StudyMed医師国家試験

安さでも成功率でもない―禁煙プログラムで学ぶ「費用対効果」の物差し

第120回医師国家試験 F問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第120回 F問題 第14問

5つの禁煙プログラムの特性を表に示す。  費用対効果が最も高いのはどれか。 プログラムに参加する 一人あたりの費用 プログラムに参加した人が 禁煙に成功する割合 禁煙成功者 一人あたりの費用 a 80,000 円 80 % 100,000 円 b 70,000 円 90 % 77,778 円 c 50,000 円 45 % 111,111 円 d 30,000 円 50 % 60,000 円 e 20,000 円 25 % 80,000 円

  1. a.
  2. b.
  3. c.
  4. d.
  5. e.

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の医療経済評価の問題だ。5つの禁煙プログラムのうち、費用対効果が最も高いものを選ぶ。カギは「何を効果とみなし、何で割るか」をはっきりさせることだよ。
医学生医学生
成功率が一番高いプログラムが良さそうに見えますが、費用も高いので迷います。
ドクタードクター
その迷いがまさにこの問題の狙いなんだ。費用対効果とは、投じた費用に対してどれだけの効果が得られたかを表す考え方。医療経済評価では、効果一単位あたりの費用、つまり費用÷効果を指標にすることが多く、この値が小さいほど費用対効果が高いと判断する。
医学生医学生
この問題の効果は「禁煙に成功する人を出すこと」なので、禁煙成功者を一人出すのにいくらかかるかを比べればいい、ということですか。
ドクタードクター
その通り。表の右端にある禁煙成功者一人あたりの費用がそれにあたる。計算式は、参加者一人あたりの費用を禁煙成功割合で割ったものだ。表の数値が合っているか、念のため確かめてみよう。
医学生医学生
参加費3万円で成功率50%のプログラムは、3万÷0.5で6万円。これが5つの中で一番安いです。
ドクタードクター
正解。このプログラムが最も費用対効果が高い。一人の禁煙成功者を得るのに必要な費用が最も少ない、言い換えれば同じ予算で最も多くの成功者を生み出せるということだね。
医学生医学生
でも参加費が2万円で一番安いプログラムもありますよね。そちらのほうが得に思えてしまいました。
ドクタードクター
多くの人が引っかかるところだ。そのプログラムは成功率が25%と最も低いから、2万÷0.25で成功者一人あたり8万円になる。参加費の安さだけでは費用対効果は判断できないんだ。
医学生医学生
逆に成功率90%のプログラムは、7万÷0.9で約7万8千円。効果は最大でも、6万円には届かないんですね。
ドクタードクター
そう。効果が最大であることと、費用に見合う効果かどうかは別問題だ。では参加費8万円・成功率80%のプログラムはどうかな。
医学生医学生
8万÷0.8で10万円です。しかも成功率90%のプログラムより参加費が高くて成功率は低いので、どちらの面でも負けています。
ドクタードクター
鋭いね。費用が高く効果も低い選択肢は「劣位」と呼ばれ、比較の対象から外される。最後に参加費5万円・成功率45%のプログラムは、約11万1千円で5つの中で最も費用対効果が低い。
医学生医学生
別の確かめ方もありますか。割り算だけだとイメージしにくくて。
ドクタードクター
同じ予算で何人成功するかを考えるとわかりやすい。例えば600万円使うと、参加費3万円のプログラムなら200人が参加して100人が成功する。参加費2万円のものは300人参加でも成功は75人、成功率90%のものは約86人参加で約77人成功。やはり最初のプログラムが最も多くの成功者を生むんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習った費用効果分析というのは、この考え方のことでしょうか。
ドクタードクター
そう、効果を禁煙成功者数や延長した生存年数のような自然な単位で測るのが費用効果分析だ。ほかに、効果が同等と仮定して費用だけを比べる費用最小化分析、生活の質で重み付けした生存年数であるQALYで効果を測る費用効用分析、効果も金額に換算する費用便益分析がある。日本の医薬品・医療機器の費用対効果評価制度ではQALYが使われているよ。
医学生医学生
実際の評価では、今回のような平均の比較だけで決めるんですか。
ドクタードクター
実際には、新しい介入と従来の介入を比べて、追加でかかる費用を追加で得られる効果で割る増分費用効果比、ICERを使うことが多い。今回の問題はそれを単純化した設定だと考えておこう。
医学生医学生
内科の実習で、禁煙外来に通う患者さんを見学したことがあります。あれも費用対効果の観点から支援されているんですね。
ドクタードクター
そうだね。喫煙はがん、虚血性心疾患、脳卒中、COPDなど多くの疾患の危険因子で、禁煙支援は費用対効果の高い保健介入の一つとされている。日本では一定の条件を満たすニコチン依存症の患者さんに、保険診療で禁煙治療が行われている。限られた医療資源をどこに配分するかを考えるとき、今回の物差しが役に立つんだ。

まとめ

費用対効果は「効果一単位あたりの費用」で比較し、この値が小さいほど費用対効果が高いと判断します。本問では禁煙成功者一人あたりの費用(参加者一人あたりの費用÷成功割合)が指標となり、参加費3万円・成功率50%のプログラムが6万円で最も優れています。参加費が最も安いものや成功率が最も高いものが最良とは限らず、費用と効果を組み合わせて評価すること、費用が高く効果も低い選択肢は劣位として除外されることが要点です。医療経済評価には費用最小化分析・費用効果分析・費用効用分析(QALY)・費用便益分析があり、実際には増分費用効果比(ICER)も用いられます。限られた医療資源の配分を考える公衆衛生や医療政策の基礎として、この考え方を身につけておくことが大切です。

