StudyMed医師国家試験

話せる、わかる、でも繰り返せない―復唱障害が示す伝導失語と弓状束

第113回医師国家試験 B問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第113回 B問題 第9問

発語は流暢で話し言葉の理解も良好だが,復唱が不能なのはどれか。

  1. a.失読
  2. b.純粋語聾
  3. c.伝導失語
  4. d.Broca失語
  5. e.Wernicke失語

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は失語症の分類の問題だ。失語は「自発話の流暢性」「話し言葉の理解」「復唱」という3つの軸の組み合わせで整理するのが基本。今回は、流暢で理解も良好なのに復唱だけができない、という組み合わせに当てはまるものを考えよう。
医学生医学生
神経内科の講義で、失語の分類表を丸暗記した記憶があります。でも正直、どれがどれだったか曖昧で……。
ドクタードクター
丸暗記より、脳の中の経路をイメージすると忘れにくいよ。聞いた言葉を理解するのは左上側頭回後部のWernicke野、話すための運動プログラムをつくるのは左下前頭回後部のBroca野。そして復唱、つまり聞いた言葉をそのまま言い返すには、Wernicke野で受け取った情報をBroca野へ送る必要がある。その主な通り道が何か覚えている?
医学生医学生
弓状束ですね。解剖の講義で、2つの言語野をつなぐ白質線維束として習いました。
ドクタードクター
その通り。では、Wernicke野もBroca野も無事で、弓状束だけが壊れたらどうなると思う?
医学生医学生
理解はできるし、話すこともできる。でも聞いた言葉を話す側に渡せないから、復唱だけができなくなる……あ、それが伝導失語ですか。
ドクタードクター
正解。伝導失語は弓状束や、その周辺の縁上回・皮質下の病変で生じる。今回の条件にぴったり合致するね。特徴的なのは、自発話や呼称で音韻性錯語が目立つこと。たとえば「めがね」を「めなけ」と言ってしまう。しかも本人が誤りに気づいて何度も言い直そうとする。これを接近行為と呼ぶんだ。
医学生医学生
自分で誤りに気づけるのは、理解が保たれているからですね。
ドクタードクター
そういうこと。では、ほかの選択肢がなぜ違うかを見ていこう。まずWernicke失語は?
医学生医学生
流暢に話すし、復唱もできないので、条件に近いと思いました。
ドクタードクター
2つの軸は一致しているね。でもWernicke野そのものが障害されるから、話し言葉の理解が強く障害される。発話は量が多く流暢だけれど、錯語や新造語だらけで内容が伝わらないジャルゴンになり、本人は誤りに気づきにくい。理解良好という条件に合わない。
医学生医学生
Broca失語は、理解は比較的保たれて復唱も障害されるけど、話し方がたどたどしいんですよね。
ドクタードクター
その通り。発話量が少なく、努力性で電文体になる非流暢な失語だ。理解も比較的保たれるとはいえ、文法的に複雑な文は苦手なことが多い。病変が運動野に近いので右片麻痺を伴いやすいのも特徴だね。流暢という条件で外れる。
医学生医学生
純粋語聾は、聞こえているのに言葉がわからない状態でしたっけ。名前からすると復唱もできなさそうです。
ドクタードクター
よく覚えているね。聴力は保たれ、電話の音のような環境音もわかるのに、言語音だけを言葉として認識できない。上側頭回や聴放線の病変で、聴覚情報が言語野に届かなくなるんだ。だから復唱も書き取りもできないけれど、そもそも聴理解が障害されているので、今回の条件には合わない。自発話や読解、自発的な書字は保たれる点がポイントだ。
医学生医学生
失読は、文字を読むことの障害なので、話し言葉の理解や復唱は関係なさそうですね。
ドクタードクター
その通り。代表的な純粋失読は、左後頭葉内側と脳梁膨大部の病変で、視覚情報が左半球の言語野に届かなくなって起こる。書字はできるのに、自分で書いた字すら読めないという不思議な症状が出る。指で文字をなぞると読めることもある。自発話、理解、復唱は保たれるから外れるね。
医学生医学生
逆に、復唱だけが保たれる失語もあるんでしょうか。
ドクタードクター
あるよ。それが超皮質性失語だ。シルビウス裂周囲のBroca野・弓状束・Wernicke野という言語の中心回路は保たれ、その外側が障害されるので、理解や自発話が悪くても復唱はできる。超皮質性運動失語は非流暢で理解良好、超皮質性感覚失語は流暢で理解障害、両方が悪いのが混合型だ。喚語困難が主体の健忘失語も復唱は保たれる。
医学生医学生
シルビウス裂周囲の回路が壊れると復唱が障害され、外側が壊れると復唱は保たれる、と覚えればいいんですね。
ドクタードクター
その理解で十分だ。臨床での注意点も触れておこう。ベッドサイドで失語を評価するときは、まず自由に話してもらって流暢性をみて、口頭命令で理解を確かめ、短い語から文へと復唱を試す。この3つを順に確認すれば、ほとんどの分類にたどり着ける。なお伝導失語の病巣は、古典的には弓状束とされるけれど、実際には縁上回やその皮質下、島や一次聴覚野周辺の病変でも生じることが知られている。脳梗塞の患者さんで言葉の異常に気づいたら、運動麻痺や視野障害とあわせて病巣を推定する習慣をつけてほしい。

