「眠い」は数えない―J-CHS基準5項目で見抜く身体的フレイル
第120回医師国家試験 C問題 第44問
国試問題にチャレンジ
75歳の女性。最近①疲れやすく,②日中も眠気が強いことを主訴に来院した。③歩く速度が遅くなり,脚が細くなったと感じている。身長150cm,体重40kg(④半年間で3kgの体重減少)。⑤握力は右14kg,左11kgであった。 下線部のうち,身体的フレイルか否かを判断する上で,必要な項目として誤っているのはどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
身体的フレイルの判定には日本版CHS(J-CHS)基準が用いられ、体重減少(6か月で2kg以上)、筋力低下(握力が男性28kg未満・女性18kg未満)、疲労感、歩行速度低下(1.0m/秒未満)、身体活動低下の5項目のうち3項目以上でフレイル、1〜2項目でプレフレイルと判定します。日中の眠気はこの5項目に含まれず、疲労感と混同しないことが重要で、睡眠時無呼吸症候群や薬剤の影響など別の評価のきっかけとして扱います。握力の閾値はサルコペニアのAWGS 2019基準と一致しており、サルコペニアは身体的フレイルの中核的な要因です。フレイルには精神・心理的、社会的な側面もあり、運動・栄養・口腔機能・社会参加・多剤併用の見直しによって健常に戻りうる可逆的な状態です。基準を正確に押さえて早期に見つけることが、高齢者の要介護予防の第一歩になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
75歳の後期高齢女性が、易疲労感、日中の強い眠気、歩行速度の低下と下肢の筋のやせを訴えている。身長150cm・体重40kgでBMI(体格指数:体重kg÷身長m÷身長m)は約17.8と低めであり、半年で3kgの体重減少がある。握力は右14kg・左11kgで、高齢女性としても明らかに低い。
考え方
身体的フレイルの判定には、Friedらの基準(CHS基準)を日本人向けに修正した日本版CHS基準(J-CHS基準、2020年改定版)が用いられる。評価項目は次の5つである。 (1) 体重減少:6か月で2kg以上の意図しない体重減少 (2) 筋力低下:握力が男性28kg未満、女性18kg未満 (3) 疲労感:(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする (4) 歩行速度の低下:通常歩行速度が1.0m/秒未満 (5) 身体活動の低下:軽い運動・体操も、定期的な運動・スポーツも、いずれも週1回もしていない 3項目以上に該当すればフレイル、1〜2項目でプレフレイル、該当なしで健常(ロバスト)と判定する。 下線部を5項目と照らし合わせると、①は疲労感、③は歩行速度の低下、④は体重減少、⑤は筋力低下(握力)にそれぞれ対応する。一方、②の日中の眠気はどの項目にも含まれない。したがって、判定に必要な項目として誤っているのは②である。なお本例は①③④⑤の4項目を満たしており(身体活動は記載なし)、身体的フレイルと判定できる。
選択肢考察
- ×a. ①
「疲れやすい」は、J-CHS基準の「疲労感(ここ2週間わけもなく疲れたような感じがする)」に当たる。主観的な疲労の訴えはフレイル判定の5項目の一つであり、判定に必要な項目である。
- ○b. ②
日中の強い眠気は、睡眠障害(不眠による睡眠不足、睡眠時無呼吸症候群など)や薬剤の影響などを考えるきっかけになる症状だが、J-CHS基準の5項目(体重減少・筋力低下・疲労感・歩行速度低下・身体活動低下)には含まれない。よって身体的フレイルの判定に必要な項目ではなく、本問の正解である。疲労感と眠気は混同されやすいが、別の症状として区別する。
- ×c. ③
歩行速度の低下はJ-CHS基準の一項目であり、実際の判定では通常歩行速度1.0m/秒未満を該当とする。「脚が細くなった」という訴えは下肢の筋量減少(サルコペニア)を疑わせ、身体機能低下を裏づける所見である。判定に必要な項目である。
- ×d. ④
J-CHS基準では「6か月で2kg以上の意図しない体重減少」を該当とする。本例は半年で3kg減っており、この基準を満たす。体重減少は低栄養や筋量減少を反映する重要な項目であり、判定に必要である。
- ×e. ⑤
握力は筋力低下の指標で、J-CHS基準では男性28kg未満、女性18kg未満を該当とする。本例は利き手側でも14kgと18kgを下回っており、筋力低下ありと判断できる。判定に必要な項目である。
フレイルとは
フレイルは、加齢に伴って心身の予備能力が低下し、ストレス(感染症、手術、転倒など)に対して脆弱になった状態をいう。健常な状態と要介護状態の中間に位置し、適切な介入(運動、栄養改善、社会参加など)によって健常な状態へ戻りうる可逆性をもつ点が重要である。英語のfrailty(虚弱)に由来し、以前は「虚弱」「老衰」などと表現されていたが、介入可能性を強調するため2014年に日本老年医学会が「フレイル」という用語を提唱した。
フレイルの多面性
身体的フレイル:筋力・身体機能の低下、低栄養、サルコペニアなど 精神・心理的フレイル:軽度認知障害(MCI)、うつなど 社会的フレイル:独居、閉じこもり、経済的困窮、社会的孤立など これらは相互に影響し合い、悪循環(フレイル・サイクル:低栄養→筋量減少→活動量低下→食欲低下→さらなる低栄養)を形成する。
サルコペニアとの関係
サルコペニアは加齢に伴う骨格筋量の減少と筋力または身体機能の低下を指し、身体的フレイルの中核的な要因である。アジアのサルコペニア診断基準(AWGS 2019)でも握力(男性28kg未満、女性18kg未満)が用いられ、J-CHS基準の握力の閾値と一致している。
フレイルへの対応
レジスタンス運動(筋力トレーニング)を含む運動療法、十分なエネルギー・たんぱく質の摂取、口腔機能の維持(オーラルフレイル対策)、社会参加の促進、多剤併用(ポリファーマシー)の見直しなどが柱となる。
POINT
・身体的フレイルの判定はJ-CHS基準の5項目:体重減少(6か月で2kg以上)、筋力低下(握力 男性<28kg・女性<18kg)、疲労感、歩行速度低下(<1.0m/秒)、身体活動低下。 ・3項目以上でフレイル、1〜2項目でプレフレイル、0項目で健常。 ・日中の眠気は判定項目に含まれない。疲労感と混同しない。 ・フレイルは可逆的であり、早期発見・介入が要介護予防につながる。
