「たぶんペニシリンアレルギー」をどう扱う?―ピロリ除菌の前に立ち止まる勇気
第119回医師国家試験 D問題 第62問
国試問題にチャレンジ
52歳の男性。人間ドックの上部消化管造影検査で異常を指摘され来院した。自覚症状はない。身長165cm,体重60kg。脈拍72/分,整。血圧124/76mmHg。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。上部消化管内視鏡検査を施行したところ,萎縮性胃炎を認め,迅速ウレアーゼ試験は陽性であった。Helicobacter pyloriの除菌をしたことはない。①ペニシリン系抗菌薬,②マクロライド系抗菌薬,および③酸分泌抑制薬の内服による除菌療法を提案したところ,「除菌を是非お願いしたいが,子供のころに呼吸が苦しくなって救急車で運ばれ入院し,ペニシリンアレルギーであろうと言われた」という申し出があった。 この患者へ除菌療法を行う際,現時点の対応で適切なのはどれか。
- a.①②③の服用
- b.②のみ服用
- c.③のみ服用
- d.迅速ウレアーゼ試験の再検査
- e.ペニシリンアレルギーの精査
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
Helicobacter pylori感染胃炎は胃癌の背景となるため除菌が勧められ、日本の一次除菌は酸分泌抑制薬(ボノプラザンまたはPPI)、アモキシシリン、クラリスロマイシンの3剤を1週間服用します。呼吸困難で救急搬送・入院した既往からペニシリンアレルギーを疑われている患者では、アナフィラキシーの危険があるため、確認しないままアモキシシリンを投与せず、まずアレルギーを精査します。精査は問診と記録の確認を基本に、必要に応じて専門医による皮膚テストや誘発試験を行い、否定されれば標準療法、確定すればクラリスロマイシンとメトロニダゾールを用いるなどペニシリンを含まないレジメンを専門施設と相談して選びます。抗菌薬単剤や酸分泌抑制薬単独では除菌できず、耐性化や判定の偽陰性を招き、すでに陽性の迅速ウレアーゼ試験を再検査しても方針は変わりません。自己申告のアレルギー歴を正確に評価してラベルを見直す姿勢は、安全な薬物療法と適正な抗菌薬使用の両方に直結する大切な臨床能力です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・52歳の男性。人間ドックで異常を指摘されたが、自覚症状はない。 ・身長165cm、体重60kgでBMIは約22である。バイタルサインは正常で、貧血・黄疸を示す所見はない。腹部の所見にも異常はない。 ・上部消化管内視鏡検査で萎縮性胃炎がみられ、迅速ウレアーゼ試験は陽性である。迅速ウレアーゼ試験は、内視鏡で採った胃粘膜をウレアーゼ(菌が持つ尿素分解酵素)の有無で調べる検査である。陽性なので、Helicobacter pylori(ピロリ菌)感染胃炎と診断できる。除菌歴はない。 ・ピロリ菌感染胃炎は胃癌の主な背景因子である。除菌すると胃癌の発生リスクが下がるため、除菌療法を行う方針は妥当である。
問題点
提案した一次除菌療法は3剤併用療法である。具体的には、ペニシリン系抗菌薬(アモキシシリン)、マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシン)、酸分泌抑制薬(カリウムイオン競合型アシッドブロッカーのボノプラザン、またはプロトンポンプ阻害薬)を組み合わせる。 ところが患者は、子どもの頃に呼吸困難で救急搬送されて入院し、ペニシリンアレルギーだろうと言われた経験がある。この経過は、ペニシリンによるアナフィラキシー(全身性の即時型アレルギー反応)の可能性を示している。このまま処方すると、命に関わる反応を起こすおそれがある。
考え方
一方で、「ペニシリンアレルギー」と言われている人の多くは、詳しく調べると実際には即時型アレルギーではない。原因が感染症そのものや別の薬剤だった場合があり、また即時型アレルギーでも年月とともに感作が消えていくことが多い。本例では、本当にペニシリンが原因だったのか、どんな反応だったのかが確認されていない。 そこで現時点では、まずペニシリンアレルギーを精査するのが適切である。具体的には、問診の詳細化、以前の診療記録の確認、アレルギー専門医による皮膚テストなどを行う。真のアレルギーと判断されれば、ペニシリンを使わない除菌療法を選ぶ。否定されれば、標準的な除菌療法を安全に行える。
選択肢考察
- ×a. ①②③の服用
標準的な一次除菌療法であり、通常なら適切な処方である。しかし本例には、呼吸困難で救急搬送・入院し、ペニシリンアレルギーを疑われた既往がある。アナフィラキシーを起こしていた可能性があり、確認しないままペニシリン系抗菌薬を投与すれば、アナフィラキシーショックなど命に関わる反応を起こすおそれがある。現時点では行うべきでない。
