StudyMed医師国家試験

同じ「糖尿病」でも喫煙との距離は違う―たばこが傷つける臓器を機序で整理する

第119回医師国家試験 E問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第119回 E問題 第15問

喫煙と関連が乏しいのはどれか。

  1. a.歯周病
  2. b.大動脈瘤
  3. c.1型糖尿病
  4. d.冠動脈疾患
  5. e.慢性閉塞性肺疾患

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は喫煙が健康に及ぼす影響の範囲を問う問題だ。喫煙が関わる病気はとても多いから、一つずつ覚えるより「たばこの煙が体の中で何をするか」という機序で整理すると、関連の乏しいものが浮かび上がってくる。まず、たばこの煙にはどんな有害物質が含まれているかな。
医学生医学生
ニコチン、一酸化炭素、タールに含まれる発がん物質……あとは活性酸素などの酸化物質でしょうか。
ドクタードクター
その通り。これらが血管、気道・肺、局所の免疫、代謝、そして発がんと、全身に影響する。まずは一番分かりやすい呼吸器から。慢性閉塞性肺疾患はどうだろう。
医学生医学生
COPDは呼吸器内科の実習で受け持った患者さんがみんな喫煙歴ありでした。指導医の先生が「たばこ病」と呼んでいました。
ドクタードクター
まさにそう。煙による慢性的な炎症と、プロテアーゼと抗プロテアーゼの不均衡で末梢気道の病変と肺胞の破壊が進む。患者の大部分に喫煙歴があり、禁煙は進行を抑える最も有効な介入なんだ。次は血管。冠動脈疾患との関係は?
医学生医学生
高血圧、脂質異常症、糖尿病と並ぶ冠危険因子ですよね。CBTでも頻出でした。
ドクタードクター
そうだね。血管内皮障害と酸化ストレスで動脈硬化が進み、血小板凝集が亢進して血栓ができやすくなる。ニコチンは交感神経を刺激して心拍数や血圧を上げ、一酸化炭素は酸素運搬能を落とし、冠攣縮も誘発する。受動喫煙でもリスクが上がるし、禁煙すると比較的短期間でリスクが下がり始めることも知られている。
医学生医学生
大動脈瘤は動脈硬化つながりで関連がありそうですが、そこまで強いイメージはありませんでした。
ドクタードクター
実はかなり強いんだ。特に腹部大動脈瘤では、喫煙が最も強い危険因子とされている。動脈硬化に加えて、大動脈壁の弾性線維を分解する酵素の活性化や慢性炎症で壁がもろくなる。喫煙者の発症リスクは非喫煙者の数倍とされ、喫煙を続けると瘤の拡大や破裂にも関わる。
医学生医学生
歯周病は歯科の話なので、医学部の講義ではあまり意識していませんでした。
ドクタードクター
見落としやすいところだね。ニコチンの血管収縮作用で歯肉の血流が落ち、好中球などの免疫細胞の働きも抑えられるから、歯周病菌への抵抗力が下がる。喫煙は歯周病の最大の環境的危険因子の一つなんだ。しかも血流が落ちていると出血や発赤が目立たず、進行に気付きにくい。
医学生医学生
そうすると残りは1型糖尿病ですね。でも喫煙は糖尿病のリスクになると習った気がして、最初は迷いました。
ドクタードクター
そこがこの問題のひっかけだ。喫煙はインスリン抵抗性を高めるから、2型糖尿病の発症リスクを約1.4倍に上げるとされている。でも1型糖尿病の成因は何だった?
医学生医学生
自己免疫で膵β細胞が壊されて、インスリンが絶対的に欠乏する病気です。抗GAD抗体が陽性になることが多いと内分泌の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。遺伝的素因、つまり特定のHLA型に、ウイルス感染などの環境因子が加わって発症すると考えられていて、喫煙が発症要因だという根拠は乏しい。だから1型糖尿病が「喫煙と関連が乏しい」ものとして正解になる。
医学生医学生
病名に「糖尿病」とあるだけで反射的に選ばず、1型と2型の成因の違いを考えるべきだったんですね。
ドクタードクター
そういうこと。ただし臨床では、すでに糖尿病がある人が喫煙すると、病型を問わず細小血管症や大血管症が悪化しやすい。1型の患者さんにも禁煙指導は欠かせないよ。
医学生医学生
発症とは関係なくても、合併症の進行には関わるわけですね。ほかに喫煙と関係する病気で押さえておくべきものはありますか。
ドクタードクター
癌は肺だけでなく、口腔・咽頭・喉頭・食道・胃・膵・肝・膀胱・子宮頸部など多くの部位に及ぶ。ほかに脳卒中、末梢動脈疾患、早産や低出生体重児、受動喫煙による乳幼児突然死症候群なども因果関係が示されている。公衆衛生の面では、健康増進法の改正で2020年から多数の者が利用する施設での原則屋内禁煙が義務化されたことも覚えておこう。
医学生医学生
外来で患者さんに禁煙を勧めるとき、心臓や肺だけでなく歯や子どもへの影響も話せると説得力が増しそうです。
ドクタードクター
いい視点だね。喫煙は多くの疾患に共通する「修正可能な危険因子」だから、どの診療科に進んでも禁煙支援は医師の大事な仕事になるよ。

