StudyMed医師国家試験

カテ室に潜む水晶体のリスク―職業性白内障は「病院」で起こる

第118回医師国家試験 C問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第118回 C問題 第20問

職業性の白内障と関係がある事業場はどれか。

  1. a.病院
  2. b.印刷工場
  3. c.縫製工場
  4. d.クリーニング工場
  5. e.コンビニエンスストア

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は職業性疾患の問題だ。白内障を起こす職業上の有害因子は何か、そしてその因子に日常的にさらされる職場はどこか。この2段階で考えるのがコツだよ。
医学生医学生
白内障の原因というと、加齢や糖尿病、ステロイドくらいしか思い浮かびません。仕事で起こる白内障もあるんですね。
ドクタードクター
あるんだ。代表的なのは電離放射線、つまりX線やγ線。それから赤外線、いわゆる熱線だね。ガラス工や製鉄の炉前作業者に起こる「ガラス工白内障」は古くから知られている。マイクロ波などの非電離放射線も原因になりうる。
医学生医学生
選択肢の中でX線を日常的に扱うのは……病院ですね。
ドクタードクター
正解。病院ではX線透視下の心臓カテーテル治療や血管造影、CT、放射線治療、核医学検査などで電離放射線を扱う。特に透視下で長時間手技を行う術者や介助者は、患者の体から生じる散乱線を眼に受けやすいんだ。
医学生医学生
循環器内科の臨床実習でカテ室に入ったとき、先生方が鉛のエプロンに加えて防護眼鏡をかけていた理由が分かりました。
ドクタードクター
まさにそれ。天井から吊るす防護板を使ったり、眼の近くに線量計を付けて水晶体の被ばくを管理したりもする。ここで放射線の健康影響の分類を思い出してほしい。放射線白内障はどちらに入るかな。
医学生医学生
確率的影響でしょうか。浴びれば浴びるほど起こりやすくなるので……。
ドクタードクター
惜しいけど、そこは間違えやすいところだ。白内障は確定的影響、今は組織反応とも呼ばれる。一定の線量、つまりしきい線量を超えて初めて発症し、線量が増えるほど重症度が増す。皮膚の紅斑や脱毛、不妊、造血障害も同じ仲間だ。一方、確率的影響はしきい線量がないと仮定され、線量とともに発生確率が上がるけど重症度は線量によらない。発がんと遺伝性影響がこちらだね。
医学生医学生
放射線生物学の講義で習ったはずなのに、混同していました。白内障は「しきい値あり」の確定的影響、ですね。
ドクタードクター
そう。では、他の事業場がなぜ違うのかも確認しよう。印刷工場では何が問題になるか知っているかな。
医学生医学生
印刷工場で胆管がんが多発した事例を公衆衛生の講義で聞きました。有機溶剤が原因でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。インクの洗浄に使った1,2-ジクロロプロパンなどの塩素系有機溶剤による胆管がんで、職業がんとして認定された。クリーニング工場もドライクリーニングでテトラクロロエチレンなどの有機溶剤を使うから、中枢神経抑制や肝障害、発がん性が問題になるし、高温多湿による熱中症にも注意が要る。どちらも放射線や赤外線への曝露は通常ないから、白内障とは結び付かない。
医学生医学生
縫製工場やコンビニエンスストアは、作業姿勢や働き方の問題が中心という印象です。
ドクタードクター
その通り。縫製工場は長時間の同一姿勢やミシン作業による頸肩腕障害・腰痛、繊維くずの吸入などが課題だ。コンビニエンスストアは重量物の運搬による腰痛、立ち作業、深夜を含む交替制勤務や長時間労働のストレスが主な健康課題になる。どちらも白内障の原因因子にはさらされない。
医学生医学生
医療者自身が職業性疾患のリスクを抱えているというのは、少し意外でした。
ドクタードクター
大事な気づきだね。最近の動きも知っておこう。ICRPは2011年に、白内障のしきい線量がかつて考えられていたより低く、吸収線量で約0.5 Gyとする声明を出した。これを受けて日本でも電離放射線障害防止規則が改正され、2021年4月から放射線業務従事者の眼の水晶体の等価線量限度は「5年間につき100 mSvかつ1年間につき50 mSv」に引き下げられた。改正前は1年間につき150 mSvだったから、かなり厳しくなったんだ。
医学生医学生
放射線白内障には見た目の特徴もあるんですか。
ドクタードクター
水晶体の後嚢下から混濁が始まることが多く、被ばくから発症まで年単位の潜伏期があるのが特徴だ。ついでに職業性の眼障害として、溶接作業の紫外線による電気性眼炎、つまり角膜炎や、レーザーによる網膜障害もセットで覚えておくといい。将来IVRや透視に関わるなら、防護眼鏡を「面倒だから」と外さないこと。自分の眼を守るのも臨床医の仕事だよ。

まとめ

職業性白内障の主な原因は、X線やγ線などの電離放射線と、ガラス工・炉前作業でみられる赤外線であり、選択肢のなかで電離放射線に日常的に曝露されうる事業場は病院です。特にX線透視下の心臓カテーテル治療やIVRでは、術者や介助者が患者からの散乱線を眼に受けやすく、防護眼鏡や防護板、眼の線量管理が求められます。放射線白内障はしきい線量をもつ確定的影響(組織反応)で、後嚢下混濁が多く、発がん・遺伝性影響といった確率的影響とは区別されます。印刷工場やクリーニング工場では有機溶剤による胆管がんや中枢神経・肝障害、縫製工場やコンビニエンスストアでは筋骨格系の負担や交替制勤務が主な健康課題です。2021年には眼の水晶体の等価線量限度が「5年100 mSvかつ1年50 mSv」に引き下げられており、医療者自身の放射線防護は今後ますます重要になります。

