StudyMed医師国家試験

脚を上げる体位は眼を傷つけるか―砕石位の合併症は「体位の形」から導く

第119回医師国家試験 E問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第119回 E問題 第14問

長時間の砕石位による合併症で誤っているのはどれか。

  1. a.視力障害
  2. b.下肢の神経損傷
  3. c.深部静脈血栓症
  4. d.接地部の圧迫性潰瘍
  5. e.体位解除後の低血圧

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は手術体位に伴う合併症の問題だ。「誤っているのはどれか」なので、砕石位では起こりにくいものを一つ選ぶことになる。丸暗記より、砕石位がどんな姿勢で、体のどこに何が起きるかをイメージすると答えが自然に出てくるよ。まず砕石位がどんな体位か説明できるかな。
医学生医学生
仰向けで股関節と膝を曲げて、両脚を開いて支脚器に載せる体位ですよね。産婦人科の実習で経腟分娩や子宮鏡のときに見ました。
ドクタードクター
その通り。直腸・肛門手術、泌尿器科の経尿道的手術、婦人科手術でもよく使う。この体位の特徴は大きく3つある。1つ目は下肢が支脚器で支えられて局所が圧迫されること、2つ目は股関節と膝関節が強く曲がった状態が長く続くこと、3つ目は下肢が心臓より高く挙上されていることだ。合併症はこの3つから導ける。
医学生医学生
局所の圧迫というと、神経麻痺でしょうか。解剖実習で腓骨頭のすぐ後ろを総腓骨神経が回り込んでいたのを覚えています。
ドクタードクター
いいところを覚えているね。総腓骨神経は腓骨頭の外側を皮膚のすぐ下で走るから、支脚器で膝の外側が押されると麻痺しやすい。麻痺すると足関節や足趾を背屈できず、下垂足になる。ほかにも股関節の過度な屈曲・外転・外旋で大腿神経や閉鎖神経、坐骨神経が引き伸ばされたり、下腿内側の圧迫で伏在神経が障害されたりすることもある。だから下肢の神経損傷は砕石位の代表的な合併症だ。
医学生医学生
圧迫という意味では、褥瘡も同じ理屈ですか。
ドクタードクター
そう。砕石位では体重の多くが仙骨部や臀部にかかるし、支脚器に接する下腿や踵も圧迫部位になる。さらに脚の上げ下ろしや手術台の角度を変えるときに臀部がずれると、圧迫に加えて剪断力が働いて組織が傷みやすい。接地部の圧迫性潰瘍も正しい合併症だね。
医学生医学生
2つ目の関節の強い屈曲は、静脈の流れが悪くなるという話につながりますか。
ドクタードクター
その通り。股関節や膝が強く曲がり、膝窩部が圧迫されると下肢の静脈還流が妨げられる。そこに手術侵襲による凝固能の亢進や不動が重なる。Virchowの三徴を思い出してごらん。
医学生医学生
血流のうっ滞、血管内皮障害、凝固能の亢進ですね。条件がそろうので深部静脈血栓症が起きやすいと。
ドクタードクター
完璧。血栓が飛べば肺血栓塞栓症になるから、弾性ストッキングや間欠的空気圧迫法で予防する。では3つ目、脚が心臓より高い状態が長く続いた後、下ろすと何が起こるかな。
医学生医学生
脚から戻っていた血液がまた下肢にたまるので……静脈還流が減って血圧が下がる、ということですか。
ドクタードクター
正解。体位解除後の低血圧だね。特に脊髄くも膜下麻酔などで交感神経が遮断されていると代償が効きにくい。だから脚は片方ずつゆっくり下ろし、血圧を確認しながら戻すのが基本なんだ。
医学生医学生
ということは、残る視力障害が砕石位とは関係ないものですね。でも長時間手術なら眼にも何か起きそうな気がして、少し迷いました。
ドクタードクター
迷うのは分かるよ。周術期の視力障害は、主に虚血性視神経症と、眼球圧迫による網膜中心動脈閉塞が原因だ。危険因子は腹臥位で顔面がヘッドレストに押し付けられること、長時間手術、大量出血や低血圧、貧血など。脊椎手術での報告が多い。砕石位は下肢の体位で、頭部や顔面には外力がかからないから、体位そのものが視力障害を起こすわけではない。
医学生医学生
なるほど、眼を傷つけるのは「顔が下を向く」腹臥位のほうなんですね。
ドクタードクター
そう整理しておこう。ただし注意点がある。ロボット支援前立腺全摘術のように、砕石位に急峻な頭低位を組み合わせる手術では、眼圧上昇などに注意が必要とされる。でもそれは頭低位の影響であって、砕石位そのものの合併症ではない。
医学生医学生
体位ごとに「どこが圧迫されるか」「血液がどう移動するか」を考えれば、合併症は推測できそうです。
ドクタードクター
その発想が大事だね。もう一つ、砕石位で見逃したくないのが下腿のコンパートメント症候群だ。長時間の挙上と圧迫で区画内圧が上がり、術後に下腿の強い痛みや腫脹、他動伸展での疼痛増強が出る。内圧上昇が確認されれば筋膜切開による減圧が必要になるし、横紋筋融解から高カリウム血症や急性腎障害を来すこともある。術後回診で「麻酔が切れた後の不自然に強い脚の痛み」を訴えたら、必ず脚を診察してほしい。
医学生医学生
術後の痛みは創部だけじゃないんですね。麻酔科を回るときは体位をとる場面もしっかり見ておきます。
ドクタードクター
ぜひ。体位設定は麻酔科医、外科医、看護師みんなで行う安全管理だから、パッドの位置ひとつにも意味があると思って見てほしい。

