心室中隔は誰が養う?―前室間溝と後室間溝からひもとく冠動脈の灌流域
第119回医師国家試験 C問題 第33問
国試問題にチャレンジ
一般的な左冠動脈造影像(A)と右冠動脈造影像(B)を下に示す。 心室中隔を灌流している冠動脈はどれか。2つ選べ。

- a.対角枝
- b.右冠動脈
- c.左回旋枝
- d.左主幹部
- e.左前下行枝
対話形式の解説
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ドクターまとめ
心室中隔は前室間溝と後室間溝を結ぶ壁であり、前方約2/3を左前下行枝の中隔枝が、後方約1/3を後下行枝の中隔枝が灌流します。後下行枝は8〜9割を占める右冠動脈優位型では右冠動脈から分岐するため、一般的には左前下行枝と右冠動脈が中隔を養うと整理できます。対角枝は左室前壁〜前側壁、左回旋枝は左室側壁〜後側壁を担当し、左主幹部は固有の灌流域をもたない短い幹ですが、その病変は左室の広範な虚血を招きます。左冠動脈優位型では左回旋枝が中隔後部を養う点も例外として覚えておきましょう。灌流域の理解は、前壁中隔梗塞と下壁梗塞の心電図変化、房室ブロックや心室中隔穿孔といった合併症の予測に直結します。
解答・解説
正解はb, eです
問われていること
冠動脈の各枝がどの心筋領域を栄養しているか(灌流域)を問う解剖学の問題である。造影像は冠動脈の走行を確認するための参考で、灌流域の知識があれば解答できる。
冠動脈の基本構造
冠動脈は大動脈基部のバルサルバ洞から左右1本ずつ起始する。 ・左冠動脈: 起始部の短い幹が左主幹部(LMT: left main trunk)で、すぐに左前下行枝(LAD: left anterior descending artery)と左回旋枝(LCX: left circumflex artery)に分かれる。 ・右冠動脈(RCA: right coronary artery): 右房室間溝を回って心臓の後面(横隔膜面)へ至る。
心室中隔の血流
心室中隔は、心臓の表面では前室間溝と後室間溝の間に位置する。前室間溝を走るのが左前下行枝、後室間溝を走るのが後下行枝(PD: posterior descending artery)である。どちらの血管からも中隔枝(中隔穿通枝)が心筋内に向かって垂直に分岐し、中隔を栄養する。 ・中隔の前方約2/3: 左前下行枝の中隔枝 ・中隔の後方約1/3: 後下行枝の中隔枝 後下行枝は日本人を含め多くの人(約8〜9割、右冠動脈優位型)で右冠動脈から分岐するため、「中隔を灌流するのは左前下行枝と右冠動脈」と整理できる。
考え方
心室中隔は前室間溝と後室間溝を結ぶ壁なので、それぞれの溝を走る血管を思い浮かべれば答えが導ける。左室の前壁・側壁・後側壁を担当する枝(対角枝、回旋枝)は中隔には主に関与しない。
選択肢考察
- ×a. 対角枝
対角枝(diagonal branch)は左前下行枝から左室側へ斜めに分岐する枝で、左室前壁から前側壁の心外膜側を栄養する。左前下行枝の分枝ではあるが、中隔へ向かうのは別の分枝(中隔枝)であり、対角枝は中隔を灌流しない。AHA(米国心臓協会)分類では第1対角枝がseg 9、第2対角枝がseg 10にあたる。
- ○b. 右冠動脈
右冠動脈は右室自由壁、左室下壁(横隔膜面)に加え、洞結節枝・房室結節枝を出して刺激伝導系も栄養する。右冠動脈優位型では、心臓後面で後室間溝を下行する後下行枝(AHA分類seg 4PD)を分岐し、そこから出る中隔枝が心室中隔の後方約1/3を灌流する。このため、右冠動脈の閉塞による下壁梗塞では中隔後部の虚血や房室ブロックを伴うことがある。
- ×c. 左回旋枝
左回旋枝は左房室間溝を左方から後方へ回り込み、鈍縁枝(OM)などを分岐して左室側壁から後側壁(後壁)を灌流する。一般的な右冠動脈優位型では中隔を灌流しない。ただし約1割の左冠動脈優位型では後下行枝が左回旋枝から分岐し、中隔後部も左回旋枝が担当する。本問は「一般的な」造影像を前提としているので、標準的な右冠動脈優位型で考える。
- ×d. 左主幹部
左主幹部(AHA分類seg 5)は左冠動脈起始部から左前下行枝と左回旋枝に分岐するまでの短い区間で、ここから直接心筋へ向かう枝はなく、固有の灌流域をもたない。ただし両枝の上流にあるため、左主幹部が狭窄・閉塞すると左室の広い範囲(中隔前部を含む)が虚血に陥り、重篤な病態となる。灌流する冠動脈として挙げるのは下流の左前下行枝である。
- ○e. 左前下行枝
左前下行枝(AHA分類seg 6〜8)は前室間溝を心尖部へ向かって走行し、心外膜側へは対角枝を、心筋内へは中隔枝を垂直に分岐する。中隔枝は心室中隔の前方約2/3を灌流する。そのほか左室前壁と心尖部も栄養するため、左前下行枝の閉塞では前壁中隔梗塞となり、心電図ではV1〜V4誘導を中心にST上昇がみられる。
冠動脈の主な灌流域(右冠動脈優位型)
・右冠動脈: 右房、右室、左室下壁(横隔膜面)、心室中隔後方1/3、洞結節(約6割)、房室結節(約9割) ・左前下行枝: 左室前壁、心尖部、心室中隔前方2/3 ・左回旋枝: 左室側壁、後側壁、左房
冠動脈の優位性(dominance)
後下行枝をどちらの冠動脈が出すかで決まる。 ・右冠動脈優位型: 約8〜9割で最も多い ・左冠動脈優位型: 後下行枝が左回旋枝から出る(約1割) ・バランス型: 両者が後面を分担する
AHA分類(冠動脈の区域番号)
・右冠動脈: seg 1〜4(seg 4は後下行枝4PDと房室枝4AVに分かれる) ・左主幹部: seg 5 ・左前下行枝: seg 6〜8、対角枝はseg 9・10 ・左回旋枝: seg 11〜15(seg 12が鈍縁枝、seg 14が後側壁枝、seg 15が後下行枝)
梗塞部位と心電図の対応(目安)
・前壁中隔梗塞(左前下行枝): V1〜V4 ・側壁梗塞(左回旋枝・対角枝): I、aVL、V5、V6 ・下壁梗塞(右冠動脈が多い): II、III、aVF 心室中隔梗塞では心室中隔穿孔という機械的合併症に注意が必要で、新たな汎収縮期雑音の出現が手がかりになる。
POINT
・心室中隔の前方2/3は左前下行枝の中隔枝、後方1/3は後下行枝の中隔枝が灌流する。 ・後下行枝は多くの場合(右冠動脈優位型)右冠動脈から分岐する。 ・対角枝は左室前壁〜前側壁、左回旋枝は左室側壁〜後側壁を灌流する。 ・左主幹部は左前下行枝と左回旋枝に分かれるまでの短い幹で、固有の灌流域はもたない。
