StudyMed医師国家試験

首を絞めても届かない血管―腕頭動脈の居場所から考える頸部圧迫の解剖

第118回医師国家試験 F問題 第26問

国試問題にチャレンジ

第118回 F問題 第26問

頸部を圧迫した際に閉塞しないのはどれか。

  1. a.気管
  2. b.外頸静脈
  3. c.総頸動脈
  4. d.内頸静脈
  5. e.腕頭動脈

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、首を外から圧迫したときにどの構造が押しつぶされるかを問う問題だ。縊頸(首吊り)、絞頸(ひもなどで絞める)、扼頸(手で絞める)といった窒息の病態を理解する土台になる解剖だね。着眼点は「その構造が本当に頸部を走っているか」だ。
医学生医学生
選択肢はどれも首のあたりにある管なので、全部つぶれそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だ。でも一つだけ、実は首まで出てこないものが混ざっている。まず大動脈弓から出る枝を、右から順に言えるかな。
医学生医学生
解剖学の講義で覚えました。腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈の順です。
ドクタードクター
完璧だ。では腕頭動脈はどこまで上がって、どこで分かれる?
医学生医学生
右の総頸動脈と鎖骨下動脈に分かれるので……首の付け根あたりでしょうか。
ドクタードクター
惜しい。正確には右胸鎖関節の後方で分岐する。つまり腕頭動脈は全長が胸郭の内側、上縦隔にとどまり、頸部には達しない。胸骨柄や鎖骨といった骨に守られているから、首を外から圧迫しても直接力が加わらないんだ。だから閉塞しないのは腕頭動脈になる。
医学生医学生
なるほど、腕頭動脈は「胸の中の血管」なんですね。解剖実習で大動脈弓を剖出したとき、確かに胸骨を外さないと見えませんでした。
ドクタードクター
その記憶はとても役に立つよ。ちなみに腕頭動脈は右側にしかなく、左では総頸動脈と鎖骨下動脈が大動脈弓から直接出る。では残りの構造がなぜつぶれるのかも見ていこう。まず静脈から。
医学生医学生
外頸静脈は胸鎖乳突筋の表面を走る皮静脈で、診察で頸静脈怒張を見るときに使う血管ですよね。浅いのでつぶれやすそうです。
ドクタードクター
その通り。皮膚のすぐ下を走り、壁が薄く内圧も低いから、わずかな圧迫で容易に閉塞する。内頸静脈は頸動脈鞘の中で総頸動脈の外側を走る。外頸静脈より深いけれど、やはり低圧系なので比較的弱い力で閉塞するんだ。
医学生医学生
頸動脈鞘の中身は、総頸動脈、内頸静脈、迷走神経でしたね。総頸動脈は壁が厚いから、静脈よりはつぶれにくいですか。
ドクタードクター
そう。動脈は壁が厚く内圧も高いので静脈より閉塞しにくいけれど、十分な力がかかれば閉塞し、脳血流が途絶えて短時間で意識を失う。気管は前頸部の正中で比較的浅い位置にあるが、U字形の軟骨で支えられているので、閉塞には血管よりも大きな力が要る。
医学生医学生
つまり、壁が薄くて内圧が低いものほど先につぶれる、ということですね。
ドクタードクター
その理解でいい。法医学では閉塞に必要な力の目安として、頸静脈が約2kg、頸動脈が約3.5〜5kg、気道が約15kg、頸椎の横突孔を通る椎骨動脈が約16kg程度と言われている。文献によって幅はあるけれど、静脈、動脈、気道、椎骨動脈という順番が大切だ。
医学生医学生
法医学の講義で、首を絞められた遺体の顔がうっ血していたり、真っ白だったりすると聞きました。この順番と関係ありますか。
ドクタードクター
まさに関係する。扼頸や絞頸のように力が中途半端だと、静脈だけが閉塞して動脈血は流れ込み続けるから、顔面が暗赤色にうっ血し、眼瞼結膜などに溢血点ができる。一方、足が床から離れた定型的縊頸では体重で動脈まで一気に閉塞するので、顔面は蒼白になりやすい。
医学生医学生
顔色ひとつで、どの血管まで閉塞したかが推測できるんですね。
ドクタードクター
そう。さらに臨床で注意したいのが頸動脈洞だ。総頸動脈の分岐部を圧迫すると迷走神経反射で徐脈や血圧低下、場合によっては心停止を起こしうる。救急や麻酔の現場でも、頸部の圧迫が呼吸だけでなく循環に影響することを意識しておこう。

まとめ

頸部を外から圧迫したときに閉塞しうるのは、頸部の軟部組織内を走る外頸静脈・内頸静脈・総頸動脈・気管・椎骨動脈などの管状構造です。腕頭動脈は大動脈弓の第1枝で、上縦隔を上行して右胸鎖関節の後方で右総頸動脈と右鎖骨下動脈に分かれるため頸部には出ず、骨性胸郭に守られて頸部圧迫では閉塞しません。閉塞のしやすさは壁が薄く内圧の低い順に、頸静脈、頸動脈、気道、椎骨動脈とされ、静脈のみの閉塞では顔面うっ血と溢血点、定型的縊頸では顔面蒼白となりやすいのが特徴です。また頸動脈洞の圧迫は迷走神経反射による徐脈や心停止を起こすことがあります。血管の走行と深さを立体的に理解しておくことは、法医学の死因判断だけでなく、救急や中心静脈穿刺などの臨床手技の基礎にもなります。

