StudyMed医師国家試験

臍から見上げる上腹部―腹腔鏡の視野に「入るもの・入らないもの」

第118回医師国家試験 C問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第118回 C問題 第17問

腹腔鏡所見を示す。  画像内に認められないのはどれか。

第118回 C問題 第17問の問題画像
  1. a.胃
  2. b.肝臓
  3. c.脾臓
  4. d.横隔膜
  5. e.肝円索

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は腹腔鏡の画像から上腹部の臓器を同定する問題だ。ポイントは2つ。カメラがどこから、どちらを向いて覗いているのかという「視点」と、各臓器の立体的な位置関係だ。まず、腹腔鏡のカメラは普通どこから入れると思う?
医学生医学生
臍からですよね。外科の臨床実習で腹腔鏡下胆嚢摘出術に入ったとき、最初のポートは臍に置いていました。
ドクタードクター
その通り。臍から上腹部を見上げる、つまり足側から頭側を覗く視野になる。仰臥位の患者を足元から見上げるから、画面の左が患者の右、画面の右が患者の左になるんだ。
医学生医学生
CTは足側から見る約束なので左右が逆になりますけど、それと同じ感覚ですね。
ドクタードクター
いい対応づけだね。ではその前提で画像を読んでいこう。画面中央を上から下に白く光る索状・膜状の構造が走っているのがわかるかな。
医学生医学生
あれは血管ですか?ずいぶん白いので、腱や靱帯のようにも見えます。
ドクタードクター
靱帯の方が近い。あれが肝鎌状間膜で、その下縁の索状部分が肝円索だ。肝円索は胎生期の臍静脈が閉じた遺残物で、臍に向かって走るから、画面の手前へ垂れ下がるように見える。
医学生医学生
解剖実習で、肝臓の前面から臍まで続く紐をたどった記憶があります。あれが肝円索だったんですね。
ドクタードクター
そう。そしてこの肝鎌状間膜をはさんで、画面左に広がる赤褐色で表面平滑な実質臓器が肝右葉側、画面右側が肝左葉だ。つまり肝臓は左右に分かれて見えている。さらに肝左葉の下縁の手前には、細い血管が網目状に走る淡いピンク色の管腔臓器がのぞいている。
医学生医学生
肝左葉のすぐ下にあるなら、胃の前壁でしょうか。
ドクタードクター
正解。そして画面上方の奥、肝臓の上縁を覆う暗い面が横隔膜の下面だ。肝臓の上面は横隔膜に接しているから、見上げる視野では肝臓の向こう側に横隔膜が見える。これで肝臓・肝円索・胃・横隔膜はすべて画像内に確認できたことになる。
医学生医学生
残るのは脾臓ですね。左上腹部にあるので、画面の右奥に見えていてもよさそうな気がしますが……。
ドクタードクター
そこが考えどころだ。脾臓は左上腹部の最も背側、第9〜11肋骨の高さで横隔膜の下にあり、胃底部の外側後方に位置する。正常大なら肋骨弓の内側深くに収まっていて、前方は胃や肝左葉に隠れている。だから臍から上腹部正中を見上げたこの視野には入ってこないんだ。
医学生医学生
身体診察で正常の脾臓は触れない、と習ったのと同じ理屈ですね。前から手を入れても届かない場所にある。
ドクタードクター
まさにそう。だから画像内に認められないのは脾臓、というのが答えだ。腹腔鏡で脾臓を見たいときは、カメラを左上腹部の奥に向けたり、右側臥位にして胃を重力で移動させたりする必要がある。
医学生医学生
腹腔鏡下脾摘のときに体位を工夫するのはそのためなんですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、肝鎌状間膜は肉眼的に肝臓を右葉と左葉に分ける目印だけど、Couinaud分類での機能的な左右の境界は、胆嚢窩と下大静脈を結ぶCantlie線で、鎌状間膜とは一致しない点に注意しよう。また肝円索の周囲には臍傍静脈があり、門脈圧亢進症で拡張するとメズサの頭の原因になる。
医学生医学生
胆嚢摘出術では、この視野からどう胆嚢に向かうんですか。
ドクタードクター
まずこの見上げた視野で肝臓・肝円索・胃・横隔膜を確認してオリエンテーションをつけ、そこから画面左、つまり患者の右側の肝右葉下面へ視野を移して胆嚢を探す。最初に目印をしっかり押さえることが、術野で迷わないコツなんだ。

まとめ

臍から挿入した腹腔鏡で上腹部を見上げる視野では、画面左が患者の右、画面右が患者の左に対応します。中央を縦に走る白い索状物は肝円索(臍静脈の遺残)と肝鎌状間膜で、肝臓を解剖学的な右葉と左葉に分け、肝臓の上奥には横隔膜、肝左葉の下縁には胃前壁が見えます。一方、脾臓は左上腹部の最背側で肋骨弓に覆われ、胃の外側後方に位置するため、この視野には入りません。なお、肝鎌状間膜は機能的な左右の境界であるCantlie線とは異なり、肝円索周囲の臍傍静脈は門脈圧亢進症でメズサの頭の原因となります。腹腔鏡画像を読むには、カメラの視点と臓器の立体的な位置関係を結びつけて考えることが基本となります。

