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「短い処方」は悪者か?―高齢者ポリファーマシーが生まれる本当の理由

第118回医師国家試験 B問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第118回 B問題 第15問

高齢者のポリファーマシーの原因で誤っているのはどれか。

  1. a.多疾患の併存
  2. b.処方日数の短期化
  3. c.複数医療機関からの処方
  4. d.薬剤自己管理能力の低下
  5. e.医療機関と薬局の連携の欠如

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は高齢者のポリファーマシーがなぜ起こるのか、その背景を問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式なので、それぞれの要因が「薬を増やす方向」に働くのか、それとも「見直しを促す方向」に働くのかを考えるのが着眼点になる。まず、ポリファーマシーとは何だと思う?
医学生医学生
薬の数が多いこと、ですよね。6剤以上とか、何剤からという基準があった気がします。
ドクタードクター
半分正解かな。高齢者では6剤以上で有害事象が増えるという報告があって目安にはされるけれど、厳密な剤数の定義はない。大事なのは、多剤服用によって薬物有害事象や飲み間違い、アドヒアランスの低下といった問題が起きている、あるいは起きやすくなっている状態を指すという点なんだ。
医学生医学生
数そのものより「害が出やすい状態」が問題なんですね。
ドクタードクター
そう。では原因を整理しよう。患者側、医療提供側、医療システム側の3つに分けると見通しがよくなる。患者側の代表が多疾患の併存だ。
医学生医学生
高血圧、糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症……と、総合診療科の実習で見た高齢の患者さんは、ほとんどがいくつも病気を抱えていました。
ドクタードクター
まさにそれ。各疾患のガイドラインどおりに薬を足し算していくだけで、あっという間に10剤近くになる。もう一つの患者側要因が薬剤自己管理能力の低下だ。認知機能や視力、手指の巧緻性が落ちると、PTP包装から薬を取り出すことすら難しくなる。
医学生医学生
でも、自己管理ができないと飲む量が減るだけで、薬が増える原因にはならない気がします。
ドクタードクター
いい疑問だね。実は飲み忘れで効果が出ないと、医師は「効いていない」と判断して増量や追加をしてしまうことがある。逆に重複服用で有害事象が出ることもある。しかも薬が多いほど服薬は複雑になり、さらに管理が難しくなる。悪循環なんだ。
医学生医学生
なるほど、見かけ上の「効果不十分」が薬を増やすんですね。医療提供側の要因はどうでしょう。
ドクタードクター
複数医療機関からの処方が代表だ。内科、整形外科、眼科、精神科と別々にかかっていて、それぞれが他院の処方を把握しないまま出すと、睡眠薬や消炎鎮痛薬が重複したり、相互作用のある組み合わせが生じたりする。
医学生医学生
医療機関と薬局の連携の欠如も、同じ流れで原因になりますね。誰も重複に気づけないので。
ドクタードクター
その通り。だからこそお薬手帳による情報の一元化や、かかりつけ薬剤師、薬局からの疑義照会やトレーシングレポートといった仕組みが整えられてきた。では残る処方日数の短期化はどうだろう。
医学生医学生
薬局実習で「長期処方で薬が余っている」という話を聞きました。短期化ならむしろ見直しの機会が増えるので、原因とはいえないと思います。
ドクタードクター
正解。処方日数が短ければ再診の頻度が上がり、効果判定や有害事象の早期発見、腎機能の確認、残薬確認の機会が増える。不要な薬を減らしたり中止したりしやすくなるんだ。ポリファーマシーに結びつくのは逆で、長期処方により見直されないまま続く「漫然投与」のほうだよ。
医学生医学生
選択肢が「長期化」なら原因として正しかった、ということですね。言葉の向きに気をつけます。
ドクタードクター
そこがこの問題のひっかけだね。発展として処方カスケードも押さえておこう。薬の有害事象を新たな病気と誤認して別の薬を足す連鎖のことで、カルシウム拮抗薬による下腿浮腫に利尿薬を足す、抗精神病薬による薬剤性パーキンソニズムに抗パーキンソン病薬を足す、といった例が有名だ。
医学生医学生
新しい症状が出たら、まず「薬のせいでは?」と疑うことが大事なんですね。
ドクタードクター
そう。高齢者は腎機能低下で腎排泄型の薬が蓄積しやすく、体脂肪の増加で脂溶性薬物の半減期も延びる。中枢神経の感受性も高いから、ベンゾジアゼピン系薬でふらつきや転倒、せん妄が起きやすい。対策としては、日本老年医学会のガイドラインやBeers基準を参考にした定期的な減処方、一包化や服用回数の削減、そして医師・薬剤師・看護師・介護職の多職種連携が柱になるよ。
医学生医学生
OSCEの医療面接でも、他院の処方やお薬手帳を必ず確認するように習いました。その意味がよくわかりました。

