StudyMed医師国家試験

「参加」ではなく「参画」―患者・市民が研究のパートナーになるとき、守るべき一線

第118回医師国家試験 B問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第118回 B問題 第11問

臨床研究における患者・市民参画で誤っているのはどれか。

  1. a.研究初期からパートナーとして参画する。
  2. b.研究で知り得た情報を公開する権利がある。
  3. c.研究対象者の負担が軽減されるように助言する。
  4. d.研究倫理審査委員会へ一般の立場の委員として参加する。
  5. e.研究に関連する文書が分かりやすい表現になるように助言する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、臨床研究における患者・市民参画、いわゆるPPIについての問題だ。PPIで患者・市民が担う役割と、パートナーとして負う責任。この2つを整理できれば迷わず解けるよ。まず、PPIと聞いて何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
患者さんが臨床試験に被験者として参加すること……でしょうか。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴なんだ。被験者として研究に協力するのは「参加」。PPIの「参画」は、研究の計画・実施・評価・成果の普及といった進め方そのものに、患者や家族、一般市民がパートナーとして関わることを指す。だから参画する人は研究対象者である必要もない。日本ではAMEDが手引きを出して推進しているよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、研究者だけで決めると患者さんの視点が抜け落ちる、という話を聞いた気がします。
ドクタードクター
まさにそれが目的だ。研究者だけで設計すると、患者にとって本当に大事な評価項目が抜けたり、通院や検査の負担が過大になったり、説明文書が難解になったりしやすい。それを患者・市民の視点で補うんだ。では、いつから関わるのがよいと思う?
医学生医学生
計画ができあがってから意見をもらうのでは遅い気がします。
ドクタードクター
その通り。研究が固まってからでは反映できる範囲が限られるから、研究課題の設定や計画立案の段階からパートナーとして参画するのが望ましい。研究初期から参画する、という記述は正しいね。
医学生医学生
研究対象者の負担が軽くなるように助言する、というのも代表的な役割ですよね。
ドクタードクター
そう。研究者が組んだ来院頻度や採血量、質問票の分量は、実際に生活しながら参加する患者から見ると重すぎることがある。現実的な負担について意見を述べれば、対象者の負担軽減だけでなく、募集のしやすさや脱落の防止にもつながるんだ。
医学生医学生
説明文書を分かりやすくする助言もそうですね。臨床実習で同意書を見せてもらったら、専門用語だらけで自分でも読むのに苦労しました。
ドクタードクター
医学生でもそう感じるなら、一般の人にはなおさらだよね。インフォームド・コンセントを実質的なものにするには、対象者が内容を正しく理解できることが前提だ。読み手の立場から表現を点検してもらうのは、研究者と市民の橋渡しとして重要な役割だよ。では倫理審査委員会への参加はどうだろう。
医学生医学生
委員会は医師や研究者の専門家だけで構成されるものだと思っていました。
ドクタードクター
実は違うんだ。人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針では、自然科学の有識者、倫理学・法律学などの人文・社会科学の有識者に加えて、研究対象者の観点も含めて一般の立場から意見を述べられる者を委員に含めることが求められている。外部の者を複数含み、男女両性で5名以上という要件もあるね。PPIに関わってきた人は、その一般の立場の委員として適任なんだ。
医学生医学生
そうすると、残る「研究で知り得た情報を公開する権利がある」が誤りですね。対等なパートナーなら公開できてもよさそうに思えたんですが。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。パートナーとして深く関わるからこそ、未発表のデータや知的財産に関わる情報、研究対象者の個人情報に触れる可能性がある。だから研究者と同じく守秘義務を負うんだ。成果の公表は、倫理審査で承認された計画に沿って、研究チームとして学会発表や論文化といった手続きを経て行うもの。参画者個人が独自に公開する権利はないよ。
医学生医学生
権利が対等になるというより、責任も研究者と同じように負う、ということですね。
ドクタードクター
いい整理だ。最後に発展的な話をしておこう。PPIは研究の成果の普及の場面でも活躍する。研究結果を患者や一般市民向けに分かりやすく伝えるのも、参画者の大事な役割だ。
医学生医学生
将来、自分が研究に関わるときも、最初の段階から患者会の方などに声をかけるべきなんですね。
ドクタードクター
そうだね。臨床現場でも、患者が何を大切にしているかを聞く姿勢は、研究だけでなく日々の診療にも通じる。患者は「研究の対象」ではなく「研究を共につくる仲間」になり得る、という発想を持っておいてほしい。

まとめ

患者・市民参画(PPI)とは、患者や家族、一般市民が研究の計画・実施・評価・成果の普及に研究者のパートナーとして関わる取り組みで、被験者として協力する「参加」とは区別されます。研究初期からの参画が望ましく、研究対象者の負担軽減への助言、説明文書を分かりやすくする助言、倫理審査委員会の一般の立場の委員としての参加などが代表的な役割です。一方、パートナーとして機密情報や個人情報に触れる以上、研究者と同様に守秘義務を負い、知り得た情報を独自に公開する権利はありません。成果の公表は研究チームとして定められた手続きに沿って行われます。患者の視点を研究に取り入れる意義と参画者の責任をセットで理解することは、これからの臨床研究に関わる医師にとって欠かせない素養です。

