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振動工具が指を白くする―手腕振動症候群とRaynaud現象

第118回医師国家試験 C問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第118回 C問題 第8問

局所振動による健康障害でみられるのはどれか。

  1. a.Gottron徴候
  2. b.Heberden結節
  3. c.Osler結節
  4. d.Raynaud現象
  5. e.Romberg徴候

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は産業保健の問題で、振動工具による健康障害がテーマだ。着眼点は、振動を「全身振動」と「局所振動」に分けて考えること。そして局所振動でどんな障害が起こるかを、系統立てて押さえておくことだね。
医学生医学生
全身振動というと、トラックや重機の運転手さんのような仕事でしょうか。
ドクタードクター
その通り。体全体が揺すられる全身振動では、主に腰痛が問題になる。一方、局所振動はチェーンソーや削岩機、グラインダーなどの振動工具を手で持って使うことで、手や腕に振動が伝わるものだ。これによる障害を振動障害、あるいは手腕振動症候群と呼ぶ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で「白ろう病」という言葉を聞いた気がします。林業の人に多いんですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。白ろう病は振動障害の別名で、指が蝋のように白くなることから名づけられた。症状は大きく3系統に分けられる。手指の血管が攣縮して起こる末梢循環障害、しびれや感覚低下などの末梢神経障害、そして肘や手関節の変形性関節症などの運動器障害だ。
医学生医学生
指が白くなるというのは、Raynaud現象のことですか。
ドクタードクター
そう、それが正解だ。振動工具を長く使い続けると、手指の血管の内皮や平滑筋、交感神経が傷つき、寒さなどの刺激で指の動脈が強く収縮するようになる。発作時は指が白くなり、続いて紫、血流が戻ると赤と色が変わり、冷感やしびれ、痛みを伴う。
医学生医学生
膠原病内科を回ったとき、強皮症の患者さんで白→紫→赤の色調変化を習いました。振動障害のRaynaud現象と何か違いはありますか。
ドクタードクター
いい質問だ。Raynaud現象には、基礎疾患のない一次性と、膠原病や振動障害などによる二次性がある。一次性は若い女性に多く左右対称が基本だけれど、振動障害では振動を強く受けた指から始まるので左右差が出やすい。冬や早朝、寒冷な作業環境で起こりやすいのも特徴だよ。発作自体は温めれば回復する可逆的な変化だ。
医学生医学生
では、ほかの選択肢も確認させてください。Gottron徴候は皮膚筋炎ですよね。
ドクタードクター
その通り。手指のMP関節やPIP関節の背側に、角化を伴う紅斑や丘疹が出る皮膚筋炎に特徴的な所見だ。自己免疫の機序で起こるから、振動とは関係ない。
医学生医学生
Heberden結節はどうでしょう。振動障害でも変形性関節症が起こるなら、関係しそうにも思えます。
ドクタードクター
そこは迷いやすいポイントだね。Heberden結節は手指のDIP関節に起こる変形性関節症で、骨棘で関節背側が硬く膨らむ。中年以降の女性に多く、加齢や体質による一次性のものだ。振動障害での関節症は肘や手関節が中心で、Heberden結節は局所振動に特徴的な所見とはいえない。ちなみにPIP関節に起こるものはBouchard結節だ。
医学生医学生
Osler結節は感染性心内膜炎で、指の腹にできる痛い結節でしたね。痛みのないJaneway病変とセットで覚えました。
ドクタードクター
完璧だ。免疫複合体による血管炎が成因と考えられている。最後にRomberg徴候はどうかな。
医学生医学生
閉眼すると立っていられなくなる所見で、OSCEの神経診察で練習しました。深部感覚の障害ですよね。振動障害でも末梢神経障害があるなら出そうな気もしますが……。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。Romberg徴候は脊髄後索の障害や高度な末梢神経障害による感覚性運動失調でみられる。振動障害の神経障害は手指のしびれや感覚低下が主体で、下肢の位置覚が障害されて立位が不安定になるわけではない。だから局所振動に特徴的な所見とはいえないんだ。
医学生医学生
振動障害は振動を受けた手に症状が集中する、と考えれば整理しやすいですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、診断と予防も押さえておこう。振動工具を扱う労働者には特殊健康診断が行われ、手を冷水に浸けて皮膚温の回復の遅れをみる冷水浸漬負荷試験、爪圧迫試験、振動覚・痛覚検査、握力測定などを行う。対策は低振動工具の使用、振動ばく露時間の管理、防振手袋と手の保温、禁煙だ。寒冷や喫煙、工具を強く握ることは増悪因子になる。
医学生医学生
症状が出た労働者には、ばく露を減らしたり中止させたりする必要があるんですね。
ドクタードクター
そう。臨床でRaynaud現象をみたら、膠原病だけでなく職業歴、特に振動工具の使用歴を聞くことが大切だ。問診の一言が診断の手がかりになるよ。

まとめ

振動による健康障害は全身振動と局所振動に分けられ、全身振動は主に腰痛、チェーンソーや削岩機などの振動工具による局所振動は振動障害(手腕振動症候群、白ろう病)を起こします。振動障害は末梢循環障害としてのRaynaud現象、手指のしびれや感覚低下などの末梢神経障害、肘や手関節の変形性関節症などの運動器障害の3系統からなり、Raynaud現象は寒冷で誘発される可逆的な発作で左右差が出やすいのが特徴です。Gottron徴候は皮膚筋炎、Heberden結節はDIP関節の変形性関節症、Osler結節は感染性心内膜炎、Romberg徴候は深部感覚障害を示す所見で、局所振動に特徴的なものではありません。予防には低振動工具の使用、ばく露時間の管理、保温、禁煙、特殊健康診断が重要です。Raynaud現象をみたら膠原病とともに職業歴を確認する姿勢は、産業保健と日常診療をつなぐ実践的な視点になります。

