StudyMed医師国家試験

その症状はどこから来た?―部位と病態で読み解く消化器症候、過敏性腸症候群の核心

第119回医師国家試験 E問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第119回 E問題 第13問

症候と疾患の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.嚥下障害 ―― 膵炎
  2. b.黄疸 ―― 腸閉塞
  3. c.吐血 ―― 潰瘍性大腸炎
  4. d.腹部膨隆 ―― 胃食道逆流症
  5. e.便通異常 ―― 過敏性腸症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は消化器の症候と疾患の組合せを選ぶ問題だ。暗記で解こうとすると迷いやすいけれど、「その症状は消化管のどの部位の、どんな異常で起こるのか」という視点で整理すると、すっきり解ける。まずは膵炎と嚥下障害の組合せから考えてみよう。
医学生医学生
膵炎は上腹部痛と背部痛のイメージです。嚥下障害は聞いたことがありません。
ドクタードクター
そうだね。急性膵炎では上腹部から背部に放散する痛みが典型で、前かがみになると痛みが和らぐのが特徴的だ。慢性膵炎が進むと脂肪便などの消化吸収障害や膵性糖尿病も出てくる。でも膵臓は食べ物の通り道ではないから、飲み込みにくさは起こらない。
医学生医学生
嚥下障害なら食道癌や食道アカラシアですね。神経内科を回ったときに、ALSの患者さんがむせやすくて食事形態を工夫していました。
ドクタードクター
いい経験だね。嚥下障害は口腔・咽頭・食道の通過障害か、脳血管障害や筋萎縮性側索硬化症のような神経筋疾患で考える。次は黄疸と腸閉塞だ。
医学生医学生
腸閉塞で腸が詰まれば、胆汁も流れなくなって黄疸が出る……ということはないですか?
ドクタードクター
鋭い発想だけど、ふつうはそうはならない。黄疸はビリルビンが血中に増える状態で、溶血、肝炎や肝硬変などの肝細胞障害、胆石や膵頭部癌による胆管閉塞で起こる。腸閉塞の典型症状は、間欠的な腹痛、嘔吐、腹部膨満、排便・排ガスの停止だ。
医学生医学生
閉塞の場所が胆管か腸管かで、出る症状がまったく違うんですね。
ドクタードクター
その通り。では吐血と潰瘍性大腸炎はどうかな。
医学生医学生
潰瘍性大腸炎も出血するので、血を吐くこともあるのかなと一瞬思いました。
ドクタードクター
出血はするけれど、出口が違うんだ。吐血はトライツ靱帯より口側、つまり食道・胃・十二指腸からの出血で、食道静脈瘤や胃・十二指腸潰瘍、Mallory-Weiss症候群が代表だ。潰瘍性大腸炎は直腸から連続性に広がる大腸の炎症だから、血液は肛門側から出る。主症状は下痢、粘血便、腹痛、しぶり腹だね。
医学生医学生
消化器内科の実習で、内視鏡室で直腸から連続して赤くただれた粘膜を見ました。あれが血便の原因なんですね。
ドクタードクター
まさにそう。次は腹部膨隆と胃食道逆流症だ。
医学生医学生
逆流症は胸やけと呑酸ですよね。お腹が膨らむ病気ではないと思います。
ドクタードクター
正しい。胃食道逆流症は胃酸が食道へ逆流して胸やけや呑酸を起こし、慢性咳嗽や咽喉頭異常感、非心臓性胸痛といった食道外症状を示すこともある。腹部膨隆は、腸閉塞による腸管拡張、肝硬変などの腹水、巨大腫瘤、妊娠、肥満などで考える所見だ。
医学生医学生
そうすると、残る便通異常と過敏性腸症候群が正しい組合せですね。
ドクタードクター
正解。過敏性腸症候群は、腹痛と便通異常が慢性に繰り返すのに、それを説明する器質的病変がない機能性腸疾患だ。便通異常はまさに中核症状で、排便で腹痛が軽くなることが多い。背景には腸管運動の異常、内臓知覚過敏、ストレスを介した脳腸相関の異常があると考えられている。
医学生医学生
試験前になるとお腹を下す友人がいますが、まさにそれかもしれません。
ドクタードクター
ストレスで悪化するのは典型的だね。診断はRomeⅣ基準で、最近3か月間に週1日以上の腹痛があり、排便に関連する、排便頻度の変化、便形状の変化のうち2項目以上を満たすこと。便の性状で便秘型、下痢型、混合型、分類不能型に分ける。
医学生医学生
器質的疾患がないことが前提なら、検査で何を除外すればいいんでしょう。
ドクタードクター
そこが臨床で最も大事なところだ。大腸癌、炎症性腸疾患、感染性腸炎などを見逃さないこと。体重減少、血便、発熱、50歳以上での発症、大腸癌の家族歴といった警告症状があれば、大腸内視鏡などで器質的疾患をしっかり除外する。治療は生活・食事指導を基本に、病型に応じた薬物療法、心理的要因が強ければ抗うつ薬や心理療法も考える。

