StudyMed医師国家試験

若さの証か、心不全の警告か―Ⅲ音が語る「年齢」という文脈

第120回医師国家試験 C問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第120回 C問題 第23問

健常若年者の胸部診察で聴取されることがあるのはどれか。

  1. a.Ⅲ音
  2. b.Ⅳ音
  3. c.心膜摩擦音
  4. d.心膜ノック音
  5. e.僧帽弁開放音

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は心音の問題だ。Ⅰ音とⅡ音以外の音は病的な意味をもつことが多いけれど、その中に「健常な若年者でも聴かれうる音」が一つある。どの音がどんな仕組みで生じるのかを整理しながら見ていこう。
医学生医学生
過剰心音は全部異常だと思っていました。OSCEの心音聴診シミュレーターでも「異常音を見つけろ」という練習ばかりでした。
ドクタードクター
そう覚えている人は多いね。でも正解はⅢ音だ。Ⅲ音はⅡ音の後、拡張早期の急速流入期に、心房から勢いよく流れ込んだ血液が心室壁を振動させて生じる低調な音なんだ。
医学生医学生
若い人だとなぜ聴こえるんですか。
ドクタードクター
若年者は心室壁がしなやかで伸びやすい、つまりコンプライアンスが高いから、急速流入が勢いよく起こる。そのため心疾患がなくても生理的Ⅲ音として聴かれることがあるんだ。概ね30歳頃までが目安で、循環血液量が増える妊婦やスポーツ選手でも聴かれることがある。
医学生医学生
逆に中高年で聴こえたら病的、ということですね。
ドクタードクター
その通り。30〜40歳以降のⅢ音は、僧帽弁閉鎖不全症や大動脈弁閉鎖不全症のような容量負荷、拡張型心筋症や心筋梗塞後の心機能低下、うっ血性心不全を疑うサインだ。同じ音でも年齢という文脈で意味が逆転するんだよ。
医学生医学生
Ⅳ音もⅢ音と同じ低調音なので、若い人で聴こえてもよさそうに思えます。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。Ⅳ音は拡張末期、Ⅰ音の直前に、心房収縮で血液が硬い心室に押し込まれるときの音だ。心室が硬くなったこと、つまりコンプライアンス低下を反映するから、高血圧性心疾患、肥大型心筋症、大動脈弁狭窄症などで聴かれる。しなやかな若い心臓とは正反対の状態なんだ。
医学生医学生
心房収縮が必要なら、心房細動ではⅣ音は出ないですね。
ドクタードクター
よく気づいたね。心房細動では有効な心房収縮がないので消失する。試験でもよく問われるポイントだ。次に心膜摩擦音はどうかな。
医学生医学生
循環器内科の実習で、急性心膜炎の患者さんで聴かせてもらいました。ガサガサこすれるような音でした。
ドクタードクター
貴重な経験だね。炎症を起こした臓側心膜と壁側心膜がこすれ合う高調な音で、急性心膜炎、心筋梗塞後の心膜炎、尿毒症性心膜炎などで聴かれる。体位で変化しやすく、前かがみの座位で聴きやすい。健常者では聴かれない。
医学生医学生
心膜ノック音と僧帽弁開放音も拡張早期の音なので、Ⅲ音と区別が難しそうです。
ドクタードクター
Ⅱ音からの間隔で整理するといい。最も早いのが僧帽弁開放音、次が心膜ノック音、最も遅いのがⅢ音だ。前の二つは高調で、Ⅲ音は低調。心膜ノック音は収縮性心膜炎で、肥厚・石灰化した硬い心膜に心室の拡張が急に止められて生じる。僧帽弁開放音は僧帽弁狭窄症で、硬くなった弁尖が開くときの音だ。正常な弁は開くときに音を出さないから、どちらも器質的異常がなければ聴こえない。
医学生医学生
僧帽弁開放音のあとに拡張期ランブルが続くのが典型でしたよね。
ドクタードクター
そう。しかもⅡ音から開放音までの間隔が短いほど左房圧が高く、狭窄が高度だと判断できる。音のタイミングが重症度の情報になるわけだ。
医学生医学生
Ⅲ音以外は、心室の硬さ、心膜の炎症や肥厚、弁の狭窄という器質的な異常が背景にあるから、健常若年者では聴かれないということですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。最後に聴き方のコツを伝えておこう。Ⅲ音もⅣ音も低調なので、聴診器のベル型を心尖部に軽く当て、左側臥位にすると聴き取りやすい。膜型を強く押し当てると低調音は消えてしまうから注意だ。そして若い人でⅢ音を聴いたら、すぐ異常と決めつけず、年齢や症状、ほかの所見と合わせて判断する姿勢が大切だよ。

まとめ

Ⅲ音は拡張早期の急速流入による心室壁の振動で生じる低調音で、心室のコンプライアンスが高い健常若年者(概ね30歳頃まで)や妊婦では生理的に聴取されることがあります。一方、中高年でのⅢ音は容量負荷や心機能低下、心不全を示唆する病的所見です。Ⅳ音は心室のコンプライアンス低下を反映し心房細動では消失し、心膜摩擦音は急性心膜炎、心膜ノック音は収縮性心膜炎、僧帽弁開放音は僧帽弁狭窄症と、いずれも器質的異常を背景にもちます。拡張早期の過剰心音はⅡ音からの間隔(僧帽弁開放音<心膜ノック音<Ⅲ音)と音の高さで区別し、低調音はベル型・心尖部・左側臥位で聴取します。同じ音でも年齢や背景によって意味が変わることを理解しておくと、聴診所見を正しく臨床判断に結びつけられます。

