浅い受け皿の宿命―肩関節脱臼は「前へ」「若者ほど繰り返す」
第119回医師国家試験 A問題 第9問
国試問題にチャレンジ
肩関節脱臼で正しいのはどれか。
- a.横隔神経麻痺の合併が多い。
- b.肩関節周囲炎の原因となる。
- c.後方に脱臼することが多い。
- d.再脱臼は若年者で生じやすい。
- e.肩関節内転位で脱臼することが多い。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
肩関節は大きな上腕骨頭が浅い関節窩に乗る構造で骨性の安定性に乏しく、全身で最も脱臼しやすい関節です。約90%以上は外転・外旋位の強制で生じる前方(烏口突起下)脱臼で、後方脱臼はてんかん発作や電撃傷で起こりやすく見逃しに注意が必要です。合併する神経損傷は腋窩神経麻痺が最多で、三角筋の筋力低下と肩外側の感覚障害をきたすため、整復前後の評価が欠かせません。初回脱臼が若年であるほどBankart病変の残存と高い活動性により反復性脱臼に移行しやすく、高齢者ではむしろ腱板断裂の合併が問題となります。後遺症は拘縮ではなく不安定性であり、五十肩とは別の病態であることも含めて、構造から病態を理解することが救急・スポーツ診療での的確な判断につながります。
解答・解説
正解はdです
肩関節(肩甲上腕関節)は、大きな上腕骨頭が浅く小さな肩甲骨関節窩に乗っているだけの構造であり、可動域が全身で最も広い代わりに骨性の安定性が乏しい。安定性の多くを関節唇・関節包・関節上腕靱帯・腱板(回旋筋腱板)といった軟部組織に頼っているため、全身の関節脱臼の中で最も頻度が高い。 本問では、外傷性肩関節脱臼の基本事項である「脱臼の方向」「受傷時の肢位」「合併しやすい神経損傷」「後遺症(再脱臼)」を正しく押さえているかが問われている。 考え方の軸は次のとおりである。 ・方向:大部分(約90%以上)は前方脱臼(多くは烏口突起下脱臼)である。 ・受傷肢位:前方脱臼は上肢を外転・外旋位に強制されたときに起こる(例:転倒して手をつく、ラグビーのタックル、バレーボールのブロック)。 ・合併症:骨頭が前下方へ逸脱するため、関節の直下を走る腋窩神経が牽引されやすい。また関節唇の剝離(Bankart〈バンカート〉病変)や上腕骨頭後外側の陥没骨折(Hill-Sachs〈ヒル・サックス〉病変)を生じる。 ・後遺症:初回脱臼の年齢が若いほど反復性肩関節脱臼に移行しやすい。 これらを踏まえて各選択肢を判定すれば、正解は「再脱臼は若年者で生じやすい」となる。
選択肢考察
- ×a. 横隔神経麻痺の合併が多い。
誤り。肩関節脱臼に最も多く合併する神経損傷は腋窩神経麻痺である。腋窩神経は上腕骨外科頸の内側から後方を回り込んで三角筋と小円筋を支配するため、骨頭が前下方へ逸脱すると牽引されやすい。麻痺すると肩の外転力低下(三角筋麻痺)と、肩外側(三角筋部)の感覚障害が出現する。多くは一過性の神経麻痺で自然回復する。横隔神経は頸神経叢(C3〜C5)から出て頸部前面を下行し胸腔内を通る神経であり、肩関節脱臼で損傷されることは通常ない。
- ×b. 肩関節周囲炎の原因となる。
誤り。肩関節周囲炎(いわゆる五十肩、凍結肩)は中高年に明らかな誘因なく生じ、肩の痛みと関節拘縮(可動域制限)を特徴とする病態である。肩関節脱臼の後遺症として問題になるのは、拘縮よりもむしろ関節の不安定性(緩み)とそれに伴う反復性脱臼である。また、脱臼を繰り返した結果として長期的に変形性肩関節症を生じることはあるが、これは肩関節周囲炎とは別の疾患である。
- ×c. 後方に脱臼することが多い。