まとめ

消化器の症候は、どの部位のどんな異常で生じるかを押さえると疾患と結び付けやすくなります。嚥下障害は口腔・咽頭・食道の通過障害や神経筋疾患、吐血はトライツ靱帯より口側の上部消化管出血、黄疸は溶血・肝細胞障害・胆道閉塞、腹部膨隆は腸管拡張・腹水・腫瘤などで生じ、膵炎は上腹部痛・背部痛、腸閉塞は腹痛・嘔吐・排便排ガス停止、潰瘍性大腸炎は下痢・粘血便、胃食道逆流症は胸やけ・呑酸が代表的症状です。過敏性腸症候群は、慢性の腹痛と便通異常が続くものの器質的疾患で説明できない機能性腸疾患であり、便通異常は中核症状です。診断はRomeⅣ基準に基づきますが、体重減少や血便などの警告症状があれば大腸癌や炎症性腸疾患を必ず除外します。症候を部位と病態から逆算する考え方は、初診外来での鑑別診断の土台になります。

解答・解説

正解はeです

消化器疾患の代表的な症候を、病変の部位と病態から結び付けられるかを問う問題である。 症候から疾患を考えるときは、まず「消化管のどの部位の異常で生じる症状か」を押さえると整理しやすい。 ・嚥下障害(飲み込みにくさ):口腔・咽頭・食道の通過障害や神経筋疾患 ・吐血:トライツ靱帯より口側の上部消化管(食道・胃・十二指腸)からの出血 ・黄疸:ビリルビン代謝の異常(溶血、肝細胞障害、胆汁うっ滞・胆道閉塞) ・腹部膨隆:腸管内のガス・内容物の貯留、腹水、巨大腫瘤、肥満など ・便通異常(下痢・便秘):大腸を中心とした腸管の運動・分泌・吸収の異常 この枠組みに各疾患を当てはめると、膵炎(膵臓)、腸閉塞(腸管の通過障害)、潰瘍性大腸炎(大腸粘膜)、胃食道逆流症(食道)の代表的症状は、組み合わされた症候とずれていることがわかる。一方、過敏性腸症候群は「腹痛と便通異常が慢性的に続くが、それを説明する器質的病変がない」ことで定義される機能性疾患であり、便通異常はまさに中核症状である。

選択肢考察

  1. ×a.  嚥下障害 ―― 膵炎

    膵炎の主症状は上腹部痛と背部への放散痛であり、急性膵炎では前かがみの姿勢(膝胸位)で痛みが和らぐことが特徴的である。悪心・嘔吐、発熱を伴うこともあり、慢性膵炎では反復する腹痛に加え、進行すると脂肪便などの消化吸収障害や膵性糖尿病が出現する。膵臓は食物の通り道ではないため、嚥下障害は生じない。嚥下障害を来す代表的疾患は食道癌、食道アカラシア(下部食道括約筋が弛緩しない運動障害)、脳血管障害や筋萎縮性側索硬化症などの神経筋疾患である。

  2. ×b.  黄疸 ―― 腸閉塞

    腸閉塞(イレウス)では腸管内容の通過が妨げられるため、腹痛(多くは間欠的な疝痛)、嘔吐、腹部膨満、排便・排ガスの停止が典型的な症状となる。黄疸は血中ビリルビンの上昇によって皮膚や眼球結膜が黄染する状態で、溶血(間接ビリルビン優位)、肝炎・肝硬変などの肝細胞障害、胆石や膵頭部癌による胆管閉塞(直接ビリルビン優位)などで生じる。腸閉塞そのものの代表的症候ではない。