まとめ

ポリファーマシーは単に薬の数が多いことではなく、多剤服用によって有害事象や服薬過誤、アドヒアランス低下が起こりやすくなった状態を指します。その原因には、多疾患の併存や薬剤自己管理能力の低下といった患者側要因、複数医療機関からの処方や漫然とした長期処方、処方カスケードといった医療提供側要因、医療機関と薬局の連携不足といったシステム要因があります。一方、処方日数の短期化は効果・有害事象・残薬を確認して処方を見直す機会を増やすため、原因ではありません。高齢者では薬物動態・薬力学の加齢変化により有害事象が起こりやすく、定期的な減処方、お薬手帳やかかりつけ薬剤師による情報の一元化、服薬の簡便化、多職種連携が対策の柱となります。「薬は足すより見直す」という視点は、高齢者診療のあらゆる場面で欠かせない基本姿勢です。

解答・解説

正解はbです

ポリファーマシー(polypharmacy)は、単に服用する薬の数が多いことではなく、多剤服用に伴って薬物有害事象、服薬過誤、服薬アドヒアランス(患者が指示どおりに服薬すること)の低下などの問題が生じている、あるいは生じやすくなっている状態を指す。高齢者では6剤以上で有害事象の発生頻度が高まるとの報告があり、数の目安として用いられることが多いが、何剤からという厳密な定義はない。 本問は「原因として誤っているもの」を選ぶ問題である。ポリファーマシーが生じる背景は、大きく次の3つに整理できる。 (1) 患者側の要因: 加齢に伴い複数の慢性疾患をもつようになる(多疾患併存)、認知機能・視力・手指の巧緻性の低下などで薬を自分で管理できなくなる。 (2) 医療提供側の要因: 診療科ごと・医療機関ごとに処方が行われる、処方の見直しがされず漫然と継続される、処方カスケード(薬の有害事象を新たな症状と誤認し、さらに薬を追加すること)が起こる。 (3) 医療システムの要因: 医療機関どうし、あるいは医療機関と薬局の間で薬剤情報が共有されない。 これらはいずれも「薬が増える」「増えた薬が見直されない」方向に働く。一方、処方日数を短くすることは受診・処方の機会を増やし、そのたびに効果や有害事象、残薬を確認して減量・中止を検討する機会になるため、むしろ漫然投与の抑止につながる。ポリファーマシーの原因として挙げられるのは長期処方の方であり、「処方日数の短期化」が誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  多疾患の併存

    原因として正しい。高齢者は高血圧、糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症、慢性心不全、認知症など複数の慢性疾患を同時にもつこと(多疾患併存、multimorbidity)が多い。各疾患の診療ガイドラインに沿って治療薬を足し合わせていくと、それだけで薬剤数は容易に増える。対策としては、患者の生活機能や価値観を踏まえて治療の優先順位を決め、目標を設定したうえで期間を区切って処方することが求められる。