まとめ

砕石位は股関節・膝関節を屈曲させて両下肢を支脚器に載せ挙上する体位で、合併症は「局所の圧迫」「関節の強い屈曲による静脈うっ滞」「下肢挙上による血液移動」から導けます。具体的には腓骨頭部の圧迫による総腓骨神経麻痺(下垂足)などの下肢神経損傷、仙骨部・臀部や下腿の褥瘡、深部静脈血栓症、体位解除後の低血圧、さらに下腿コンパートメント症候群が重要です。一方、周術期視力障害は虚血性視神経症や眼球圧迫による網膜中心動脈閉塞が主体で、腹臥位の長時間手術や大量出血が危険因子となり、砕石位自体の合併症ではありません。体位ごとに圧迫部位と循環の変化を考える習慣は、国試対策だけでなく、手術室での安全な体位管理と術後合併症の早期発見に直結します。

解答・解説

正解はaです

手術体位に伴う合併症のうち、砕石位に特有のものを問う問題である。「誤っているのはどれか」なので、砕石位によって生じるとはいえないものを選ぶ。 砕石位(切石位)は、仰臥位で股関節と膝関節を屈曲させ、両下肢を開いて支脚器(レッグホルダー)に載せて挙上する体位である。直腸・肛門手術、婦人科手術、泌尿器科手術(経尿道的手術など)、経腟分娩などで広く用いられる。 この体位の特徴は次の3点に集約でき、合併症もここから導くことができる。 ①下肢が支脚器で支えられ、膝周囲などが局所的に圧迫される → 末梢神経障害(特に総腓骨神経麻痺)、皮膚の圧迫損傷 ②股関節・膝関節の強い屈曲と下肢の挙上が長時間続き、下肢の静脈還流・灌流が変化する → 静脈うっ滞による深部静脈血栓症、下腿のコンパートメント症候群 ③挙上した下肢から心臓へ血液が戻っている状態が続く → 体位を解除して下肢を下ろすと、血液が再び下肢に移動して循環血液量が相対的に減少し、低血圧を来す これに対し、視力障害(周術期視力障害)は眼球の圧迫や視神経の虚血によって生じ、主に長時間の腹臥位手術(脊椎手術など)や、頭部を大きく下げる急峻な頭低位で問題となる合併症である。砕石位は下肢の体位であり、顔面や眼球を圧迫することはないため、典型的な合併症には含まれない。

選択肢考察

  1. ○a.  視力障害

    周術期の視力障害の主な原因は、虚血性視神経症と、眼球が圧迫されて眼圧が上昇することによる網膜中心動脈閉塞である。危険因子としては腹臥位(顔面がヘッドレストで圧迫される)、長時間手術、大量出血・低血圧、貧血などが知られ、脊椎手術での報告が多い。砕石位では頭部・顔面に外力は加わらず、体位そのものが視力障害を起こすことはない。したがって砕石位の合併症としては誤りであり、本問の正解となる。なお、砕石位に急峻な頭低位を組み合わせる手術では眼圧上昇などに注意が必要とされるが、これは頭低位の影響である。