まとめ

失語症は「自発話の流暢性」「話し言葉の理解」「復唱」の3軸で分類すると整理しやすくなります。Wernicke野とBroca野が保たれ、両者を結ぶ弓状束や縁上回周辺が障害されると、流暢で理解良好なのに復唱が著しく障害される伝導失語となり、音韻性錯語と自己修正(接近行為)が特徴です。Broca失語は非流暢、Wernicke失語は理解障害、純粋語聾は聴理解の障害、純粋失読は読字のみの障害という点で区別でき、逆に復唱が保たれるのは超皮質性失語と健忘失語です。言語の中心回路の損傷で復唱が障害されるという解剖学的な理解は、分類表の暗記を超えて、ベッドサイドでの失語評価と病巣推定に直結します。

解答・解説

正解はcです

問われていること

失語症の古典的分類は、①自発話の流暢性、②話し言葉の理解(聴理解)、③復唱、の3つの軸の組み合わせで整理される。本問は「流暢・理解良好・復唱不能」という組み合わせに当てはまる病態を選ぶ問題である。

考え方

・流暢性:発話量が保たれ、句の長さや抑揚が自然であれば流暢。発話量が少なく、努力性でたどたどしい(構音の歪みを伴う)なら非流暢。 ・理解:言われた内容(質問や口頭命令)を理解できるか。 ・復唱:聞いた語や文をそのまま言い返せるか。復唱には、聴覚的に受け取った言語情報(Wernicke野:左上側頭回後部)を、発話の運動プログラム(Broca野:左下前頭回後部)へ送る経路が必要であり、その主な経路が両者を結ぶ弓状束である。 Wernicke野とBroca野そのものが保たれていれば、自発話は流暢で理解も良好である。ところが両者を結ぶ弓状束(およびその周辺の縁上回・島皮質下など)が損傷されると、聞いた言葉を発話系へ受け渡せず、復唱だけが際立って障害される。これが伝導失語であり、本問の条件に合致する。 逆に、復唱だけが保たれる失語群は「超皮質性失語」と呼ばれ(超皮質性運動失語・超皮質性感覚失語・混合型)、シルビウス裂周囲の言語野・弓状束が保たれ、その外側が障害されていると考えられる。

選択肢考察

  1. ×a.  失読

    失読は、視覚的に提示された文字・文章を読んで理解する能力の障害である。代表的な純粋失読(失書を伴わない失読)は、左後頭葉内側と脳梁膨大部の病変によって、視覚情報が左半球の言語野へ届かなくなることで生じ、自分で書いた文字すら読めないが書字は可能という特徴をもつ。話し言葉の理解・自発話・復唱は保たれるため、「復唱が不能」という条件に合わない。