解答・解説

正解はeです

問われていること

縊頸(首吊り)・絞頸(ひもなどで首を絞める)・扼頸(手で首を絞める)といった頸部圧迫による窒息の病態を理解するうえで基本となる、頸部の解剖が問われている。外から頸部を圧迫したときに押しつぶされうるのは、頸部(おおむね下顎から鎖骨上縁まで)の軟部組織内を走行する管状の構造物である。

考え方

頸部を通る主な管腔臓器・脈管は、気道(喉頭・気管)、頸静脈(外頸静脈・内頸静脈)、頸動脈(総頸動脈とその分枝)、椎骨動脈などである。これらはいずれも圧迫の強さに応じて閉塞しうる。 一方、腕頭動脈は大動脈弓から起こる最初の枝であり、胸郭の内部(上縦隔)を上行し、右胸鎖関節の後方で右総頸動脈と右鎖骨下動脈に分かれて終わる。つまり腕頭動脈そのものは頸部には出てこず、骨性の胸郭(胸骨柄・鎖骨・肋骨)に守られているため、頸部を圧迫しても直接外力が加わることはない。したがって「閉塞しない」のは腕頭動脈である。

選択肢考察

  1. ×a.  気管

    気管は喉頭(輪状軟骨)の下から始まり、前頸部の正中を下行して胸腔に入る。頸部では皮膚・広頸筋・舌骨下筋群に覆われるだけで比較的浅い位置にあり、強い圧迫を受けると喉頭とともに内腔が押しつぶされ、気道閉塞による窒息を来す。気管軟骨は後方が開いたU字形で、ある程度の強度があるため、閉塞には血管より大きな力を要する。

  2. ×b.  外頸静脈

    外頸静脈は下顎角付近で始まり、胸鎖乳突筋の表面を斜めに横切って下行し、鎖骨上方で鎖骨下静脈に注ぐ皮静脈である。皮下のすぐ下を走り、静脈は壁が薄く内圧も低いため、わずかな圧迫で容易に閉塞する。外から見える静脈であり、頸静脈怒張の観察にも用いられる。

  3. ×c.  総頸動脈

    総頸動脈は右が腕頭動脈から、左が大動脈弓から直接分岐し、胸鎖乳突筋の深部を頸動脈鞘(総頸動脈・内頸静脈・迷走神経を包む結合組織の鞘)に包まれて上行し、甲状軟骨上縁の高さで内頸動脈と外頸動脈に分かれる。動脈は壁が厚く内圧も高いので静脈より閉塞しにくいが、十分な力で圧迫されれば閉塞し、脳への血流が途絶えて短時間で意識消失に至る。

  4. ×d.  内頸静脈

    内頸静脈は頭蓋底の頸静脈孔から出て、頸動脈鞘内で総頸動脈の外側を下行し、鎖骨の後方で鎖骨下静脈と合流して腕頭静脈となる。総頸動脈より浅く外側に位置し、壁の薄い低圧系の血管であるため、比較的弱い圧迫で閉塞する。閉塞すると頭部からの静脈還流が妨げられ、顔面のうっ血や溢血点(点状出血)の原因となる。

  5. ○e.  腕頭動脈

    腕頭動脈は大動脈弓から最初に分岐する太い動脈で、気管の前方〜右側を斜めに上行し、右胸鎖関節の後方で右総頸動脈と右鎖骨下動脈に分かれる。走行のすべてが胸郭の内側(上縦隔)にあり、頸部には達しないため、頸部を外から圧迫しても閉塞することはない。なお腕頭動脈は右側にのみ存在し、左側では総頸動脈と鎖骨下動脈が大動脈弓から別々に直接分岐する。

頸部圧迫による窒息と閉塞の順序

頸部の脈管・気道は、壁が薄く内圧の低いものほど小さな力で閉塞する。法医学では閉塞に必要な力の目安として、頸静脈で約2kg、頸動脈で約3.5〜5kg、気道で約15kg、頸椎の横突孔内を通る椎骨動脈で約16kg程度とされる。 ・静脈のみが閉塞し動脈血の流入が続くと、頭部・顔面がうっ血して暗赤色に腫れ、眼瞼結膜などに溢血点が生じる(扼頸・絞頸で目立つ)。 ・定型的縊頸(足が床から離れ、索条が前頸部から左右対称に後上方へ向かう首吊り)では体重により動脈まで一気に閉塞するため、顔面は蒼白になりやすい。 ・頸動脈洞(総頸動脈の分岐部)への圧迫は迷走神経反射を介して徐脈・血圧低下・心停止を起こしうる。

大動脈弓の分枝

右から順に、腕頭動脈 → 左総頸動脈 → 左鎖骨下動脈。腕頭動脈は右胸鎖関節の後方で右総頸動脈と右鎖骨下動脈に分かれる。

頸部の血管の深さ

浅い方から、外頸静脈(皮静脈、胸鎖乳突筋の表層)→ 内頸静脈 → 総頸動脈(頸動脈鞘内)→ 椎骨動脈(頸椎横突孔内)。

POINT

・腕頭動脈は大動脈弓の第1枝で、右胸鎖関節の後方で分岐し頸部には出ない → 頸部圧迫で閉塞しない。 ・頸部圧迫で閉塞しやすい順: 頸静脈 > 頸動脈 > 気道 > 椎骨動脈。 ・頸動脈鞘の内容: 総頸動脈(内側)、内頸静脈(外側)、迷走神経(両者の後方)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。