両眼の乳頭が腫れているのに見えている―頭痛と霧視が告げる頭蓋内圧亢進のサイン
第118回医師国家試験 F問題 第43問
国試問題にチャレンジ
50歳の女性。3か月前から時々頭痛を感じていた。1か月前から両眼に霧視を自覚したため受診した。脈拍72/分,整。血圧118/62mmHg。両眼の前眼部,中間透光体および眼圧に異常を認めない。視力は右0.9(矯正不能),左1.0(矯正不能)。右眼の眼底写真を示す。左眼の眼底も同様である。 最も考えられるのはどれか。

- a.視神経炎
- b.うっ血乳頭
- c.虚血性視神経症
- d.正常眼圧緑内障
- e.網膜動脈閉塞症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
両眼の視神経乳頭が発赤・腫脹し、境界不鮮明で乳頭周囲出血を伴うにもかかわらず視力が保たれ、頭痛が先行する場合は、頭蓋内圧亢進によるうっ血乳頭を第一に考えます。視野ではMariotte盲点の拡大が特徴で、中心暗点・急速な視力低下・眼球運動時痛を伴う片眼性の視神経炎や、片眼の突然の視力低下と水平半盲様の視野欠損を示す虚血性視神経症とは区別されます。正常眼圧緑内障は乳頭陥凹の拡大、網膜動脈閉塞症は桜実紅斑が特徴で、乳頭腫脹は主所見になりません。うっ血乳頭は頭蓋内疾患のサインであり、頭部画像検査で脳腫瘍や静脈洞血栓症などを検索し、占拠性病変を除外してから腰椎穿刺を行うという順序が重要です。眼底所見から頭蓋内の異常を推論する視点は、眼科と神経内科・脳神経外科をつなぐ臨床判断の基本になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・50歳の女性。3か月前から時々頭痛があり、1か月前から両眼の霧視(かすみ目)を自覚している。数か月単位の慢性・緩徐な経過で、両眼性である。 ・脈拍・血圧は正常で、高血圧性の眼底変化(高血圧性網膜症)を起こすような背景はない。 ・前眼部、中間透光体(水晶体・硝子体)、眼圧に異常がなく、白内障・硝子体混濁・ぶどう膜炎・緑内障発作などで霧視を説明することはできない。 ・視力は右0.9、左1.0(いずれも矯正不能)と、ほぼ保たれている。 ・眼底写真では視神経乳頭が発赤・腫脹して境界が不鮮明となり、乳頭周囲に出血を伴う。左眼も同様で、両眼性の乳頭腫脹である。
診断に至るプロセス
視神経乳頭の腫脹をきたす主な疾患には、うっ血乳頭(頭蓋内圧亢進による乳頭浮腫)、視神経炎(乳頭炎)、虚血性視神経症、高血圧性網膜症などがある。鑑別では「片眼か両眼か」「視機能(視力・中心視野)が障害されているか」「経過は急性か慢性か」「全身の背景」が重要である。 本例は①両眼性、②乳頭が著明に腫れているにもかかわらず視力が良好、③頭痛を伴う慢性経過、④血圧正常、という組み合わせであり、頭蓋内圧亢進によって両眼の視神経乳頭がむくんだうっ血乳頭が最も考えられる。霧視は乳頭浮腫に伴う一過性の見えにくさ(一過性視覚障害)や軽度の視機能変化として説明できる。
今後の対応の考え方
うっ血乳頭は眼疾患というより頭蓋内圧亢進の徴候であり、その原因検索が重要である。早急に頭部MRI(またはCT)、必要に応じてMR静脈撮影(MRV)を行い、脳腫瘍などの占拠性病変、脳静脈洞血栓症、水頭症などを検索する。画像で原因がなければ、髄液圧の測定を含めて特発性頭蓋内圧亢進症を考える。
選択肢考察
- ×a. 視神経炎
視神経炎のうち乳頭炎の型では乳頭の発赤・腫脹がみられ、眼底所見だけではうっ血乳頭と似ることがある。しかし視神経炎は通常片眼性で、数日の単位で急に進む高度の視力低下、中心暗点、眼球運動時痛、患眼の相対的瞳孔求心路障害(RAPD)を伴うのが典型である。本例は両眼性で視力がほぼ保たれ、慢性経過であることから合わない。なお、Vogt-小柳-原田病では頭痛が先行して両眼に乳頭の発赤・腫脹がみられることがあるが、その場合は前房や網膜のぶどう膜炎所見(漿液性網膜剥離など)や視力低下を伴うのが普通であり、前眼部・中間透光体に異常がない本例とは合わない。
- ○b. うっ血乳頭
