原因の病原体を断てば癌は防げる―ワクチンで予防できる癌を見極める
第118回医師国家試験 C問題 第16問
国試問題にチャレンジ
ワクチンによる予防効果がある癌はどれか。
- a.胃癌
- b.肺癌
- c.白血病
- d.膀胱癌
- e.子宮頸癌
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
ワクチンで予防できる癌は、原因となる病原体の持続感染をワクチンで防げるものであり、代表は高リスク型HPVによる子宮頸癌とHBVによる肝細胞癌です。胃癌(Helicobacter pylori)は除菌療法、ATL(HTLV-1)は母乳を介した感染の予防が中心で、いずれも実用化されたワクチンはありません。肺癌は禁煙が予防の中心で、膀胱癌に用いるBCG膀胱内注入療法は発生後の癌に対する治療であり予防接種ではありません。HPVワクチンは小学校6年生〜高校1年生相当の女子が定期接種の対象ですが、すべての型を防げるわけではないため、接種後も子宮頸がん検診が欠かせません。「感染が原因の癌」と「その予防手段」を対応づけて理解することは、公衆衛生の知識としてだけでなく、患者さんへの予防指導にも直結します。
解答・解説
正解はeです
癌の中には、ウイルスや細菌などの持続感染が発生の主な原因となるものがある。原因となる病原体の感染をワクチンで防ぐことができれば、その癌の発生自体を減らすことができる(一次予防)。現在、ワクチンによる予防が確立している代表的な癌は、ヒトパピローマウイルス(HPV)による子宮頸癌と、B型肝炎ウイルス(HBV)による肝細胞癌である。 本問の選択肢のうち、原因ウイルスに対するワクチンが実用化され、日本で定期接種として導入されているのは子宮頸癌のみである。他の選択肢にも感染症や生活習慣など予防可能な危険因子は存在するが、ワクチンによる予防法は確立していない。「感染症が原因の癌」と「その病原体にワクチンがあるか」を組み合わせて考えると正解に至る。
選択肢考察
- ×a. 胃癌
胃癌の最大の危険因子はHelicobacter pylori(ヘリコバクター・ピロリ)の持続感染であり、萎縮性胃炎を経て胃癌が発生する。予防には除菌療法(プロトンポンプ阻害薬などと抗菌薬の併用)が行われるが、実用化されたワクチンはない。その他の危険因子として喫煙や高塩分食がある。
- ×b. 肺癌
肺癌の最大の危険因子は喫煙(受動喫煙を含む)であり、ほかにアスベスト(石綿)やラドンへの曝露などがある。予防の中心は禁煙と受動喫煙対策であり、肺癌を予防するワクチンは存在しない。
- ×c. 白血病
白血病の多くは原因が特定できない。ウイルスが原因となるものとして、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)による成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)があるが、HTLV-1に対するワクチンはない。HTLV-1の主な感染経路は母乳を介した母子感染であるため、妊婦健診での抗体検査と、陽性の場合の授乳方法の指導(人工栄養など)によって感染予防が図られている。
- ×d. 膀胱癌
膀胱癌の危険因子は喫煙、芳香族アミン(ベンジジン、2-ナフチルアミンなど)の職業曝露、ビルハルツ住血吸虫感染などであり、予防ワクチンはない。なお、筋層非浸潤性膀胱癌や上皮内癌の治療・再発予防として、結核ワクチンにも用いられるBCG(ウシ型弱毒結核菌)を膀胱内に注入する療法があるが、これは発生後の癌に対する局所の免疫療法であり、ワクチン接種によって発癌を防ぐものではない。
- ○e. 子宮頸癌
子宮頸癌のほとんどは、高リスク型HPV(特に16型・18型)の持続感染によって生じる。HPVは主に性的接触で感染し、多くは自然に排除されるが、一部で感染が持続すると子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)を経て癌へ進行する。HPVワクチンはこの感染を防ぐことで子宮頸癌の発生を予防する。日本では小学校6年生から高校1年生相当の女子を対象に定期接種として行われており、初めての性交渉の前に接種することが最も効果的である。
感染症と関連する主な癌
・HPV:子宮頸癌、中咽頭癌、肛門癌、陰茎癌など(ワクチンあり) ・HBV:肝細胞癌(ワクチンあり。日本では2016年から乳児の定期接種) ・HCV:肝細胞癌(ワクチンなし。抗ウイルス薬による治療で発癌リスクを下げる) ・Helicobacter pylori:胃癌、胃MALTリンパ腫(ワクチンなし。除菌療法) ・HTLV-1:成人T細胞白血病・リンパ腫(ワクチンなし。母乳を介した感染の予防) ・EBウイルス:Burkittリンパ腫、上咽頭癌など(ワクチンなし) ・ビルハルツ住血吸虫:膀胱扁平上皮癌
HPVワクチンの概要
・種類:2価(16型・18型)、4価(6・11・16・18型)、9価(4価の型に31・33・45・52・58型を加えたもの)。6型・11型は尖圭コンジローマの原因となる低リスク型である。2023年4月から9価ワクチンも定期接種に用いられている。 ・定期接種対象:小学校6年生〜高校1年生相当の女子。 ・経緯:2013年に定期接種化されたが、接種後の多様な症状の報告を受けて同年に積極的勧奨が差し控えられた。その後、安全性と有効性が改めて評価され、2022年4月から積極的勧奨が再開された。勧奨差し控えの間に接種機会を逃した世代にはキャッチアップ接種が行われている。 ・ワクチンですべての高リスク型HPVを防げるわけではないため、接種後も子宮頸がん検診(20歳以上、2年に1回の細胞診など)の受診が必要である。
POINT
・ワクチンで予防できる癌:子宮頸癌(HPVワクチン)、肝細胞癌(HBワクチン)。 ・胃癌はピロリ菌除菌、肺癌は禁煙、ATLは母乳を介した感染の予防が中心で、ワクチンはない。 ・膀胱癌のBCG膀胱内注入療法は治療であり、予防接種ではない。 ・HPVワクチンは小6〜高1相当の女子が定期接種の対象。接種後も子宮頸がん検診は必要。
