脾臓が腫れる黄疸、腫れない黄疸―門脈圧亢進症から見抜くRotor症候群
第118回医師国家試験 C問題 第7問
国試問題にチャレンジ
脾腫の原因とならないのはどれか。
- a.肝硬変
- b.Rotor症候群
- c.日本住血吸虫症
- d.Budd-Chiari症候群
- e.特発性門脈圧亢進症
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
肝臓・門脈系の疾患で脾腫が生じる主な機序は門脈圧亢進症で、脾静脈から門脈への流出が妨げられて脾臓がうっ血・腫大します。門脈圧亢進症は肝前性・肝内性(前類洞性:特発性門脈圧亢進症・日本住血吸虫症、類洞性:肝硬変)・肝後性(Budd-Chiari症候群)に分けて整理でき、いずれも脾腫と脾機能亢進症の原因となります。一方、Rotor症候群はOATP1B1/1B3欠損による直接ビリルビン優位の体質性黄疸で、肝の構造や循環は正常なため門脈圧亢進も脾腫もきたしません。Rotor症候群は肝の色調正常・ICG著明停滞、Dubin-Johnson症候群は黒色肝・ICGほぼ正常という違いもあわせて押さえておきましょう。「黄疸がある=脾腫がある」ではなく病態の機序から考える姿勢が、脾腫や黄疸の鑑別を正確に進める土台になります。
解答・解説
正解はbです
問われていること
脾腫をきたす原因を問う問題である。肝臓・門脈系の疾患で脾腫が生じる最大の機序は門脈圧亢進症である。脾静脈は門脈に合流するため、門脈の圧が上がると脾臓からの血液の流出が妨げられ、脾臓はうっ血して腫大する(うっ血性脾腫)。
考え方
門脈圧亢進症は、血流が妨げられる部位によって次のように分けて整理するとよい。 ・肝前性:門脈本幹や肝外門脈の閉塞(肝外門脈閉塞症など) ・肝内性:前類洞性(特発性門脈圧亢進症、日本住血吸虫症)、類洞性(肝硬変) ・肝後性:肝静脈〜下大静脈〜右心房の流出障害(Budd-Chiari症候群、右心不全・収縮性心膜炎など) 選択肢のうち、肝硬変・日本住血吸虫症・Budd-Chiari症候群・特発性門脈圧亢進症はいずれもこの分類のどこかに当てはまり、門脈圧亢進を介して脾腫を生じる。一方、Rotor症候群はビリルビンを肝細胞に取り込んで蓄える過程の先天的な異常による体質性黄疸であり、肝の構造や血流は正常で門脈圧亢進をきたさない。したがって脾腫の原因とならないのはRotor症候群である。
選択肢考察
- ×a. 肝硬変
肝硬変では、肝細胞の壊死と再生の繰り返しにより線維化と再生結節が形成され、類洞レベルで血流抵抗が上昇する。加えて肝内の血管収縮性物質の増加なども関与し、門脈圧亢進症(類洞性)をきたす。その結果、脾臓のうっ血による脾腫が生じ、脾機能亢進症による血小板減少も高頻度にみられる。脾腫の原因となる代表的疾患である。
- ○b. Rotor症候群
Rotor症候群は直接(抱合型)ビリルビン優位の高ビリルビン血症を示す先天性の体質性黄疸で、常染色体潜性(劣性)遺伝である。肝細胞が血中から有機陰イオンを取り込むトランスポーター(OATP1B1・OATP1B3)が欠損し、抱合型ビリルビンを肝細胞内に再取り込み・貯留できないことが原因とされる。このためICG(インドシアニングリーン)試験で著明な停滞を示すが、AST・ALTなどその他の肝機能検査は正常で、肝組織にも異常はない。肝の構造や循環は正常で門脈圧亢進を生じないため、脾腫はきたさない。症状は軽度の黄疸のみで予後は良好であり、治療は不要である。よって本問の正解である。
- ×c. 日本住血吸虫症