解答・解説

正解はdです

振動による健康障害は、全身振動と局所振動の2つに分けて考える。全身振動は車両や重機の運転などで体全体が揺すられるもので、主に腰痛の原因になる。局所振動は、チェーンソー・削岩機・グラインダー・インパクトレンチなどの振動工具を手で持って使うことで、手や腕に振動が伝わるものである。局所振動による障害は振動障害、または手腕振動症候群(hand-arm vibration syndrome:HAVS)とよばれる。 振動障害の症状は大きく3つの系統に分けられる。 (1) 末梢循環障害:手指の血管が攣縮(急に強く収縮すること)してRaynaud現象を起こす。指が白くなるため、白ろう病とも呼ばれてきた。 (2) 末梢神経障害:手指のしびれ、痛覚・振動覚・温度覚の低下、手指の動きのぎこちなさ。 (3) 運動器障害:肘や手関節の変形性関節症、筋力低下、手根管症候群など。 選択肢のうち局所振動と直接結びつくのは、(1) のRaynaud現象である。そのほかの選択肢は、膠原病、変形性関節症、感染性心内膜炎、深部感覚障害といった別の病態に特徴的な所見である。

選択肢考察

  1. ×a.  Gottron徴候

    誤り。Gottron徴候は皮膚筋炎に特徴的な皮膚所見である。手指の中手指節(MP)関節や近位指節間(PIP)関節の背側に、角化を伴う紅斑や丘疹が出る(丘疹のものはGottron丘疹ともよぶ)。肘や膝の伸側にも同様の紅斑がみられる。自己免疫の機序で起こり、振動とは関係がない。

  2. ×b.  Heberden結節

    誤り。Heberden結節は手指の遠位指節間(DIP)関節に起こる変形性関節症で、骨棘によって関節の背側が硬く膨らむ。中年以降の女性に多い。PIP関節に起こるものはBouchard結節という。振動障害でも肘などに変形性関節症が起こることはあるが、Heberden結節は加齢や体質による一次性の変形性関節症であり、局所振動に特徴的な所見ではない。

  3. ×c.  Osler結節

    誤り。Osler結節は感染性心内膜炎でみられる皮膚所見で、手足の指の腹(指腹)にできる、痛みを伴う赤紫色の小さな結節である。免疫複合体による血管炎が成因と考えられている。手のひらや足の裏にできる痛みのない出血斑(Janeway病変)と区別して覚える。

  4. ○d.  Raynaud現象

    正しい。振動工具を長く使い続けると、手指の血管の内皮や平滑筋、交感神経が傷つき、寒さなどの刺激で指の動脈が強く収縮するようになる。発作時は指が蒼白(白)になり、続いてチアノーゼ(紫)、血流が戻ると発赤(赤)と色が変わり、冷感・しびれ・痛みを伴う。発作は一時的で、温めると回復する可逆的な変化である。振動を最も強く受けた指から始まるため、左右差が出やすい。冬や早朝、寒冷な作業環境で起こりやすい。

  5. ×e.  Romberg徴候

    誤り。Romberg徴候は、両足をそろえて立ち、目を閉じると体の揺れが大きくなって倒れそうになる所見である。目を開けているときは視覚で姿勢を補っているが、閉眼でそれができなくなるために起こる。深部感覚(位置覚)の障害による感覚性運動失調を示し、脊髄後索の障害(脊髄癆、亜急性連合性脊髄変性症など)や高度な末梢神経障害でみられる。局所振動に特徴的な所見ではない。

振動障害(手腕振動症候群)

・原因となる作業:林業のチェーンソー、建設業・鉱業の削岩機やピックハンマー、製造業のグラインダー・研磨機・インパクトレンチなど。寒冷、喫煙、工具を強く握ることが増悪因子となる。 ・一般に、比較的周波数の高い振動は血管・神経系に、周波数の低い振動は骨・関節系に影響しやすいとされる。 ・検査(振動工具取扱者の特殊健康診断などで用いる):冷水浸漬負荷試験(手を冷水に浸けて、皮膚温の回復や爪を圧迫した後の色の戻りの遅れをみる)、指尖の皮膚温測定、爪圧迫試験、振動覚・痛覚検査、握力測定など。 ・対策:低振動工具の使用、1日の振動ばく露時間の管理、防振手袋の着用と手の保温、定期的な健康診断、禁煙。症状が出たらばく露を減らすか中止させる。

Raynaud現象の分類

・一次性(Raynaud病):基礎疾患がないもの。若い女性に多く、両側対称性で、組織の障害は起こりにくい。 ・二次性(Raynaud症候群):全身性強皮症・混合性結合組織病・SLEなどの膠原病、振動障害、閉塞性動脈疾患、薬剤(β遮断薬など)によるもの。指先の潰瘍や壊疽を伴うことがある。

全身振動

車両・重機・船舶の運転などで起こる。腰痛(腰椎の変性)のほか、乗り物酔いに似た症状や消化器症状を伴うことがある。

POINT

・局所振動による障害(振動障害)=Raynaud現象(白ろう病)+末梢神経障害(しびれ・感覚低下)+運動器障害。 ・Raynaud現象の色の変化は白→紫→赤の順で、寒冷で誘発され、可逆的である。振動障害では左右差が出やすい。 ・皮膚筋炎→Gottron徴候、変形性関節症(DIP)→Heberden結節、感染性心内膜炎→Osler結節、深部感覚障害→Romberg徴候。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。