腫れた視神経乳頭が広げる「見えない点」―うっ血乳頭と視野異常
第106回医師国家試験 D問題 第11問
国試問題にチャレンジ
左眼底写真を別に示す。右眼も同様の所見を認める。 この疾患で認められる可能性が高いのはどれか。

- a.夜盲
- b.高眼圧
- c.低血圧
- d.視野異常
- e.色覚障害
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
両眼性の視神経乳頭腫脹をみたら、まず頭蓋内圧亢進によるうっ血乳頭を考えます。うっ血乳頭の初期は視力・色覚・対光反射が保たれやすい一方、腫れた乳頭が周囲網膜を圧排するためMariotte盲点の拡大という視野異常が早期から現れ、慢性化すると視神経萎縮による視野狭窄や視力低下が不可逆的に進みます。夜盲は杆体障害による網膜疾患の症状、高眼圧(緑内障)では乳頭陥凹が拡大し、乳頭浮腫の原因となるのは低血圧ではなく悪性高血圧や低眼圧であり、色覚障害や中心暗点が目立てば視神経炎を考えます。頭蓋内圧亢進が疑われる場合は画像検査で占拠性病変を除外する前に腰椎穿刺を行ってはならず、眼底所見を頭部画像検査へ速やかにつなげることが、重大な頭蓋内疾患の早期発見につながります。
解答・解説
正解はdです
画像所見の整理
眼底写真では視神経乳頭の境界が不鮮明となり、乳頭が隆起・腫脹している。乳頭周囲の網膜血管は乳頭縁で浮腫に埋もれるように見え、静脈の怒張や乳頭周囲の出血を伴うこともある。右眼にも同様の所見があるため、両眼性の乳頭腫脹である。
鑑別の考え方
両眼性の乳頭腫脹をみたら、まず頭蓋内圧亢進によるうっ血乳頭を考える。脳腫瘍、脳出血、水頭症、静脈洞血栓症、特発性頭蓋内圧亢進症などで頭蓋内圧が上がると、視神経を包むくも膜下腔の圧も上がり、視神経内の軸索流(軸索輸送)が乳頭部で停滞して乳頭が腫れる。このほか両眼性の乳頭腫脹を起こすものとして、悪性高血圧(高血圧性網膜症の重症型)、両眼性の視神経炎、Vogt-小柳-原田病、低眼圧などがある。
設問への考え方
うっ血乳頭の初期には視力・色覚・瞳孔反応は比較的保たれることが多い。一方、腫れた乳頭が周囲の網膜を圧排するため、視野検査ではMariotte盲点(生理的盲点)の拡大が早期から認められる。長期化すると視神経萎縮に移行し、求心性視野狭窄や視力低下が進行する。また鑑別に挙がる視神経炎でも中心暗点などの視野異常が生じる。したがって、この所見を示す疾患で最も認められやすいのは視野異常である。
選択肢考察
- ×a. 夜盲
夜盲は暗所で見えにくくなる症状で、暗所視を担う杆体(桿体)細胞の障害によって生じる。代表は網膜色素変性症やビタミンA欠乏症、小口病などの網膜疾患である。視神経乳頭の腫脹とは病変部位が異なり、うっ血乳頭で夜盲は起こらない。
- ×b. 高眼圧
高眼圧は緑内障(特に急性閉塞隅角緑内障)でみられ、慢性的な眼圧上昇による眼底所見は乳頭陥凹の拡大(視神経乳頭のくぼみが大きくなる)であり、乳頭の腫脹とは逆の変化である。むしろ手術後や外傷後などの低眼圧では、眼球内から乳頭を押し返す圧が下がるため乳頭浮腫を来すことがある。
- ×c. 低血圧
両眼性の乳頭浮腫の原因として重要なのは低血圧ではなく高血圧である。悪性高血圧(高血圧緊急症)では、網膜出血・綿花様白斑とともに乳頭浮腫がみられる(Keith-Wagener分類IV群)。低血圧は乳頭腫脹の原因とならない。
- ○d. 視野異常
うっ血乳頭では腫脹した乳頭が周囲網膜を覆うように広がるため、乳頭に対応する生理的盲点であるMariotte盲点が拡大する。これは初期から認められる代表的な視野異常である。慢性化して視神経萎縮に至ると求心性視野狭窄や視力低下を来す。鑑別として挙がる両眼性の視神経炎でも中心暗点などの視野異常が出現するため、いずれにしても視野異常は認められる可能性が高い。
- ×e. 色覚障害
視神経が障害されると後天性の色覚異常(特に赤色の感じ方の低下)が生じることはあり、視神経炎では視力低下とともに色覚障害がよくみられる。しかし、うっ血乳頭の初期には視神経の伝導機能は比較的保たれ、視力や色覚は正常であることが多い。本所見から最も認められやすい症状とはいえない。
うっ血乳頭と乳頭浮腫
乳頭が腫れる状態全体を乳頭浮腫(乳頭腫脹)と呼び、そのうち頭蓋内圧亢進によるものを特にうっ血乳頭と呼ぶ。 ・うっ血乳頭の原因: 脳腫瘍、脳出血・くも膜下出血、水頭症、脳静脈洞血栓症、髄膜炎・脳炎、特発性頭蓋内圧亢進症(肥満の若年女性に多い)など。 ・うっ血乳頭以外の乳頭浮腫: 悪性高血圧、視神経炎(乳頭炎)、虚血性視神経症、Vogt-小柳-原田病、眼窩内腫瘍などの眼窩内病変、低眼圧など。
うっ血乳頭の特徴
・通常は両眼性である。 ・初期は視力・色覚・対光反射が保たれることが多い(視神経炎との鑑別点)。 ・視野ではMariotte盲点の拡大がみられる。 ・一過性の霧視(数秒間ぼやける発作)を訴えることがある。 ・頭痛、悪心・嘔吐など頭蓋内圧亢進症状を伴う。 ・長期化すると視神経萎縮に進み、視野狭窄・視力低下が不可逆となる。
視神経炎との比較
視神経炎は多くが片眼性で、急激な視力低下、中心暗点、眼球運動時痛、色覚異常、相対的瞳孔求心路障害(RAPD)を伴う。乳頭が腫れる型(乳頭炎)と、乳頭が正常にみえる型(球後視神経炎)がある。
注意点
頭蓋内圧亢進が疑われる患者では、脳ヘルニアの危険があるため、画像検査で占拠性病変を除外する前に腰椎穿刺を行ってはならない。
POINT
・両眼性の乳頭腫脹をみたら、まず頭蓋内圧亢進によるうっ血乳頭を考える。 ・うっ血乳頭の視野異常の代表はMariotte盲点の拡大である。 ・うっ血乳頭の初期は視力・色覚が保たれやすい。視力低下・色覚異常・中心暗点が目立てば視神経炎を考える。 ・乳頭浮腫は高血圧(悪性高血圧)や低眼圧で起こる。高眼圧(緑内障)では乳頭陥凹が拡大する。 ・夜盲は杆体の障害(網膜色素変性症など)による。
