StudyMed医師国家試験

青紫に膨らんだ卵管が語る過去―異所性妊娠の陰に潜むクラミジア

第119回医師国家試験 A問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第119回 A問題 第11問

妊娠7週の腹腔鏡所見を下に示す。  この疾患と最も関係がある病原体はどれか。

第119回 A問題 第11問の問題画像
  1. a.Chlamydia pneumoniae
  2. b.Chlamydia trachomatis
  3. c.Gardnerella vaginalis
  4. d.Treponema pallidum
  5. e.Trichomonas vaginalis

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、腹腔鏡の写真から疾患を読み取り、その背景にある病原体を選ぶ二段構えの問題だ。まず写真で何が起きているのかを判断し、次に「なぜそれが起きたのか」をさかのぼって考えよう。
医学生医学生
妊娠7週で腹腔鏡をしているということは、子宮内の正常な妊娠ではなさそうですね。
ドクタードクター
いい着眼点だ。写真では、子宮と右の卵巣・卵管には目立った腫れがない一方、左の卵管が紡錘状に大きく膨らんで、暗赤色から青紫色に変色している。卵管の中に着床した胎嚢と、その周りの出血で卵管が腫れた姿なんだ。骨盤底のDouglas窩の方向には血液がたまっている様子もうかがえる。
医学生医学生
左卵管妊娠、つまり異所性妊娠ですね。産婦人科の実習で「妊娠反応陽性なのに子宮内に胎嚢が見えないときはまず異所性妊娠を考えなさい」と何度も言われました。
ドクタードクター
その通り。異所性妊娠の大部分は卵管妊娠で、部位は卵管膨大部が最も多い。では、そもそも受精卵はどうして卵管に着床してしまうんだろう。
医学生医学生
受精は卵管膨大部で起こって、そこから子宮まで運ばれるはずですよね。運ばれる途中で止まってしまう、ということでしょうか。
ドクタードクター
そう。受精卵は卵管の線毛運動と蠕動で数日かけて子宮へ運ばれる。卵管の内腔が狭くなったり、線毛上皮が傷んだり、周囲に癒着があったりすると、輸送が遅れて卵管内に着床してしまう。その卵管障害の最大の原因が、骨盤内炎症性疾患、つまり子宮頸管から上行した感染による卵管炎だ。
医学生医学生
卵管炎を起こす性感染症というと、クラミジアと淋菌が思い浮かびます。
ドクタードクター
選択肢の中で該当するのはChlamydia trachomatisで、これが正解だ。性器クラミジア感染症はわが国で最も多い性感染症で、女性では子宮頸管炎から始まるけれど、症状が軽いか無症状のことが多い。気づかれないまま上行して卵管炎を起こし、狭窄や癒着を残す。だから異所性妊娠や卵管性不妊の原因になるんだ。
医学生医学生
同じクラミジアでも、Chlamydia pneumoniaeは違うんですよね。微生物学の講義で名前が似ていて混乱しました。
ドクタードクター
混乱しやすいところだね。C. pneumoniaeは飛沫感染する呼吸器の病原体で、非定型肺炎や気管支炎、咽頭炎を起こす。性感染症ではないから、卵管とは関係がない。属名だけで判断せず、種名まで区別して覚えよう。
医学生医学生
Gardnerella vaginalisは細菌性腟症でしたね。腟の炎症なら、上行して卵管に影響することもありそうに思えますが……。
ドクタードクター
そう考えたくなるよね。細菌性腟症は、腟を酸性に保つ乳酸桿菌が減ってGardnerellaや嫌気性菌が増えた状態で、灰白色の均質な帯下と魚臭、鏡検でのclue cellが特徴だ。妊婦では早産や前期破水のリスク因子として重要だけれど、卵管障害を介した異所性妊娠との関連は乏しいとされている。
医学生医学生
Treponema pallidumは梅毒なので、妊婦健診で調べる対象ですが、問題になるのは先天梅毒のほうですよね。
ドクタードクター
その通り。梅毒は第1期の硬性下疳や無痛性横痃、第2期のバラ疹などが特徴で、妊婦では経胎盤感染による先天梅毒が問題になる。卵管炎や異所性妊娠の原因にはならない。Trichomonas vaginalisはどうかな。
医学生医学生
鞭毛を持つ原虫で、泡沫状の黄緑色の帯下といちご状の子宮頸部が特徴でした。腟や尿道の感染が中心なので、卵管とは結びつかなさそうです。
ドクタードクター
よく整理できているね。治療はメトロニダゾールで、パートナーの同時治療が必要なのはクラミジアと共通だ。
医学生医学生
写真から卵管妊娠と読んで、その危険因子である卵管炎の代表的な病原体を選ぶ、という流れですね。
ドクタードクター
そういうこと。発展知識として、クラミジアの上行感染が上腹部まで及ぶと肝周囲炎、つまりFitz-Hugh-Curtis症候群を起こし、腹腔鏡では肝表面と腹壁の間にバイオリン弦状の癒着が見える。若い女性の右上腹部痛では思い出してほしい。また、妊婦が感染していると産道感染で新生児の結膜炎や肺炎を起こすので、妊婦健診でスクリーニングされている。
医学生医学生
異所性妊娠そのものの診断や治療で、臨床で特に気をつけることはありますか。
ドクタードクター
一番大切なのは見逃さないことだ。無月経のあとの不正出血と下腹部痛が典型で、妊娠6〜8週ごろに卵管破裂を起こすと腹腔内出血から出血性ショックに至ることがある。妊娠反応陽性で、血中hCGが一定以上なのに子宮内に胎嚢が見えなければ強く疑う。治療は腹腔鏡下の卵管切除術や、挙児希望に応じた卵管温存手術が中心で、状態が安定し未破裂でhCGが低い例ではメトトレキサートや待機療法も選択肢になる。生殖年齢の女性の腹痛では、まず妊娠の可能性を確認する習慣をつけよう。

