破れて散る薄皮のびらん―表皮の「浅さ」が教える落葉状天疱瘡
第111回医師国家試験 A問題 第34問
国試問題にチャレンジ
55歳の男性。全身の皮疹を主訴に来院した。1か月前から頭部,顔面,頸部および体幹に皮疹が出現し,徐々に拡大してきた。胸部の写真(A)と皮膚生検のH-E染色標本(B)とを別に示す。 診断として最も考えられるのはどれか。

- a.疱疹状皮膚炎
- b.尋常性天疱瘡
- c.落葉状天疱瘡
- d.水疱性類天疱瘡
- e.後天性表皮水疱症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
脂漏部位に鱗屑・痂皮を伴う浅いびらんが多発し、粘膜病変を欠き、組織で表皮上層(角層下〜顆粒層)の棘融解を伴う裂隙を認めれば、抗Dsg1抗体による落葉状天疱瘡を考えます。尋常性天疱瘡は抗Dsg3抗体が主体で口腔粘膜病変がほぼ必発、組織では基底層直上で裂けるため、裂隙の深さと粘膜病変の有無で区別できます。水疱性類天疱瘡(BP180/BP230)、後天性表皮水疱症(VII型コラーゲン)、疱疹状皮膚炎(IgA沈着)はいずれも表皮下水疱です。粘膜と皮膚でのDsg1・Dsg3の分布の違いから病型を説明するデスモグレイン代償説を理解すれば、標的分子と水疱の深さ、臨床像を一貫して結びつけられます。確定には蛍光抗体法と血清抗体の測定を用い、治療はステロイド全身投与を中心に組み立てます。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・55歳男性。1か月前から頭部、顔面、頸部、体幹に皮疹が出現し、次第に拡大している。 ・病変の分布は頭部・顔面・前胸部・背部といった、皮脂腺の多い脂漏部位に一致している。口腔粘膜病変の記載はない。 ・胸部の写真(A)では、はっきりした緊満性水疱は目立たず、紅斑の上に薄い鱗屑・痂皮と浅いびらんが多発している。破れやすい弛緩性水疱が速やかに破れ、葉っぱが散るように薄い痂皮・鱗屑を付けた状態と考えられる。 ・H-E染色(B)では表皮の上層、角層直下から顆粒層付近に裂隙(水疱)がみられ、その周囲には細胞同士の接着が外れて丸くなった棘融解細胞がみられる。
診断へのプロセス
水疱・びらんをきたす自己免疫性水疱症は、組織学的に「表皮内水疱」か「表皮下水疱」かで大きく二分される。 ・表皮内水疱(棘融解を伴う):天疱瘡群。表皮細胞同士をつなぐデスモソームの構成タンパクであるデスモグレイン(Dsg)に対する自己抗体による。 ・表皮下水疱:類天疱瘡群、後天性表皮水疱症、疱疹状皮膚炎など。表皮と真皮をつなぐ基底膜部の分子が標的となる。 本例は表皮内、しかも表皮上層の裂隙と棘融解であり、天疱瘡群の中でも落葉状天疱瘡が考えられる。臨床的にも、脂漏部位に分布する鱗屑・痂皮を伴うびらんで、粘膜病変がない点が落葉状天疱瘡に合致する。 臨床像だけでは脂漏性皮膚炎や伝染性膿痂疹とも紛らわしいが、脂漏性皮膚炎は通常びらん・痂皮を形成せず、伝染性膿痂疹は主に小児の疾患である。最終的には組織像と、蛍光抗体法(表皮細胞間へのIgG沈着)や血清の抗Dsg1抗体の検出で確定する。
選択肢考察
- ×a. 疱疹状皮膚炎
表皮トランスグルタミナーゼなどに対するIgA抗体が関与し、グルテン過敏性腸症(セリアック病)と関連する疾患である。肘頭・膝・殿部などに強いかゆみを伴う小水疱が環状・集簇性に出現する。組織では真皮乳頭部の好中球の微小膿瘍と表皮下水疱を示し、蛍光抗体法で真皮乳頭部に顆粒状のIgA沈着をみる。棘融解を伴う表皮内水疱ではなく、日本ではまれである。
- ×b. 尋常性天疱瘡
Dsg3(粘膜優位型)またはDsg3とDsg1の両方(粘膜皮膚型)に対する自己抗体による。口腔粘膜のびらんがほぼ必発で、初発症状となることが多い。組織では基底層直上の裂隙と棘融解を示し、基底細胞が基底膜に一列に残る「墓石状」所見がみられる。本例は口腔病変の記載がなく、裂隙が表皮上層にあるため合わない。
- ○c. 落葉状天疱瘡
