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死因の1位と医療費の1位は違う―国民医療費のトップは循環器系の疾患

第119回医師国家試験 F問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第119回 F問題 第17問

医科診療医療費が最も大きいのはどれか。

  1. a.呼吸器系の疾患
  2. b.循環器系の疾患
  3. c.精神及び行動の障害
  4. d.内分泌,栄養及び代謝疾患
  5. e.筋骨格系及び結合組織の疾患

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の統計問題で、国民医療費のうち医科診療医療費を傷病分類別に見たとき、どの分類が最も大きいかを問うものだ。着眼点は「よく死ぬ病気」と「お金がかかる病気」は必ずしも一致しない、という点にある。まず、どれが1位だと思うかな。
医学生医学生
死因の第1位は悪性新生物なので、医療費もがんが一番かと思ったんですが、選択肢に新生物がないんですよね。
ドクタードクター
そこで迷った人は多いと思う。実は医科診療医療費の第1位は循環器系の疾患で、全体の2割弱を占めている。第2位が新生物〈腫瘍〉だから、仮に選択肢に新生物があっても正解は循環器系の疾患なんだ。
医学生医学生
死因ではがんが圧倒的なのに、医療費では循環器が上なんですね。どうしてそうなるんでしょうか。
ドクタードクター
理由は大きく2つある。1つは患者数。高血圧性疾患は日本で最も患者数が多い病気の一つで、長い年月にわたって外来通院と内服を続ける。一人あたりは少額でも、積み重なると巨大な額になる。もう1つは入院医療費。脳梗塞や脳出血、心筋梗塞や心不全は入院、カテーテル治療、手術、リハビリテーションが必要で、一回あたりの費用が大きい。
医学生医学生
臨床実習で脳神経内科を回ったとき、脳梗塞の患者さんが急性期からそのまま回復期リハビリ病院へ転院していくのを見ました。入院期間がすごく長い印象でした。
ドクタードクター
まさにそういう積み重ねが効いてくる。しかも循環器系の疾患は高齢になるほど増えるから、高齢化が進むほど医療費に占める割合が大きくなる。ちなみに国民医療費全体は2022年度で約46.7兆円、そのうち医科診療医療費が約7割を占め、65歳以上の医療費が全体の約6割にのぼるんだ。
医学生医学生
統計の講義では「分類の単位」も気にするように言われました。死因と医療費で数え方が違うんですか。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。医療費の傷病分類はICD-10の大分類単位なので、循環器系の疾患には高血圧性疾患、心疾患、脳血管疾患がまとめて入る。一方、死因順位では心疾患と脳血管疾患は別々に数えられる。くくり方の違いも、順位が食い違う理由の一つなんだ。では他の選択肢も見ていこう。筋骨格系及び結合組織の疾患はどうかな。
医学生医学生
整形外科の外来はいつも高齢の患者さんで混んでいたので、上位にありそうな気がします。
ドクタードクター
その感覚は正しくて、第3位に入っている。変形性関節症、腰痛症や脊椎疾患、骨粗鬆症などで外来受診が多く、人工関節置換術のような手術もある。ただし循環器系、新生物に次ぐ位置だ。骨折などの外傷は別の「損傷,中毒及びその他の外因の影響」に分類され、こちらが第4位になる。
医学生医学生
呼吸器系の疾患はどうでしょう。小児科では風邪や喘息の子がとても多かったです。
ドクタードクター
小児では呼吸器系の割合が大きいのは事実だよ。肺炎やCOPDも含めて上位には入るけれど、全体では第6位程度。年齢階級によって上位の傷病が変わる、という点は覚えておくといい。
医学生医学生
糖尿病は患者数が多いので、内分泌,栄養及び代謝疾患も上位かと思いました。
ドクタードクター
そこは落とし穴だね。糖尿病そのものは確かに多いけれど、高額になりやすい合併症は別の分類に計上される。腎症による透析は腎尿路生殖器系、脳梗塞や心筋梗塞は循環器系に入るから、この分類単独では第7位程度にとどまるんだ。
医学生医学生
精神及び行動の障害は、統合失調症の長期入院のイメージがあるので意外と大きいのかと。
ドクタードクター
入院医療費に限ればそれなりの割合を占めるけれど、医科診療医療費全体では第8位程度だ。なお6位以下の順位は年度によって入れ替わることがあるので、まずは上位5つ、循環器系、新生物、筋骨格系、損傷・中毒、腎尿路生殖器系の順を確実に押さえておこう。
医学生医学生
死因はがん、医療費は循環器、という対比で覚えておきます。
ドクタードクター
それがいちばん大事なポイントだ。臨床的にも示唆があって、高血圧や脂質異常症をしっかりコントロールして脳卒中や心筋梗塞を防ぐことは、患者さん本人のためだけでなく、医療費の抑制にもつながりうる。統計の数字は、予防医療の意義を考える材料にもなるんだよ。

まとめ

国民医療費(2022年度は約46.7兆円)の約7割を占める医科診療医療費を傷病分類別にみると、第1位は循環器系の疾患で全体の2割弱を占め、以下、新生物〈腫瘍〉、筋骨格系及び結合組織の疾患、損傷・中毒及びその他の外因の影響、腎尿路生殖器系の疾患と続きます。循環器系の疾患には、患者数が多く長期通院を要する高血圧性疾患と、入院・手術・リハビリテーションに費用のかかる脳血管疾患や心疾患がまとめて含まれ、高齢化とともに比重が増しています。死因の第1位は悪性新生物ですが医療費の第1位は循環器系の疾患であり、この違いには分類単位の違いも関わっています。糖尿病の合併症が他の分類に計上されることや、小児では呼吸器系の割合が大きいことなども併せて理解すると、統計の数字を予防医療や医療政策の視点から読み解く力が身につきます。