まとめ

腹腔鏡で片側の卵管が暗赤色〜青紫色に紡錘状に腫大していれば、卵管妊娠(異所性妊娠)を考えます。異所性妊娠は卵管の狭窄や線毛上皮の傷害、癒着によって受精卵の輸送が妨げられて起こり、その最大の危険因子は骨盤内炎症性疾患、とくに無症状のまま上行しやすいChlamydia trachomatisによる卵管炎です。C. trachomatisは卵管性不妊、Fitz-Hugh-Curtis症候群、新生児の結膜炎・肺炎の原因にもなる一方、C. pneumoniaeは呼吸器感染、Gardnerellaは細菌性腟症、Treponema pallidumは梅毒、Trichomonasは腟トリコモナス症と区別して整理します。異所性妊娠は破裂すると出血性ショックに至りうるため、生殖年齢女性の腹痛ではまず妊娠を確認し、hCGと経腟超音波で子宮内妊娠の有無を評価することが重要です。画像診断から病態の背景にある感染症までさかのぼる思考は、性感染症の予防や早期治療が将来の妊孕性を守るという視点にもつながります。

解答・解説

正解はbです

画像の読み取り

妊娠7週の腹腔鏡所見である。中央上方に子宮、右側に右卵巣と右卵管が見えるが、これらには明らかな腫大はない。一方、左卵管は紡錘状に大きく膨らみ、暗赤色〜青紫色に変色している。これは卵管内に着床した胎嚢と、その周囲の出血によって卵管が腫大した所見であり、左卵管妊娠(異所性妊娠)と判断できる。骨盤底(Douglas〈ダグラス〉窩)方向には暗赤色の血液の貯留もうかがわれる。

異所性妊娠とその背景

異所性妊娠とは、受精卵が子宮内膜以外の場所に着床した状態であり、その大部分(約95%以上)は卵管妊娠で、部位は卵管膨大部が最も多い。正常では受精は卵管膨大部で起こり、受精卵は卵管の線毛運動と蠕動によって数日かけて子宮腔へ運ばれる。卵管の内腔が狭くなったり、線毛上皮が傷害されたり、卵管周囲に癒着があったりすると、受精卵の輸送が遅れて卵管内に着床してしまう。 このような卵管障害の最大の原因は、骨盤内炎症性疾患(PID:子宮頸管から上行した感染が子宮内膜・卵管・骨盤腹膜に波及したもの)、とくに性器クラミジア感染症である。ほかに淋菌感染症、子宮内膜症、卵管手術の既往、異所性妊娠の既往、生殖補助医療、喫煙なども危険因子となる。

設問の考え方

画像から異所性妊娠(卵管妊娠)を読み取り、その危険因子として卵管炎・卵管癒着を起こす病原体を選べばよい。選択肢の中で卵管炎の原因となり、卵管性不妊や異所性妊娠と強く関連するのはChlamydia trachomatisである。

選択肢考察

  1. ×a.  Chlamydia pneumoniae

    誤り。Chlamydia pneumoniae(肺炎クラミジア、現在はChlamydophila pneumoniaeとも表記される)は飛沫感染で広がる呼吸器病原体であり、市中肺炎(非定型肺炎)、気管支炎、咽頭炎などの原因となる。性感染症の病原体ではなく、卵管炎や異所性妊娠との関連はない。同じクラミジア属でも、性器に感染するC. trachomatisとは区別して覚える必要がある。

