StudyMed医師国家試験

「固めない」ことから始まる―ICFで読み解くリハビリテーションの本当の目標

第118回医師国家試験 B問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第118回 B問題 第10問

リハビリテーションで誤っているのはどれか。

  1. a.発症後早期に開始する。
  2. b.患者の社会参加を支援する。
  3. c.患者の生活機能の改善を目指す。
  4. d.患者の目標を多職種で共有する。
  5. e.患者の機能障害の固定を目標とする。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はリハビリテーションの基本理念を問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式だから、リハビリが何を目指し、どう進めるものなのかを整理しておけば自然と答えが浮かび上がる。キーワードはWHOの国際生活機能分類、ICFだよ。
医学生医学生
リハビリというと、理学療法士さんが筋力訓練や歩行訓練をするイメージが強いです。
ドクタードクター
それも大事な一部だけど、本来はもっと広い概念なんだ。語源は「再び適した状態にする」。障害のある人が身体的・心理的・社会的・職業的にできる限り高いレベルに到達し、その人らしい生活を取り戻すための包括的な取り組みなんだよ。
医学生医学生
ICFは臨床医学総論の講義で出てきました。「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つでしたっけ。
ドクタードクター
その通り。そしてそれぞれが損なわれた状態を「機能障害」「活動制限」「参加制約」と呼ぶ。この3つをまとめた生活機能の改善を目指すのがリハビリだから、「生活機能の改善を目指す」という記述は正しいね。
医学生医学生
麻痺そのものが治らなくても、生活機能の改善にはなりうるということですか。
ドクタードクター
いい質問だ。たとえば片麻痺が完全には回復しなくても、装具や杖、動作の工夫で歩行やADLが自立すれば、活動制限は軽くなる。機能障害だけを見ていては、リハビリの成果を見誤ってしまうんだ。
医学生医学生
では「社会参加を支援する」も、ICFの「参加」にあたるので正しいですね。
ドクタードクター
そう。復職・復学、家庭内の役割の再獲得、地域活動への参加まで含めて支援する。住宅改修や福祉用具、介護保険や障害福祉サービスの活用もリハビリの守備範囲なんだ。次は開始時期について。発症後早期に始めるのはなぜだと思う?
医学生医学生
正直、急性期は安静が第一で、落ち着いてから始めるものだと思っていました。
ドクタードクター
そう考える学生は多いね。でも安静臥床が続くと、筋萎縮や関節拘縮、骨萎縮、起立性低血圧、心肺機能低下、褥瘡、深部静脈血栓症、せん妄といった廃用症候群が急速に進む。完全な安静では筋力が1週間で10〜15%程度落ちるとも言われていて、一度生じた廃用の回復には長い時間がかかるんだ。
医学生医学生
臨床実習の脳神経内科で、脳梗塞の患者さんが入院翌日からベッドサイドでリハビリを始めていて驚いたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれ。全身状態が許せば急性期から介入し、ICUでも早期離床を進めるのが今の原則だ。では多職種での目標共有はどうかな。
医学生医学生
医師、看護師、PT、OT、STがそれぞれ違うゴールで動いたら、患者さんが混乱しそうです。
ドクタードクター
その通り。MSWや管理栄養士、義肢装具士なども加わるから、カンファレンスで患者さんと家族の意向を踏まえた共通のゴールを設定・共有することが欠かせない。ここまでの4つは全部正しい記述だね。
医学生医学生
となると、誤っているのは「機能障害の固定を目標とする」ですね。固定を目指すのでは、リハビリの意味がなくなってしまいます。
ドクタードクター
正解。障害が固定するとは、後遺症として変化しなくなった状態のこと。これは不活動や介入の遅れで生じやすい、むしろ避けたい帰結なんだ。リハビリは機能障害をできる限り回復させ、固定を防ぐ方向に働きかける。回復に限界がある場合も、残存機能や代償手段で活動・参加を高めるのであって、固定そのものを目標にはしないよ。
医学生医学生
早期開始も、結局は固定を防ぐためなんですね。選択肢同士がつながって見えてきました。
ドクタードクター
いい気づきだね。最後に発展知識を。リハビリは病期によって急性期、回復期、生活期に分かれる。急性期は廃用予防と早期離床、回復期は回復期リハビリテーション病棟で集中的な機能回復とADL改善、生活期は在宅や施設で機能維持と社会参加を支える。それからICFは、旧来のICIDHの一方向モデルと違い、環境因子や個人因子も含めて要素が双方向に影響し合うと考える点が大切だ。
医学生医学生
環境を整えれば、機能障害が同じでも活動や参加は良くなりうる、ということですね。
ドクタードクター
その通り。病棟で「歩けないから家に帰れない」と考える前に、手すりや福祉用具、サービスの調整で帰れないかを考える。それがICF的な視点で、医師に求められるリハビリの理解なんだ。

まとめ

リハビリテーションは、ICFに基づき「心身機能・身体構造」「活動」「参加」からなる生活機能全体の改善を目指す包括的な取り組みであり、機能障害の固定を目標とするのではなく、回復・改善と固定の予防を目指します。不活動による廃用症候群は急速に進み回復に時間を要するため、全身状態が許せば発症早期から開始し、多職種チームが患者・家族と共通の目標をカンファレンスで共有しながら、復職や地域活動などの社会参加まで支援します。機能回復に限界がある場合も、装具や代償手段、環境因子の調整によって活動制限や参加制約を軽減できる点が重要です。急性期・回復期・生活期の流れとICFの双方向モデルを理解しておくことは、どの診療科に進んでも患者の生活を見据えた診療を行う土台となります。

