StudyMed医師国家試験

「気合いで頑張れ」は逆効果―自己効力感で読み解く生活習慣の行動変容

第117回医師国家試験 F問題 第29問

国試問題にチャレンジ

第117回 F問題 第29問

生活習慣行動の変容に効果的でないのはどれか。

  1. a.自分で目標を設定する。
  2. b.自分の行動を記録する。
  3. c.行動変容の規範意識を高める。
  4. d.行動変容ステージに合わせた方法を選ぶ。
  5. e.変容が得られないときは意思を強く持つよう指導する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、食事や運動、喫煙といった生活習慣を変えてもらうために、どんな支援が効果的かを問う問題だ。キーワードは「自己効力感」と「行動変容ステージ」。知識を伝えるだけでは人はなかなか変わらない、という前提から考えてみよう。
医学生医学生
確かに、禁煙外来の見学で「わかってはいるけどやめられない」と言う患者さんがいました。
ドクタードクター
まさにそこが出発点だね。行動を変えるには、本人が「自分にもできそうだ」と感じられること、つまり自己効力感が鍵になる。Banduraが提唱した概念で、これが高いほど行動変容に成功しやすいとされているんだ。
医学生医学生
自分で目標を決めるのは、自己効力感と関係がありますか。
ドクタードクター
大いにある。指導者が一方的に目標を与えるより、本人が自分の生活に照らして納得できる目標を決めたほうが、責任感も動機づけも高まる。しかも「1日○歩歩く」のように具体的で、少し頑張れば届く目標にすると、達成体験が積み重なって自己効力感が上がる。達成体験は自己効力感を高める最も強力な情報源なんだよ。
医学生医学生
行動を記録するのは、いわゆるセルフモニタリングですね。行動科学の講義で出てきました。
ドクタードクター
そう。歩数や食事内容、体重、喫煙本数などを自分で記録すると、自分の行動パターンや問題点を客観的に把握できる。記録が積み重なると努力の成果が目に見えるから、達成感にもつながる。体重を毎日つけるレコーディングダイエットもこの原理だね。
医学生医学生
規範意識を高める、というのは少しイメージしにくいです。押しつけになりませんか。
ドクタードクター
いい疑問だ。ここでいう規範意識は、「その行動をとるべきだ」「家族や周囲もそれを望んでいる」という認識のこと。健康行動の大切さや周囲の期待を意識してもらうと、行動しようという意図が強まる。特に、まだ変える気が乏しい人や迷っている人の気持ちを動かす働きかけとして役立つんだ。
医学生医学生
それが行動変容ステージにつながるんですね。無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期の5つでしたっけ。
ドクタードクター
その通り。Prochaskaらのトランスセオレティカルモデルで、CBTでもよく問われるね。無関心期には情報提供や気づきを促し、関心期には利益と負担を整理して動機づけ、準備期には具体的な目標と計画づくり、実行期・維持期には継続支援と逆戻りの予防。ステージに合った方法を選ぶことで、効率よく次の段階へ進める。
医学生医学生
そうすると、効果的でないのは、うまくいかないときに意思を強く持つよう指導するもの、ですね。でも、本人のやる気も大事な気がしてしまいます。
ドクタードクター
やる気が大事なのは間違いない。問題は、うまくいかない原因を「意志の弱さ」に決めつけて精神論で叱咤することなんだ。実際には、目標が高すぎる、仕事の都合で実行しにくい、ストレスがある、家族の協力がない、など理由はさまざま。原因を分析しないまま「もっと頑張れ」と言っても具体策にならず、失敗体験が重なって自己効力感が下がり、指導から離れてしまうことにもなりかねない。
医学生医学生
内科の実習で、HbA1cが下がらない患者さんに指導医の先生が「どの場面で食べすぎてしまうか、一緒に考えましょう」と話していたのを思い出しました。
ドクタードクター
それこそ理想的な対応だね。うまくいかない場面を本人と振り返り、目標を立て直したり、意志に頼らずに続けられる仕組みを作ったりするのが大切なんだ。
医学生医学生
意志に頼らない仕組みというと、具体的にはどんな方法がありますか。
ドクタードクター
例えば刺激統制法は、お菓子を買い置きしない、灰皿を片づけるなど、行動のきっかけそのものを減らす方法。望ましくない行動の代わりに別の行動をとる習慣拮抗法、できたら褒めたりご褒美を設けたりするオペラント強化、家族や仲間の協力を得るソーシャルサポート、逆戻りしやすい場面を予測して対処法を準備しておく再発防止訓練もある。本人の迷う気持ちを引き出して、変わりたい理由を自分の言葉で語ってもらう動機づけ面接も有名だよ。
医学生医学生
ステージは一方向に進むとは限らないんですよね。
ドクタードクター
そう、逆戻りはよくあることだ。逆戻りを失敗と責めるのではなく、次に生かす経験として扱う姿勢が、長い目で見た行動変容を支えるんだよ。

まとめ

生活習慣の行動変容を支援するうえでは、本人が「自分にもできる」と感じられる自己効力感を高めることが鍵になります。自分で具体的かつ達成可能な目標を設定すること、行動を記録するセルフモニタリング、規範意識を高める働きかけ、行動変容ステージ(無関心期・関心期・準備期・実行期・維持期)に応じた支援はいずれも効果的です。一方、うまくいかない原因を意志の弱さに帰して精神論で指導すると、具体策につながらず自己効力感を下げ、脱落を招きやすくなります。本人と一緒に原因を振り返り、刺激統制法やソーシャルサポート、再発防止訓練など意志に頼らない仕組みを整えることが大切です。こうした行動科学の考え方は、禁煙指導や糖尿病・肥満の診療など日常臨床のさまざまな場面で役立ちます。

