StudyMed医師国家試験

鋭く立つ一本の塔―蛋白電気泳動で見抜くM蛋白の居場所

第119回医師国家試験 C問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第119回 C問題 第15問

正常の血清蛋白電気泳動を以下に示す。  多発性骨髄腫でみられるM蛋白が出現する分画はどれか。

第119回 C問題 第15問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は血清蛋白電気泳動の図を読み解く問題だ。ポイントは2つ。図のどちらが陽極で、5つの山がそれぞれ何の分画か。そして多発性骨髄腫で増える「M蛋白」がそもそも何なのか。この2つがつながれば答えは自然に決まるよ。まず、山の並び順は覚えているかな。
医学生医学生
左から、アルブミン、α1、α2、β、γの順だったと思います。生化学の講義で語呂合わせで覚えました。
ドクタードクター
その通り。なぜその順に並ぶかも押さえておこう。電気泳動はアルカリ性の緩衝液中で行うので、多くの血清蛋白はマイナスに荷電して陽極側へ移動する。マイナスの電荷が強いほど遠くまで進むから、陽極に一番近いのがアルブミン、一番取り残されるのがγ分画になる。図では左端が陽極だね。
医学生医学生
一番高くて鋭い山がアルブミンですよね。量が一番多いから。
ドクタードクター
そう。アルブミンは血清総蛋白の約6〜7割を占めるから、目印としてわかりやすい。では本題。M蛋白とは何か説明できるかな。
医学生医学生
骨髄腫細胞が作る異常な蛋白……ですよね。でも中身が何かと言われると、ちょっと自信がないです。
ドクタードクター
M蛋白は「単クローン性の免疫グロブリン」だ。多発性骨髄腫では、形質細胞のうちたった1つのクローンが腫瘍性に増え、まったく同じ免疫グロブリン(あるいは軽鎖だけ)を大量に作る。そのMはmonoclonalのMと覚えるといい。
医学生医学生
免疫グロブリンなら、γ分画に出てくるということですね。
ドクタードクター
正解。免疫グロブリンの大部分はγ分画に泳動されるから、M蛋白は一番陰極側のγ分画に出現する。ここで大事なのは形だ。正常のγ分画はなだらかで幅広い山だけど、骨髄腫では幅が狭く鋭く立ち上がるピークになる。これをMピーク、Mスパイクと呼ぶ。
医学生医学生
なぜ形が変わるんですか。量が増えるだけなら山が高くなるだけのような気がします。
ドクタードクター
いい疑問だね。正常では無数の形質細胞クローンがそれぞれ少しずつ違う抗体を作っているから、電荷もばらばらで、泳動すると広く散らばる。ところが単一クローンの産物は分子がすべて同じなので、同じ位置にぎゅっと集まって細い塔のようになるんだ。
医学生医学生
なるほど、幅が広いのは「いろいろな抗体の集まり」、細いのは「同じ抗体ばかり」ということですね。
ドクタードクター
その理解で完璧。では他の分画も一応確認しておこう。α1分画の主成分はα1-アンチトリプシンで、急性炎症で増え、α1-アンチトリプシン欠損症で減る。α2分画はα2-マクログロブリンやハプトグロビンが主で、ネフローゼ症候群で著明に増えるのが有名だね。
医学生医学生
ネフローゼでα2が増えるのは、α2-マクログロブリンが大きすぎて尿に漏れないからでしたっけ。
ドクタードクター
そういうこと。逆に溶血ではハプトグロビンが消費されてα2が下がる。β分画にはトランスフェリン、LDL、補体C3などが含まれる。ただ注意点があって、IgA型のM蛋白はβ分画寄りに出ることがある。それでも典型的にM蛋白が出るのはγ分画だ、というのが基本だよ。
医学生医学生
臨床実習で消化器内科を回ったとき、肝硬変の患者さんでγ分画が大きく盛り上がっていたのを見ました。あれもM蛋白ですか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。肝硬変や慢性炎症、膠原病では、γ分画が幅広くなだらかに増える。これは多クローン性高γグロブリン血症で、M蛋白とは違う。肝硬変ではβとγの境目が消えるβ-γブリッジも特徴的だ。「鋭いピークなら単クローン性、なだらかな増加なら多クローン性」と区別しよう。
医学生医学生
電気泳動でMピークを見つけたら、それで骨髄腫と診断していいんですか。
ドクタードクター
いや、次は免疫固定法で、重鎖がIgGかIgAかIgMか、軽鎖がκかλかを同定する。頻度はIgG型が最も多く、次いでIgA型だ。さらに、軽鎖しか作らないBence Jones型や非分泌型では、血清にMピークが見えず、正常免疫グロブリンの抑制でγ分画がむしろ低下することもある。だから尿の検査や血清遊離軽鎖のκ/λ比もあわせて調べるんだ。
医学生医学生
Mピークがないから骨髄腫は否定、と早合点しないことが大切なんですね。CRABの症状があれば、そこで立ち止まるようにします。
ドクタードクター
その姿勢が大事。高カルシウム血症、腎障害、貧血、骨病変がそろう高齢者を見たら、蛋白電気泳動、免疫固定法、遊離軽鎖まで一気に考えられるようにしておこう。

