食道から覗く心臓―扇の頂点は左心房、開閉する膜は僧帽弁
第117回医師国家試験 C問題 第8問
国試問題にチャレンジ
経食道心エコー図(A,B)を示す。 矢印の構造物として正しいのはどれか。

- a.僧帽弁
- b.三尖弁
- c.大動脈弁
- d.肺動脈弁
- e.心房中隔
対話形式の解説
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医学生まとめ
経食道心エコー(TEE)では、プローブが左心房のすぐ背側の食道にあるため、扇形の頂点に最も近い腔が左心房となり、経胸壁心エコーとは逆に左心系が手前、右心系が奥に描出されます。0°付近の中部食道四腔像では4つの腔と心房中隔・心室中隔・僧帽弁・三尖弁が見え、大動脈弁や肺動脈弁は入りません。左心房と左心室の間にあり、収縮期に閉じ拡張期に開く構造物は房室弁、すなわち僧帽弁であり、開閉しない心房中隔や、収縮期に開く半月弁とは区別できます。TEEは左心耳血栓、疣贅、僧帽弁の形態評価や術中モニタリングに有用で、画像の向きの理解はこれらを読む土台となります。
解答・解説
正解はaです
画像の読み方
TEE(transesophageal echocardiography、経食道心エコー検査)とは、内視鏡に似たプローブを食道に入れ、心臓の背側から超音波を当てて観察する検査である。画面は扇形で、扇の頂点(画面上端)がプローブ、つまり食道の位置に当たる。食道は左心房のすぐ背側を走るため、TEEでは扇の頂点に最も近い無エコー域(血液のため黒く見える腔)が左心房となる。経胸壁心エコーでは前胸部から観察するので右心系が手前に来るが、TEEでは逆に左心房が最も手前、右心系や心尖部は遠く(画面下方)に描出される。
本画像の断面
プローブ角度0°付近の中部食道四腔像(mid-esophageal four-chamber view)であり、左心房・左心室・右心房・右心室の4つの腔と、心房中隔、心室中隔、僧帽弁、三尖弁が同時に描出される。一方、左室流出路から大動脈、右室流出路から肺動脈へ至る部分はこの断面には入らない。
矢印の構造物の同定
矢印は、画面上方の左心房と下方の左心室の間に位置する薄い線状の高エコー構造を指している。A(収縮期)では両腔の境界をふさぐように閉じ、B(拡張期)では心室側へ倒れ込むように開いている。収縮期に閉じ拡張期に開くのは房室弁の動きであり、左心房と左心室の間にある房室弁は僧帽弁である。 設問の解き方としては、①扇の頂点が食道=左心房側であることを確認する、②描出断面(四腔像か流出路を含む断面か)を把握する、③構造物の位置と心周期での動きから同定する、という順で考えるとよい。
選択肢考察
- ○a. 僧帽弁
矢印の構造物はプローブに最も近い腔(左心房)と、その下方の腔(左心室)とを隔てる位置にある。収縮期には閉鎖して左心室から左心房への逆流を防ぎ、拡張期には左心室側へ開いて血液を流入させており、房室弁としての動きを示す。左心房と左心室の間の房室弁であるから僧帽弁と同定できる。TEEは左心房のすぐ背側から観察するため、僧帽弁の形態評価(僧帽弁逸脱、疣贅、狭窄・逆流など)に特に優れている。
- ×b. 三尖弁
三尖弁は右心房と右心室の間の房室弁である。右心系は左心系よりも前方(胸壁側)にあるため、背側から観察するTEEでは左心系より遠い位置に描出される。本画像の四腔像では、矢印の構造物より画面の左側(右心系側)に見える同様の線状構造が三尖弁に相当し、矢印が指すものではない。
- ×c. 大動脈弁
大動脈弁は左心室流出路と上行大動脈の境界にある半月弁である。TEEで大動脈弁を観察するには、プローブ角度を約30〜60°に回した大動脈弁短軸像や、約120〜135°の長軸像などが用いられる。本画像は0°付近の四腔像であり、左心室から大動脈への移行部は描出されていない。また矢印は左心房と左心室の間にあるので、大動脈弁ではない。
- ×d. 肺動脈弁
肺動脈弁は右心室流出路と肺動脈の境界にある半月弁で、心臓の中でも最も前方に位置する。四腔像には右心室から肺動脈への移行部が含まれず、肺動脈弁は描出されない。矢印の位置(左心房と左心室の間)とも一致しない。
- ×e. 心房中隔
心房中隔は左心房と右心房を隔てる壁で、本画像では矢印の左側に見える、やや太く輝度の高い斜めの線状構造がこれに当たる。心房中隔は壁であるため、心周期に応じて開閉することはない。矢印の構造物は収縮期と拡張期で開閉しており、弁と判断できる点で心房中隔とは区別される。
経食道心エコーの特徴
・食道は左心房の直後を走行し、肺や肋骨・皮下脂肪に遮られないため、高周波数のプローブで高画質の画像が得られる。 ・経胸壁心エコーで見えにくい左心房、左心耳、僧帽弁、心房中隔、胸部大動脈の評価に優れる。 ・主な適応:左心耳内血栓の検索(心房細動の除細動前やカテーテルアブレーション前など)、感染性心内膜炎の疣贅・弁輪部膿瘍の検索、僧帽弁形成術前の弁形態評価、心房中隔欠損や卵円孔開存の評価、大動脈解離の評価、心臓手術やカテーテル治療(経皮的僧帽弁クリップ術、経カテーテル的大動脈弁植込み術など)の術中モニタリング。 ・咽頭麻酔や鎮静を要する半侵襲的検査であり、食道疾患(食道静脈瘤、食道狭窄など)がある場合は注意を要する。
TEE画像の表示上の約束
・扇形の頂点が食道(プローブ)で、そこに最も近い腔が左心房である。 ・画面には探触子の断面回転角(0〜180°)が表示される。角度を変えることで、食道からの位置を保ったまま断面を回転させられる。角度表示があることは経胸壁心エコーとの見分け方の一つである。 ・代表的な断面:0°付近で四腔像、約60°で二腔像系、約120〜135°で左室長軸像、約30〜60°で大動脈弁短軸像。
弁の開閉と心周期
・房室弁(僧帽弁・三尖弁):収縮期に閉鎖、拡張期に開放。 ・半月弁(大動脈弁・肺動脈弁):収縮期に開放、拡張期に閉鎖。 開閉のタイミングを見れば、房室弁か半月弁かの区別がつく。
POINT
・TEEでは扇形の頂点(プローブ側)に最も近い腔が左心房である。 ・背側から観察するため、左心系が手前、右心系は奥に描出される(経胸壁心エコーと逆)。 ・0°付近の中部食道四腔像では、4つの腔、心房中隔、心室中隔、僧帽弁、三尖弁が見え、大動脈弁・肺動脈弁は見えない。 ・収縮期閉鎖・拡張期開放を示す弁は房室弁であり、左心房と左心室の間なら僧帽弁。 ・TEEは左心耳血栓、疣贅、僧帽弁の形態評価、術中モニタリングに有用である。