解答・解説

正解はeです

テーマ

食事・運動・喫煙・飲酒などの生活習慣を変えてもらう保健指導では、知識を伝えるだけでは行動は変わりにくい。行動科学の理論に基づき、本人の準備状態に合った働きかけを行い、本人が「自分にもできそうだ」と感じられる(自己効力感を高める)仕組みを整えることが効果的とされる。

正解を導く考え方

効果的な支援の要素としては、①本人の主体性を尊重した目標設定、②セルフモニタリング(行動の記録)による客観視とフィードバック、③行動変容の必要性・望ましさについての意識(規範意識)を高める働きかけ、④行動変容ステージモデルに基づくステージ別の支援、⑤意志の力に頼らず行動を続けやすくする環境調整(刺激統制、ソーシャルサポートなど)が挙げられる。 一方、うまくいかない原因を本人の「意志の弱さ」に帰して精神論で叱咤する指導は、原因の分析や具体的な解決策につながらず、自己効力感をかえって低下させ、指導からの脱落を招きやすい。したがって「意思を強く持つよう指導する」が効果的でない。

選択肢考察

  1. ×a.  自分で目標を設定する。

    効果的である。指導者が一方的に目標を与えるより、本人が自分の生活に照らして納得できる目標を自ら決めたほうが、行動への責任感と動機づけが高まり、実行・継続しやすい。目標は「1日○歩歩く」「間食を週○回までにする」のように具体的で、少し努力すれば達成できる現実的なものにすると、達成体験が積み重なり自己効力感が高まる。準備期以降の支援で特に重要となる。

  2. ×b.  自分の行動を記録する。

    効果的である。歩数・食事内容・体重・喫煙本数などを自分で記録する方法をセルフモニタリングという。記録によって自分の行動パターンや問題点を客観的に把握でき、目標の設定や見直しに役立つ。また、記録の積み重ねが努力や成果の可視化となり、達成感と自己効力感を高め、行動の継続を促す。体重を毎日記録する「レコーディングダイエット」もこの原理を応用したものである。

  3. ×c.  行動変容の規範意識を高める。

    効果的である。規範意識とは、その行動をとるべきだ・周囲もそれを望んでいる、という認識である(計画的行動理論でいう主観的規範に相当する)。健康行動の重要性や家族・社会からの期待を意識してもらうことは、行動を起こそうとする意図を強め、実際の行動変容につながる。とくに、まだ行動を変える気持ちが乏しい無関心期や、迷いのある関心期の人の意識を高める働きかけとして有用である。

  4. ×d.  行動変容ステージに合わせた方法を選ぶ。

    効果的である。行動変容ステージモデル(Prochaskaらのトランスセオレティカルモデル)では、人の準備状態を無関心期・関心期・準備期・実行期・維持期の5段階に分ける。無関心期には情報提供や気づきを促す働きかけ、関心期には利益と負担を整理して動機づけ、準備期には具体的な目標と計画づくり、実行期・維持期には継続支援や逆戻り(再発)の予防というように、ステージに応じた支援を選ぶことで効率よく次の段階へ進めることができる。

  5. ○e.  変容が得られないときは意思を強く持つよう指導する。

    効果的でない。行動変容がうまく進まない理由は、目標が高すぎる、生活環境や仕事の都合で実行が難しい、ストレスがある、周囲の協力が得られない、などさまざまであり、意志の弱さだけが原因とは限らない。精神論で「もっと頑張れ」と求めても具体的な改善策にはならず、失敗体験が重なって自己効力感が低下し、指導からの離脱につながりかねない。うまくいかない場面を本人と一緒に振り返って原因を探り、目標の再設定、誘惑となる刺激を遠ざける・代わりの行動を用意するなどの環境調整、家族や仲間の支援の活用など、意志の強さに頼らずに続けられる方法を考えることが重要である。

行動変容ステージモデル(トランスセオレティカルモデル)

・無関心期:6か月以内に行動を変える気がない ・関心期:6か月以内に行動を変えようと考えている ・準備期:1か月以内に行動を変えようと考えている(あるいは少し始めている) ・実行期:行動を変えて6か月未満 ・維持期:行動を変えて6か月以上継続している ステージは一方向に進むとは限らず、逆戻りすることもある。

自己効力感(self-efficacy)

Banduraが提唱した概念で、ある行動をうまく実行できるという自分自身への確信を指す。自己効力感が高いほど行動変容に成功しやすい。高める情報源として、①達成体験(自分で実際にやり遂げた経験。最も強力)、②代理体験(自分と似た他者の成功を見ること)、③言語的説得(他者からの励ましや評価)、④生理的・情動的状態(心身の状態が良好であること)の4つが挙げられる。自分で目標を設定して達成すること、行動を記録して進歩を確認することは、いずれも自己効力感を高める。

行動変容に用いられるその他の技法

・刺激統制法:行動のきっかけとなる刺激を調整する(菓子を買い置きしない、灰皿を片付けるなど) ・反応妨害・習慣拮抗法:望ましくない行動の代わりに別の行動をとる ・オペラント強化:望ましい行動ができたら褒める・ご褒美を設ける ・ソーシャルサポート:家族や仲間の協力を得る ・再発防止訓練:逆戻りしやすい場面を予測し、対処法を準備しておく ・動機づけ面接:本人の両価的な気持ちを引き出し、変化への動機を自ら語れるよう支援する

POINT

・行動変容の鍵は自己効力感:自己目標設定・セルフモニタリングで達成体験を積ませる。 ・行動変容ステージ(無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期)に応じて支援方法を変える。 ・規範意識を高めることは、特に無関心期・関心期での動機づけに有効。 ・うまくいかない原因を意志の弱さに帰して精神論で指導するのは不適切。本人と原因を探り、環境調整など意志に頼らない仕組みを作る。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。