「同意」と「賛意」は違う―子どもを研究の主人公にするインフォームド・アセント
第118回医師国家試験 B問題 第25問
国試問題にチャレンジ
16歳未満を対象にした臨床研究を行う。 対象者の理解力に合わせて説明し,研究への賛意を得るのはどれか。
- a.オプトアウト
- b.パターナリズム
- c.リビングウィル
- d.セカンドオピニオン
- e.インフォームド・アセント
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
インフォームド・アセントとは、小児など法的に有効な同意を単独では与えられない人に対し、理解力に応じたわかりやすい説明を行い、本人の賛意を得ることです。代諾者(親権者など)のインフォームド・コンセントに代わるものではなく、それに加えて行い、本人が拒否した場合はその意向を尊重するよう努めます。オプトアウトは通知・公開により拒否の機会を保障する方式、パターナリズムは本人の利益を理由に意思に反して介入する父権主義、リビングウィルは本人があらかじめ残す事前指示書、セカンドオピニオンは主治医以外の医師への意見聴取であり、いずれも意味が異なります。倫理指針では16歳以上や中学校等の課程修了者について本人同意の扱いも定められています。似た倫理用語を正確に区別することは、患者や研究対象者の自律性を尊重する実践の基礎になります。
解答・解説
正解はeです
本問は、医療・研究倫理に関する用語の意味を問う問題である。設問の状況は「16歳未満を対象とする臨床研究」で、その対象者本人に対して「理解力に合わせて説明し、研究への賛意を得る」手続きが何とよばれるかが問われている。 小児は法的にも発達段階的にも、研究参加について単独で有効な同意(インフォームド・コンセント)を与えることが難しい。そのため、原則として親権者などの代諾者から同意を得る。しかし、それだけで済ませると子ども自身の意思が置き去りにされてしまう。そこで、子どもの年齢や理解力に応じた言葉・資料で研究の内容を説明し、本人の納得と賛意を得る手続きが求められる。これがインフォームド・アセントである。 わが国の「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」でも、16歳未満などで代諾者からインフォームド・コンセントを受ける場合に、研究対象者本人が自らの意向を表せると判断されるときは、インフォームド・アセントを得るよう努めること、また本人が参加を拒否する意向を示した場合にはその意向を尊重するよう努めることが定められている。 他の選択肢は、いずれも医療倫理や研究倫理の用語ではあるが、「小児本人の理解力に応じた説明と賛意」という内容とは一致しない。
選択肢考察
- ×a. オプトアウト
誤りである。オプトアウトは、対象者一人ひとりから個別に文書や口頭で同意を得る代わりに、研究の目的や利用する情報などをあらかじめ通知・公開し、対象者が参加を拒否できる機会を保障する方法である。拒否の申し出がなければ参加を認めたものとして扱う。主に既存の診療情報や試料を用いる観察研究などで用いられる手続きであり、本人に理解力に合わせた説明をして積極的な賛意を得る行為とは逆の性格をもつ。
- ×b. パターナリズム
誤りである。パターナリズム(父権主義、温情的干渉主義)は、強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益のためだとして、本人の意思にかかわらずその行動や決定に介入・干渉することをいう。医療の場では、医師が「患者のため」として患者の意向を十分に確かめずに診療方針を決めることを指す。本人の理解と賛意を得ようとするインフォームド・アセントは、むしろパターナリズムを避けて本人の自律性を尊重するための手続きである。
- ×c. リビングウィル
誤りである。リビングウィルは、将来、病気や事故で自らの意思を表明できなくなったときに備えて、受けたい医療・受けたくない医療(延命治療の差し控えなど)について本人があらかじめ書面で示しておく事前指示書である。尊厳死の宣誓書ともよばれる。判断能力のある本人自身が作成するものであり、小児の研究参加に関する賛意とは関係がない。
- ×d. セカンドオピニオン
誤りである。セカンドオピニオンは、患者が診断や治療方針について重要な決定をする際に、それまでの経過や検査結果などの資料をもとに、主治医以外の医師に意見を求めることである。原則として、意見を述べる医師が新たに検査や治療を行うものではなく、主治医を替えることを目的とするものでもない。患者の自己決定を助ける仕組みであり、研究参加の賛意を得る手続きではない。
- ○e. インフォームド・アセント
正しい。インフォームド・アセントは、小児など法的に有効な同意を単独では与えられない人を対象とする診療や研究において、本人の理解力に応じてわかりやすく説明し、本人がその内容を理解したうえで賛意を示すことをいう。代諾者(親権者など)から得るインフォームド・コンセントに加えて行われるもので、子どもを意思決定の主体として尊重する目的がある。本人が拒否の意向を示した場合には、その意向を尊重するよう努めることが求められる。
インフォームド・コンセントとインフォームド・アセント
・インフォームド・コンセント:医療行為や研究について、その目的・内容・予想される利益と危険性・他の選択肢などの十分な説明を受け、本人が理解したうえで、強制されることなく自発的に同意すること。一方的な説得による承諾は該当しない。現在は、医療者と患者が情報を共有し、本人にとって最善の方針を一緒に決めていく協働的な過程(共同意思決定)として理解されている。 ・インフォームド・アセント:法的な同意能力が不十分な小児などに対し、理解力に応じた説明を行って本人の賛意を得ること。代諾者の同意に代わるものではなく、それに加えて行う。
わが国の研究倫理指針における未成年者の扱い(概要)
・研究対象者が16歳未満などの場合は、親権者などの代諾者からインフォームド・コンセントを受ける。そのうえで本人に理解力に応じた説明を行い、インフォームド・アセントを得るよう努める。 ・中学校等の課程を修了している、または16歳以上の未成年者で、十分な判断能力があると判断される場合は、一定の条件のもとで本人からインフォームド・コンセントを受けることができる。
関連用語
・オプトイン:本人から積極的な同意を得て初めて参加とする方式。オプトアウトの対となる考え方である。 ・アドバンス・ケア・プランニング(ACP):将来の医療・ケアについて、本人が家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、意思を共有していく過程。リビングウィルなどの事前指示を含む、より広い取り組みである。
POINT
・インフォームド・アセント=小児など同意能力が不十分な人に、理解力に応じた説明を行い本人の賛意を得ること。代諾者のインフォームド・コンセントに加えて行う。 ・オプトアウト=情報を通知・公開し、拒否の機会を保障する方式(拒否がなければ参加とみなす)。 ・パターナリズム=本人の利益を理由に、本人の意思に反して介入する父権主義。 ・リビングウィル=意思表示ができなくなった場合に備え、望む医療を本人があらかじめ書面に残す事前指示書。 ・セカンドオピニオン=主治医以外の医師に診断・治療方針についての意見を求めること。
