StudyMed医師国家試験

妊娠中期に「下がる」ものは何か―血管拡張と浸透圧リセットで読み解く母体の変化

第117回医師国家試験 F問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第117回 F問題 第7問

正常な妊娠経過において妊娠前と比較して妊娠中期に低下するのはどれか。2つ選べ。

  1. a.血圧
  2. b.体重
  3. c.血漿浸透圧
  4. d.循環血液量
  5. e.糸球体濾過量

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、正常妊娠で母体に起こる生理的変化の問題だ。妊娠中は多くの指標が「増える」方向に動くけれど、その中で妊娠中期に「下がる」ものを2つ選ぶ。ポイントは、変化の理由を「胎児を育て、分娩時の出血に備える」という目的から考えることだよ。
医学生医学生
妊娠すると血液が増えるので、ほとんど全部増えるような気がしてしまいます。
ドクタードクター
多くはそうだね。だからこそ、例外として下がるものをきちんと押さえる必要がある。まず循環血液量はどうかな。
医学生医学生
産婦人科の講義で、40〜50%くらい増えると習いました。
ドクタードクター
正解。妊娠初期から増え始め、30〜34週ごろに最大になる。胎盤への血流確保と分娩時出血への備えだ。血漿量の増え方が赤血球量の増え方を上回るから、ヘモグロビン濃度やヘマトクリットは下がる。いわゆる希釈性の生理的貧血だね。
医学生医学生
循環血液量が増えて心拍出量も増えるなら、血圧は上がりそうに思えるんですが。
ドクタードクター
そこがこの問題の一番のひっかけだ。プロゲステロン、一酸化窒素、リラキシンなどの作用で血管が拡張し、さらに抵抗の低い子宮胎盤循環が加わることで、末梢血管抵抗が大きく下がる。心拍出量の増加を上回る抵抗の低下で、血圧は初期から下がり始め、中期の20週前後で最も低くなるんだ。特に拡張期血圧で目立つよ。
医学生医学生
血圧は心拍出量と末梢血管抵抗の積、という生理学の式で考えればいいんですね。後期にはどうなりますか。
ドクタードクター
後期には再び上がって、分娩が近づく頃には妊娠前とほぼ同じ値に戻る。だから妊娠中期に血圧が上がってくるようなら、妊娠高血圧症候群を意識して注意深く見る必要がある。では、もう一つ下がるものは何だと思う?
医学生医学生
血漿浸透圧でしょうか。水分が増えて薄まるからですか。
ドクタードクター
結果としては合っているけれど、本質はもう少し奥にある。妊娠早期から、口渇やADH分泌が起こる浸透圧の閾値そのものが低い方へ再設定されるんだ。hCGやリラキシンの関与が考えられている。そのため体は水を多めに保持し、血漿浸透圧は妊娠前より約10mOsm/kg低い値で安定し、血清Naも数mEq/L下がる。
医学生医学生
薄まった結果というより、体の「設定値」自体が変わるんですね。腎臓内科の実習で低Na血症を見たときとは考え方が違いますね。
ドクタードクター
いい気づきだ。病的な低Na血症とは違って、新しい設定値で調節が働いている生理的な変化なんだ。次に糸球体濾過量はどうかな。
医学生医学生
腎血漿流量が増えるので、GFRも増えると思います。
ドクタードクター
その通り。中期には妊娠前より約50%増える。だから血清クレアチニンやBUNは非妊娠時より低めになる。非妊娠時の基準値内でも、妊婦では腎機能低下を疑うべき場合があるから要注意だ。ブドウ糖の濾過量が増えて腎性糖尿が出ることもあるよ。
医学生医学生
体重は、つわりで減ることもありますよね。
ドクタードクター
初期に一時的に減ることはあるけれど、中期以降は胎児・胎盤・羊水、子宮や乳房、血液や細胞外液、皮下脂肪の増加で増え続ける。中期に妊娠前より低いとはいえないね。
医学生医学生
整理すると、低下するのは血管拡張による血圧と、閾値の再設定による血漿浸透圧の2つですね。
ドクタードクター
正解。発展として、ほかの変化もセットで覚えておこう。凝固因子が増えて凝固能が亢進するため、血栓塞栓症のリスクが高まる。プロゲステロンの呼吸中枢刺激で分時換気量が増えてPaCO2が下がり、子宮による横隔膜挙上で機能的残気量は減る。胎盤ホルモンでインスリン抵抗性が増すから、妊娠糖尿病にも注意だ。さらに後期には、仰臥位で子宮が下大静脈を圧迫して血圧が下がる仰臥位低血圧症候群が起こり得る。内診や超音波検査のときは左側臥位にするなど配慮しよう。

まとめ

正常妊娠では循環血液量(約40〜50%増加、30〜34週ごろ最大)、心拍出量、GFR(約50%増加)、体重、凝固因子などが増加する一方、妊娠中期に低下する代表が血圧と血漿浸透圧です。血圧はプロゲステロン・NO・リラキシンによる血管拡張と低抵抗の子宮胎盤循環で末梢血管抵抗が下がり、中期に最低となって後期に妊娠前の値へ戻ります。血漿浸透圧は、口渇やADH分泌の浸透圧閾値が低く再設定されるため約10mOsm/kg低下し、血清Naも軽度低下します。ほかにも希釈によるHb・Htの低下、GFR増加によるクレアチニン・BUNの低下があり、非妊娠時の基準値をそのまま当てはめないことが重要です。妊娠に伴う生理的変化を理解しておくことは、妊娠高血圧症候群や腎機能障害などの異常を早期に見抜く土台になります。

