光を移すと瞳孔が開く―swinging flashlight testで見抜く外傷性視神経症
第114回医師国家試験 B問題 第29問
国試問題にチャレンジ
32歳の女性。自転車を運転中に転倒し救急車で搬入された。意識レベルはJCSⅠ-1で,視野全体が暗く感じると訴えている。対光反射の瞳孔の写真を別に示す。 障害部位はどれか。

- a.視神経
- b.視交叉
- c.外側膝状体
- d.毛様体神経節
- e.Edinger-Westphal核
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
対光反射は、網膜から視神経・視交叉・視索を経て中脳視蓋前域に至る入力路と、Edinger-Westphal核から動眼神経・毛様体神経節を経て瞳孔括約筋に至る出力路から成り、視蓋前核が両側に投射するため片眼の光刺激で両眼が縮瞳します。swinging flashlight testで健眼刺激では両眼が縮瞳し、患眼に光を移すと両眼が散瞳する所見は相対的求心性瞳孔障害(RAPD)で、片眼性の求心路障害、代表的には視神経障害を示します。出力路の障害では安静時から瞳孔不同を伴い、外側膝状体以降の障害では視野障害は出ても対光反射は保たれる点が鑑別の要です。眉毛部外側の打撲後に片眼の視力低下とRAPDがみられれば外傷性視神経症を考え、受傷早期は眼底所見が正常なことが多いため瞳孔所見が診断の鍵となります。入力路か出力路か、片眼か両眼かという整理は、意識障害のある外傷患者でも客観的に視神経障害を拾い上げる臨床力につながります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・32歳女性が自転車で転倒し、頭部・顔面に外力を受けたと考えられる外傷例である。 ・意識レベルはJCS(Japan Coma Scale)Ⅰ-1で、開眼はしているが「今ひとつはっきりしない」程度のごく軽い意識障害にとどまる。 ・「視野全体が暗く感じる」という訴えは、半盲のような一部の視野欠損ではなく、片眼または両眼の視機能全体の低下(視力低下・明るさの感じ方の低下)を示唆する。
瞳孔写真の読み方
写真は、暗所での瞳孔、左眼に光を当てたとき、続けて素早く右眼に光を移したときの3つの状態を示している。 ・暗所:両眼とも散瞳しており、左右差はない(安静時の瞳孔不同はない)。 ・左眼に光:左眼の縮瞳(直接対光反射)と右眼の縮瞳(間接対光反射)がともに十分みられる。したがって、左眼からの入力路と、両眼の瞳孔を収縮させる出力路(Edinger-Westphal核→動眼神経→毛様体神経節→瞳孔括約筋)は左右とも保たれている。 ・右眼へ光を移動:両眼の縮瞳が乏しく、むしろ瞳孔が開いてくる。右眼から入る光の情報が中枢に十分届いていないことを意味する。 このように左右の眼に交互に光を当てる検査を交互点滅対光反射試験(swinging flashlight test)といい、光を当てた眼で瞳孔が拡大してしまう所見を相対的求心性瞳孔障害(RAPD:relative afferent pupillary defect)陽性という。本例は右眼のRAPD陽性である。
障害部位の推定
出力路は左眼刺激で両眼とも縮瞳することから正常と判断でき、障害は右眼側の入力路(求心路)にある。片眼性の求心路障害でRAPDを生じる代表は視神経障害であり、外傷後に片眼の視機能低下とRAPDが出現した経過から、右の外傷性視神経症と考えられる。眉毛部外側などへの打撲で視神経管内の視神経が損傷される病態が典型である。なお、網膜中心動脈閉塞症や広範な網膜剝離など網膜全体が障害される疾患でもRAPDは生じるが、選択肢の中で該当するのは視神経である。 設問は「対光反射の所見からどこが障害されているか」であり、入力路と出力路のどちらに異常があるか、さらに片眼のみか両眼にまたがるかを整理すれば正解に至る。
選択肢考察
- ○a. 視神経
視神経は対光反射の求心路であり、一側の視神経が障害されると、その眼に光を当てたときの直接反射と反対眼の間接反射がともに減弱する。一方、健側眼への光刺激では両眼とも正常に縮瞳する。本例は左眼刺激で両眼が縮瞳し、右眼刺激で両眼の縮瞳が乏しい(右RAPD陽性)ので、右視神経の障害と合致する。外傷後の発症であり、外傷性視神経症と考えられる。
