「決めてあげる」でも「お任せ」でもない―共同意思決定(SDM)の本当の意味
第118回医師国家試験 E問題 第13問
国試問題にチャレンジ
共同意思決定〈シェアードディシジョンメイキング〉の説明で正しいのはどれか。
- a.医療者が最善と考えた方針を説明し同意を得る。
- b.医療者が提供した選択肢から患者が選択する。
- c.医療者と患者がともに最善の方法を探る。
- d.インフォームド・コンセントと同義である。
- e.患者の経過が確実に予測できる場合に適している。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
共同意思決定(SDM)とは、医療者が示す医学的根拠(病状、各選択肢の利益・害・不確実性)と、患者が示す価値観や生活背景・希望を共有し、両者が意思決定の過程に参加してともに最善の方法を探り、合意に至るプロセスです。医療者が決めて同意を得るパターナリズム型とも、選択肢を渡して患者任せにする情報提供型とも異なり、説明を受けたうえでの同意を意味するインフォームド・コンセントとも同義ではありません。SDMは、妥当な選択肢が複数あり結果が不確実で、患者の価値観によって選ぶべき方針が変わる場面で特に有用で、ディシジョンエイドやアドバンス・ケア・プランニングとも深く関わります。「誰がどうやって決めるか」という視点で概念を整理しておくことは、試験対策だけでなく、日々の診療で患者と信頼関係を築く土台になります。
解答・解説
正解はcです
共同意思決定(shared decision making:SDM)とは、治療やケアの方針を決めるときに、医療者と患者(必要に応じて家族)が対等な立場で参加し、情報を出し合って一緒に結論を導くプロセスである。 医療者は病状、選択肢ごとの利益・害・不確実性といった医学的な根拠を示す。患者は自分の価値観、生活の状況、何を大切にしたいかといった本人にしか分からない情報を示す。双方の情報を共有したうえで話し合い、両者が納得できる方針に合意する。SDMでは決定の「結果」だけでなく、どのように決めたかという「プロセス」が重視される。 医療者の意思決定への関わり方は、おおまかに次の3つの型に分けると理解しやすい。 ・パターナリズム型:医療者が最善と判断した方針を決め、患者は従う(説明と同意を伴っても、決めるのは医療者)。 ・情報提供型(インフォームド型):医療者は情報と選択肢を示すだけで、選ぶのは患者一人に任される。 ・共同意思決定型:医療者と患者が情報と熟慮を共有し、ともに最善の方法を探る。 SDMは、エビデンス上どの選択肢が優れているか明確でない場合や、選択肢ごとの利益と害のバランスが患者の価値観によって変わる場合、つまり経過や結果に不確実性がある場面で特に重要になる。この理解に合うのは「医療者と患者がともに最善の方法を探る」という記述である。
選択肢考察
- ×a. 医療者が最善と考えた方針を説明し同意を得る。
誤り。方針を決めているのは医療者側であり、患者は提示された結論に同意するかどうかを判断するだけである。これはパターナリズム(父権主義)的な決定に説明と同意の手続きを加えたものに近く、患者が意思決定の過程そのものに参加するSDMとは異なる。
- ×b. 医療者が提供した選択肢から患者が選択する。
誤り。医療者は選択肢と情報を並べるだけで、最終的な判断を患者一人に委ねる形であり、情報提供型(インフォームド・ディシジョン型)と呼ばれる。患者の自律は尊重されるが、医療者が患者の価値観を聞き取って一緒に考えるという協働の要素が欠けている。SDMでは医療者も話し合いに加わり、患者の価値観に照らしてどの選択肢が合うかをともに検討する。
- ○c. 医療者と患者がともに最善の方法を探る。
正しい。SDMの核心は、医療者がもつ医学的な情報(病状、各選択肢の利益・リスク・不確実性)と、患者がもつ価値観や生活背景・希望を互いに共有し、両者が意思決定の過程に参加して、患者にとって最善と考えられる方法を一緒に見つけ出すことにある。最終的には双方が合意した決定に至ることが原則である。
- ×d. インフォームド・コンセントと同義である。
誤り。インフォームド・コンセント(informed consent:IC)は「十分な説明を受けたうえでの同意」であり、医療行為の目的・内容・危険性・利益、さらに他の方法の利益と危険性についての説明を受けた患者が、それを理解し、強制されずに自発的に受け入れる(または拒否する)ことを指す。ICは医療者が提案した方針への同意という手続きに重点があるのに対し、SDMは方針を形成する過程を医療者と患者が共有する点に重点がある。両者は関連するが同じ概念ではなく、SDMを経て決まった方針についてもICは必要である。
- ×e. 患者の経過が確実に予測できる場合に適している。
誤り。経過が確実に予測でき、最善の治療がエビデンス上ほぼ一つに定まる場合には、方針は自然に決まりやすく、話し合いの余地は比較的小さい。SDMが真価を発揮するのは逆に、複数の妥当な選択肢があり、それぞれの結果に不確実性があり、どれを選ぶかが患者の価値観によって左右される場面(例:早期前立腺癌に対する手術・放射線療法・監視療法の選択、終末期の治療方針など)である。
SDMの要件
SDMが成立するには、少なくとも医療者と患者の2者が関与し、次の原則を満たす必要があるとされる。 ・双方が意思決定のプロセスに参加する。 ・情報を共有する(医療者は医学的情報、患者は価値観や希望)。 ・話し合いを経て決定がなされ、双方がそれに合意する。 また患者側については、(1)避けたいリスクや病気・病態の重要性を理解していること、(2)検査・治療などのサービスのリスク、利益、代替案、不確実性を理解していること、(3)それらの利益と害を自分の価値観に照らして熟考していること、が求められる。
意思決定支援ツール
選択肢ごとの利益・害を図表などで分かりやすく示す「ディシジョンエイド(意思決定支援ツール)」は、SDMを進めるための代表的な道具である。
関連する概念
・アドバンス・ケア・プランニング(ACP、愛称「人生会議」):将来の医療・ケアについて、本人が家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合うプロセスであり、SDMの考え方と重なる。 ・パターナリズム:医療者が患者のためを思って一方的に方針を決める考え方。現在は患者の自律尊重の観点から見直されている。
POINT
・SDM=医療者と患者が情報(医学的根拠と患者の価値観)を共有し、ともに最善の方法を探って合意する過程。 ・医療者が決めて同意を得る(パターナリズム型)でも、選択肢を渡して患者任せにする(情報提供型)でもない。 ・インフォームド・コンセント(説明を受けたうえでの同意)とは別の概念。 ・複数の選択肢があり、結果に不確実性があって患者の価値観で選択が変わる場面で特に有用。