Dsg1に対するIgG自己抗体による。Dsg1は表皮の上層に多く発現しており、粘膜では他のデスモグレイン(Dsg3)が接着を補うため、表皮上層(角層下〜顆粒層)に裂隙が生じ、粘膜病変は通常みられない。水疱は非常に浅く弛緩性ですぐ破れ、頭部・顔面・胸背部などの脂漏部位に、鱗屑・痂皮を伴う紅斑・びらんとして現れる。本例の分布、粘膜病変を欠く点、表皮上層の棘融解を伴う裂隙という組織像のすべてに合致する。
- ×d. 水疱性類天疱瘡
ヘミデスモソームの構成タンパクであるBP180(XVII型コラーゲン)やBP230に対する自己抗体による。高齢者に多く、浮腫性紅斑と緊満性水疱が体幹・四肢に多発し、強いかゆみを伴う。組織は好酸球浸潤を伴う表皮下水疱で、蛍光抗体法では基底膜部に線状のIgG・C3沈着、1M食塩水剥離皮膚では表皮側に反応する。表皮内水疱である本例とは異なる。
- ×e. 後天性表皮水疱症
基底膜直下の係留線維の主成分であるVII型コラーゲンに対する自己抗体による。外力を受けやすい手背・肘・膝などに水疱が生じ、治癒後に瘢痕や稗粒腫を残しやすい。組織は表皮下水疱で、1M食塩水剥離皮膚を用いた蛍光抗体法では真皮側に反応する点で水疱性類天疱瘡と区別される。表皮内水疱の本例とは異なる。
表皮の接着構造と自己免疫性水疱症
・表皮細胞(ケラチノサイト)同士はデスモソームで接着し、その主要構成分子がデスモグレイン(Dsg)である。表皮基底細胞と基底膜はヘミデスモソームで接着し、さらに係留線維(VII型コラーゲン)が真皮とつなぐ。 ・どの分子に自己抗体ができるかで、水疱のできる深さが決まる。
Dsgの分布と天疱瘡の病型(デスモグレイン代償説)
・皮膚:Dsg1は表皮全層(特に上層)、Dsg3は基底層付近に主に発現する。 ・粘膜:Dsg3が全層に多く、Dsg1は少ない。 ・抗Dsg1抗体のみ(落葉状天疱瘡):皮膚の上層ではDsg3による代償がないため表皮上層で剥離する。粘膜はDsg3で接着が保たれるため病変が出ない。 ・抗Dsg3抗体のみ(尋常性天疱瘡・粘膜優位型):粘膜は障害されるが、皮膚はDsg1で代償されるため皮疹は軽い。 ・抗Dsg1と抗Dsg3の両方(尋常性天疱瘡・粘膜皮膚型):粘膜と皮膚の両方に病変が出て、皮膚では基底層直上で剥離する。
天疱瘡の共通事項
・Nikolsky現象(一見正常な皮膚をこすると表皮が剥がれる)が陽性となる。 ・Tzanck試験(水疱底の擦過細胞診)で棘融解細胞を認める。 ・直接蛍光抗体法で表皮細胞間にIgG・C3が網目状に沈着する。血清抗Dsg1/Dsg3抗体はELISAなどで測定し、抗体価は病勢の指標となる。 ・治療の中心は副腎皮質ステロイドの全身投与で、免疫抑制薬、血漿交換療法、免疫グロブリン大量静注療法、抗CD20抗体リツキシマブなどを組み合わせる。落葉状天疱瘡は尋常性天疱瘡に比べて比較的軽症のことが多い。 ・その他の病型として、悪性リンパ腫などに伴う腫瘍随伴性天疱瘡、尋常性天疱瘡の亜型である増殖性天疱瘡、落葉状天疱瘡の亜型である紅斑性天疱瘡などがある。
水疱の深さによる整理
・角層下〜顆粒層:落葉状天疱瘡、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS。表皮剥脱毒素がDsg1を切断する)、伝染性膿痂疹 ・基底層直上:尋常性天疱瘡 ・表皮下:水疱性類天疱瘡、粘膜類天疱瘡、後天性表皮水疱症、疱疹状皮膚炎、線状IgA水疱性皮膚症
POINT
・天疱瘡=表皮内水疱+棘融解、抗デスモグレイン抗体(IgG)。 ・落葉状天疱瘡:抗Dsg1抗体、表皮上層(角層下)の裂隙、脂漏部位の鱗屑・痂皮を伴うびらん、粘膜病変なし。 ・尋常性天疱瘡:抗Dsg3(±Dsg1)抗体、基底層直上の裂隙、口腔粘膜病変がほぼ必発。 ・水疱性類天疱瘡(BP180/BP230)と後天性表皮水疱症(VII型コラーゲン)は表皮下水疱。食塩水剥離皮膚で前者は表皮側、後者は真皮側に反応。 ・疱疹状皮膚炎はIgA沈着、表皮下水疱、セリアック病と関連。