まとめ

喫煙は血管内皮障害・酸化ストレス・血小板凝集亢進を介して冠動脈疾患、脳卒中、大動脈瘤(特に腹部大動脈瘤)、末梢動脈疾患を促進し、慢性炎症とプロテアーゼ・抗プロテアーゼ不均衡によってCOPDを引き起こします。さらに歯肉の血流低下と免疫機能の抑制による歯周病、インスリン抵抗性増大による2型糖尿病、肺癌をはじめとする多くの癌とも関連します。一方、1型糖尿病はHLAなどの遺伝的素因にウイルス感染などが加わり、自己免疫によって膵β細胞が破壊される疾患で、喫煙が発症要因とする根拠は乏しいです。ただし糖尿病患者の喫煙は病型を問わず血管合併症を悪化させるため、禁煙指導は重要です。病名だけで判断せず成因と機序から喫煙との関連を考える姿勢は、国試の正誤判断にも、臨床での禁煙支援にも役立ちます。

解答・解説

正解はcです

喫煙が健康に及ぼす影響の範囲を問う問題である。 たばこの煙には、ニコチン、一酸化炭素、多数の発がん物質、活性酸素などの酸化物質が含まれる。これらは主に次のような機序で全身の臓器を障害する。 ・血管:血管内皮障害、酸化ストレス、血小板凝集の亢進、HDLコレステロールの低下などを介して動脈硬化を促進する → 冠動脈疾患、脳卒中、大動脈瘤、末梢動脈疾患 ・気道・肺:煙による慢性的な炎症とプロテアーゼ・抗プロテアーゼの不均衡によって気道病変と肺胞破壊が進む → 慢性閉塞性肺疾患(COPD) ・局所の免疫・血流:歯肉の血流低下や好中球機能の障害などにより感染防御が弱まる → 歯周病 ・代謝:インスリン抵抗性を高める → 2型糖尿病 ・発がん:肺癌をはじめ、口腔・咽頭・喉頭・食道・胃・膵・肝・膀胱・子宮頸部などの癌 一方、1型糖尿病は膵β細胞が主に自己免疫機序によって破壊され、インスリンが絶対的に欠乏する疾患であり、発症には遺伝的素因(HLA)やウイルス感染などの環境因子が関与すると考えられている。喫煙がその発症要因であるという根拠は乏しい。糖尿病という病名だけで「喫煙と関連する」と判断せず、1型と2型の成因の違いに着目することが本問の要点である。

選択肢考察

  1. ×a.  歯周病

    喫煙は歯周病の最大の環境的危険因子の一つである。ニコチンの血管収縮作用によって歯肉の血流が低下し、好中球など免疫細胞の働きも抑えられるため、歯周病菌に対する抵抗力が落ちる。さらに組織の修復が妨げられるので、歯周病の発症・進行のリスクが高まり、治療効果も低下する。喫煙本数や喫煙年数が多いほどリスクは大きくなる。歯肉の血流低下で出血や発赤が目立たず、進行に気付きにくいことも特徴である。よって喫煙と関連がある。