解答・解説

正解はcです

腹腔鏡画像から上腹部臓器を同定する問題である。腹腔鏡は通常、臍部から挿入したカメラで腹腔内を観察するため、上腹部を見る場合は足側から頭側を見上げる視野になる。仰臥位の患者を足側から見上げるので、画面の左側が患者の右側、画面の右側が患者の左側に対応する。この向きを前提に画像を読む。

画像の読み取り

・画面中央を上から下へ白く光沢のある索状・膜状の構造が走っている。これが肝鎌状間膜で、その下縁(自由縁)にあたる索状部分が肝円索(臍静脈の遺残)である。肝円索は前腹壁の臍に向かって走るため、腹腔鏡では画面の手前に向かって垂れ下がるように見える。 ・肝鎌状間膜をはさんで、画面左側に大きく広がる赤褐色で表面平滑な実質臓器が肝右葉側、画面右側に見える同様の臓器が肝左葉(外側区域)である。つまり肝臓が肝鎌状間膜・肝円索によって左右に分けられて見えている。 ・画面下方手前には、表面に細い血管が網目状に走る淡いピンク色の管腔臓器があり、肝左葉の下縁に接している。これが胃(前壁)である。 ・画面上方の奥、肝臓の上縁を覆う暗い部分が横隔膜の下面である。 脾臓は左上腹部の最も背側、胃底部の外側後方で横隔膜に接して位置する。正常大の脾臓は肋骨弓の内側深くに収まっており、臍から上腹部正中付近を見上げたこの視野では、胃や肝左葉の陰になって見えない。したがって、画像内に認められない臓器は脾臓である。

選択肢考察

  1. ×a.  胃

    画像に認められる。画面下方手前にある、淡いピンク色で表面に細い漿膜下血管が走行する管腔臓器が胃である。肝左葉の下縁の直下に胃前壁がのぞいており、上腹部の正常な位置関係と一致する。

  2. ×b.  肝臓

    画像に認められる。画面の大部分を占める赤褐色で表面平滑な実質臓器が肝臓である。中央の肝鎌状間膜をはさんで、画面左側に右葉側、画面右側に左葉が見えている。

  3. ○c.  脾臓

    画像には認められないため、これが正解である。脾臓は左上腹部の背側、第9〜11肋骨の高さで横隔膜の下に位置し、胃底部の外側後方にある。正常大の脾臓は肋骨弓に覆われており、通常は腹壁から触知できない。腹腔鏡で脾臓を観察するには、カメラを左上腹部の奥へ向けたり、体位を右側臥位にして胃を移動させたりする必要がある。臍から上腹部正中を見上げた本画像の視野には入っていない。

  4. ×d.  横隔膜

    画像に認められる。画面上方の奥、肝臓の上面を覆うように広がる部分が横隔膜の下面である。肝臓の横隔面(上面)は横隔膜の直下に接しており、見上げる視野では肝臓の向こう側に横隔膜が見える。

  5. ×e.  肝円索

    画像に認められる。画面中央を上から下へ走る白色の索状構造が肝円索とそれに続く肝鎌状間膜である。肝円索は胎生期の臍静脈が閉鎖した遺残物で、肝鎌状間膜の下縁を通って臍へ向かう。肝鎌状間膜は肝臓を前腹壁・横隔膜につなぎとめる腹膜のひだであり、肉眼的に肝臓を解剖学的な右葉と左葉に分ける目印となる(Couinaud分類での機能的な左右の境界はこれとは異なり、胆嚢窩と下大静脈を結ぶCantlie線である)。

上腹部臓器の位置関係

・肝臓:右上腹部を中心に、正中を越えて左上腹部まで広がる。上面は横隔膜に接し、肝鎌状間膜で前腹壁・横隔膜とつながる。 ・胃:肝左葉の下方・背側にあり、前壁の一部は肝左葉の下縁から腹腔内に露出している。胃底部は左横隔膜下に位置する。 ・脾臓:左上腹部の最も背側で、第9〜11肋骨の高さに位置し、胃の外側後方、左腎の前外側にある。胃脾間膜・脾腎間膜で周囲とつながる。 ・胆嚢:肝右葉の下面にある胆嚢窩に位置する。

肝臓を支える靱帯

・肝鎌状間膜:肝臓の前上面から前腹壁・横隔膜に至る腹膜のひだ。 ・肝円索:臍静脈の遺残。肝鎌状間膜の下縁を走り、臍に至る。門脈圧亢進症では臍傍静脈が拡張し、メズサの頭の原因となる。 ・静脈管索:胎生期の静脈管(Arantius管)の遺残。 ・冠状間膜・三角間膜:肝臓の上面を横隔膜につなぐ。

腹腔鏡画像の見方

臍部から挿入したカメラで上腹部を見上げると、画面左が患者の右、画面右が患者の左となる。腹腔鏡下胆嚢摘出術などでは、まずこの視野で肝臓・肝円索・胃・横隔膜を確認し、そこから肝右葉下面と胆嚢へ視野を移していく。

POINT

・臍から上腹部を見上げる腹腔鏡像では、画面左が患者の右、画面右が患者の左となる。 ・中央を縦に走る白い索状物は肝円索・肝鎌状間膜で、肝臓を解剖学的な右葉と左葉に分ける。 ・肝臓の上奥に横隔膜、肝左葉の下に胃が見える。 ・脾臓は左上腹部の最背側にあり、この視野では見えない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。