- ×b. 視交叉
視交叉では両眼の鼻側網膜由来の線維が交叉する。下垂体腺腫による圧迫などで視交叉が障害されると両耳側半盲となるが、両眼とも耳側網膜由来の非交叉線維が残るため、対光反射は両眼で保たれ、明らかな左右差(RAPD)は通常生じにくい。片眼の入力だけが著明に低下している本例の所見とは合わない。
- ×c. 外側膝状体
対光反射の線維は視索の段階で外側膝状体へ向かう視覚路から分かれ、上丘腕を通って中脳の視蓋前域(視蓋前核)へ向かう。外側膝状体はこの反射経路に含まれないため、障害されると反対側の同名半盲は生じても、対光反射は保たれる。
- ×d. 毛様体神経節
毛様体神経節は動眼神経に含まれる副交感神経線維が節後ニューロンに乗り換える部位で、対光反射の出力路にあたる。障害されると、その側の瞳孔はどちらの眼に光を当てても縮瞳しにくくなり(直接・間接反射ともに障害)、安静時から患側が散瞳して瞳孔不同を生じる(Adie瞳孔などが代表)。本例は暗所で左右差がなく、左眼刺激で両眼とも縮瞳するので出力路は正常であり、該当しない。
- ×e. Edinger-Westphal核
Edinger-Westphal核は中脳にある動眼神経副核で、視蓋前域から両側性の入力を受け、瞳孔括約筋へ向かう副交感神経の節前線維を出す。すなわち出力路の起点である。一側が障害されると同側の瞳孔が直接・間接反射ともに縮瞳しなくなるはずであり、左眼刺激で両眼が正常に縮瞳する本例の所見とは合わない。
対光反射の経路
入力路(求心路):網膜(視細胞・内因性光感受性網膜神経節細胞)→視神経→視交叉(鼻側線維が交叉)→視索→上丘腕→中脳の視蓋前域(視蓋前核) 中継:視蓋前核から両側のEdinger-Westphal核へ投射する(このため片眼への光で両眼が縮瞳する)。 出力路(遠心路):Edinger-Westphal核→動眼神経(副交感神経節前線維)→毛様体神経節→短毛様体神経→瞳孔括約筋
障害部位と対光反射のパターン
・一側の求心路障害(視神経など):患眼への光刺激で直接・間接反射がともに低下し、健眼への光刺激では両眼とも正常に縮瞳する。安静時の瞳孔径に左右差はない。→RAPD陽性。 ・一側の遠心路障害(動眼神経・毛様体神経節など):患側瞳孔はどちらの眼を刺激しても縮瞳しにくく、安静時から散瞳して瞳孔不同を生じる。 ・外側膝状体・視放線・後頭葉の障害:視野障害(同名半盲)は生じるが、対光反射は保たれる。
交互点滅対光反射試験(swinging flashlight test)
暗所で左右の眼に1〜2秒ずつ交互に光を当て、光を移した直後の瞳孔の動きをみる。正常では光を当てるたびに縮瞳が維持されるが、求心路に左右差があると、障害の強い眼へ光を移した瞬間に両眼の瞳孔が開く。これがRAPDで、Marcus Gunn瞳孔とも呼ばれる。両眼が同程度に障害されている場合は左右差がないためRAPDは出にくい点に注意する。RAPDを生じる主な疾患は視神経炎、虚血性視神経症、外傷性視神経症、緑内障の進行例(左右差が大きいもの)、網膜中心動脈閉塞症、広範な網膜剝離などである。
外傷性視神経症
眉毛部外側付近の打撲により、衝撃が視神経管に伝わり、管内で視神経が損傷される(介達性損傷が多い)。受傷直後からの片眼性の視力低下・視野障害とRAPDが特徴で、受傷早期には眼底所見が正常であることが多く、数週間後に視神経萎縮が現れる。意識障害を伴う頭部外傷では見逃されやすいため、瞳孔所見の確認が重要である。
POINT
・片眼に光を当てて両眼が縮瞳すれば、その眼の入力路と両眼の出力路は正常である。 ・患眼刺激で直接・間接反射がともに低下し、健眼刺激では正常→その眼の求心路(視神経など)障害=RAPD陽性。 ・出力路(Edinger-Westphal核・動眼神経・毛様体神経節)障害では患側瞳孔の直接・間接反射がともに消失し、瞳孔不同を伴う。 ・外側膝状体は対光反射の経路に含まれない。 ・頭部・顔面外傷後の片眼視力低下+RAPD→外傷性視神経症を考える。