解答・解説

正解はaです

テーマ

職業性疾患のうち、白内障(眼の水晶体が混濁する疾患)を起こす職業上の有害因子と、それに曝露される職場を結び付けられるかを問う問題である。

職業性白内障の主な原因

・電離放射線(X線、γ線など):医療現場での透視・血管造影〈IVR:画像下治療〉、CT、核医学などに従事する医療者、原子力関連施設の作業者 ・赤外線(熱線):ガラス工、製鉄・溶鉱炉など高温の炉を扱う作業者(いわゆるガラス工白内障) ・マイクロ波などの非電離放射線

考え方

選択肢のなかで電離放射線に日常的に曝露されうる事業場は病院である。特にX線透視下で長時間の手技を行う循環器内科医、放射線科医、診療放射線技師、看護師などは、患者からの散乱線を眼に受けやすく、水晶体被ばくが問題となる。印刷工場・クリーニング工場は有機溶剤、縫製工場は作業姿勢や粉じんなど、コンビニエンスストアは筋骨格系の負担や長時間労働が主な健康課題であり、白内障とは結び付かない。

選択肢考察

  1. ○a.  病院

    病院では、X線透視を用いた心臓カテーテル治療や血管造影、CT、放射線治療、核医学検査などで電離放射線を扱う。術者や介助者は患者から生じる散乱線を眼に受けやすく、水晶体の被ばくが蓄積すると白内障を生じる。放射線白内障は一定の線量(しきい線量)を超えて初めて発症する確定的影響であり、防護眼鏡や天井懸垂型の防護板の使用、線量計による眼の被ばく管理が求められる。

  2. ×b.  印刷工場

    印刷工場で問題となるのは、インクの洗浄に用いる有機溶剤への曝露である。代表例として、1,2-ジクロロプロパンなどの塩素系有機溶剤を大量に使用していた印刷事業場で胆管がんが多発した事例があり、職業がんとして認定された。白内障の原因となる放射線や赤外線への曝露は通常ない。

  3. ×c.  縫製工場

    縫製作業では、長時間の同一姿勢やミシン作業による頸肩腕障害・腰痛、繊維くず(粉じん)の吸入、布地の加工に用いられる化学物質(ホルムアルデヒドや染料など)による皮膚炎などが健康課題となる。白内障との関連はない。

  4. ×d.  クリーニング工場

    ドライクリーニングではテトラクロロエチレンなどの有機溶剤を使用するため、中枢神経抑制(頭痛、めまい、意識障害)、肝障害、発がん性などが問題となる。また高温多湿の作業環境による熱中症にも注意を要する。白内障の原因因子への曝露は通常ない。

  5. ×e.  コンビニエンスストア

    コンビニエンスストアに特有の有害物質曝露はない。健康課題としては、商品搬入時の重量物取り扱いによる腰痛、立ち作業、深夜勤務を含む交替制勤務や長時間労働に伴う身体的・精神的ストレスなどが挙げられる。白内障とは関係しない。

放射線の健康影響:確定的影響と確率的影響

・確定的影響(組織反応):一定の線量(しきい線量)を超えると発症し、線量が増えるほど重症度が増す。白内障、皮膚障害(紅斑・潰瘍)、脱毛、不妊、造血障害などが含まれる。 ・確率的影響:しきい線量がないと仮定され、線量の増加に伴い発生確率が上がるが重症度は線量に依存しない。発がん(白血病・固形がん)、遺伝性影響が含まれる。

水晶体の線量限度の見直し

国際放射線防護委員会〈ICRP〉は2011年に、白内障のしきい線量がかつて考えられていたより低い(吸収線量で約0.5 Gy)とする声明を出し、職業被ばくにおける眼の水晶体の等価線量限度の引き下げを勧告した。これを受けて日本でも電離放射線障害防止規則が改正され、2021年4月から、放射線業務従事者の眼の水晶体の等価線量限度は「5年間につき100 mSvかつ1年間につき50 mSv」に引き下げられた(改正前は1年間につき150 mSv)。医療従事者の眼の被ばく管理がより重視されるようになっている。

放射線白内障の特徴

水晶体の後嚢下に混濁が始まることが多い(後嚢下白内障)。被ばくから発症までに年単位の潜伏期がある。

その他の職業性眼障害

・赤外線:ガラス工・製鉄工の白内障 ・紫外線:溶接作業による電気性眼炎(角膜炎) ・レーザー:網膜障害

POINT

・職業性白内障の原因は電離放射線、赤外線(ガラス工・炉前作業)など。 ・医療現場(特にX線透視下のIVR・心臓カテーテル)では散乱線による水晶体被ばくが問題となる。 ・放射線白内障は確定的影響(しきい線量あり)。発がん・遺伝性影響は確率的影響。 ・眼の水晶体の等価線量限度は2021年改正で「5年100 mSvかつ1年50 mSv」。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。