「働かないでください」を告げるのは誰か―感染症法の就業制限と行政の役割
第119回医師国家試験 C問題 第14問
国試問題にチャレンジ
感染症法に基づき就業制限の通知をできるのはどれか。
- a.産業医
- b.事業者
- c.主治医
- d.感染症専門医
- e.都道府県知事
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
感染症法に基づく就業制限は、病原体を広げるおそれのある業務への従事を一定期間制限する行政処分で、医師からの届出を受けた都道府県知事(保健所設置市・特別区では市長・区長)が書面で通知します。対象は一類感染症の患者と、二類・三類・新型インフルエンザ等感染症の患者または無症状病原体保有者で、特に入院勧告のない三類感染症では就業制限が主な措置となります。主治医の役割は診断と保健所長を経由した届出であり、感染症専門医は学会認定資格で法的権限を持たず、産業医や事業者による就業上の措置は労働安全衛生法に基づく別の仕組みです。「どの法律に基づき、誰が、何の目的で措置するのか」を整理しておくことは、公衆衛生の試験対策だけでなく、届出を行う臨床医として患者さんに制度を説明するうえでも欠かせません。
解答・解説
正解はeです
問われていること
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に定められた就業制限について、その通知を行う権限を持つ者を問う問題である。
感染症法における就業制限
就業制限は、感染症の患者や無症状病原体保有者(症状はないが病原体を保有している者)が、病原体を周囲に広げるおそれのある業務(たとえば飲食物に直接触れる業務や、多数の人に接する業務など)に従事することを一定期間制限する措置である。感染症法第18条では、医師から届出を受けた都道府県知事が、まん延防止のために必要と認めるときに、本人またはその保護者に対し、就業制限の対象となることなどを書面で通知できると定めている。通知を受けた者は、対象となる業務に、定められた期間従事してはならない。 対象は、一類感染症の患者、および二類感染症・三類感染症・新型インフルエンザ等感染症の患者または無症状病原体保有者である(指定感染症・新感染症にも政令などにより適用されうる)。なお、保健所を設置する市や特別区では、市長・区長が知事と同様の権限を行使する。
考え方
就業制限は個人の職業活動の自由を制限する行政処分であり、社会全体を感染から守ること(社会防衛)を目的とする。そのため、権限は個々の医師や雇用者ではなく行政(都道府県知事)に与えられている。医師の役割は、診断して保健所を通じて知事に届け出ることであり、それを受けて行政が措置を判断するという流れを理解しておけばよい。
選択肢考察
- ×a. 産業医
産業医は労働安全衛生法に基づき、健康診断の結果などから労働者の就業の可否や就業上の配慮(就業制限、配置転換、労働時間の短縮など)について意見を述べ、事業者に勧告する立場にある。これは労働者の健康を守るための労働安全衛生法上の仕組みであり、感染症法に基づく就業制限の通知を行う権限はない。
- ×b. 事業者
事業者は、労働安全衛生法に基づき産業医などの意見を聴いたうえで、就業場所の変更や作業の転換、労働時間の短縮などの就業上の措置を講じる。また労働安全衛生規則には、伝染性の疾病にかかった者などの就業を禁止する規定もある。しかし、これらは労働法規上の措置であって、感染症法上の就業制限の通知を行うのは事業者ではない。
- ×c. 主治医
主治医は患者を診察し、病状に応じて就業や療養について助言する。また、感染症法の対象疾患と診断した場合には、最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出る義務を負う(一類~四類感染症などは直ちに届出)。届出は就業制限の前提となるが、就業制限の通知そのものを行う権限は医師にはない。
- ×d. 感染症専門医
感染症専門医は学会が認定する資格であり、法律で定められた資格や権限ではない。診療や院内感染対策、他の医師への助言などで専門的役割を果たすが、感染症法上の就業制限の通知を行う権限は持たない。
- ○e. 都道府県知事
感染症法第18条に基づき、医師から届出を受けた都道府県知事は、まん延防止のため必要と認めるときに、一類感染症の患者や、二類・三類感染症・新型インフルエンザ等感染症の患者または無症状病原体保有者(あるいはその保護者)に対し、就業制限の対象となることを書面で通知できる。通知を受けた者は、厚生労働省令で定める業務に一定期間従事できない。保健所設置市・特別区では市長・区長が同じ権限を持つ。
感染症法の類型と主な措置
・一類感染症(エボラ出血熱、ペスト、ラッサ熱など):入院勧告・措置、就業制限、消毒などの対物措置、交通制限など ・二類感染症(結核、ジフテリア、SARS、MERS、鳥インフルエンザH5N1・H7N9など):入院勧告・措置、就業制限、消毒など ・三類感染症(コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス):就業制限、消毒など(入院勧告の対象ではない) ・四類感染症(A型肝炎、E型肝炎、狂犬病、マラリアなど):動物や物件の消毒などの対物措置 ・五類感染症(インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症など):発生動向の調査と情報提供が中心 ・新型インフルエンザ等感染症:入院勧告・措置、就業制限など 三類感染症はいずれも経口感染で集団発生を起こしうるため、食品を扱う業務などへの就業制限が中心的な措置となる。
措置の流れ
医師の診断・届出(保健所長を経由して都道府県知事へ)→ 都道府県知事による就業制限の通知・入院勧告など → 病原体を保有しなくなったことの確認により制限解除、という流れである。就業制限を受けた者は、対象者でなくなったことの確認を知事に求めることができる。
他の法律による類似の措置との区別
・労働安全衛生法:産業医の意見に基づき事業者が就業上の措置を講じる(労働者の健康保持が目的) ・学校保健安全法:感染症にかかった児童生徒などの出席停止は校長が行い、臨時休業は学校の設置者が行う
POINT
・感染症法上の就業制限の通知は都道府県知事(保健所設置市・特別区では市長・区長)が行う ・対象は一類感染症の患者、二類・三類・新型インフルエンザ等感染症の患者または無症状病原体保有者 ・医師の役割は診断と届出であり、就業制限・入院勧告などの措置は行政が判断する ・三類感染症は入院勧告がなく、就業制限が主な措置 ・産業医・事業者による就業上の措置は労働安全衛生法に基づくものであり、感染症法とは別の仕組み
