かかとの数滴が未来を守る―新生児マススクリーニングの「誰が・何で・何を」
第118回医師国家試験 F問題 第31問
国試問題にチャレンジ
新生児マススクリーニングで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.尿で検査される。
- b.患者家族の一部負担金がある。
- c.都道府県および指定都市が実施する。
- d.発見者数はフェニルケトン尿症が最多である。
- e.先天性代謝異常にはタンデムマス・スクリーニングが使用される。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
新生児マススクリーニングは、都道府県と指定都市が母子保健事業として実施し、検査費用は公費で賄われる公的な事業です。検体は尿ではなく、生後4〜6日ごろに足底から採血した乾燥ろ紙血で、哺乳確立後に行うことで代謝異常の見逃しやTSHサージによる偽陽性を減らしています。アミノ酸・有機酸・脂肪酸代謝異常症などの17疾患はタンデムマス法で一括測定し、ガラクトース血症・先天性甲状腺機能低下症・先天性副腎過形成症を加えた20疾患が公費対象です。発見数が最も多いのは先天性甲状腺機能低下症で、フェニルケトン尿症ではない点に注意が必要です。制度の仕組みとスクリーニングの条件を理解しておくことは、拡大スクリーニングなど今後の動向を読み解き、家族に適切に説明するための基盤になります。
解答・解説
正解はc, eです
テーマ
新生児マススクリーニングは、生まれた時点では症状がなくても、放置すると知的障害や発育障害、急性代謝不全による突然死などを来す先天性疾患を、発症前に見つけて治療につなげるための公的な検査事業である。日本では1977年にフェニルケトン尿症などの先天性代謝異常症を対象に始まり、その後、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)や先天性副腎過形成症が加わった。2014年度までに全国でタンデム質量分析(タンデムマス)法が導入され、検査対象が大きく広がった。
制度の要点
・実施主体:都道府県および指定都市(母子保健事業として実施) ・費用:検査費用は公費負担(採血料など医療機関での費用は別扱いとなることがある) ・検体:生後4~6日(多くは生後5日前後)に足底から採血し、専用ろ紙にしみ込ませた乾燥ろ紙血 ・検査法:アミノ酸・有機酸・脂肪酸代謝異常症はタンデムマス法で一括測定し、ガラクトース血症、先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎過形成症は個別の方法(酵素法・免疫測定法など)で測定する ・発見頻度:最も多いのは先天性甲状腺機能低下症である これに照らすと、c と e が正しい。
選択肢考察
- ×a. 尿で検査される。
誤り。検体は血液である。生後4~6日ごろに新生児の足底(かかと)をランセットで穿刺し、専用のろ紙に血液をしみ込ませて乾燥させたもの(乾燥ろ紙血)を検査機関に送る。哺乳が確立してから採血するのは、フェニルアラニンなど蓄積する物質が蛋白摂取後に上昇してくるためである。かつて神経芽腫に対して乳児の尿を用いたマススクリーニングが行われていたが、死亡率減少効果が確認されず2004年に休止されている。
- ×b. 患者家族の一部負担金がある。
誤り。新生児マススクリーニングの検査費用は公費で賄われ、保護者が検査費用を一部負担する仕組みにはなっていない。採血にかかる費用は医療機関によって出産費用に含めるなどの扱いがある。なお、公費の対象20疾患以外の疾患(後述の拡大スクリーニング)は、自治体や医療機関によっては任意・自己負担で実施されることがある。
- ○c. 都道府県および指定都市が実施する。
正しい。新生児マススクリーニングは母子保健事業の一つとして、都道府県と指定都市が実施主体となり、公費で行われている。各自治体は検査機関と契約し、産科医療機関で採血されたろ紙血が検査機関へ送られ、陽性者は精密検査医療機関へ紹介される体制がとられている。
- ×d. 発見者数はフェニルケトン尿症が最多である。
誤り。発見数が最も多いのは先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)で、おおむね出生2,000~3,000人に1人程度と、対象疾患の中で群を抜いて多い。フェニルケトン尿症は数万人に1人程度(約6万人に1人前後)とされる。スクリーニング開始の歴史的契機となった疾患ではあるが、発見数が最多ではない。
- ○e. 先天性代謝異常にはタンデムマス・スクリーニングが使用される。
正しい。タンデムマス法は2台の質量分析計を直列につないだ装置で、ろ紙血中のアミノ酸とアシルカルニチンを一度に多数測定できる。これにより、従来から対象だったアミノ酸代謝異常症(フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症)に加え、尿素サイクル異常症(シトルリン血症1型、アルギニノコハク酸尿症)、有機酸代謝異常症(メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症など7疾患)、脂肪酸代謝異常症(中鎖アシルCoA脱水素酵素〈MCAD〉欠損症など5疾患)の計17疾患をスクリーニングできる。
公費対象の20疾患
タンデムマス法で測定する17疾患 ・アミノ酸代謝異常症(尿素サイクル異常症を含む)5疾患:フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、シトルリン血症1型、アルギニノコハク酸尿症 ・有機酸代謝異常症7疾患:メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症、イソ吉草酸血症、メチルクロトニルグリシン尿症、ヒドロキシメチルグルタル酸〈HMG〉血症、複合カルボキシラーゼ欠損症、グルタル酸血症1型 ・脂肪酸代謝異常症5疾患:中鎖アシルCoA脱水素酵素〈MCAD〉欠損症、極長鎖アシルCoA脱水素酵素〈VLCAD〉欠損症、三頭酵素/長鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素〈LCHAD〉欠損症、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ〈CPT〉1欠損症、CPT2欠損症 タンデムマス法以外で測定する3疾患 ・ガラクトース血症、先天性甲状腺機能低下症(TSH測定)、先天性副腎過形成症(17-ヒドロキシプロゲステロン〈17-OHP〉測定、主に21-水酸化酵素欠損症)
スクリーニングの対象となる疾患の条件
早期発見・早期治療で予後が大きく改善すること、無症状期に発見できる適切な検査法があること、一定の頻度があること、費用対効果が見合うことなどが求められる。
拡大スクリーニング
重症複合免疫不全症〈SCID〉や脊髄性筋萎縮症〈SMA〉など、新たに有効な治療法が登場した疾患を対象とする拡大スクリーニングが一部地域で行われ、国による実証事業も進められている。
採血時期の注意
早すぎる採血では哺乳不足のため代謝異常が検出されにくく、また生後早期のTSHサージにより先天性甲状腺機能低下症の偽陽性が増える。低出生体重児では甲状腺機能低下が遅れて現れることがあり、再採血が行われる。
POINT
・実施主体は都道府県・指定都市、検査費用は公費負担。 ・検体は生後4~6日の足底採血による乾燥ろ紙血(尿ではない)。 ・対象は20疾患:タンデムマス法17疾患+ガラクトース血症・先天性甲状腺機能低下症・先天性副腎過形成症。 ・発見数最多は先天性甲状腺機能低下症(約2,000~3,000人に1人)。 ・タンデムマス法はアミノ酸とアシルカルニチンを同時測定し、アミノ酸・有機酸・脂肪酸代謝異常症を検出する。