誤り。外傷性肩関節脱臼の約90%以上は前方脱臼であり、骨頭は烏口突起の下方へ移動することが多い(烏口突起下脱臼)。後方脱臼はまれで、肩関節が屈曲・内転・内旋位で強い力を受けたとき、あるいはてんかん発作や電撃傷のように全身の筋が強く収縮し、強力な内旋筋群に骨頭が後方へ引かれたときに起こる。後方脱臼は単純X線正面像で見逃されやすく、腋窩撮影やCTでの確認が重要である。
- ○d. 再脱臼は若年者で生じやすい。
正しい。初回脱臼時の年齢が若いほど再脱臼率が高く、20歳以下では半数以上(報告により50〜90%程度)が再脱臼するのに対し、40歳以上では10%前後にとどまる。若年者では初回脱臼の際に関節唇・下関節上腕靱帯が関節窩縁から剝がれるBankart病変を生じやすく、これが十分に修復されないまま残ることで前方の安定性が失われる。さらに若年者はスポーツなど活動性が高く、脱臼肢位(外転・外旋)をとる機会が多いことも再脱臼の要因となる。反復性となった場合には、鏡視下Bankart修復術などの手術が検討される。なお高齢者では、再脱臼よりも腱板断裂の合併が問題になりやすい。
- ×e. 肩関節内転位で脱臼することが多い。
誤り。頻度の高い前方脱臼は、肩関節が外転・外旋位に強制されたときに起こる。この肢位では上腕骨頭が関節窩の前下方に押し付けられ、前方の関節包・関節唇が破綻して骨頭が前方へ逸脱する。内転位(特に屈曲・内転・内旋位)での受傷はまれな後方脱臼の機序である。
肩関節脱臼の分類
・前方脱臼:全体の約90%以上。烏口突起下脱臼が大部分で、ほかに鎖骨下脱臼など。外転・外旋の強制で生じる。 ・後方脱臼:まれ。屈曲・内転・内旋位での外力、てんかん発作、電撃傷などで生じる。見逃されやすく、陳旧化しやすい。 ・下方脱臼(関節窩下脱臼、luxatio erecta):上肢を挙上したまま戻せない特徴的な肢位をとる。きわめてまれ。
前方脱臼の臨床所見
・肩峰が突出し、その下が陥凹して肩の丸みが失われる(肩峰下の空虚)。 ・上肢は軽度外転・外旋位で固定され、自動・他動運動が困難となる(弾発性固定)。 ・脱臼の整復前後には腋窩神経・血管の評価を必ず行う。
合併損傷
・腋窩神経麻痺:最も多い神経合併症。三角筋の筋力低下と肩外側の感覚障害。 ・Bankart病変:前下方の関節唇・下関節上腕靱帯複合体の関節窩からの剝離。骨片を伴うものは骨性Bankart病変と呼ぶ。 ・Hill-Sachs病変:脱臼時に骨頭後外側が関節窩前縁に衝突してできる陥没骨折。 ・上腕骨大結節骨折、関節窩縁骨折。 ・腱板断裂:特に中高年で合併しやすい。
治療
・徒手整復:Hippocrates(ヒポクラテス)法、Stimson(スティムソン)法、ゼロポジション法、Kocher(コッヘル)法など。整復後は一定期間固定する。 ・反復性肩関節脱臼:鏡視下Bankart修復術、烏口突起移行術(Bristow法、Latarjet法)など。
反復性と習慣性
・反復性肩関節脱臼:外傷による初回脱臼をきっかけに、軽い外力で脱臼を繰り返すようになったもの。 ・習慣性(非外傷性)肩関節脱臼:明らかな外傷なく、動揺肩や随意性脱臼など関節の緩みを背景に脱臼するもの。
POINT
・肩関節脱臼は全身の脱臼で最多であり、約90%以上が前方(烏口突起下)脱臼である。 ・前方脱臼は外転・外旋位の強制で生じる。後方脱臼はてんかん発作・電撃傷で起こり、見逃されやすい。 ・合併する神経損傷は腋窩神経麻痺が最多(三角筋麻痺、肩外側の感覚障害)。 ・初回脱臼が若年であるほど反復性脱臼に移行しやすい(Bankart病変が関与)。 ・後遺症は拘縮ではなく不安定性であり、肩関節周囲炎(五十肩)とは別の病態である。