  2. ×b.  純粋語聾

    純粋語聾は、聴力自体は保たれ、環境音(電話の音など)も認識できるのに、言語音だけを言葉として認識できない状態である。両側(または左)の上側頭回・聴放線などの病変で、聴覚情報が言語野へ届かなくなるために生じる。話し言葉を言葉として捉えられないため、聴理解・復唱・書き取りが障害されるが、自発話・読解・自発書字は保たれる。復唱は不能だが話し言葉の理解も不良であり、「理解良好」という条件に合わない。

  3. ○c.  伝導失語

    伝導失語は、主に左半球の弓状束(Wernicke野とBroca野をつなぐ白質線維束)や縁上回周辺の病変で生じる。Wernicke野が保たれるため話し言葉の理解は良好で、Broca野も保たれるため自発話は流暢である。しかし聴いた言語情報を発話系に受け渡す経路が断たれるため、復唱が著しく障害される。自発話や呼称では音韻性錯語(例:「めがね」を「めなけ」)が目立ち、患者自身が誤りに気づいて何度も言い直す(接近行為、conduite d'approche)のが特徴である。本問の「流暢・理解良好・復唱不能」に一致する。

  4. ×d.  Broca失語

    Broca失語(運動性失語)は、左下前頭回後部(Broca野)とその周辺の病変で生じる。話し言葉の理解は比較的保たれ(ただし文法的に複雑な文の理解は障害されやすい)、復唱も障害されるが、発話は非流暢で、発話量が少なく、努力性・電文体となる。重度では発語がほとんどみられない。右片麻痺を伴うことが多い。「発語が流暢」という条件に合わない。

  5. ×e.  Wernicke失語

    Wernicke失語(感覚性失語)は、左上側頭回後部(Wernicke野)を中心とする病変で生じる。発話は流暢で量も多いが、錯語(語性錯語・音韻性錯語)や新造語が多く内容が伝わりにくい(ジャルゴン)。話し言葉の理解が強く障害され、復唱も障害される。自らの誤りに気づきにくい(病態失認的)のも特徴である。流暢・復唱不能の点は一致するが、「話し言葉の理解が良好」という条件に合わない。

失語症の古典的分類(流暢性・理解・復唱)

・Broca失語:非流暢/理解ほぼ良好/復唱障害 ・Wernicke失語:流暢/理解障害/復唱障害 ・伝導失語:流暢/理解良好/復唱障害(著明) ・全失語:非流暢/理解障害/復唱障害 ・超皮質性運動失語:非流暢/理解良好/復唱良好 ・超皮質性感覚失語:流暢/理解障害/復唱良好 ・混合型超皮質性失語:非流暢/理解障害/復唱良好 ・健忘失語(失名詞失語):流暢/理解良好/復唱良好(喚語困難が主体) 覚え方:シルビウス裂周囲の言語領域(Broca野・弓状束・Wernicke野)が障害されると復唱が障害され、その外側の病変(超皮質性失語)では復唱が保たれる。

純粋型(失語ではない言語モダリティ特異的障害)

・純粋語聾:聴いた言葉だけがわからない(聴理解・復唱・書き取りが障害、自発話・読解・自発書字は保たれる)。 ・純粋失読:読むことだけができない(書字は可能だが、自分で書いた文字も読めない)。なぞり読み(指で文字をなぞると読める)が有効なことがある。 ・純粋語唖(純粋失構音):発語の構音面だけが障害される(書字や理解は保たれる)。

伝導失語の病巣

古典的には弓状束の損傷とされるが、実際には左縁上回とその皮質下、島や一次聴覚野周辺の病変でも生じることが知られている。

POINT

・失語は「流暢性・理解・復唱」の3軸で分類する。 ・伝導失語=流暢・理解良好・復唱が著明に障害、音韻性錯語と自己修正(接近行為)が特徴。病巣は弓状束・縁上回周辺。 ・Broca失語は非流暢、Wernicke失語は理解障害がある点で伝導失語と区別する。 ・復唱が保たれるのは超皮質性失語と健忘失語。 ・純粋語聾は聴理解も復唱も障害されるが自発話・読解は保たれる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。