その公費、どの法律から?―措置入院と精神保健福祉法で整理する公費医療の地図
第120回医師国家試験 C問題 第10問
国試問題にチャレンジ
公費医療制度と根拠法の組合せで正しいのはどれか。
- a.結核患者の入院 ―― 検疫法
- b.未熟児の養育医療 ―― 生活保護法
- c.精神障害者の措置入院 ―― 精神保健福祉法
- d.指定難病医療費助成制度 ―― 健康保険法
- e.小児慢性特定疾病医療費助成制度 ―― 障害者自立支援法
対話形式の解説
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医学生まとめ
公費医療制度は、医療保険を補う形で国や地方公共団体が医療費を負担する制度で、それぞれ個別の法律に根拠を持ちます。精神障害者の措置入院は精神保健福祉法に基づき、2名以上の精神保健指定医の判断と都道府県知事の権限による強制入院であるため公費負担となります。結核の入院医療は感染症法、未熟児の養育医療は母子保健法、指定難病の医療費助成は難病法、小児慢性特定疾病の医療費助成は児童福祉法、自立支援医療(精神通院・更生・育成医療)は障害者総合支援法と対応します。「誰のための、何を目的とした制度か」から法律を連想すると整理しやすく、患者の自己負担や申請書類に直結する実践的な知識として臨床でも役立ちます。
解答・解説
正解はcです
公費医療制度とは、医療費の全部または一部を国や地方公共団体が税財源から負担する制度である。わが国では医療保険(健康保険法・国民健康保険法など)が医療費支払いの基本であり、公費医療はそれぞれ個別の法律に根拠を持ち、「社会防衛(感染症のまん延防止など)」「福祉・弱者保護」「難病対策」「健康被害の救済」といった目的で医療保険を補う形で運用される。 本問では、各制度がどの法律に基づいているかを一つずつ照合すればよい。覚え方のコツは、制度の対象者・目的から所管する法律を連想することである。感染症の患者なら感染症法、母と子の健康なら母子保健法、18歳未満の子どもの福祉なら児童福祉法、精神障害者の医療と保護なら精神保健福祉法、難病患者なら難病法、というように対応させると整理しやすい。この観点で照合すると、正しい組合せは精神障害者の措置入院と精神保健福祉法である。
選択肢考察
- ×a. 結核患者の入院 ―― 検疫法
誤り。結核患者の入院(入院勧告・入院措置)とその医療費の公費負担は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)に基づく。結核は感染症法上の二類感染症である。かつては結核予防法が根拠法であったが、2007年に感染症法へ統合された。感染症法には、入院患者の医療費の公費負担のほか、通院による結核医療(一般患者の適正医療)の費用の一部を公費で負担する規定もある。検疫法は、国内に常在しない感染症の病原体が船舶・航空機を介して海外から侵入するのを防ぐため、空港や港での検疫について定めた法律であり、国内の結核患者の入院医療とは関係しない。
- ×b. 未熟児の養育医療 ―― 生活保護法
誤り。未熟児の養育医療は母子保健法に基づく。出生体重2,000g以下、または生活力が特に薄弱で一定の症状を示す未熟児が、指定養育医療機関に入院して治療を受ける場合に、その医療費が公費で給付される(実施主体は市町村)。生活保護法に基づく公費医療は、生活に困窮する人を対象とした医療扶助であり、未熟児の養育医療とは別の制度である。
- ○c. 精神障害者の措置入院 ―― 精神保健福祉法
正しい。措置入院は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)に定められた入院形態である。2名以上の精神保健指定医が診察し、精神障害のために自傷他害のおそれがあると一致して判断した場合に、都道府県知事(または政令指定都市の市長)の権限で入院させる。本人の同意によらない強制的な入院であるため、その医療費は公費で負担される(医療保険が適用される者では保険給付が優先され、自己負担分を公費が負担する)。急速を要し正規の手続きがとれない場合には、指定医1名の診察で72時間に限って入院させる緊急措置入院の制度もある。
- ×d. 指定難病医療費助成制度 ―― 健康保険法
誤り。指定難病の医療費助成は、難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法、2014年制定・2015年施行)に基づく。指定難病と診断され、一定の重症度基準を満たす患者(または軽症でも高額な医療を継続している患者)が対象となり、所得に応じた自己負担上限額が設定される。健康保険法は、会社員など被用者とその家族を対象とする医療保険について定めた法律であり、公費医療の根拠法ではない。
- ×e. 小児慢性特定疾病医療費助成制度 ―― 障害者自立支援法
誤り。小児慢性特定疾病の医療費助成は児童福祉法に基づく。対象は18歳未満の児童(18歳到達時点で対象であり、引き続き治療が必要な場合は20歳未満まで延長可能)で、悪性新生物、慢性腎疾患、慢性心疾患、内分泌疾患などの疾病群が指定されている。障害者自立支援法は2013年に障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)へ改称・改正されており、同法に基づく公費医療は自立支援医療(精神通院医療、更生医療、育成医療)である。
主な公費医療制度と根拠法
・感染症法:一類・二類感染症などの入院医療、結核の入院医療・通院医療(適正医療) ・精神保健福祉法:措置入院・緊急措置入院 ・障害者総合支援法:自立支援医療(精神通院医療、身体障害者への更生医療、障害児への育成医療) ・母子保健法:未熟児の養育医療 ・児童福祉法:小児慢性特定疾病医療費助成、結核児童の療育の給付 ・難病法:指定難病の医療費助成 ・生活保護法:医療扶助 ・戦傷病者特別援護法:療養の給付など ・原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法):認定疾病医療・一般疾病医療 ・予防接種法:予防接種による健康被害の救済
難病法と児童福祉法改正(2014年成立・2015年施行)
それ以前の難病対策(特定疾患治療研究事業)や小児慢性特定疾患治療研究事業は法律の裏付けのない予算事業であった。法制化により、対象疾病と重症度基準が明確になり、国と自治体の費用負担の割合が法律で定められて財源が安定し、地域間の差の是正が図られた。対象疾病も大幅に拡大され、医療費助成だけでなく、療養生活環境の整備や就労・自立の支援も制度に位置づけられた。
精神保健福祉法の入院形態
・任意入院:本人の同意による入院 ・医療保護入院:指定医1名の診察で入院が必要と判断され、本人の同意が得られないとき、家族等の同意で入院 ・応急入院:急速を要し家族等の同意が得られないとき、指定医の診察で72時間に限り入院 ・措置入院:指定医2名以上が自傷他害のおそれありと一致して判断し、都道府県知事の命令で入院(公費負担) ・緊急措置入院:指定医1名の診察で72時間に限り入院
POINT
・措置入院は精神保健福祉法に基づき、医療費は公費負担となる。 ・結核の入院医療は感染症法(旧結核予防法は2007年に統合)、検疫法は海外からの感染症侵入防止の法律。 ・未熟児の養育医療は母子保健法、小児慢性特定疾病は児童福祉法、指定難病は難病法。 ・障害者自立支援法は現在の障害者総合支援法で、自立支援医療(精神通院・更生・育成医療)の根拠法。
