報告が多い病院ほど安全?―インシデントレポートは「責める」ためでなく「防ぐ」ためにある
第118回医師国家試験 B問題 第6問
国試問題にチャレンジ
インシデントレポートで正しいのはどれか。
- a.保健所に提出する。
- b.改善策の記述を含める。
- c.作成するのは患者である。
- d.内容を医療機関のホームページで公開する。
- e.提出レポート数が少ない医療機関は安全度が高い。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
インシデントレポートは、患者に被害が及ばなかった、または軽微だったヒヤリ・ハット事例などを組織で共有・分析し、再発防止につなげるための院内の報告制度です。作成するのは当事者や発見者である医療従事者で、提出先は院内の医療安全管理部門であり、事実経過・発生要因・改善策を記載します。個人の責任追及には用いず、個人情報や率直な報告を守るため内容を外部に公開することもなく、保健所への提出義務もありません。報告数が多いことは安全文化が根付いている証であり、少ないことは安全の証明にはなりません。ハインリッヒの法則が示すように小さな事例から学ぶ姿勢が重大事故の予防につながるため、医療者として報告の意義を理解しておくことが大切です。
解答・解説
正解はbです
インシデントレポートの目的・作成者・提出先・扱い方を問う問題である。
インシデントとは
インシデントとは、誤った医療行為などが患者に実施される前に発見された事例や、実施されたが患者に被害が及ばなかった(あるいは軽微であった)事例を指し、「ヒヤリ・ハット」とほぼ同義に用いられる。施設によっては、患者に障害が生じたアクシデント(医療事故)も含めて報告対象としている。
インシデントレポートの目的
インシデントレポートの目的は、個人の責任を追及することではなく、起きた(起こりかけた)出来事の情報を組織で集めて分析し、同じことが繰り返されないよう再発防止策を立てることにある。その背景には、1件の重大事故の陰には29件の軽微な事故と300件のヒヤリ・ハットがあるとするハインリッヒの法則の考え方がある。小さな出来事のうちに要因を把握して対策を打つことで、重大な医療事故を未然に防ぐことができる。 この目的を理解していれば、「誰が書くか(医療従事者)」「どこに出すか(院内の医療安全管理部門)」「何を書くか(事実経過・要因・改善策)」「件数をどう評価するか(多いことは報告文化が根付いている証)」が自然に導ける。
選択肢考察
- ×a. 保健所に提出する。
インシデントレポートは自施設の医療安全を高めるための院内の報告制度であり、提出先は医療安全管理室(医療安全管理部門)などの院内部署である。保健所への提出義務はない。なお、院内のインシデント情報を外部に集約する仕組みとしては、日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業(ヒヤリ・ハット事例の収集を含む)があり、参加医療機関が事例を報告して全国的な分析に役立てている。また、予期せぬ死亡・死産が起きた場合は、医療事故調査制度に基づき医療事故調査・支援センターへ報告するが、これは保健所への提出とは異なる。
- ○b. 改善策の記述を含める。
インシデントレポートの目的は再発防止であるため、何が起きたか(日時、場所、関与した職種、経過などの客観的事実)に加え、なぜ起きたか(発生要因:人的要因、手順・システムの問題、環境要因など)と、どうすれば防げるか(実施した対応や考えられる改善策)を記載する。報告を受けた医療安全管理部門はこれらを集めて分析し、マニュアルの改訂や機器・システムの改善など組織としての対策につなげる。
- ×c. 作成するのは患者である。
インシデントレポートを作成するのは、インシデントに関わった当事者や、それを発見した医療従事者である。医師、看護師、薬剤師、技師、事務職員など、職種を問わず誰もが報告できる体制が望ましい。患者が作成するものではない。
- ×d. 内容を医療機関のホームページで公開する。
インシデントレポートは院内で情報を共有し、分析と対策に用いるための内部資料である。患者や職員の個人情報を含むうえ、報告者が不利益を受けないという前提があってこそ率直な報告が集まるため、個々のレポートの内容をホームページで公開することはない。公開の義務もない。施設によっては、匿名化・集計した統計や取り組みを医療安全の報告として公表することはあるが、それはレポートそのものの公開とは異なる。
- ×e. 提出レポート数が少ない医療機関は安全度が高い。
インシデントはどの医療機関でも一定の頻度で発生しているため、報告数が少ないことは、インシデントが少ないのではなく報告が十分に行われていない(報告しにくい雰囲気がある、職員がインシデントに気付いていない)可能性を示すことが多い。逆に報告数が多いことは、職員の安全意識が高く、隠さずに報告する文化(報告する文化・安全文化)が根付いていることの表れと評価される。したがって、報告数の少なさをもって安全度が高いとはいえない。
インシデントとアクシデント
・インシデント(ヒヤリ・ハット):誤りがあったが患者に実施される前に気付いた、または実施されたが患者に影響がなかった・軽微であった事例。 ・アクシデント(医療事故):医療に関わる場所で、医療の全過程において発生した人身事故で、患者に障害が生じた事例。医療従事者の過誤の有無を問わない。過誤によるものは医療過誤と呼ぶ。 ・多くの施設では影響度(レベル0〜5など)で分類し、軽いものをインシデント、重いものをアクシデントとして扱う。
インシデントレポートの原則
・非懲罰性:報告したことで処罰されない。個人の責任追及に使わない。 ・迅速性:できるだけ早く報告する。 ・客観性:事実を時系列で記載し、推測や感情を交えない。 ・提出先は院内の医療安全管理部門。分析にはRCA(根本原因分析)などの手法が用いられる。 ・インシデントレポートを提出しても、診療録への記載や患者・家族への説明が不要になるわけではない。
関連する制度
・医療法により、医療機関には医療安全管理体制(指針の整備、委員会の開催、職員研修、事故等の院内報告制度など)の整備が義務付けられている。 ・医療事故調査制度(2015年開始):医療に起因し、管理者が予期しなかった死亡・死産が発生した場合、医療機関は医療事故調査・支援センターに報告し、院内調査を行う。 ・医療事故情報収集等事業:日本医療機能評価機構が医療事故やヒヤリ・ハットの事例を収集・分析し、医療安全情報として提供している。
ハインリッヒの法則
・1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故、300件のヒヤリ・ハットが存在するという経験則。小さな事例を把握し対策を立てることが重大事故の予防につながる。
POINT
・インシデントレポートの目的は再発防止であり、個人の責任追及ではない。 ・作成者は当事者や発見者である医療従事者で、提出先は院内の医療安全管理部門である。 ・事実経過、発生要因、改善策を記載する。 ・報告数が多いことは安全文化が根付いている証であり、報告数が少ないことは安全の証明にはならない。 ・内容を外部公開したり、保健所に提出したりするものではない。
