年をとると腎臓で「増える」ものは?―細動脈硬化から読み解く加齢腎
第120回医師国家試験 E問題 第18問
国試問題にチャレンジ
加齢に伴い増加するのはどれか。
- a.腎容積
- b.尿濃縮力
- c.腎血漿流量
- d.硬化糸球体数
- e.糸球体濾過量〈GFR〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
加齢腎の本態は腎内の小動脈・細動脈の硬化による皮質虚血で、その結果として硬化糸球体が増加し、機能ネフロン数が減少します。そのため腎容積・腎重量(皮質優位)、腎血漿流量、GFR、尿濃縮力はいずれも低下し、増えるのは硬化糸球体や間質線維化などの障害所見、そして腎血漿流量の低下がより大きいことによる濾過率です。高齢者は筋肉量が少ないため血清クレアチニンが正常でもGFRが低下していることがあり、eGFRやシスタチンCによる評価、腎排泄型薬物の用量調整が欠かせません。腎予備能の低下やレニン・アルドステロン系の活性低下により、脱水・急性腎障害・高カリウム血症をきたしやすい点も押さえておきましょう。細動脈硬化という一つの起点から変化を整理する考え方は、高齢者診療で安全に薬物を使い、腎障害を予防するための土台になります。
解答・解説
正解はdです
【テーマ】加齢に伴う腎臓の構造・機能の変化 腎臓は加齢の影響を受けやすい臓器の一つである。加齢腎の変化の中心にあるのは、腎内の小動脈・細動脈の動脈硬化(細動脈硬化)である。血管が硬く細くなると、とくに腎皮質の血流が減少し、その下流にある糸球体が虚血に陥って硬化(糸球体の毛細血管係蹄がつぶれて線維性の組織に置き換わること)していく。硬化した糸球体はもはや濾過を行えないため、機能しているネフロン(糸球体と尿細管からなる腎臓の機能単位)の数が減る。 この一連の流れから、加齢により次の変化が生じる。 ・構造: 皮質の菲薄化・萎縮 → 腎容積・腎重量の減少、硬化糸球体の増加、尿細管萎縮・間質線維化 ・血流: 腎血漿流量(RPF)の低下 ・濾過: 糸球体濾過量(GFR)の低下 ・尿細管機能: 尿濃縮力の低下、尿希釈力の低下、Na保持能の低下など つまり、加齢で「増える」のは硬化糸球体(や間質線維化などの障害所見)であり、容積・血流・濾過・濃縮といった「量や機能」はいずれも低下すると整理すれば正解を導ける。
選択肢考察
- ×a. 腎容積
加齢とともに腎皮質の血流が減少し、皮質優位に萎縮・菲薄化が進むため、腎容積と腎重量は減少する。腎重量は成人期に最大となり、高齢になるにつれて徐々に小さくなる。髄質は比較的保たれるため、萎縮は主に皮質に目立つ。
- ×b. 尿濃縮力
尿濃縮は、髄質に形成される高い浸透圧勾配と、集合管での抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)による水再吸収によって行われる。加齢ではネフロン数・尿細管の減少に加え、皮質血流が減る一方で髄質への血流が相対的に増えて髄質の浸透圧勾配が洗い流されやすくなること、集合管のADHへの反応性が低下することなどにより、尿濃縮力は低下する。これが高齢者の夜間多尿・夜間頻尿や、脱水に陥りやすい一因となる。
- ×c. 腎血漿流量
腎内の小動脈・細動脈の硬化により腎血管抵抗が増し、腎血漿流量(RPF)は加齢とともに低下する。血流低下は皮質で目立ち、髄質に近い傍髄質ネフロンへの血流は比較的保たれる。RPFの低下はGFRの低下よりも大きいため、濾過率(FF = GFR/RPF)はむしろ上昇する傾向がある。
- ○d. 硬化糸球体数
加齢により腎内の小動脈・細動脈に硬化が進むと、その支配下の糸球体が虚血に陥り、分節性の硬化から全節性の硬化(糸球体全体の硬化)へと進行する。こうして硬化糸球体の数・割合は年齢とともに増加する。高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙など動脈硬化を促進する因子があると、この変化はさらに加速する。硬化糸球体の増加は機能ネフロン数の減少を意味し、GFR低下の主な原因となる。
- ×e. 糸球体濾過量〈GFR〉
硬化糸球体の増加によって機能ネフロン数が減少し、腎血流も低下するため、GFRは加齢とともに低下する。進行した硬化糸球体では輸入細動脈と輸出細動脈の間に短絡路が形成され、血液が糸球体を通らずに流れることも濾過量低下に関与する。高齢者では筋肉量が減るため、血清クレアチニン値が正常範囲でもGFRは低下していることがある点に注意が必要である。
加齢腎(腎の老化)のまとめ
・増加するもの: 硬化糸球体の数・割合、尿細管萎縮、間質線維化、腎内細動脈の硬化(内膜肥厚・硝子化)、濾過率(FF)、腎嚢胞(単純性腎嚢胞は高齢者に多い) ・減少するもの: 腎容積・腎重量(皮質優位)、機能ネフロン数、腎血漿流量、GFR、尿濃縮力・尿希釈力、Na保持能、レニン・アルドステロン活性
臨床的な意味
・腎予備能の低下: 安静時には目立たなくても、脱水・感染・手術・薬剤などの負荷がかかると容易に急性腎障害を起こす。 ・尿濃縮力低下とNa保持能低下: 水分摂取が減ると脱水になりやすく、また夜間多尿・夜間頻尿の原因となる。 ・レニン・アルドステロン系の活性低下: 高カリウム血症をきたしやすく、RAS阻害薬(ACE阻害薬・ARB)やK保持性利尿薬の使用時に注意が必要である。 ・薬物投与: 腎排泄型の薬物(アミノグリコシド系抗菌薬、ジゴキシンなど)は、高齢者ではGFRを推算したうえで減量・投与間隔の延長を検討する。 ・GFR評価の注意: 高齢者は筋肉量が少ないため、血清クレアチニン値のみでは腎機能を過大評価しやすい。eGFRや、筋肉量の影響を受けにくいシスタチンCを用いた評価が有用である。
臓器ごとの老化
老化の速さは臓器によって異なり、腎臓と肺は機能低下が比較的大きい臓器である。肺では弾性収縮力の低下により残気量が増え、肺活量が減少し、労作時の息切れの一因となる。
POINT
・加齢腎の本態は腎内小動脈・細動脈の硬化による皮質虚血であり、硬化糸球体が増加して機能ネフロン数が減る。 ・加齢で増加: 硬化糸球体、間質線維化、濾過率(FF)。 ・加齢で減少: 腎容積・腎重量、腎血漿流量、GFR、尿濃縮力。 ・高齢者は血清クレアチニンが正常でもGFRが低下していることがあり、腎排泄型薬物の用量調整が必要である。