日本住血吸虫は門脈系に寄生する吸虫である。中間宿主ミヤイリガイから水中に遊出した幼虫(セルカリア)が経皮的に侵入し、肺・大循環を経て門脈系に達し成虫となる。成虫が産んだ虫卵は腸管壁から便中に出るほか、一部は門脈血流に乗って肝内の門脈末梢枝を塞栓し、虫卵周囲に肉芽腫と線維化を生じる。これにより前類洞性の門脈圧亢進症となり、慢性期には肝腫大・肝線維化(住血吸虫性肝硬変)・腹水とともに脾腫をきたす。日本国内では新規感染はなくなったが、過去の流行地出身の高齢者には慢性期の病変がみられうる。
- ×d. Budd-Chiari症候群
Budd-Chiari症候群は、肝静脈の主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞・狭窄によって肝臓からの血液の流出が障害される病態である。日本では肝部下大静脈の膜様閉塞によるものが多い。肝はうっ血し、肝後性の門脈圧亢進症を生じるため、脾腫・腹水・食道胃静脈瘤をきたす。下大静脈閉塞例では下肢浮腫や腹壁・背部の上行性の静脈怒張もみられる。
- ×e. 特発性門脈圧亢進症
特発性門脈圧亢進症(IPH: idiopathic portal hypertension)は、肝硬変や肝外門脈閉塞などの明らかな原因がないのに門脈圧亢進をきたす原因不明の疾患で、中年女性に多い。肝内末梢門脈枝の閉塞・狭窄による前類洞性の門脈圧亢進が本態である。肝機能は比較的保たれる一方で、著明な脾腫と脾機能亢進症(汎血球減少)がほぼ必発で、本症の特徴的所見である。
脾腫の主な原因
・うっ血性:門脈圧亢進症(肝硬変、特発性門脈圧亢進症、肝外門脈閉塞症、日本住血吸虫症、Budd-Chiari症候群)、右心不全・収縮性心膜炎 ・感染症:伝染性単核球症、マラリア、感染性心内膜炎、腸チフス、粟粒結核など ・血液疾患:溶血性貧血(遺伝性球状赤血球症、サラセミアなど)、慢性骨髄性白血病、骨髄線維症(巨脾)、悪性リンパ腫、有毛細胞白血病など ・炎症・免疫:全身性エリテマトーデス、Felty症候群、サルコイドーシスなど ・蓄積症:Gaucher病、Niemann-Pick病、アミロイドーシスなど
門脈圧亢進症の病態
門脈圧が上昇すると、脾臓のうっ血により脾腫が生じ、脾機能亢進症によって血小板減少や貧血をきたす。また門脈血の一部が肝を通らず側副血行路へ流れることで、食道・胃静脈瘤、腹壁静脈の怒張(メドゥーサの頭)、痔核などが生じる。腹水も出現しうる。
体質性黄疸の整理
・間接ビリルビン優位:Gilbert症候群(UGT1A1活性の軽度低下、最も頻度が高い)、Crigler-Najjar症候群(UGT1A1の欠損または高度低下。I型は核黄疸の危険があり予後不良) ・直接ビリルビン優位:Dubin-Johnson症候群(毛細胆管側の排泄トランスポーターMRP2の異常。肝は黒色調で、ICG試験は正常またはほぼ正常、尿中コプロポルフィリンはI型の比率が著増)、Rotor症候群(OATP1B1/1B3欠損。肝の色調は正常、ICG試験で著明な停滞、尿中総コプロポルフィリン増加) Crigler-Najjar症候群I型を除き、体質性黄疸は軽度の黄疸以外に身体所見の異常がなく予後良好である。いずれも脾腫は伴わない。
POINT
・肝疾患に伴う脾腫の主な機序は門脈圧亢進症によるうっ血である。 ・門脈圧亢進症は肝前性・肝内性(前類洞性・類洞性)・肝後性に分けて整理する:特発性門脈圧亢進症と日本住血吸虫症は前類洞性、肝硬変は類洞性、Budd-Chiari症候群は肝後性。 ・Rotor症候群などの体質性黄疸は、ビリルビンの代謝・輸送の異常にすぎず、肝の構造や循環は正常なので脾腫をきたさない。 ・Rotor症候群:直接ビリルビン優位、ICG著明停滞、肝の色調正常。Dubin-Johnson症候群:直接ビリルビン優位、ICGほぼ正常、黒色肝。