解答・解説

正解はdです

費用対効果とは

費用対効果とは、投じた費用に対してどれだけの効果(成果)が得られたかを表す考え方である。「同じ効果を得るのに必要な費用が少ない」あるいは「同じ費用でより大きな効果が得られる」ほど、費用対効果は高い。医療経済評価では、効果一単位あたりの費用(費用÷効果)を指標とすることが多く、この値が小さいほど費用対効果が高いと判断する。

本問での指標

本問の目的(効果)は「禁煙に成功する人を出すこと」である。したがって、禁煙成功者を一人生み出すのにいくらかかるか、すなわち表の右端の「禁煙成功者一人あたりの費用」を比べればよい。この値は次の式で求められている。 禁煙成功者一人あたりの費用 = 参加者一人あたりの費用 ÷ 禁煙成功割合

計算の確認

・a: 80,000 円 ÷ 0.80 = 100,000 円 ・b: 70,000 円 ÷ 0.90 ≒ 77,778 円 ・c: 50,000 円 ÷ 0.45 ≒ 111,111 円 ・d: 30,000 円 ÷ 0.50 = 60,000 円 ・e: 20,000 円 ÷ 0.25 = 80,000 円 最も安いのは d の 60,000 円であり、d の費用対効果が最も高い。

別の見方

同じ予算、たとえば 600 万円を使った場合に何人の禁煙成功者が得られるかで比べても結論は同じである。d では 600 万円 ÷ 3 万円 = 200 人が参加し、その 50 % の 100 人が成功する。a では 75 人参加・60 人成功、b では約 86 人参加・約 77 人成功、c では 120 人参加・54 人成功、e では 300 人参加・75 人成功となり、d が最も多い。 参加者一人あたりの費用が最も安いプログラム(e)や、成功割合が最も高いプログラム(b)が、費用対効果が最も高いとは限らない。費用と効果の両方を組み合わせて評価することが要点である。

選択肢考察

  1. ×a.  

    参加者一人あたり 80,000 円、成功割合 80 % で、禁煙成功者一人あたりの費用は 80,000 ÷ 0.8 = 100,000 円である。成功割合は高いが参加費用も最も高く、d(60,000 円)より費用対効果は低い。さらに b と比べると、b は費用が安く(70,000 円)成功割合も高い(90 %)ため、a は b より費用・効果の両面で劣っている。

  2. ×b.  

    成功割合は 90 % と 5 つの中で最も高いが、参加者一人あたりの費用も 70,000 円と 2 番目に高い。禁煙成功者一人あたりの費用は 70,000 ÷ 0.9 ≒ 77,778 円で、d(60,000 円)より高い。効果が最大であっても、費用に見合う効果かどうかは別に評価する必要がある。

  3. ×c.  

    参加者一人あたり 50,000 円に対し、成功割合は 45 % と低い。禁煙成功者一人あたりの費用は 50,000 ÷ 0.45 ≒ 111,111 円で、5 つの中で最も高く、費用対効果は最も低い。

  4. ○d.  

    参加者一人あたり 30,000 円で、成功割合は 50 %。禁煙成功者一人あたりの費用は 30,000 ÷ 0.5 = 60,000 円であり、5 つのプログラムの中で最も安い。つまり、一人の禁煙成功者を得るために必要な費用が最も少なく、同じ予算で最も多くの禁煙成功者を生み出せるため、費用対効果が最も高い。

  5. ×e.  

    参加者一人あたりの費用は 20,000 円と最も安いが、成功割合も 25 % と最も低い。禁煙成功者一人あたりの費用は 20,000 ÷ 0.25 = 80,000 円で、d(60,000 円)より高い。参加費用の安さだけでは費用対効果は判断できない。

医療経済評価の主な手法

・費用最小化分析(CMA): 効果が同等であることを前提に、費用だけを比較する ・費用効果分析(CEA): 効果を「禁煙成功者数」「延長した生存年数」など自然な単位で測り、効果一単位あたりの費用を比較する。本問はこの考え方にあたる ・費用効用分析(CUA): 効果を質調整生存年(QALY: 生活の質で重み付けした生存年数)で測る。日本の医薬品・医療機器の費用対効果評価制度でも QALY が用いられる ・費用便益分析(CBA): 効果も金額に換算し、費用と便益を金額同士で比較する

増分費用効果比(ICER)

実際の医療経済評価では、新しい介入と従来の介入を比べ、「追加でかかる費用 ÷ 追加で得られる効果」である増分費用効果比(ICER: incremental cost-effectiveness ratio)を用いることが多い。本問は各プログラムの平均的な「効果一単位あたりの費用」を比較する単純化した設定である。また、ある選択肢が別の選択肢より費用が高く効果も低い場合(本問の a と b の関係)、その選択肢は「劣位(dominated)」であり、比較の対象から外される。

禁煙支援の背景

喫煙は、がん、虚血性心疾患、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など多くの疾患の危険因子であり、禁煙支援は費用対効果の高い保健介入の一つとされる。日本では一定の条件を満たすニコチン依存症患者に対して、禁煙治療が保険診療で行われている。

POINT

・費用対効果は「効果一単位あたりの費用」で比べ、小さいほど高い ・本問の指標は「禁煙成功者一人あたりの費用 = 参加者一人あたりの費用 ÷ 成功割合」 ・参加費が最安のもの、成功割合が最高のものが、費用対効果最良とは限らない ・医療経済評価の手法: 費用最小化分析、費用効果分析、費用効用分析(QALY)、費用便益分析

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。