その警報、聞こえていますか?―加齢の変化から読み解く高齢労働者の安全対策
第117回医師国家試験 F問題 第28問
国試問題にチャレンジ
高齢労働者の作業安全を図る取り組みとして適切でないのはどれか。
- a.通路の段差を解消する。
- b.警報音は高音域の音とする。
- c.作業場所の照度を確保する。
- d.危険箇所は標識で注意喚起する。
- e.腰を低い位置に下げてから重量物を持ち上げる。
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
高齢労働者の安全対策は、加齢に伴う身体機能の変化を補う方向で考えると整理しやすくなります。平衡機能や筋力の低下には段差解消や手すり、視力低下には照度確保と見やすい標識、腰痛のリスクには膝を曲げて腰を落とす持ち上げ動作や補助機器が対応します。一方、加齢性難聴は高音域から聞こえにくくなるため、警報音を高音域にするのは逆効果で、中低音域の音と回転灯などの視覚的警報を併用するのが適切です。厚生労働省のエイジフレンドリーガイドラインでは、熱中症対策や夜勤への配慮、健康・体力の把握なども含めた包括的な取り組みが求められています。加齢による変化を具体的に理解することは、職場だけでなく病棟や在宅での高齢者の安全を守るうえでも基本となる考え方です。
解答・解説
正解はbです
テーマ
高齢化と定年延長・再雇用の広がりにより、60歳以上の労働者は増え続けている。高齢労働者は若年者に比べて転倒・墜落などの労働災害の発生率が高く、いったん被災すると休業期間が長くなりやすい。そこで、加齢に伴う身体機能の変化を前提として、職場の環境や作業方法を高齢者に合わせて改善することが求められる。この考え方をまとめたものが、令和2年(2020年)3月に厚生労働省が公表した、いわゆるエイジフレンドリーガイドラインであり、高年齢の働き手を雇う事業場で事業者と労働者の双方が行うべき対策が具体的に示されている。
考え方
各選択肢を、加齢による機能低下のどれに対応した対策かという視点で検討するとよい。 ・平衡機能・筋力・下肢挙上の低下→つまずき・転倒しやすい→段差の解消、手すりの設置 ・視力低下(水晶体の混濁、暗順応の低下など)→暗い場所で見えにくい→照度の確保、見やすい標識 ・聴力低下(加齢性難聴は高音域から障害される)→高い音が聞き取りにくい→警報音は聞き取りやすい中低音域とし、光(回転灯など)も併用 ・筋力・骨密度の低下や椎間板の変性→腰痛を起こしやすい→重量物の取り扱い方法の工夫 この視点で見ると、「警報音を高音域にする」は加齢性難聴の特徴と逆行しており、不適切である。
選択肢考察
- ×a. 通路の段差を解消する。
適切である。加齢により下肢筋力、バランス能力、足を上げる高さ(つま先のクリアランス)が低下し、わずかな段差でもつまずいて転倒しやすくなる。高齢労働者の労働災害では転倒が最も多い事故型の一つであり、通路の段差をなくす、スロープ化する、階段に手すりを設ける、床面を滑りにくくする、通路に物を置かず整理整頓するといった対策が有効である。
- ○b. 警報音は高音域の音とする。
適切でない。加齢に伴う感音難聴(加齢性難聴、老人性難聴)は、内耳蝸牛の基底回転側の有毛細胞から障害が進むため、高音域(およそ4000Hz以上)から聴力が低下するのが特徴である。そのため高い周波数の警報音は高齢労働者には聞き取りにくく、危険を察知できないおそれがある。警報音は聞き取りやすい中低音域の音とし、音量も確保するとともに、回転灯・点滅灯など視覚的な警報を併用することが望ましい。
- ×c. 作業場所の照度を確保する。
適切である。加齢により水晶体の混濁(白内障)や瞳孔径の縮小が生じ、網膜に届く光量が減るため、若年者より多くの明るさが必要となる。また暗順応にも時間がかかり、コントラストの識別力やまぶしさへの耐性も低下する。作業場所や通路の照度を十分に確保し、明暗差を小さくし、まぶしさ(グレア)を避ける工夫をすることで、見落としや転倒を防ぐことができる。
- ×d. 危険箇所は標識で注意喚起する。
適切である。段差や開口部など、構造上どうしても取り除けない危険箇所については、目立つ色の標識や表示、床面の色分けなどで注意を促す。高齢者は視力や注意の配分能力が低下しているため、標識は大きく、色のコントラストがはっきりしたものとするのが望ましい。危険の除去が第一で、除去できない場合に表示で補うという順序で考える。
- ×e. 腰を低い位置に下げてから重量物を持ち上げる。
適切である。重量物を持ち上げる際、膝を伸ばしたまま上体を前屈して持ち上げると腰部(腰椎・椎間板・背筋)に大きな負担がかかり、腰痛の原因となる。膝を曲げて腰を低く落とし、荷物を体に近づけてから、膝の伸展を使って持ち上げる姿勢が腰痛予防の基本である。高齢者は筋力・骨密度の低下や椎間板の変性があり腰痛を起こしやすいため、この動作の徹底に加え、補助機器の導入や取り扱う重量の軽減も重要である。
エイジフレンドリーガイドラインの主な内容
事業者に求められる取り組みとして、①安全衛生管理体制の確立(経営トップの方針表明、担当者の指定、リスクアセスメントの実施)、②職場環境の改善(身体機能の低下を補う設備・装置の導入、作業内容や作業時間などの工夫)、③高年齢労働者の健康や体力の状況の把握(健康診断、体力チェック)、④健康や体力の状況に応じた対応(個々の状況に合った業務の提供など)、⑤安全衛生教育が挙げられている。労働者には、自らの健康づくりや体力の維持に積極的に取り組むことが求められている。
加齢に伴う機能変化と職場の対策
・視覚:照度の確保、グレアの防止、見やすい表示 ・聴覚:中低音域の警報音、視覚的警報の併用 ・平衡機能・筋力:段差の解消、手すり、滑りにくい床材、重量物取り扱いの補助機器 ・暑熱への適応力の低下(発汗・口渇感の低下):熱中症対策(休憩、水分補給、WBGT値の管理) ・夜勤への適応力の低下:勤務シフトの配慮 一方、作業に関する知識・経験や判断力は加齢とともに維持・向上していることも多く、その強みを生かす配置も大切である。
職場における腰痛予防対策指針
重量物を取り扱う作業では、満18歳以上の男性労働者が人力のみで取り扱う重量は体重のおおむね40%以下、女性はさらにその60%位までとすることが示されている。
POINT
・加齢性難聴は高音域から聞こえにくくなる→高齢労働者向けの警報音は中低音域とし、光による警報も併用する。 ・高齢労働者の対策:段差解消・手すり(転倒防止)、照度確保(視力低下)、危険箇所の表示、腰痛予防の持ち上げ動作。 ・関連する指針:厚生労働省のエイジフレンドリーガイドライン(2020年3月公表)。
