機酸代謝異常症(メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症など7疾患)、脂肪酸代謝異常症(中鎖アシルCoA脱水素酵素〈MCAD〉欠損症など5疾患)の計17疾患をスクリーニングできる。

公費対象の20疾患

タンデムマス法で測定する17疾患 ・アミノ酸代謝異常症(尿素サイクル異常症を含む)5疾患:フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、シトルリン血症1型、アルギニノコハク酸尿症 ・有機酸代謝異常症7疾患:メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症、イソ吉草酸血症、メチルクロトニルグリシン尿症、ヒドロキシメチルグルタル酸〈HMG〉血症、複合カルボキシラーゼ欠損症、グルタル酸血症1型 ・脂肪酸代謝異常症5疾患:中鎖アシルCoA脱水素酵素〈MCAD〉欠損症、極長鎖アシルCoA脱水素酵素〈VLCAD〉欠損症、三頭酵素/長鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素〈LCHAD〉欠損症、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ〈CPT〉1欠損症、CPT2欠損症 タンデムマス法以外で測定する3疾患 ・ガラクトース血症、先天性甲状腺機能低下症(TSH測定)、先天性副腎過形成症(17-ヒドロキシプロゲステロン〈17-OHP〉測定、主に21-水酸化酵素欠損症)

スクリーニングの対象となる疾患の条件

早期発見・早期治療で予後が大きく改善すること、無症状期に発見できる適切な検査法があること、一定の頻度があること、費用対効果が見合うことなどが求められる。

拡大スクリーニング

重症複合免疫不全症〈SCID〉や脊髄性筋萎縮症〈SMA〉など、新たに有効な治療法が登場した疾患を対象とする拡大スクリーニングが一部地域で行われ、国による実証事業も進められている。

採血時期の注意

早すぎる採血では哺乳不足のため代謝異常が検出されにくく、また生後早期のTSHサージにより先天性甲状腺機能低下症の偽陽性が増える。低出生体重児では甲状腺機能低下が遅れて現れることがあり、再採血が行われる。

POINT

・実施主体は都道府県・指定都市、検査費用は公費負担。 ・検体は生後4~6日の足底採血による乾燥ろ紙血(尿ではない)。 ・対象は20疾患:タンデムマス法17疾患+ガラクトース血症・先天性甲状腺機能低下症・先天性副腎過形成症。 ・発見数最多は先天性甲状腺機能低下症(約2,000~3,000人に1人)。 ・タンデムマス法はアミノ酸とアシルカルニチンを同時測定し、アミノ酸・有機酸・脂肪酸代謝異常症を検出する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。