解答・解説

正解はa, cです

問われていること

正常妊娠で母体に起こる生理的変化のうち、妊娠中期(14週〜27週)に妊娠前より「低下」しているものを2つ選ぶ問題である。

考え方

妊娠中の母体変化は「胎児を育て、分娩時の出血に備える」方向に起こると考えると整理しやすい。 ・増えるもの: 循環血液量、心拍出量、心拍数、腎血漿流量・糸球体濾過量、体重、凝固因子(フィブリノゲンなど)、インスリン抵抗性など。 ・減るもの: 末梢血管抵抗とそれに伴う血圧(中期に最低)、血漿浸透圧・血清Na、ヘモグロビン濃度・ヘマトクリット(希釈による)、血清アルブミン、血清クレアチニン・BUN(GFR増加による)など。 妊娠中は、プロゲステロン・一酸化窒素(NO)・リラキシンなどの作用で血管が拡張して末梢血管抵抗が下がり、血圧は中期に最も低くなる。また、口渇と抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)分泌が起こる浸透圧の閾値が低い方へ再設定されるため、血漿浸透圧は妊娠早期から低下し、その低い値が維持される。 したがって低下するのは血圧と血漿浸透圧である。

選択肢考察

  1. ○a.  血圧

    妊娠すると、プロゲステロンやNO、リラキシンなどによる血管拡張と、低抵抗の子宮胎盤循環が加わることで末梢血管抵抗が大きく低下する。心拍出量は増えるものの、それを上回る抵抗の低下により血圧は妊娠初期から下がり始め、妊娠中期(およそ20週前後)に最低となる。低下は拡張期血圧で目立つ。妊娠後期には再び上昇し、分娩が近づく頃には妊娠前とほぼ同じ値に戻る。

  2. ×b.  体重

    妊娠初期には悪阻(つわり)で一時的に体重が減ることがあるが、妊娠中期以降は胎児・胎盤・羊水の増加、子宮や乳房の増大、循環血液量や細胞外液の増加、皮下脂肪の蓄積などにより体重は増え続ける。妊娠全経過での増加は日本人で10kg前後が目安であり(推奨量は妊娠前のBMIにより異なる)、中期に妊娠前より低下するとはいえない。

  3. ○c.  血漿浸透圧

    妊娠早期から、口渇やADH分泌が起こる血漿浸透圧の閾値が低い方へ再設定される(hCGやリラキシンの関与が考えられている)。そのため体は水分を多めに保持し、血漿浸透圧は妊娠前より約10mOsm/kg低い値で安定し、血清Naも数mEq/L低下する。循環血漿量の増加分の多くが水分であることもこの変化と表裏一体である。

  4. ×d.  循環血液量

    循環血液量は妊娠初期から増え始め、妊娠30〜34週ごろに最大となり、妊娠前の約40〜50%増加する。血漿量の増加が赤血球量の増加を上回るため、ヘモグロビン濃度やヘマトクリットが下がる(生理的な希釈性の貧血)。この増加は胎盤への血流確保と分娩時出血への備えとして働く。低下ではなく増加する。

  5. ×e.  糸球体濾過量

    心拍出量と腎血漿流量の増加に伴い、糸球体濾過量(GFR)は妊娠初期から増え、妊娠中期には妊娠前より約50%増加する。そのため血清クレアチニンや尿素窒素(BUN)は非妊娠時より低めになり、非妊娠時の基準値内でも妊婦では腎機能低下を疑う必要がある場合がある。また、ブドウ糖の濾過量が尿細管の再吸収能を上回りやすく、腎性糖尿がみられることがある。低下ではなく増加する。

妊娠に伴う主な母体の生理的変化

・循環系: 循環血液量は約40〜50%増加(30〜34週ごろ最大)。心拍出量は約30〜50%増加し、心拍数は10〜20/分程度増える。末梢血管抵抗は低下し、血圧は中期に最低となる。後期の仰臥位では増大した子宮が下大静脈を圧迫し、静脈還流が減って血圧が下がることがある(仰臥位低血圧症候群)。 ・血液: 血漿量の増加が赤血球量の増加を上回り、Hb・Htは低下する。白血球は増加し、フィブリノゲンなど凝固因子が増えて凝固能が亢進するため、血栓塞栓症のリスクが高まる。 ・腎: 腎血漿流量とGFRは約50%増加し、血清クレアチニン・BUNは低下する。尿管は拡張し、尿路感染を起こしやすい。 ・水・電解質: 浸透圧調節の閾値が下がり、血漿浸透圧と血清Naは低下する。 ・呼吸: 1回換気量が増えて分時換気量が増加し(プロゲステロンの呼吸中枢刺激作用)、PaCO2は低下する(軽度の呼吸性アルカローシスを腎が代償)。増大した子宮で横隔膜が挙上し、機能的残気量は減少する。 ・消化器: プロゲステロンにより平滑筋が弛緩し、便秘や胃食道逆流が起こりやすい。 ・内分泌・代謝: 胎盤由来のホルモン(ヒト胎盤性ラクトゲンなど)によりインスリン抵抗性が増す。膵のインスリン分泌予備能が乏しいと妊娠糖尿病を発症しやすい。 ・体重: 胎児・胎盤・羊水、子宮・乳房の増大、血液・細胞外液の増加、脂肪蓄積により増加する。

POINT

・妊娠中期に低下: 血圧(末梢血管抵抗低下、中期に最低)、血漿浸透圧・血清Na(浸透圧調節の閾値が低下)。 ・増加: 循環血液量(約40〜50%、30〜34週ごろ最大)、心拍出量、心拍数、腎血漿流量、GFR(約50%)、体重、凝固因子。 ・希釈により低下: Hb・Ht、アルブミン。GFR増加により低下: クレアチニン・BUN。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。