まとめ

血清蛋白電気泳動では、陰性荷電の強い蛋白ほど陽極側へ移動するため、陽極側からアルブミン、α1、α2、β、γの順に分画が並びます。多発性骨髄腫で産生されるM蛋白は単クローン性の免疫グロブリンであり、主にγ分画(IgA型などではβ分画寄りのこともある)に幅の狭い鋭いピーク(Mピーク)として現れます。肝硬変や慢性炎症でみられる幅広くなだらかなγ分画の増加は多クローン性であり、ピークの「形」で両者を区別することが重要です。Mピークを認めたら免疫固定法で型を同定し、Bence Jones型や非分泌型ではMピークがみられない点にも注意が必要です。各分画の構成成分と疾患ごとのパターンを理解しておくと、ネフローゼ症候群や溶血、炎症など幅広い病態の検査解釈に役立ちます。

解答・解説

正解はeです

問われていること

正常の血清蛋白電気泳動パターンを示し、多発性骨髄腫で出現するM蛋白(単クローン性免疫グロブリン)がどの分画に現れるかを問う問題である。

血清蛋白電気泳動の原理と図の読み方

血清蛋白電気泳動は、セルロースアセテート膜などの支持体上で血清に電圧をかけ、蛋白質を電荷と大きさの違いによって分離する検査である。アルカリ性の緩衝液中では多くの血清蛋白が陰性に荷電するため陽極(+)側へ移動し、陰性荷電の強いものほど遠くまで移動する。図では左端が陽極(+)であり、陽極側から順に ①アルブミン、②α1-グロブリン、③α2-グロブリン、④β-グロブリン、⑤γ-グロブリン の5分画が並んでいる。最も量が多く、鋭く高いピークを示す①がアルブミンであることも手がかりになる。

多発性骨髄腫とM蛋白

多発性骨髄腫は、骨髄中で形質細胞が単一のクローンとして腫瘍性に増殖する疾患である。腫瘍化した形質細胞は1種類の免疫グロブリン(または軽鎖のみ)を大量に産生し、これをM蛋白という。免疫グロブリンは主にγ分画に泳動されるため、M蛋白はγ分画(一部はβ分画寄り)に、幅が狭く鋭く立ち上がるピーク(Mピーク、Mスパイク)として出現する。したがって正解は⑤である。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    ①は陽極に最も近く、最大のピークを示すアルブミン分画である。アルブミンは肝で合成され、血清総蛋白の約60~70%を占める。膠質浸透圧の維持や、薬物・ビリルビン・脂肪酸などの運搬を担う。多発性骨髄腫ではM蛋白は出現せず、むしろ相対的に低下することが多い。M蛋白のピークは幅が狭く鋭いため、形状はアルブミンのピークに似るが、位置が異なる。

  2. ×b.  ②

    ②はα1-グロブリン分画である。主な成分はα1-アンチトリプシンで、ほかにα1-酸性糖蛋白なども含まれる。急性炎症で増加する急性期蛋白を含む分画であり、α1-アンチトリプシン欠損症ではこの分画が低下する。M蛋白が出現する分画ではない。

