がん終末期の肺炎は「医療関連死」か?―医療行為との因果関係で線を引く
第117回医師国家試験 F問題 第6問
国試問題にチャレンジ
医療関連死に含まれないのはどれか。
- a.術中の大量出血による死亡
- b.輸液ポンプの誤用による死亡
- c.負荷心電図検査中の心室細動による死亡
- d.在宅療養中の肺がん終末期の肺炎による死亡
- e.入院中に発生した重度褥瘡に起因する敗血症による死亡
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
医療関連死とは、診察・検査・治療・手術・投薬や入院中の療養上の管理に関連して生じた(またはその疑いがある)死亡であり、過誤の有無は問いません。術中出血、医療機器の誤用、検査中の致死性不整脈、入院中の褥瘡から生じた敗血症はいずれも医療行為や患者管理との関連があるため含まれます。一方、がん終末期の肺炎のように原病の進行として予期される死亡は、医療行為との因果関係がないため含まれません。2015年に始まった医療事故調査制度は、医療に起因し管理者が予期しなかった死亡・死産を対象に、原因究明と再発防止を目的として医療事故調査・支援センターへの報告と院内調査を求めるもので、医師法21条の異状死届出とは別の制度です。「因果関係」と「予期の有無」で判断する視点は、医療安全に携わるすべての医師に欠かせません。
解答・解説
正解はdです
問われていること
医療関連死とは、診察・検査・治療・手術・処置・投薬や入院中の患者管理(療養)といった医療行為に関連して生じた死亡を指す。過誤(ミス)があったかどうかは問わず、医療行為が死亡の原因となった、あるいは原因となった疑いがあるものが含まれる。逆に、もともとの病気(原病)が想定どおりに進行して亡くなった場合は、医療行為との因果関係がないため医療関連死には当たらない。
考え方
各選択肢について「その死亡は医療行為(あるいは医療機関での管理)がなければ起こらなかった可能性があるか」「原病の自然経過として予期された死亡か」の2点を確認する。 ・手術、医療機器の使用、検査、入院中の看護管理はいずれも医療行為・患者管理であり、それに伴って生じた死亡は医療関連死に含まれる。 ・在宅療養中の進行肺がん患者が終末期に肺炎を併発して亡くなるのは、原病の進行に伴うよくある経過であり、特定の医療行為が招いた死亡ではない。 したがって医療関連死に含まれないのは d である。
選択肢考察
- ×a. 術中の大量出血による死亡
手術という医療行為の最中に起きた出血が直接の死因であり、医療行為と死亡との関連は明らかである。手技上の過誤の有無にかかわらず医療関連死に含まれる。手術に伴う予期しない死亡は、医療事故調査制度の報告対象にもなり得る典型例である。
- ×b. 輸液ポンプの誤用による死亡
輸液ポンプは薬剤や輸液の投与速度を管理する医療機器であり、流量設定の誤りなどで過量・過少投与が起これば重大な結果を招く。医療機器の誤操作や不具合によって生じた死亡は、医療行為に起因する死亡であり医療関連死に含まれる。
- ×c. 負荷心電図検査中の心室細動による死亡
負荷心電図検査では運動などで心筋の酸素需要を意図的に高めるため、虚血や致死性不整脈が誘発されることがある。検査中に心室細動を起こして死亡した場合、検査という医療行為が引き金になった可能性が否定できず、医療関連死に含まれる。治療だけでなく検査に伴う死亡も対象になる点に注意する。
- ○d. 在宅療養中の肺がん終末期の肺炎による死亡
進行肺がんの終末期には、全身状態の低下、気道の閉塞(腫瘍による閉塞性肺炎)、嚥下機能低下による誤嚥などにより肺炎を合併しやすく、これは原病の経過として十分に予想される死亡である。特定の医療行為が原因となったわけではなく、医療関連死には含まれない。
- ×e. 入院中に発生した重度褥瘡に起因する敗血症による死亡
褥瘡(床ずれ)は、体位変換・除圧・栄養管理・皮膚ケアなどの入院中の看護・管理と密接に関係する。入院中に重度の褥瘡が生じ、そこから感染が広がって敗血症で死亡した場合、医療機関での患者管理(療養)に関連した死亡と考えられ、医療関連死に含まれる。医療関連死は手術や投薬だけでなく、療養上の管理に関わるものも含む。
医療事故調査制度
2014(平成26)年の医療法改正に基づき、2015(平成27)年10月に医療事故調査制度が始まった。対象となる「医療事故」は、病院・診療所・助産所に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産であって、その管理者が当該死亡・死産を予期しなかったものと定義される。 ・「医療に起因する」には、診察、検査、治療(手術・処置・投薬など)に加え、療養に関連するもの(転倒・転落、誤嚥、身体拘束など)も含まれ得る。 ・原病の進行や、医療と関係のない事故・自殺などは対象外である。 ・過誤の有無は問わない。目的は責任追及ではなく、原因究明と再発防止による医療安全の確保である。
手続きの流れ
1. 医療事故が発生したら、医療機関の管理者は遺族へ説明したうえで、医療事故調査・支援センター(日本医療安全調査機構)に報告する。 2. 医療機関が自ら院内調査を行う(必要に応じて支援団体の協力を得る)。 3. 調査結果を遺族に説明し、センターに報告する。 4. 医療機関または遺族は、センターに調査を依頼することもできる。
異状死の届出との違い
医師法第21条は、死体を検案して異状を認めた場合に24時間以内に所轄警察署へ届け出る義務を定めており、医療事故調査制度とは別の制度である。
POINT
・医療関連死=医療行為(診察・検査・治療・手術・投薬)や入院中の患者管理に関連して生じた死亡。過誤の有無は問わない。 ・原病の進行による予期された死亡(例: がん終末期の肺炎)は含まれない。 ・医療事故調査制度(2015年開始)の対象は「医療に起因する(疑いを含む)、管理者が予期しなかった死亡・死産」。報告先は医療事故調査・支援センター。 ・目的は原因究明と再発防止であり、責任追及ではない。
