「どう倒れたか」で骨折部位が見える―高齢者の転倒と脆弱性骨折
第117回医師国家試験 F問題 第23問
国試問題にチャレンジ
高齢者が転倒した際,骨折をきたしやすい部位はどれか。3つ選べ。
- a.上腕骨
- b.大腿骨
- c.橈骨
- d.脛骨
- e.腓骨
対話形式の解説
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ドクターまとめ
高齢者では骨粗鬆症により骨強度が低下しているため、立った高さからの転倒でも脆弱性骨折が起こり、好発部位は脊椎椎体・大腿骨近位部・橈骨遠位端・上腕骨近位部の4つです。転倒時の受傷機転と結びつけると、側方転倒で大転子部を打てば大腿骨近位部、手をつけば橈骨遠位端(Colles骨折など)、手をつく・肩を打つと上腕骨近位部に外力が集中します。脛骨や腓骨の骨折は強い外力やひねりで生じることが多く、高齢者の転倒骨折の代表ではありません。大腿骨近位部骨折は寝たきりの主要な原因となるため早期手術・早期離床が原則であり、どの部位の脆弱性骨折でも骨粗鬆症の評価・治療と転倒予防につなげることが再骨折予防の鍵になります。受傷機転から骨折部位を予測する考え方は、救急外来や整形外科での診察の基本となります。
解答・解説
正解はa, b, cです
本問は、高齢者の転倒に伴って起こりやすい骨折部位を問う問題である。 高齢者では加齢や閉経に伴って骨粗鬆症が進み、骨の強度が低下している。そのため、立った高さからの転倒のような、若年者なら骨折に至らない程度の弱い外力でも骨折が起こる。これを脆弱性骨折という。脆弱性骨折が特に起こりやすいのは、海綿骨(スポンジ状の骨)の割合が多く骨粗鬆症の影響を受けやすい部位であり、代表的なものとして次の4つが挙げられる。 ・脊椎椎体骨折(転倒がなくても、尻もちや重い物を持つ程度で起こる) ・大腿骨近位部骨折(頸部骨折・転子部骨折) ・橈骨遠位端骨折 ・上腕骨近位部骨折 このうち脊椎以外の3つは、転倒時の典型的な外力のかかり方と結びつけて理解するとよい。横向きに倒れて股関節の外側を打てば大腿骨近位部、とっさに手をついて体を支えれば手首の橈骨遠位端、手をついた衝撃が腕を伝わるか肩を直接打てば上腕骨近位部に力が集中する。選択肢のうち上腕骨・大腿骨・橈骨がこれに該当する。
選択肢考察
- ○a. 上腕骨
正しい。上腕骨近位部骨折(主に外科頸骨折)は、高齢者が転倒して手や肘をついた際、あるいは肩を床や壁に直接打ちつけた際に起こり、骨粗鬆症に関連する代表的な脆弱性骨折の一つである。肩関節脱臼を合併することもある。転位が小さければ三角巾などによる保存療法が選ばれることが多く、転位が大きい場合は髄内釘やプレートによる骨接合術、人工骨頭置換術、リバース型人工肩関節置換術などが検討される。
- ○b. 大腿骨
正しい。大腿骨近位部骨折(大腿骨頸部骨折・転子部骨折)は、高齢者が横向きに転倒して大転子部を強打した際に起こりやすい。大腿骨は骨幹部から頸部が角度をつけて骨頭へつながる構造をしており、体重を支える頸部から転子部に外力が集中しやすいうえ、この部位は骨粗鬆症で強度が低下しやすい。受傷後は立位・歩行ができなくなることが多く、寝たきりや生命予後の悪化につながるため、原則として早期に手術(骨接合術または人工骨頭置換術)を行い、早期離床とリハビリテーションを図る。
- ○c. 橈骨
正しい。転倒したときにとっさに手をついて体をかばうと、手関節に体重がかかり橈骨遠位端骨折が起こる。手関節背屈位で手のひらをついて遠位骨片が背側に転位するものをColles骨折といい、高齢女性に特に多い。逆に掌側に転位するものはSmith骨折と呼ばれる。比較的若い年齢の高齢者に多く、骨粗鬆症の最初のサインとなることがあるため、受傷を機に骨密度評価や骨粗鬆症治療を検討することが大切である。
- ×d. 脛骨
誤り。脛骨の骨折は高齢者にも起こりうるが、立った高さからの転倒で外力が集中しやすい部位ではなく、骨粗鬆症に伴う代表的な脆弱性骨折には含まれない。脛骨骨幹部骨折は交通事故、スポーツ外傷、高所からの転落などの強い外力で年齢を問わず生じることが多い。
- ×e. 腓骨
誤り。腓骨の骨折は、足関節を強くひねったとき(足関節果部骨折の外果骨折)や、スポーツ、階段の踏み外しなどで生じることが多い。高齢者で起こることもあるが、高齢者の転倒による骨折として特に頻度が高い部位ではなく、骨粗鬆症に関連する代表的な脆弱性骨折にも含まれない。
骨粗鬆症と脆弱性骨折
骨粗鬆症は、骨量の減少と骨の微細構造の劣化によって骨強度が低下し、骨折しやすくなった状態である。閉経後の女性に多い。日常生活レベルの軽微な外力で生じる骨折(脆弱性骨折)が起きやすく、脊椎椎体、大腿骨近位部、橈骨遠位端、上腕骨近位部が好発部位である。日本の骨粗鬆症の診断基準では、椎体骨折または大腿骨近位部骨折といった脆弱性骨折があれば骨密度にかかわらず骨粗鬆症と診断され、その他の脆弱性骨折では骨密度が若年成人平均値(YAM)の80%未満であれば骨粗鬆症と診断される。脆弱性骨折がない場合はYAMの70%以下または-2.5SD以下で診断する。
好発部位と受傷機転の整理
・脊椎椎体骨折: 尻もち、物を持ち上げる動作など。明らかな外傷がなく気づかれないこともある(いつの間にか骨折)。胸腰椎移行部に多い。 ・大腿骨近位部骨折: 側方への転倒で大転子部を打つ。最も重篤で、寝たきりや死亡率上昇につながる。 ・橈骨遠位端骨折: 前方に転倒して手をつく。 ・上腕骨近位部骨折: 手や肘をつく、または肩を打つ。
転倒と骨折の予防
高齢者の転倒の背景には、下肢筋力やバランス能力の低下(ロコモティブシンドローム、身体的フレイル、サルコペニア)、視力低下、認知機能低下、睡眠薬などの薬剤、住環境の段差などがある。骨折の予防には、骨粗鬆症の診断と薬物治療に加え、運動療法・環境整備・服薬の見直しなどによる転倒予防を組み合わせることが重要である。大腿骨近位部骨折は要介護状態の主な原因の一つでもある。
POINT
・高齢者の脆弱性骨折の好発部位は、脊椎椎体・大腿骨近位部・橈骨遠位端・上腕骨近位部の4つである。 ・転倒時の受傷機転: 側方転倒で大腿骨近位部、手をついて橈骨遠位端(Colles骨折)、手をつく・肩を打って上腕骨近位部。 ・大腿骨近位部骨折は寝たきりの原因となり、原則として早期手術・早期離床を目指す。 ・脛骨・腓骨骨折は強い外力やひねりで生じることが多く、高齢者の転倒骨折の代表ではない。