うっ血乳頭は、頭蓋内圧亢進が視神経周囲のくも膜下腔を通じて視神経に伝わり、軸索輸送が障害されて視神経乳頭がむくむ状態である。原則として両眼性で、乳頭の発赤・腫脹、境界不鮮明、網膜静脈の怒張・蛇行、乳頭周囲の線状(火炎状)出血がみられる。乳頭の腫れが目立つわりに、初期には視力・対光反射が保たれるのが特徴で、視野ではMariotte盲点の拡大がみられる。本例の両眼性の乳頭腫脹・出血、良好な視力、先行する頭痛はいずれもこれに合致する。
- ×c. 虚血性視神経症
虚血性視神経症は視神経乳頭を養う血管(主に短後毛様動脈)の循環障害で生じ、中高年に多い。前部虚血性視神経症では乳頭が腫脹するが、蒼白調の浮腫となることが多く(とくに巨細胞性動脈炎による動脈炎性のもの)、片眼に突然発症する視力低下と、水平半盲など下方を中心とした視野欠損を起こすのが典型である。背景に高血圧・糖尿病・動脈硬化などの血管危険因子を伴うことが多い。両眼性・慢性経過・視力良好・血圧正常の本例とは合わない。
- ×d. 正常眼圧緑内障
正常眼圧緑内障は眼圧が正常範囲(21mmHg以下)にあるにもかかわらず緑内障性視神経症が進む病型で、日本人の緑内障で最も多い。眼底所見は視神経乳頭陥凹の拡大や辺縁部(リム)の菲薄化、網膜神経線維層欠損であり、乳頭の発赤・腫脹は起こさない。乳頭出血(乳頭縁の小さな線状出血)がみられることはあるが、乳頭そのものは腫れない。経過も年単位で自覚症状に乏しく、本例の所見と一致しない。
- ×e. 網膜動脈閉塞症
網膜中心動脈閉塞症は、塞栓や血栓によって網膜への血流が途絶え、片眼の急激かつ高度な視力低下(しばしば指数弁以下)をきたす疾患である。眼底では網膜全体が虚血で白く混濁し、黄斑部だけが脈絡膜の色を透見して赤く見える桜実紅斑(cherry-red spot)と、動脈の狭細化が特徴であり、乳頭腫脹は主所見ではない。急性発症・片眼性・高度な視力低下という点で、本例とまったく合わない。両眼同時発症も極めてまれである。
うっ血乳頭(頭蓋内圧亢進による乳頭浮腫)
・機序:頭蓋内圧が上がると、視神経を包む鞘の中のくも膜下腔の圧も上がり、篩状板の後方で視神経の軸索輸送や静脈還流が障害されて乳頭がむくむ。 ・眼底所見:両眼性の乳頭の発赤・腫脹(隆起)、乳頭境界の不鮮明化、網膜静脈の怒張・蛇行、静脈拍動の消失、乳頭周囲の線状出血や綿花様白斑。 ・視機能:初期は視力・瞳孔反応はほぼ正常で、視野ではMariotte盲点(生理的盲点)の拡大を示す。数秒程度の一過性の視覚障害(一過性視覚混濁)を訴えることがある。長く続くと視神経萎縮に移行し、周辺から視野が狭くなり、最終的に視力が低下して失明に至ることがある。 ・随伴症状:頭痛(起床時に強い)、悪心・嘔吐、外転神経麻痺による複視など、頭蓋内圧亢進症状を伴う。 ・原因:脳腫瘍などの頭蓋内占拠性病変、脳出血、水頭症、脳静脈洞血栓症、髄膜炎、特発性頭蓋内圧亢進症(肥満の若年〜中年女性に多い)など。 ・対応:まず頭部画像検査で原因を探る。占拠性病変を除外してから腰椎穿刺を行う(脳ヘルニアの危険があるため順序が重要)。
視神経乳頭腫脹の鑑別のまとめ
・うっ血乳頭:両眼、視力は保たれる、Mariotte盲点拡大、頭痛など頭蓋内圧亢進症状。 ・視神経炎(乳頭炎):多くは片眼、急速で高度な視力低下、中心暗点、眼球運動時痛、RAPD陽性。 ・前部虚血性視神経症:中高年、片眼の突然の視力低下、水平半盲様の視野欠損、蒼白調の乳頭浮腫、血管危険因子や巨細胞性動脈炎。 ・高血圧性網膜症(悪性高血圧):著明な高血圧、両眼の乳頭浮腫に網膜出血・綿花様白斑・硬性白斑を伴う。 ・偽乳頭浮腫(乳頭ドルーゼンなど):真の浮腫ではなく、出血や静脈怒張を伴わないことが多い。
POINT
・両眼性の乳頭発赤・腫脹があるのに視力が保たれている → うっ血乳頭(頭蓋内圧亢進)をまず考える。 ・うっ血乳頭の視野変化はMariotte盲点の拡大。 ・視神経炎は片眼性・急速な高度視力低下・中心暗点・眼球運動時痛が典型。 ・虚血性視神経症は中高年の片眼の突然の視力低下と蒼白調の乳頭浮腫、網膜動脈閉塞症は桜実紅斑、正常眼圧緑内障は乳頭陥凹拡大。 ・うっ血乳頭をみたら、頭部画像検査で脳腫瘍・静脈洞血栓症などの原因検索を急ぐ。腰椎穿刺は占拠性病変を除外してから行う。
