StudyMed医師国家試験

言葉が「わかる」場所はどこか―5枚のFLAIR像からWernicke野を探す

第117回医師国家試験 F問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第117回 F問題 第8問

右利き患者の頭部単純MRIのFLAIR像(A)~(E)を示す。  Wernicke失語を認めるのはどれか。

第117回 F問題 第8問の問題画像
  1. a.A
  2. b.B
  3. c.C
  4. d.D
  5. e.E

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、失語のタイプと脳の局在を結びつけ、MRI画像から責任病巣を見つけ出す問題だ。カギは「右利き」という情報と、Wernicke野が脳のどこにあるか。この2つがわかれば、5枚の中から探すべき場所は自然に絞れるよ。まず、右利きの人の言語優位半球はどちらかな。
医学生医学生
左半球です。神経解剖の講義で、右利きならほぼ全員が左優位だと習いました。
ドクタードクター
その通り。左利きの人でも過半数は左半球優位とされている。では、Wernicke野は左半球のどこにある?
医学生医学生
側頭葉……上側頭回の後ろのほうだったと思います。Broca野は前頭葉の下前頭回ですよね。
ドクタードクター
正確だね。Wernicke野は優位半球の上側頭回後部で、シルビウス裂の後方にあたる。つまりこの問題は「左側頭葉の上側頭回後部に病変がある画像はどれか」を探す問題なんだ。ここで画像を読むうえでの約束事を確認しておこう。MRIの横断像は患者を足側から見上げた向きで表示するから、画像の右側が患者の左になる。
医学生医学生
放射線科の実習で最初に注意されたところです。つい画像の左を患者の左だと思ってしまって……。
ドクタードクター
誰もが一度はつまずくポイントだよ。それからFLAIR像は、脳脊髄液の信号を抑えたT2強調像だ。脳室や脳溝は黒く抜け、梗塞や浮腫など水分の増えた病変が白く光る。脳溝や脳室に接した病変も見つけやすいのが利点だね。では順に見ていこう。Dの画像は第三脳室や側脳室三角部が見える高さで、左側頭葉の外側に、皮質から皮質下へ扇状に広がる高信号がある。シルビウス裂の後方、まさに上側頭回後部だ。
医学生医学生
扇状ということは、血管の支配域に沿った梗塞ですか。
ドクタードクター
いい読みだね。左中大脳動脈の下行枝、つまり下部枝の領域の梗塞が考えられる。Broca野は上行枝(上部枝)、Wernicke野は下行枝の支配域、というのもセットで覚えておこう。病変は優位半球のWernicke野に一致するから、Wernicke失語を示すのはDだ。
医学生医学生
ほかの画像はどうですか。Aも左前頭葉に病変があったので、失語が出そうに見えました。
ドクタードクター
Aは頭頂に近い高い断面で、正中寄りの左前頭葉、上前頭回のあたりに病変がある。前大脳動脈領域の梗塞などが考えられ、右下肢優位の運動障害などが出うる部位だ。左前頭葉内側の障害では自発話が減る超皮質性運動失語がみられることもあるけれど、理解は保たれるからWernicke失語とは違う。Bは左前頭葉外側の中前頭回付近で、Broca野より上方。注意や遂行機能の障害は起こりうるが、言語野からは外れている。
医学生医学生
Cは脳室の周りに小さな白い点が散らばっていました。
ドクタードクター
そう。脳室周囲から深部白質に小さな高信号が散在していて、多発性硬化症の脱髄巣や穿通枝領域のラクナ梗塞などが鑑別に挙がる。どちらにしても皮質の言語野は障害されていない。Eは中脳の高さで、左大脳脚に病変がある。
医学生医学生
大脳脚には皮質脊髄路が通っているので、右片麻痺になりますね。同側の動眼神経麻痺も伴えばWeber症候群でしょうか。
ドクタードクター
よく結びつけたね。梗塞ならその可能性があるし、より上位の皮質脊髄路障害に続く変性として信号変化が見えることもある。いずれにしても失語とは関係のない場所だ。
医学生医学生
Wernicke失語の患者さんは、どんな話し方になるんでしたっけ。
ドクタードクター
発話は流暢でよくしゃべるのに、音や語を取り違える錯語や新造語が多く、ひどいと意味の通じないジャルゴンになる。聴覚的理解も復唱も障害され、本人は誤りに気づきにくい。運動麻痺は伴わないことが多く、視放線の下部が障害されると上1/4同名半盲を伴うこともある。
医学生医学生
麻痺がなくて話はできるとなると、救急では脳卒中と気づかれにくそうですね。
ドクタードクター
鋭い指摘だ。実際、「急に話がかみ合わなくなった」「錯乱している」として、せん妄や精神疾患と誤解されることがある。突然発症の言語の異常を見たら、まず脳卒中を疑う姿勢が大事だね。失語の分類は「流暢性」「理解」「復唱」の3軸で整理しよう。Broca失語は非流暢で理解は比較的保たれ、復唱は障害。伝導失語は流暢で理解も保たれるが復唱が特に障害される。全失語はすべて障害され、超皮質性失語は復唱が保たれるのが特徴だ。
医学生医学生
症状から失語のタイプを決めて、そこから病巣と血管支配までたどれるようにしておきます。
ドクタードクター
それができれば、画像問題でも臨床でも迷わなくなるよ。