解答・解説

正解はeです

リハビリテーションの基本理念を問う一般問題である。リハビリテーション(rehabilitation)は語源的に「再び(re)適した状態にする(habilitare)」を意味し、単なる機能訓練ではなく、障害のある人が身体的・心理的・社会的・職業的に可能な限り高いレベルに到達し、その人らしい生活と権利を取り戻すことを目指す包括的な取り組みである。 現在のリハビリテーション医療は、WHO(世界保健機関)の国際生活機能分類(ICF:International Classification of Functioning, Disability and Health)の考え方に基づいて組み立てられている。ICFでは人の生活機能を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3階層でとらえ、それぞれが損なわれた状態を「機能障害」「活動制限」「参加制約」と呼ぶ。リハビリテーションはこれら3つの負の側面をいずれも軽減することを目的とし、そのために早期介入と多職種チームによる目標共有が重視される。 したがって、機能障害を「固定させる」ことを目標とする記述は理念と正反対であり、これが誤りとなる。障害の固定(後遺症として症状が変化しなくなる状態)は、むしろ不活動や介入の遅れによって生じやすい好ましくない帰結であり、リハビリテーションはそれを防ぎ、改善させる方向に働きかける。

選択肢考察

  1. ×a.  発症後早期に開始する。

    正しい記述である。安静臥床や不活動が続くと、筋萎縮・筋力低下、関節拘縮、骨萎縮、起立性低血圧、心肺機能低下、褥瘡、深部静脈血栓症、認知機能低下などの廃用症候群(生活不活発病)が急速に進行する。筋力は完全な安静で1週間に10〜15%程度低下するとされ、いったん生じた廃用は回復に長い時間を要する。このため、全身状態が許せば急性期(例:脳卒中では発症後数日以内、ICUでも早期離床)からリハビリテーションを開始し、二次的な機能低下と障害の固定を防ぐことが原則である。

  2. ×b.  患者の社会参加を支援する。

    正しい記述である。ICFの「参加」は、家庭・職場・地域社会での役割を果たすことを指す。リハビリテーションは身体機能の回復だけでなく、復職・復学、家庭内役割の再獲得、地域活動への参加など、参加制約の軽減を重要な目的とする。そのために住宅改修、福祉用具、就労支援、社会資源(介護保険・障害福祉サービスなど)の活用も含めて支援する。

  3. ×c.  患者の生活機能の改善を目指す。

    正しい記述である。ICFでいう生活機能は「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の総称であり、リハビリテーションはその全体の改善を目指す。たとえば片麻痺そのもの(機能障害)が完全には回復しなくても、装具や杖の使用、動作方法の工夫によって歩行や日常生活活動(ADL:activities of daily living)を自立させる(活動制限の軽減)ことができ、これも生活機能の改善にあたる。

  4. ×d.  患者の目標を多職種で共有する。

    正しい記述である。リハビリテーション医療は、医師、看護師、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、義肢装具士、医療ソーシャルワーカー(MSW)、管理栄養士、薬剤師など多職種のチームで行われる。各職種が別々の目標で動くと支援がばらばらになるため、カンファレンスを定期的に開き、患者・家族の意向を踏まえた共通のゴールを設定・共有することが不可欠である。

  5. ○e.  患者の機能障害の固定を目標とする。

    誤った記述であり、これが正解である。機能障害は放置したり不活動が続いたりすると、拘縮や筋萎縮を伴って改善しにくい状態に固定されてしまう。リハビリテーションの第一の目標は、機能障害をできる限り回復・改善させ、固定を防ぐことにある。機能回復に限界がある場合でも、残存機能の活用や代償手段によって活動・参加の向上を図るのであり、障害の固定そのものを目標に据えることはない。

ICF(国際生活機能分類)の構成

2001年にWHOが採択した分類で、それ以前の国際障害分類(ICIDH、1980年)の「機能障害→能力障害→社会的不利」という一方向のモデルを改めたものである。 ・生活機能:心身機能・身体構造/活動/参加 ・それぞれの負の側面:機能障害/活動制限/参加制約 ・背景因子:環境因子(住環境、福祉用具、家族、制度など)と個人因子(年齢、性格、価値観など) 各要素は双方向に影響し合うとされ、環境を整えることで活動や参加が改善しうるという視点が重要である。

リハビリテーションの病期別の流れ

・急性期:発症・手術直後から、廃用予防と早期離床を中心に行う。 ・回復期:回復期リハビリテーション病棟などで集中的に機能回復とADL改善を図る。 ・生活期(維持期):在宅・施設で、獲得した機能の維持と社会参加を支える。

廃用症候群の主な症状

筋萎縮・筋力低下、関節拘縮、骨粗鬆症、起立性低血圧、心肺機能低下、誤嚥性肺炎、深部静脈血栓症、褥瘡、尿路感染・尿路結石、便秘、抑うつ・せん妄・認知機能低下など。予防には早期離床と早期リハビリテーションが最も有効である。

リハビリテーションの4分野

医学的リハビリテーション、教育的リハビリテーション、職業的リハビリテーション、社会的リハビリテーションに分けられ、これらが連携して障害のある人の全人的復権を支える。

POINT

・リハビリテーションは機能障害の「固定」ではなく「回復・改善」と固定の予防を目指す。 ・廃用症候群を防ぐため、全身状態が許せば発症早期から開始する。 ・目標はICFに基づく生活機能(心身機能・活動・参加)全体の改善であり、社会参加の支援も含む。 ・多職種チームで患者・家族と共通の目標を設定し、カンファレンスで共有する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。