  2. ○b.  処方日数の短期化

    原因として誤っており、これが正解である。処方日数が短ければ再診の頻度が上がり、効果の判定、有害事象の早期発見、腎機能などの検査値の確認、残薬の確認を行う機会が増える。その結果、不要になった薬の中止や減量を検討しやすくなり、長期連用による薬物の蓄積(例: 脂溶性の睡眠薬が脂肪組織にたまり作用が遷延すること)も避けやすい。ポリファーマシーに結びつくのは逆に、長期処方によって処方内容が見直されないまま継続される「漫然投与」である。

  3. ×c.  複数医療機関からの処方

    原因として正しい。高齢者は内科、整形外科、眼科、精神科など複数の医療機関や診療科を受診していることが多い。各医師が他院での処方を把握しないまま処方すると、薬剤数の増加に加えて、同効薬の重複(例: 複数の医療機関から別々に睡眠薬や消炎鎮痛薬が出る)、併用禁忌・相互作用のある薬の組み合わせが生じ、有害事象の危険が高まる。

  4. ×d.  薬剤自己管理能力の低下

    原因として正しい。認知機能の低下、視力障害、手指の動きの不自由さ(PTP包装から薬を取り出せないなど)により、高齢者は薬を指示どおりに服用・管理することが難しくなる。飲み忘れで効果が不十分になると、医師が「効いていない」と判断して薬を増量・追加することがあり、さらに薬が増える。逆に飲み過ぎや重複服用による有害事象も起こりうる。多剤であるほど服薬は複雑になりアドヒアランスはさらに低下するという悪循環に陥る。

  5. ×e.  医療機関と薬局の連携の欠如

    原因として正しい。処方する医療機関と調剤する薬局の間で情報が共有されないと、重複処方や相互作用、禁忌薬の処方を誰も発見できないまま調剤されてしまう。このため、お薬手帳による服薬情報の一元化、かかりつけ薬剤師・薬局による服薬情報の一元的・継続的な把握、薬局から処方医への疑義照会や情報提供(トレーシングレポート)などの仕組みが整備されている。

ポリファーマシーで有害事象が起こりやすい理由

・薬物動態の加齢変化: 腎機能(糸球体濾過量)の低下により腎排泄型薬物が蓄積しやすい。肝血流量・肝代謝能の低下、体脂肪率の増加と体内水分量の減少により、脂溶性薬物は分布容積が増えて半減期が延長し、水溶性薬物は血中濃度が上がりやすい。 ・薬力学の加齢変化: 中枢神経系の薬物感受性が高まり、ベンゾジアゼピン系薬などでふらつき・転倒・せん妄を起こしやすい。 ・薬物相互作用: 同じ代謝酵素(シトクロムP450など)で代謝される薬を併用すると、競合的阻害により一方の血中濃度が上昇する。

処方カスケード

薬の有害事象を新たな疾患と捉えて別の薬を追加する連鎖を指す。例として、カルシウム拮抗薬による下腿浮腫に利尿薬を追加する、抗精神病薬などによる薬剤性パーキンソニズムに抗パーキンソン病薬を追加する、などがある。

ポリファーマシー対策

・定期的な処方の見直し(減処方、deprescribing)と、優先順位をつけた治療目標の設定 ・高齢者に特に慎重な投与を要する薬物のリスト(日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」、米国のBeers基準など)の活用 ・お薬手帳、かかりつけ医・かかりつけ薬剤師による服薬情報の一元管理 ・一包化、服薬カレンダー、配合剤の利用、服用回数を減らすなど服薬の簡便化 ・医師、薬剤師、看護師、介護職など多職種による連携

POINT

・ポリファーマシーは「薬の数が多いこと」だけでなく、それによって有害事象や服薬過誤が起こりやすい状態を指す。 ・原因: 多疾患併存、複数医療機関・診療科からの処方、薬剤自己管理能力の低下、医療機関と薬局の連携不足、漫然とした長期処方、処方カスケード。 ・処方日数の短期化は処方見直しの機会を増やすため原因ではない。原因となるのは長期処方による漫然投与である。 ・対策: 定期的な処方見直し、お薬手帳・かかりつけ薬剤師による情報の一元化、服薬の簡便化、多職種連携。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。