  2. ×b.  下肢の神経損傷

    砕石位で最も重要な合併症の一つである。総腓骨神経は腓骨頭の外側を皮膚のすぐ下で走行するため、支脚器で膝の外側が圧迫されると麻痺を起こしやすい。麻痺すると足関節と足趾の背屈ができなくなり、下垂足(drop foot)となる。そのほか、股関節の過度な屈曲・外転・外旋による大腿神経・閉鎖神経・坐骨神経の伸展障害、下腿内側の圧迫による伏在神経障害なども起こりうる。予防には支脚器と接する部位の除圧(パッドの使用)と、関節を過度に曲げない・開かない体位設定が重要である。よって砕石位の合併症として正しい。

  3. ×c.  深部静脈血栓症

    深部静脈血栓症(DVT:deep vein thrombosis)は、Virchowの三徴(血流のうっ滞・血管内皮障害・血液凝固能の亢進)を背景に生じる。砕石位では股関節・膝関節の強い屈曲や膝窩部の圧迫によって下肢静脈の還流が妨げられ、長時間の手術ではうっ滞が持続する。加えて手術侵襲による凝固能亢進や不動も重なるため、DVTの危険が高まる。血栓が遊離すると肺血栓塞栓症を起こしうるため、弾性ストッキングや間欠的空気圧迫法による予防が行われる。よって砕石位の合併症として正しい。

  4. ×d.  接地部の圧迫性潰瘍

    長時間同じ体位をとると、体重や器具が加わる部位の皮膚・皮下組織の血流が途絶え、圧迫性潰瘍(褥瘡)が生じる。砕石位では体重の多くが仙骨部・臀部にかかり、また下肢を挙上・下降させる際や手術台の角度変更時に臀部がずれると、圧迫に加えてずれ(剪断力)が作用して組織損傷が起こりやすい。支脚器に接する下腿・踵も圧迫部位となる。よって砕石位の合併症として正しい。

  5. ×e.  体位解除後の低血圧

    砕石位では両下肢が心臓より高く挙上されるため、下肢に貯留していた血液が体幹側へ移動し、静脈還流量が増えた状態になっている。長時間この状態が続いた後に下肢を急に下ろすと、血液が再び下肢へ移動して静脈還流量・心拍出量が減少し、低血圧を来す。麻酔薬や区域麻酔(脊髄くも膜下麻酔など)による血管拡張・交感神経遮断があると、代償が働きにくく低血圧はさらに起こりやすい。予防として下肢は片側ずつゆっくり下ろし、血圧を確認しながら体位を戻す。また、まれではあるが長時間の圧迫で下腿のコンパートメント症候群や横紋筋融解を生じていた場合、体位解除後の再灌流でクラッシュ症候群様の病態(高カリウム血症、ミオグロビン尿による急性腎障害、循環不全)を起こしうる。よって砕石位の合併症として正しい。

主な手術体位と特有の合併症

・仰臥位:後頭部・仙骨部・踵の褥瘡、上肢の過外転による腕神経叢障害、肘部での尺骨神経障害。 ・砕石位:総腓骨神経麻痺(下垂足)、大腿・閉鎖・坐骨・伏在神経障害、深部静脈血栓症、下腿コンパートメント症候群、仙骨部・臀部の褥瘡、体位解除時の低血圧。 ・側臥位:下側の腕神経叢障害(腋窩枕で予防)、下側の腓骨頭部圧迫による腓骨神経麻痺、耳介・肩・大転子部の褥瘡、換気血流比の不均衡。 ・腹臥位:顔面・眼球の圧迫による視力障害(虚血性視神経症、網膜中心動脈閉塞)、顔面・前胸部・腸骨部の褥瘡、腹部圧迫による換気障害と静脈還流低下。 ・頭低位(トレンデレンブルグ位):顔面・気道の浮腫、眼圧・頭蓋内圧の上昇、横隔膜挙上による換気障害。

下腿コンパートメント症候群

筋膜で囲まれた区画(コンパートメント)の内圧が上昇して筋肉・神経の血流が障害される病態である。長時間の砕石位で下腿が挙上・圧迫されると起こりうる。術後の下腿の強い痛み、腫脹、他動伸展での疼痛増強が手がかりとなり、内圧上昇が確認されれば筋膜切開による減圧が必要となる。

POINT

・砕石位の代表的合併症:総腓骨神経麻痺(下垂足)、深部静脈血栓症、仙骨部・臀部の褥瘡、体位解除時の低血圧、下腿コンパートメント症候群。 ・総腓骨神経は腓骨頭外側で圧迫されやすい → 支脚器との接触部を除圧する。 ・下肢挙上の解除で血液が下肢へ移動し低血圧 → 片脚ずつゆっくり下ろす。 ・周術期視力障害は腹臥位(顔面・眼球圧迫)や長時間手術・大量出血で問題となり、砕石位の合併症ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。