  3. ×c.  ③

    ③はα2-グロブリン分画である。主な成分はα2-マクログロブリンとハプトグロビンで、セルロプラスミンなども含まれる。急性炎症(ハプトグロビン増加)やネフローゼ症候群(分子量の大きいα2-マクログロブリンが尿中に失われず相対的・絶対的に増加)で上昇し、溶血ではハプトグロビンの消費により低下する。M蛋白が出現する分画ではない。

  4. ×d.  ④

    ④はβ-グロブリン分画である。主な成分はトランスフェリン、β-リポ蛋白(LDL)、補体C3などである。鉄欠乏性貧血(トランスフェリン増加)や脂質異常症で増加しうる。なお、IgA型のM蛋白はβ分画付近に泳動されることがあるが、M蛋白が典型的に出現するのは免疫グロブリンの大部分を含むγ分画であり、本問の正解は⑤である。

  5. ○e.  ⑤

    ⑤は陰極側に位置するγ-グロブリン分画で、IgG、IgA、IgMなどの免疫グロブリンが主に含まれる。正常では多数の形質細胞クローンがそれぞれ異なる免疫グロブリンを作るため、なだらかで幅の広い山となる。多発性骨髄腫では単一クローンの形質細胞が同一の免疫グロブリン(M蛋白)を大量に産生するため、この分画に幅が狭く鋭いピーク(Mピーク)が出現する。同時に、正常な免疫グロブリンの産生は抑制される。

正常の血清蛋白分画(陽極側から)

・アルブミン:約60~70%。アルブミン ・α1-グロブリン:約2~3%。α1-アンチトリプシン、α1-酸性糖蛋白 ・α2-グロブリン:約5~10%。α2-マクログロブリン、ハプトグロビン、セルロプラスミン ・β-グロブリン:約7~10%。トランスフェリン、β-リポ蛋白(LDL)、補体C3 ・γ-グロブリン:約10~20%。IgG、IgA、IgMなどの免疫グロブリン

主な疾患での分画パターン

・M蛋白血症(多発性骨髄腫、原発性マクログロブリン血症、MGUSなど):γ分画(ときにβ分画)に幅の狭い鋭いピーク(Mピーク)。単クローン性の増加を示す ・多クローン性高γグロブリン血症(肝硬変、慢性炎症、膠原病など):γ分画が幅広くなだらかに増加する ・肝硬変:アルブミンの著明な低下とγ分画の増加。β分画とγ分画の境界が不明瞭になるβ-γブリッジが特徴的である ・ネフローゼ症候群:総蛋白とアルブミンが著明に低下し、α2分画が著明に増加する。脂質異常症を反映してβ分画も増加しうる ・急性炎症:α1・α2分画が増加する

多発性骨髄腫の検査の要点

・M蛋白の確認:血清・尿の蛋白電気泳動でMピークを見つけ、免疫固定法(免疫電気泳動)で重鎖(IgG、IgA、IgMなど)と軽鎖(κ、λ)の型を同定する。頻度はIgG型が最も多く、次いでIgA型である ・ベンス ジョーンズ(Bence Jones)蛋白:遊離軽鎖で、分子量が小さく腎から尿中に排泄されやすいため、主に尿で検出される。血清遊離軽鎖(FLC)の測定とκ/λ比も診断に用いる ・軽鎖のみを産生するBence Jones型や、M蛋白をほとんど分泌しない非分泌型では、血清にMピークがみられないことがある(正常免疫グロブリンの抑制により、γ分画はむしろ低下する) ・臨床症状は高カルシウム血症、腎障害、貧血、骨病変(打ち抜き像)が代表的で、頭文字からCRABと呼ばれる

POINT

・血清蛋白電気泳動は陽極側からアルブミン、α1、α2、β、γの順に並ぶ ・多発性骨髄腫のM蛋白はγ分画に幅の狭い鋭いピーク(Mピーク)として出現する(IgA型などではβ分画寄りのこともある) ・幅広くなだらかなγ分画の増加は多クローン性(肝硬変、慢性炎症など)、鋭いピークは単クローン性 ・M蛋白の型の同定は免疫固定法で行う

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。