解答・解説

正解はbです

厚生労働省の「国民医療費」統計のうち、傷病分類別の医科診療医療費の順位を問う問題である。 国民医療費は、医療機関などで保険診療の対象となる傷病の治療に要した費用を推計したもので、2022年度は約46.7兆円であった。その内訳は医科診療医療費(入院+入院外)が約7割と最も大きく、ほかに歯科診療医療費、薬局調剤医療費、入院時食事・生活医療費などがある。 医科診療医療費を傷病分類別(ICD-10の大分類に準拠)にみると、循環器系の疾患が全体の2割弱を占めて第1位であり、以下、新生物〈腫瘍〉、筋骨格系及び結合組織の疾患、損傷・中毒及びその他の外因の影響、腎尿路生殖器系の疾患と続く。この上位の順位は近年ほぼ固定している。 考え方のポイントは、「死因の第1位は悪性新生物だが、医療費の第1位は循環器系の疾患」という違いである。循環器系の疾患には、高血圧性疾患のように患者数がきわめて多く長期間の通院を要する病気と、脳梗塞・脳出血などの脳血管疾患や虚血性心疾患・心不全のように入院・手術・リハビリテーションに多額の費用がかかる病気が含まれる。いずれも高齢になるほど増えるため、高齢化に伴って医療費全体に占める割合が大きくなっている。

選択肢考察

  1. ×a.  呼吸器系の疾患

    誤り。呼吸器系の疾患(肺炎、慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉、喘息、急性上気道炎など)は医科診療医療費の上位に入るが、2022年度は第6位程度で、第1位の循環器系の疾患には遠く及ばない。小児では急性上気道炎や喘息などで受診が多いため、年齢の低い層では大きな割合を占める。

  2. ○b.  循環器系の疾患

    正しい。循環器系の疾患は医科診療医療費の2割弱を占め、傷病分類別で第1位である。高血圧性疾患は患者数が非常に多く外来医療費を押し上げ、脳血管疾患や虚血性心疾患・心不全は入院治療・カテーテル治療・手術・リハビリテーションなどで入院医療費が大きくなる。とくに65歳以上の高齢者で割合が高く、人口の高齢化とともに医療費に占める比重が増している。

  3. ×c.  精神及び行動の障害

    誤り。精神及び行動の障害(統合失調症、気分障害〈うつ病など〉、認知症の一部など)は2022年度で第8位程度である。統合失調症などでは入院期間が長期化しやすく、入院医療費に占める割合は比較的大きいが、医科診療医療費全体では第1位にはならない。

  4. ×d.  内分泌,栄養及び代謝疾患

    誤り。内分泌,栄養及び代謝疾患には糖尿病、脂質異常症、甲状腺疾患などが含まれ、2022年度は第7位程度である。糖尿病は患者数が多く長期の通院を要するが、その合併症(腎症による透析は腎尿路生殖器系、脳梗塞・心筋梗塞は循環器系など)は別の分類に計上されるため、この分類単独の医療費は上位にならない。

  5. ×e.  筋骨格系及び結合組織の疾患

    誤り。筋骨格系及び結合組織の疾患(変形性関節症、腰痛症・脊椎疾患、骨粗鬆症、関節リウマチなど)は2022年度で第3位であり、上位ではあるが、循環器系の疾患、新生物〈腫瘍〉に次ぐ位置である。高齢者での外来受診や手術(人工関節置換術など)が多いことが背景にある。なお、骨折などの外傷は「損傷・中毒及びその他の外因の影響」(第4位)に分類される。

国民医療費の概要(2022年度)

・総額は約46.7兆円で過去最高を更新し、人口1人当たりでは約37万円である。 ・国民医療費には、正常な妊娠・分娩、健康診断、予防接種、差額ベッド代、市販薬(OTC医薬品)など、保険診療の対象とならない費用は含まれない。 ・65歳以上の医療費が全体の約6割を占める。

傷病分類別医科診療医療費の上位(2022年度)

1位 循環器系の疾患 2位 新生物〈腫瘍〉 3位 筋骨格系及び結合組織の疾患 4位 損傷,中毒及びその他の外因の影響 5位 腎尿路生殖器系の疾患 (以下、呼吸器系の疾患、内分泌,栄養及び代謝疾患、精神及び行動の障害などが続く)

死因順位との違い

・死因順位(人口動態統計):第1位 悪性新生物〈腫瘍〉、第2位 心疾患(高血圧性を除く)、第3位 老衰(2022年)。 ・医療費順位:第1位は循環器系の疾患(高血圧性疾患・心疾患・脳血管疾患などを合わせた分類)。 ・「死因」は個別の疾患単位、「医療費」はICD-10の大分類単位でまとめられていることも、順位が食い違う理由の一つである。

年齢による違い

高齢者では循環器系の疾患が占める割合が大きく、小児では呼吸器系の疾患の割合が大きいなど、年齢階級によって上位の傷病は異なる。

POINT

・医科診療医療費の傷病分類別第1位は循環器系の疾患(約2割弱)、第2位は新生物〈腫瘍〉。 ・死因の第1位(悪性新生物)と医療費の第1位(循環器系の疾患)は異なることに注意。 ・第3位は筋骨格系及び結合組織の疾患、次いで損傷・中毒、腎尿路生殖器系の疾患。 ・国民医療費は約46.7兆円(2022年度)で、そのうち医科診療医療費が約7割を占める。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。