解答・解説

正解はbです

【テーマ】患者・市民参画(PPI:Patient and Public Involvement)とは、臨床研究の計画・実施・評価・成果の普及といった各段階に、患者やその家族、一般市民が研究者の「パートナー」として関わることをいう。研究に「参加する(被験者として協力する)」こととは異なり、研究の進め方そのものに患者・市民の視点を取り入れる取り組みである。日本では日本医療研究開発機構(AMED)が手引きを公表し、推進している。 【目的】研究者だけで研究を設計すると、患者にとって本当に重要な評価項目が抜け落ちたり、通院回数や検査負担が過大になったり、説明文書が難解になったりしやすい。PPIはこうした問題を防ぎ、研究対象者にとってより良い研究環境をつくるとともに、研究成果を社会により適切に還元することを目指している。 【考え方】患者・市民はパートナーとして研究に深く関与する以上、研究者と同様に研究上の機密情報や研究対象者の個人情報に触れる可能性がある。したがって、それらを守る守秘義務を負うのであって、知り得た情報を自由に公開する「権利」があるわけではない。この点を押さえれば、誤っている選択肢を選ぶことができる。

選択肢考察

  1. ×a.  研究初期からパートナーとして参画する。

    正しい記述である。PPIでは、研究課題の設定や研究計画の立案といった早い段階から患者・市民が関わることが望ましいとされる。研究が固まった後に意見を求めても反映できる範囲は限られるため、初期から対等なパートナーとして参画することで、患者にとって意味のある研究テーマや評価項目を設定しやすくなる。研究者だけの閉じた議論になることの弊害を防ぐ意味もある。

  2. ○b.  研究で知り得た情報を公開する権利がある。

    誤った記述であり、これが正解である。パートナーとして研究に関与する患者・市民は、未発表の研究データ、知的財産に関わる情報、研究対象者の個人情報などに接することがある。これらを守るため、研究者と同様に守秘義務を負う。研究成果の公表は研究チームとして適切な手続き(倫理審査で承認された計画に沿った学会発表・論文化など)を経て行うものであり、参画者個人が知り得た情報を独自に公開できる権利は存在しない。

  3. ×c.  研究対象者の負担が軽減されるように助言する。

    正しい記述である。研究者が考える検査スケジュールや来院頻度、服薬回数、採血量、質問票の分量などは、実際に参加する患者の生活から見ると負担が大きすぎることがある。患者・市民の立場から現実的な負担について意見を述べることは、研究対象者の負担軽減につながり、参加者の募集や研究の継続(脱落の防止)にも役立つ。PPIの代表的な役割の一つである。

  4. ×d.  研究倫理審査委員会へ一般の立場の委員として参加する。

    正しい記述である。「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」では、倫理審査委員会の構成要件として、医学・医療の専門家、倫理学・法律学などの人文・社会科学の有識者に加え、研究対象者の観点も含めて一般の立場から意見を述べることのできる者を含むことが求められている。患者・市民の立場で研究に関わってきた人は、この一般の立場の委員として適した人材である。

  5. ×e.  研究に関連する文書が分かりやすい表現になるように助言する。

    正しい記述である。説明文書・同意文書、募集案内、研究結果の一般向け報告などは、専門用語が多く研究対象者に理解しにくいものになりがちである。インフォームド・コンセントを実質的なものにするためには、対象者が内容を正しく理解できることが前提となる。患者・市民が読み手の立場から表現を点検し、平易な言葉への言い換えを助言することは、研究者と一般の人々との橋渡し役として重要な役割である。

患者・市民参画(PPI)の主な場面

・研究課題の設定:患者が本当に解決してほしい問題を研究テーマに反映する。 ・研究計画の立案:評価項目(患者にとって意味のあるアウトカム)、来院回数、検査内容などに意見を述べる。 ・文書作成:説明文書・同意文書・募集資料をわかりやすくする。 ・研究実施中:参加者の募集方法や継続支援に助言する。 ・成果の普及:研究結果を患者・一般市民向けにわかりやすく伝える。

「参画」と「参加」の違い

研究への「参加」は、研究対象者(被験者)として研究に協力することを指す。一方「参画」は、研究を共に進める立場として、研究の企画・運営に意見を出すことを指す。PPIの参画者は研究対象者である必要はなく、患者の家族や一般市民も含まれる。

倫理審査委員会の構成(倫理指針の要点)

・医学・医療の専門家など自然科学の有識者 ・倫理学・法律学の専門家など人文・社会科学の有識者 ・研究対象者の観点も含めて一般の立場から意見を述べることのできる者 ・研究機関に所属しない外部の者を複数含む ・男女両性で構成し、5名以上とする

参画者の責務

パートナーとして研究に関わる以上、研究に関する機密情報や個人情報の守秘義務を負う。研究の公表は研究チームとして定められた手続きに従って行う。

POINT

・患者・市民参画(PPI)は、患者・市民が研究の初期段階からパートナーとして研究の計画・実施・普及に関わる取り組みである。 ・役割の例:研究対象者の負担軽減への助言、説明文書をわかりやすくする助言、倫理審査委員会の一般の立場の委員など。 ・参画者は研究上の情報について守秘義務を負い、知り得た情報を自由に公開する権利はない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。