  2. ○b.  Chlamydia trachomatis

    正しい。Chlamydia trachomatis(血清型D〜K)は性器クラミジア感染症の原因菌で、わが国で最も多い性感染症である。女性では子宮頸管炎として始まるが、帯下増加や不正出血などの症状が軽く、無症状のことも多いため気づかれないまま上行し、子宮内膜炎・卵管炎・骨盤腹膜炎(PID)に進展する。卵管炎は卵管内腔の狭窄・閉塞、線毛上皮の傷害、卵管周囲の癒着を残し、受精卵の輸送障害から卵管妊娠を起こす。同じ機序で卵管性不妊の原因にもなる。さらに上腹部に波及すると肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis〈フィッツ・ヒュー・カーティス〉症候群)を起こし、腹腔鏡では肝表面と腹壁の間のバイオリン弦状の癒着がみられる。診断は子宮頸管擦過検体の核酸増幅法で行い、治療はアジスロマイシンやドキシサイクリンなどで、パートナーの同時治療が必要である。

  3. ×c.  Gardnerella vaginalis

    誤り。Gardnerella vaginalisは細菌性腟症の代表的な原因菌である。細菌性腟症は、腟内を酸性に保っている乳酸桿菌(Lactobacillus属)が減少し、Gardnerellaや嫌気性菌などが異常に増えた状態で、灰白色で均質な帯下と魚臭(アミン臭)が特徴である。腟分泌物の鏡検では、上皮細胞表面に細菌が付着したclue cellがみられる。妊婦では早産・前期破水のリスク因子として重要だが、卵管障害による異所性妊娠との関連は乏しい。

  4. ×d.  Treponema pallidum

    誤り。Treponema pallidumは梅毒の病原体である。第1期には感染部位に硬性下疳(無痛性の潰瘍)や無痛性の鼠径リンパ節腫脹(無痛性横痃)、第2期にはバラ疹や扁平コンジローマなどの全身性の皮膚粘膜病変を呈する。妊婦が感染していると経胎盤的に胎児に感染して先天梅毒を起こすため妊婦健診でスクリーニングされるが、卵管炎や異所性妊娠の原因とはならない。

  5. ×e.  Trichomonas vaginalis

    誤り。Trichomonas vaginalisは鞭毛を持つ原虫で、腟トリコモナス症の原因となる。泡沫状で黄緑色〜黄白色の悪臭を伴う帯下、外陰部の瘙痒感、腟壁や子宮腟部の点状出血(いちご状子宮頸部)が特徴である。性交渉以外に浴場や下着などを介して感染することもある。治療はメトロニダゾールなどで、パートナーの同時治療が必要である。主に腟・尿道の感染であり、卵管障害を介して異所性妊娠を起こす病原体ではない。

異所性妊娠の概要

・頻度:全妊娠の約1〜2%。部位は卵管妊娠が大部分で、卵管膨大部>峡部>卵管采部・間質部の順。ほかに卵巣妊娠、腹膜妊娠、頸管妊娠、帝王切開瘢痕部妊娠がある。 ・危険因子:骨盤内炎症性疾患(とくにクラミジア感染)、異所性妊娠の既往、卵管手術の既往、子宮内膜症、生殖補助医療、子宮内避妊具使用中の妊娠、喫煙など。 ・症状:無月経に続く不正性器出血と下腹部痛。妊娠6〜8週ごろ、卵管破裂や卵管流産(卵管采から腹腔内への排出)を起こすと急激な腹痛と腹腔内出血を生じ、出血性ショックに至ることがある。 ・診断:尿や血中のhCGが陽性であるにもかかわらず、経腟超音波で子宮内に胎嚢が確認できない(一般に血中hCGが約1,500〜2,000 IU/L以上で子宮内に胎嚢がみられないと異所性妊娠を強く疑う)。付属器領域の腫瘤像や胎嚢像、Douglas窩の液体貯留(腹腔内出血)も参考になる。 ・治療:腹腔鏡下手術(卵管切除術、または挙児希望などに応じて卵管線状切開術による卵管温存)が中心。全身状態が安定し、hCGが低値で未破裂の症例などではメトトレキサートによる薬物療法や待機療法も選択肢となる。ショック例では開腹手術も考慮する。

性器クラミジア感染症の要点

・わが国で最も多い性感染症で、若年女性に多い。 ・女性は無症状〜軽症が多く、上行して卵管炎・PID、肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)を起こす。 ・後遺症として卵管性不妊、異所性妊娠、慢性骨盤痛。 ・妊婦では産道感染により新生児の結膜炎・肺炎の原因となるため、妊婦健診でスクリーニングが行われる。

POINT

・腹腔鏡で片側卵管が暗赤色〜青紫色に紡錘状腫大 → 卵管妊娠(異所性妊娠)。 ・異所性妊娠の最大の危険因子は卵管炎・骨盤内炎症性疾患であり、その代表的な病原体はChlamydia trachomatisである。 ・C. trachomatisは卵管性不妊・異所性妊娠・Fitz-Hugh-Curtis症候群・新生児結膜炎/肺炎の原因。 ・C. pneumoniaeは呼吸器感染、Gardnerellaは細菌性腟症、T. pallidumは梅毒、Trichomonasは腟トリコモナス症と区別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。