まとめ

右利きの人ではほぼ全例で左半球が言語優位であり、Wernicke失語は優位半球の上側頭回後部(Wernicke野)の障害で生じます。MRI横断像では画像の右が患者の左になるため、左側頭葉外側のシルビウス裂後方に、左中大脳動脈下行枝領域に一致する扇状の高信号を示す画像が正解となります。前頭葉内側や外側の病変、脳室周囲の散在病変、大脳脚の病変はいずれも言語野を含みません。Wernicke失語は流暢だが錯語が多く、理解と復唱が障害され病識に乏しいのが特徴で、麻痺を伴わないことが多いため、せん妄などとの見誤りに注意が必要です。失語を「流暢性・理解・復唱」で分類し、病巣と血管支配に結びつける考え方は、神経診察と画像診断の両方の基盤になります。

解答・解説

正解はdです

画像の読み方の前提

MRIの横断像は、患者を足側から見上げた向きで表示するのが原則である。したがって画像の右側が患者の左半身にあたる。FLAIR(fluid-attenuated inversion recovery)像は、脳脊髄液の信号を抑えたT2強調像であり、脳室や脳溝は黒く、梗塞・浮腫・脱髄などの水分が増えた病変が白い高信号として見える。

言語優位半球と責任病巣

右利きの人ではほぼ全例で左大脳半球が言語の優位半球である(左利きでも過半数は左半球優位)。Wernicke失語(感覚性失語)は、優位半球の上側頭回後部にあるWernicke野(感覚性言語中枢)の障害で生じる。したがって本問は、5枚の画像のうち「左側頭葉の上側頭回後部」に病変があるものを探せばよい。

各画像の病変部位

・A: 頭頂に近い高位の断面で、正中に近い左前頭葉の皮質〜皮質下に高信号がある。 ・B: 高位の断面で、左前頭葉外側の脳回に沿った高信号がある。 ・C: 側脳室体部レベルで、脳室周囲〜深部白質に小さな高信号が散在している。 ・D: 第三脳室・側脳室三角部が見える基底核〜側頭葉レベルの断面で、左側頭葉外側の皮質から皮質下にかけて扇状の高信号がある。シルビウス裂より後方の上側頭回後部に相当する。 ・E: 中脳レベルの断面で、中脳の左大脳脚に高信号がある。 言語中枢であるWernicke野を含むのはDのみである。

選択肢考察

  1. ×a.  A

    高位の断面で、正中寄りの左前頭葉(上前頭回付近)に病変がある。前大脳動脈領域の梗塞などが考えられ、この部位の障害では右下肢優位の運動障害などがみられ得る。側頭葉のWernicke野は含まれず、Wernicke失語の原因にはならない。なお、左前頭葉内側の障害では自発話が減る超皮質性運動失語がみられることがあるが、理解は保たれる点でWernicke失語とは異なる。

