その咳、痰は出ていますか?―湿性咳嗽の代表・副鼻腔気管支症候群を見抜く
第118回医師国家試験 E問題 第14問
国試問題にチャレンジ
主に湿性咳嗽をきたす疾患はどれか。
- a.咳喘息
- b.間質性肺炎
- c.感染後咳嗽
- d.胃食道逆流症
- e.副鼻腔気管支症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
咳嗽は痰を伴う湿性咳嗽と伴わない乾性咳嗽に分けられ、湿性咳嗽は気道分泌物の過剰産生を、乾性咳嗽は咳受容体の感受性亢進や刺激を背景にしています。慢性湿性咳嗽の代表が副鼻腔気管支症候群で、慢性副鼻腔炎と慢性気管支炎・気管支拡張症・びまん性汎細気管支炎などの下気道炎症が合併して膿性痰を伴う咳を呈し、マクロライド少量長期療法や去痰薬が有効です。一方、咳喘息、感染後咳嗽、胃食道逆流症、間質性肺炎、アトピー咳嗽、ACE阻害薬による咳はいずれも乾性咳嗽が典型です。持続期間(急性3週未満、遷延性3〜8週、慢性8週以上)と痰の有無という2つの軸で整理すると、長引く咳の鑑別を効率よく進められ、問診の質も高まります。
解答・解説
正解はeです
咳嗽(せき)は、痰(喀痰)を伴うかどうかで「湿性咳嗽」と「乾性咳嗽」に分けられる。 ・湿性咳嗽:痰を伴う咳。気道内に過剰に産生された分泌物を外へ出すための咳であり、気道の炎症や感染で分泌物が増える病態でみられる。治療は咳を止めることよりも、原因の治療と痰の排出を促すことが中心となる。 ・乾性咳嗽:痰を伴わない、あるいはごく少量の咳。気道の咳受容体の感受性が高まったり、刺激されたりすることで生じる。 また、持続期間により、3週間未満を急性咳嗽、3〜8週間を遷延性咳嗽、8週間以上を慢性咳嗽と分類する。慢性(遷延性)咳嗽の原因として頻度が高いのは、乾性では咳喘息、アトピー咳嗽、感染後咳嗽、胃食道逆流症など、湿性では副鼻腔気管支症候群である。 選択肢のうち、気道分泌物の増加を本態とし、痰を伴う咳が主体となるのは副鼻腔気管支症候群である。そのほかの4疾患はいずれも乾性咳嗽が典型である。
選択肢考察
- ×a. 咳喘息
誤り。咳喘息は、喘鳴や呼吸困難を伴わず、咳だけを唯一の症状とする喘息の亜型であり、日本の慢性咳嗽の原因として最も多いものの一つである。好酸球性の気道炎症と気道過敏性の亢進によって咳が誘発されるが、気道分泌物の過剰産生は目立たず、痰を伴わない乾性咳嗽が典型である。夜間から早朝に悪化しやすく、気管支拡張薬が有効であることが診断の手がかりとなる。放置すると典型的な喘息へ移行することがあるため、吸入ステロイドで治療する。
- ×b. 間質性肺炎
誤り。間質性肺炎は、肺胞の壁(間質)に炎症や線維化が起こる疾患である。病変の主体は気道ではなく間質であるため、気道分泌物は増えにくく、痰を伴わない乾性咳嗽を呈する。労作時呼吸困難、両側下肺野背側の捻髪音(fine crackles)、ばち指などを伴うことが多い。
- ×c. 感染後咳嗽
誤り。感染後咳嗽は、かぜなどの上気道炎(主にウイルス感染)が治った後も咳だけが続く状態で、遷延性咳嗽の代表的な原因である。感染によって傷ついた気道上皮で咳受容体の感受性が高まることが原因と考えられ、痰はほとんど伴わない乾性咳嗽が主体である。多くは自然に軽快する。なお、百日咳やマイコプラズマ、肺炎クラミジアなど、特定の病原体による咳との鑑別が必要になる。
- ×d. 胃食道逆流症
誤り。胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)では、下部食道括約筋(lower esophageal sphincter:LES)の機能低下などにより胃酸が食道へ逆流し、その刺激が迷走神経を介した反射で咳を誘発したり、逆流物が咽喉頭へ達して直接刺激したりすることで咳が起こる。気道分泌物の増加を伴わないため、乾性咳嗽が主体である。胸やけ・呑酸の有無、食後や臥位・会話での増悪が診断の手がかりとなり、プロトンポンプ阻害薬などの酸分泌抑制薬が有効である。
- ○e. 副鼻腔気管支症候群
正しい。副鼻腔気管支症候群(sinobronchial syndrome:SBS)は、慢性副鼻腔炎などの上気道の慢性炎症と、慢性気管支炎・気管支拡張症・びまん性汎細気管支炎などの下気道の慢性炎症が合併した病態である。上下の気道で好中球性の炎症が続き、分泌物が過剰に産生されるため、膿性あるいは粘液性の痰を伴う湿性咳嗽が主症状となる。後鼻漏(鼻汁がのどへ流れ落ちる)や鼻閉を伴うことが多い。慢性湿性咳嗽の原因として最も代表的であり、14員環または15員環のマクロライド系抗菌薬の少量長期投与や去痰薬が有効である。
湿性咳嗽をきたす主な疾患
・急性経過:細菌性肺炎、急性気管支炎(細菌性)、肺水腫(泡沫状の痰)など。 ・慢性経過:副鼻腔気管支症候群、慢性気管支炎(COPDを含む)、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎、肺結核、非結核性抗酸菌症、肺癌(気管支肺胞上皮型の腺癌で大量の水様痰を伴うことがある)など。
乾性咳嗽をきたす主な疾患
咳喘息、アトピー咳嗽、感染後咳嗽、胃食道逆流症、間質性肺炎、ACE阻害薬による咳、気胸、胸膜炎、心因性咳嗽など。
びまん性汎細気管支炎(DPB)
副鼻腔気管支症候群の代表的疾患の一つで、東アジアに多い。両肺の呼吸細気管支領域に慢性炎症が起こり、多量の膿性痰と労作時呼吸困難を呈し、慢性副鼻腔炎の合併や既往が高率である。寒冷凝集素価の持続高値が特徴的で、エリスロマイシンの少量長期療法で予後が劇的に改善した。
咳の持続期間による分類
急性咳嗽は3週間未満、遷延性咳嗽は3週間以上8週間未満、慢性咳嗽は8週間以上である。急性咳嗽の多くは感染症によるが、持続期間が長くなるほど感染症以外の原因の割合が高くなる。
POINT
・湿性咳嗽=痰を伴う咳、乾性咳嗽=痰を伴わない咳。 ・慢性湿性咳嗽の代表は副鼻腔気管支症候群(慢性副鼻腔炎+下気道の慢性炎症)。治療はマクロライド少量長期療法・去痰薬。 ・咳喘息、アトピー咳嗽、感染後咳嗽、胃食道逆流症、間質性肺炎、ACE阻害薬による咳はいずれも乾性咳嗽。 ・咳の持続期間:急性<3週、遷延性3〜8週、慢性≧8週。