- ×b. ②のみ服用
マクロライド系抗菌薬だけでは、ピロリ菌をほとんど除菌できない。ピロリ菌は胃の強い酸の中で生きているため、酸分泌抑制薬で胃内のpHを上げ、2種類の抗菌薬を同時に使って初めて十分な効果が得られる。さらに、抗菌薬を1種類だけ使うと耐性菌が生じやすい。クラリスロマイシン耐性が生じると、その後の除菌がさらに難しくなる。
- ×c. ③のみ服用
酸分泌抑制薬には抗菌作用がほとんどなく、単独ではピロリ菌を除菌できない。症状のない萎縮性胃炎に対して単独で処方する意味もない。また、酸分泌抑制薬の服用中は菌の量が一時的に減るため、尿素呼気試験などで偽陰性が出やすくなり、その後の感染診断や除菌判定を誤らせる原因になる。
- ×d. 迅速ウレアーゼ試験の再検査
迅速ウレアーゼ試験はすでに陽性で、内視鏡でも萎縮性胃炎があることから、ピロリ菌感染は確定している。再検査をしても方針は変わらない。この場面で解決すべき課題は、ペニシリンを安全に使えるかどうかであり、感染の診断ではない。
- ○e. ペニシリンアレルギーの精査
ペニシリンによるアナフィラキシーの可能性がある既往があるため、除菌療法を始める前に、本当にペニシリンアレルギーなのかを確かめる必要がある。精査では、まず問診と記録で次の点を確認する。当時の症状(皮膚症状、呼吸器症状、血圧低下の有無)、投与から発症までの時間、使った薬剤の名前、その後にペニシリン系やセフェム系を使ったかどうか、である。そのうえで必要に応じて、アレルギー専門医が皮膚テスト(プリックテスト、皮内テスト)や特異的IgE抗体の測定を行い、適応があれば少量から投与して反応を確かめる誘発試験(チャレンジテスト)を行う。アレルギーが否定されれば標準療法を行い、確定すればペニシリンを含まない除菌療法に切り替える。どちらの場合も治療方針を正しく決めるために必要な対応である。
ピロリ菌感染の診断法
・内視鏡で組織を採る検査(侵襲的):迅速ウレアーゼ試験、鏡検法(組織を顕微鏡で見る)、培養法(薬剤感受性も調べられる) ・内視鏡が不要な検査(非侵襲的):尿素呼気試験、血中・尿中抗ピロリ抗体、便中ピロリ抗原 酸分泌抑制薬や抗菌薬を服用していると菌の量が減り、尿素呼気試験などが偽陰性になりやすい。
除菌療法(日本の標準的なレジメン)
・一次除菌:酸分泌抑制薬(ボノプラザンまたはプロトンポンプ阻害薬)、アモキシシリン、クラリスロマイシンを1週間服用する。ボノプラザンは酸を抑える効果が強く、従来のプロトンポンプ阻害薬を使う場合より除菌率が高い。 ・二次除菌:クラリスロマイシンをメトロニダゾールに替える。除菌率はおおむね90%前後と高い。 ・除菌判定:治療が終わってから4週間以上あけて、尿素呼気試験や便中抗原などで判定する。
ペニシリンアレルギー患者の除菌
標準的な一次除菌・二次除菌はどちらもアモキシシリンを含むため、そのままでは使えない。ペニシリンを使わない組み合わせが用いられ、代表的なのは次の2つである。 ・酸分泌抑制薬+クラリスロマイシン+メトロニダゾール ・酸分泌抑制薬+メトロニダゾール+シタフロキサシン これらは保険で使えるかどうかや実施できる施設に制約があるため、専門施設と相談して行う。
ペニシリンアレルギーのラベル
ペニシリンアレルギーと自己申告する人のうち、精査して真の即時型アレルギーと確認されるのは一部にすぎない。また即時型アレルギーでも、年月とともに感作が弱まることが多い。根拠のないアレルギーのラベルが付いたままだと、広域抗菌薬の使用が増え、耐性菌、副作用、医療費の増加につながる。そのため、ラベルを正確に評価して必要なら外すこと(ラベル解除)が重視されている。ただし、アナフィラキシーの既往が確実な場合、精査は救急対応ができる環境で専門医が行う。
萎縮性胃炎と胃癌
ピロリ菌に長く感染すると、萎縮性胃炎から腸上皮化生へと進み、胃癌(特に腸型)の発生母地となる。除菌によって胃癌の発生リスクは下がる。ただしゼロにはならないため、除菌後も定期的な内視鏡検査が必要である。
POINT
・ピロリ菌の一次除菌は、酸分泌抑制薬+アモキシシリン+クラリスロマイシンの3剤併用である。抗菌薬単剤や酸分泌抑制薬単独では除菌できない。 ・ペニシリンアレルギーの既往(特にアナフィラキシーを疑う既往)がある患者に、確認しないままアモキシシリンを投与してはならない。まずアレルギーを精査する。 ・ペニシリンアレルギーが確定したら、ペニシリンを含まない除菌療法(例:酸分泌抑制薬+クラリスロマイシン+メトロニダゾール)を検討する。 ・迅速ウレアーゼ試験が陽性なら感染は確定しており、再検査は不要である。