  2. ×b.  大動脈瘤

    喫煙は動脈硬化を促進するとともに、大動脈壁の弾性線維を分解する酵素の活性化や慢性炎症を通じて血管壁を脆弱化させる。特に腹部大動脈瘤では喫煙が最も強い危険因子とされ、喫煙者は非喫煙者に比べて発症リスクが数倍高く、喫煙継続は瘤の拡大速度の増加や破裂にも関わる。よって喫煙と関連がある。

  3. ○c.  1型糖尿病

    1型糖尿病は、主に自己免疫機序(膵島関連自己抗体:抗GAD抗体など)によって膵β細胞が破壊され、インスリンが絶対的に欠乏する疾患である。発症には遺伝的素因(特定のHLA型)にウイルス感染などの環境因子が加わることが関与すると考えられており、小児・若年者に多いが成人でも発症する。喫煙はその発症要因とは考えられていない。これに対して2型糖尿病は、喫煙によるインスリン抵抗性の増大などを介して発症リスクが約1.4倍に高まるとされ、喫煙と関連する。したがって本選択肢が「喫煙と関連が乏しい」ものとして正解である。なお、すでに糖尿病(1型を含む)がある人が喫煙すると、細小血管症や大血管症などの合併症が悪化しやすいため、病型を問わず禁煙指導は重要である。

  4. ×d.  冠動脈疾患

    喫煙は高血圧、脂質異常症、糖尿病などと並ぶ冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)の主要な危険因子である。血管内皮障害や酸化ストレスによる動脈硬化の進展に加え、血小板凝集の亢進による血栓形成、ニコチンによる交感神経刺激(心拍数・血圧上昇)、一酸化炭素による酸素運搬能の低下、冠動脈攣縮の誘発など、多くの経路で心筋虚血を起こしやすくする。受動喫煙でもリスクが上昇する。禁煙により比較的短期間でリスクが低下し始めることも知られている。よって喫煙と関連がある。

  5. ×e.  慢性閉塞性肺疾患

    慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)は、たばこ煙を主とする有害物質を長期に吸入することで生じる、進行性の気流閉塞を特徴とする肺疾患である。患者の大部分に喫煙歴があり、喫煙は最大の原因である。このため「たばこ病」とも呼ばれる。末梢気道の炎症と肺胞壁の破壊(肺気腫)が進み、労作時の息切れや慢性の咳・痰を呈する。禁煙は病気の進行を抑える最も有効な介入である。よって喫煙と関連がある。

喫煙との因果関係が確立している主な疾患

・悪性腫瘍:肺、口腔・咽頭、喉頭、鼻腔・副鼻腔、食道、胃、肝、膵、膀胱、子宮頸部など ・循環器疾患:冠動脈疾患(虚血性心疾患)、脳卒中、腹部大動脈瘤、末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症) ・呼吸器疾患:COPD、呼吸機能の低下、結核による死亡 ・代謝疾患:2型糖尿病の発症 ・その他:歯周病、早産・低出生体重児、乳幼児突然死症候群(受動喫煙)、骨粗鬆症による骨折、関節リウマチなど

1型糖尿病と2型糖尿病の比較

・成因:1型は自己免疫などによる膵β細胞破壊、2型はインスリン分泌低下とインスリン抵抗性に過食・運動不足・肥満などの生活習慣が加わったもの。 ・インスリン分泌:1型は高度に低下〜枯渇、2型は保たれるが相対的に不足。 ・自己抗体:1型では抗GAD抗体などが陽性となることが多い。 ・治療:1型はインスリン療法が必須、2型は食事・運動療法を基本とし、必要に応じて薬物療法。 ・喫煙との関連:2型は発症リスクが上昇、1型の発症との関連は乏しい。

受動喫煙

受動喫煙も肺癌、虚血性心疾患、脳卒中、乳幼児突然死症候群などとの因果関係が示されている。わが国では健康増進法の改正(2020年全面施行)により、多数の者が利用する施設での原則屋内禁煙が義務化された。

POINT

・喫煙は動脈硬化性疾患(冠動脈疾患、脳卒中、大動脈瘤、末梢動脈疾患)、COPD、多くの癌、歯周病、2型糖尿病のリスクを高める。 ・1型糖尿病は自己免疫による膵β細胞破壊が主因で、喫煙との関連は乏しい。 ・「糖尿病」は1型と2型で喫煙との関係が異なる点に注意する。 ・COPDの最大の原因は喫煙(たばこ病)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。