むせ、痰、そして熱―高齢者の「誤嚥のサイン」を見抜く
第117回医師国家試験 F問題 第9問
国試問題にチャレンジ
高齢者で誤嚥を疑う所見として誤っているのはどれか。
- a.発熱
- b.湿性咳嗽
- c.味覚障害
- d.喀痰の増加
- e.飲水時のむせ
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
高齢者の誤嚥を疑う所見は、飲水時のむせや湿性嗄声など「誤嚥そのものを示す所見」と、発熱・湿性咳嗽・喀痰の増加など「誤嚥による気道感染を示す所見」に分けると整理しやすくなります。味覚障害は味蕾や味覚神経の障害、亜鉛欠乏、薬剤などで起こる味の感じ方の異常であり、誤嚥の徴候ではありません。高齢者ではむせを伴わない不顕性誤嚥が多く、原因不明の発熱の反復や食後の湿性嗄声、SpO2低下などが手がかりとなり、反復唾液嚥下テストや改訂水飲みテストでスクリーニングします。予防には就寝前の口腔ケア、食後の座位保持、食形態の工夫、薬剤の見直しなどが重要です。所見の意味を「何が起きているサインか」で捉える考え方は、高齢者診療全般で役立ちます。
解答・解説
正解はcです
問われていること
誤嚥とは、飲食物・唾液・胃の内容物などが、本来通るべき食道ではなく喉頭から気管へ入り込むことである。高齢者では加齢や脳血管障害、神経変性疾患、薬剤の影響などで嚥下機能や咳反射が低下しやすく、誤嚥とそれに続く誤嚥性肺炎が多い。本問は、誤嚥を疑うきっかけとならない所見を1つ選ぶ問題である。
考え方
誤嚥を疑う所見は、次の2つに分けて考えると整理しやすい。 1. 誤嚥そのものを示す所見: 飲食時のむせ・咳込み、食事中や食後の湿った声(湿性嗄声)、食後の痰がらみなど。 2. 誤嚥の結果として起こる気道感染・肺炎を示す所見: 発熱、湿性咳嗽、喀痰の増加、呼吸数の増加、SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)の低下、食欲低下、元気がない・意識がぼんやりするなど。 味覚障害は味の感じ方の異常であり、誤嚥そのものや気道感染の徴候ではない。よって誤っているのは味覚障害である。
選択肢考察
- ×a. 発熱
誤嚥した物に含まれる口腔内細菌が下気道で増殖すると、気管支炎や誤嚥性肺炎を起こし、炎症反応として発熱がみられる。高齢者で原因のはっきりしない発熱を繰り返す場合は、むせがなくても不顕性誤嚥による肺炎を疑う。なお高齢者の肺炎では高熱が出ないこともあり、発熱がないことは肺炎の否定にはならない。誤嚥を疑う所見として正しい。
- ×b. 湿性咳嗽
湿性咳嗽は痰を伴う咳である。誤嚥物の刺激や、それによって生じた気道の炎症で分泌物が増え、それを排出しようとして起こる。食事中・食後に痰がらみの咳が増える場合は誤嚥を強く疑う。誤嚥を疑う所見として正しい。
- ○c. 味覚障害
味覚障害は、舌の味蕾にある味細胞やそこから脳へ向かう神経(顔面神経の鼓索神経、舌咽神経など)の障害、亜鉛欠乏、薬剤の副作用などで起こる、味の感じ方の異常である。食欲低下の原因にはなり得るが、飲食物が気道に入ったことや、それによる気道感染を示す所見ではない。したがって誤嚥を疑う所見ではなく、本問の正解(誤っているもの)である。
- ×d. 喀痰の増加
誤嚥を繰り返すと、気道の炎症や感染によって分泌物が増え、喀痰が増加する。高齢者では咳の力が弱く、痰を十分に出せずに気道にたまりやすい(気道クリアランスの低下)ことも肺炎を悪化させる。食後に痰が増える、痰の性状が変わるといった変化は誤嚥を疑う手がかりになる。誤嚥を疑う所見として正しい。
- ×e. 飲水時のむせ
むせは、喉頭や気管に入った異物を咳で外へ出そうとする防御反射であり、飲食物が気道へ入ったこと(顕性誤嚥)を直接示す。水などのさらさらした液体は咽頭を速く流れるため、嚥下反射の開始が遅れると誤嚥しやすく、むせとして現れやすい。そのため改訂水飲みテストなどの嚥下機能検査にも用いられる。誤嚥を疑う所見として正しい。
顕性誤嚥と不顕性誤嚥
・顕性誤嚥: 飲食物を誤嚥した際にむせや咳込みがみられるもの。食事場面の観察や水飲みテストで見つけやすい。 ・不顕性誤嚥: むせを伴わない誤嚥。咳反射や嚥下反射が低下した高齢者で、夜間睡眠中に唾液や口腔内の細菌、逆流した胃内容物が少しずつ気道へ流れ込むことで起こる。高齢者の誤嚥性肺炎ではこちらの関与が大きい。脳血管障害(特に大脳基底核の病変)では、咳反射・嚥下反射にかかわるサブスタンスPが減少し、不顕性誤嚥を起こしやすいとされる。
誤嚥性肺炎の予防
・口腔ケア: 口腔内の細菌量を減らし、誤嚥しても肺炎になりにくくする。特に就寝前の口腔ケアは、夜間の不顕性誤嚥への対策として重要である。 ・体位: 食後しばらくは座位を保ち、就寝時は上半身を軽く起こす(セミファウラー位)ことで胃内容物の逆流を防ぐ。 ・食事の工夫: とろみをつける、ゼリー状にする、一口量を減らす、顎を引いた姿勢で飲み込むなど。 ・嚥下リハビリテーション、鎮静作用のある薬剤の見直し、ワクチン接種(肺炎球菌・インフルエンザ)など。
嚥下機能のスクリーニング検査
・反復唾液嚥下テスト(RSST): 30秒間に空嚥下が何回できるかをみる。3回未満で異常。 ・改訂水飲みテスト(MWST): 冷水3mLを飲ませ、むせ・呼吸の変化・湿性嗄声の有無を評価する。 ・精密検査として、嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)がある。
誤嚥を疑うその他のサイン
食事中や食後の湿性嗄声(がらがら声)、食事時間の延長、食べこぼし、食後の疲労、体重減少、SpO2の低下、原因不明の発熱の反復などがある。
POINT
・誤嚥を疑う所見: 飲食時のむせ、湿性嗄声、湿性咳嗽、喀痰の増加、発熱(誤嚥性肺炎の徴候)、食欲低下・体重減少など。 ・味覚障害は誤嚥の徴候ではない。 ・高齢者ではむせのない不顕性誤嚥が多く、原因不明の発熱の反復で疑う。 ・予防は口腔ケア(特に就寝前)、食後の座位保持、上半身を起こした体位、食形態の工夫。