  3. ×c.  吐血 ―― 潰瘍性大腸炎

    吐血は口から血液を吐くことで、出血源は原則として上部消化管(食道静脈瘤、胃・十二指腸潰瘍、マロリー・ワイス症候群など)である。潰瘍性大腸炎は直腸から連続性に口側へ広がる大腸粘膜の慢性炎症性疾患であり、主症状は持続・反復する下痢、粘血便、腹痛、しぶり腹(便意があるのに少量しか出ない状態)である。大腸からの出血は肛門側から排出される(血便・下血)ため、吐血にはならない。

  4. ×d.  腹部膨隆 ―― 胃食道逆流症

    胃食道逆流症(GERD:gastroesophageal reflux disease)は胃酸などの胃内容物が食道へ逆流して症状や粘膜傷害を起こす疾患で、典型症状は胸やけと呑酸(酸っぱい液が口まで上がってくる感覚)である。慢性咳嗽、咽喉頭異常感、非心臓性胸痛などの食道外症状を呈することもある。腹部膨隆は腸閉塞による腸管拡張、肝硬変などによる腹水、巨大な腹部腫瘤、妊娠、肥満などでみられる所見であり、GERDの症候ではない。

  5. ○e.  便通異常 ―― 過敏性腸症候群

    過敏性腸症候群(IBS:irritable bowel syndrome)は、腹痛(または腹部不快感)と便通異常(下痢・便秘、あるいは両者の交替)が慢性・反復性に続き、それを説明できる器質的疾患が存在しない機能性腸疾患である。症状は排便によって軽快することが多い。背景には腸管運動の異常、内臓知覚過敏(腸への刺激を過敏に痛みとして感じること)、心理的ストレスを介した脳腸相関の異常があると考えられている。便の性状により便秘型・下痢型・混合型・分類不能型に分けられ、便通異常は本症の中核症状であるため、この組合せは正しい。

過敏性腸症候群(IBS)の要点

・定義:腹痛と便通異常が慢性に続き、器質的疾患では説明できない機能性消化管疾患。 ・診断基準(RomeⅣ):最近3か月間、腹痛が平均して週1日以上あり、次の2項目以上を満たす。①排便に関連する、②排便頻度の変化を伴う、③便形状(外観)の変化を伴う。症状は診断の6か月以上前から始まっていること。 ・病型:便形状により便秘型(IBS-C)、下痢型(IBS-D)、混合型(IBS-M)、分類不能型(IBS-U)。 ・除外すべき疾患:大腸癌、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・Crohn病)、感染性腸炎など。体重減少、血便、発熱、50歳以上での発症、大腸癌の家族歴といった警告症状・徴候があれば大腸内視鏡検査などで器質的疾患を除外する。 ・治療:生活習慣・食事指導、高分子重合体、消化管運動調節薬、下痢型にはセロトニン5-HT3受容体拮抗薬、便秘型には粘膜上皮機能変容薬などを用い、心理的要因が強ければ抗うつ薬や心理療法も考慮する。

吐血と下血の部位

・吐血:トライツ靱帯より口側の出血。胃酸に触れるとコーヒー残渣様になる。 ・タール便(黒色便):主に上部消化管出血で、血液が消化管内で変性したもの。 ・鮮血便:主に下部消化管(大腸・肛門)からの出血。

POINT

・過敏性腸症候群=慢性の腹痛+便通異常(下痢・便秘)+器質的疾患なし。 ・吐血は上部消化管出血、潰瘍性大腸炎は下痢・粘血便。 ・膵炎は上腹部痛・背部痛(前屈位で軽減)、GERDは胸やけ・呑酸。 ・腸閉塞は腹痛・嘔吐・腹部膨満・排便排ガス停止。黄疸は溶血・肝障害・胆道閉塞で生じる。 ・嚥下障害は食道癌、アカラシア、神経筋疾患を想起する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。