  2. ×b.  B

    左前頭葉外側の中前頭回付近の皮質〜皮質直下に病変がある。前頭前野の障害では注意障害や遂行機能障害などがみられ得る。病変はBroca野(下前頭回後部)よりも上方にあり、側頭葉のWernicke野からも離れているため、Wernicke失語は生じない。

  3. ×c.  C

    側脳室周囲から深部白質・基底核近傍に小さな高信号が散在している。多発性硬化症の脱髄巣や、穿通枝領域の小梗塞(ラクナ梗塞)などが鑑別に挙がる。いずれにしても皮質の言語野は障害されておらず、Wernicke失語の責任病巣ではない。

  4. ○d.  D

    左側頭葉外側、シルビウス裂後方の上側頭回後部を中心に、皮質から皮質下へ広がる扇状の高信号を認める。左中大脳動脈の下行枝(下部枝)領域の脳梗塞が考えられ、病変は優位半球のWernicke野に一致する。右利き患者であることから左半球が言語優位と考えられ、話し言葉の理解が障害され、流暢だが錯語の多い発話を示すWernicke失語を生じる。

  5. ×e.  E

    中脳の左大脳脚に高信号がある。大脳脚には皮質脊髄路が通るため、この部位の障害では右片麻痺を生じる。梗塞であれば同側の動眼神経も障害されて左動眼神経麻痺+右片麻痺(Weber症候群)を呈し得るほか、より上位の皮質脊髄路の障害に続発する変性(Waller変性)として信号変化がみられることもある。いずれにしても言語野ではなく、Wernicke失語は生じない。

失語の分類

失語は「発話の流暢性」「聴覚的理解」「復唱」の3点で分類すると整理しやすい。 ・Broca失語(運動性失語): 優位半球の下前頭回後部(弁蓋部・三角部)の障害。非流暢で努力性の発話、理解は比較的保たれ、復唱は障害される。右片麻痺を伴いやすく、本人は言えないことを自覚している。 ・Wernicke失語(感覚性失語): 優位半球の上側頭回後部の障害。発話は流暢だが、音や語を取り違える錯語(音韻性錯語・語性錯語)や意味の通らない新造語が多く、ジャルゴンとなることもある。理解・復唱ともに障害され、病識に乏しいことが多い。運動麻痺を伴わないことが多く、上方1/4同名半盲を伴うことがある。 ・伝導失語: 縁上回・弓状束の障害。発話は流暢で理解も保たれるが、復唱が特に障害される。 ・全失語: 優位半球のBroca野・Wernicke野を含む広範な病変(左中大脳動脈本幹閉塞など)。発話・理解・復唱がすべて障害される。 ・超皮質性失語: 言語野の周辺領域の障害で、復唱が保たれるのが特徴。運動性(前頭葉内側など)、感覚性(側頭・頭頂・後頭葉の境界域など)、混合型がある。

血管支配

Broca野は左中大脳動脈の上行枝(上部枝)、Wernicke野は下行枝(下部枝)の支配域にある。失語の原因として最も多いのは脳梗塞・脳出血などの脳卒中である。

FLAIR像

T2強調像では脳脊髄液も白く写るため、脳室や脳溝に接する病変が見分けにくい。FLAIRは脳脊髄液の信号を抑えるため、皮質や脳室周囲の病変を見つけやすい。

POINT

・右利きではほぼ全例、左半球が言語優位。 ・Wernicke失語=優位半球の上側頭回後部の障害。流暢で錯語が多いが、理解と復唱が障害され、病識に乏しい。 ・Broca失語=優位半球の下前頭回後部の障害。非流暢で、理解は比較的保たれる。 ・MRI横断像は画像の右が患者の左。 ・FLAIRは脳脊髄液の信号を抑えたT2強調像で、皮質や脳室周囲の病変を検出しやすい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。