解答・解説

正解はaです

心臓の聴診では、Ⅰ音(房室弁の閉鎖)とⅡ音(半月弁の閉鎖)が基本の心音であり、それ以外の過剰心音や心膜由来の音は多くが病的な意味をもつ。本問は、その中で「健常な若年者でも生理的に聴取されうる音」を選ぶ問題である。 拡張期の過剰心音を時相で整理すると次のようになる。 ・Ⅱ音の直後(拡張早期):僧帽弁開放音(OS)、心膜ノック音、Ⅲ音の順に出現する。いずれも拡張早期だが、OSが最も早く、Ⅲ音が最も遅い ・拡張末期(Ⅰ音の直前):Ⅳ音 Ⅲ音は、拡張早期の急速流入期に心房から心室へ流れ込んだ血液が心室壁を振動させて生じる低調な音である。心室壁がしなやかで流入速度の速い小児・若年者(概ね30歳頃まで)や、循環血液量の増える妊婦・スポーツ選手では、心疾患がなくても生理的に聴取されることがある。一方、中高年で聴取されるⅢ音は心不全や容量負荷を示唆する病的所見となる。 これに対し、Ⅳ音・心膜摩擦音・心膜ノック音・僧帽弁開放音は、いずれも心室の硬さ、心膜の炎症・肥厚、弁の狭窄といった器質的異常を背景に生じるため、健常若年者では通常聴取されない。

選択肢考察

  1. ○a.  Ⅲ音

    正しい。Ⅲ音はⅡ音の後、拡張早期の急速流入期に生じる低調音で、心尖部でベル型聴診器を用い、左側臥位にすると聴き取りやすい。健常若年者では心室のコンプライアンス(伸展性)が高く急速流入が勢いよく起こるため、生理的Ⅲ音として聴かれることがある。30〜40歳以降で聴取される場合は病的と考え、僧帽弁閉鎖不全症や大動脈弁閉鎖不全症などの容量負荷、拡張型心筋症や心筋梗塞後などの心機能低下、うっ血性心不全を疑う。

  2. ×b.  Ⅳ音

    誤り。Ⅳ音は拡張末期(Ⅰ音の直前)、心房収縮によって血液が硬くなった心室に押し込まれる際に生じる低調音である。心室のコンプライアンス低下を反映し、高血圧性心疾患、肥大型心筋症、大動脈弁狭窄症、急性心筋梗塞などで聴取される。心房収縮が必要なため、心房細動では生じない。健常若年者では病的所見とみなされる。

  3. ×c.  心膜摩擦音

    誤り。心膜摩擦音は、炎症を起こした臓側心膜と壁側心膜がこすれ合って生じる、引っかくような高調性の音である。急性心膜炎や心筋梗塞後の心膜炎、尿毒症性心膜炎などで聴取され、収縮期・拡張期の複数の成分をもつことが多い。体位や時間によって変化しやすく、前かがみの座位で聴きやすい。健常者では聴取されない病的所見である。

  4. ×d.  心膜ノック音

    誤り。心膜ノック音は収縮性心膜炎でみられる拡張早期の過剰心音である。肥厚・石灰化して硬くなった心膜により、心室の拡張が急激に止められる際に生じる。Ⅲ音よりもやや早く、高調で、僧帽弁開放音に似た音として聴かれる。健常者では聴取されない。

  5. ×e.  僧帽弁開放音

    誤り。僧帽弁開放音(opening snap:OS)は、僧帽弁狭窄症において、硬くなった弁尖が拡張早期に開放する際に生じる高調な音である。Ⅱ音からOSまでの間隔が短いほど左房圧が高く、狭窄が高度であることを示す。その後に拡張期ランブルが続くのが典型である。正常な僧帽弁は開放時に音を発しないため、健常者では聴取されない。

心音の整理

・Ⅰ音:僧帽弁・三尖弁の閉鎖音。収縮期の始まり ・Ⅱ音:大動脈弁・肺動脈弁の閉鎖音。拡張期の始まり。吸気時に生理的分裂が大きくなる ・Ⅲ音:拡張早期、急速流入による心室壁の振動。若年者・妊婦では生理的、中高年では容量負荷・心不全を示唆(心室性奔馬調律) ・Ⅳ音:拡張末期、心房収縮による。心室の硬さ(コンプライアンス低下)を示唆(心房性奔馬調律)。心房細動では消失

拡張早期の過剰心音の鑑別

Ⅱ音からの間隔:僧帽弁開放音(最も早い、高調)<心膜ノック音(高調)<Ⅲ音(最も遅い、低調)

Ⅲ音・Ⅳ音の聴き方

いずれも低調音のため、聴診器のベル型を心尖部に軽く当て、左側臥位にすると聴き取りやすい。

病的Ⅲ音が出やすい状態

(1) 心室への流入量が多い(僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁閉鎖不全症、心室中隔欠損症などの容量負荷)、(2) 心筋に異常がある(拡張型心筋症、心筋梗塞、心不全)、(3) その両方がある場合。

POINT

・Ⅲ音は健常若年者(概ね30歳まで)や妊婦で生理的に聴取されうる。中高年では病的(容量負荷・心不全) ・Ⅳ音は心室コンプライアンス低下(高血圧性心疾患、肥大型心筋症、大動脈弁狭窄症)で聴取され、心房細動では消失する ・心膜摩擦音=急性心膜炎、心膜ノック音=収縮性心膜炎、僧帽弁開放音=僧帽弁狭窄症

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。