StudyMed医師国家試験

悲しみに年齢制限はない―死別後の悲嘆反応とグリーフケアの基本

第117回医師国家試験 F問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第117回 F問題 第22問

身近な人との死別に伴う悲嘆反応で誤っているのはどれか。

  1. a.成人特有の反応である。
  2. b.うつ病との鑑別が必要である。
  3. c.身体的影響を生じる。
  4. d.提供されるケアをグリーフケアという。
  5. e.時間とともに軽快する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、身近な人を亡くしたときに起こる悲嘆反応の性質を問う問題だ。「誤っているのはどれか」という形式なので、悲嘆とは何か、誰に起こり、どう経過し、どう支えるのかを一つずつ確認していこう。まず前提として、悲嘆反応は病気だと思うかな。
医学生医学生
精神科の講義では「正常な反応」と習った気がします。ただ、うつ病とどう違うのかは曖昧です。
ドクタードクター
そう、悲嘆は大切な人を失ったときに起こる自然で正常な反応なんだ。悲しみ、怒り、罪責感、故人に会いたいという思慕といった心の反応に加えて、行動や身体にも変化が出る。その全体を悲嘆反応と呼ぶ。では、悲嘆は誰に起こると思う?
医学生医学生
大人が経験するものというイメージがありました。子どもは死の意味がまだよく分からないので、悲しみも少ないのではないでしょうか。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴で、「成人特有の反応である」という記述が誤りなんだ。悲嘆は年齢を問わず起こる。子どもも親やきょうだい、祖父母を亡くせば悲嘆を経験する。ただ、死が「もう戻らない」「誰にでも起こる」と理解する力は発達段階で変わるから、表れ方が大人とは違うんだよ。
医学生医学生
小児科の実習で、腹痛を繰り返す子が実は家族を亡くしていた、という話を聞きました。
ドクタードクター
まさにそういう形が典型だ。子どもは悲しみを言葉で表現しにくく、腹痛などの身体の訴え、赤ちゃん返り、かんしゃく、学業不振、遊びの中での再現として出てくることが多い。だから子どもを対象にしたグリーフケアも行われているんだ。
医学生医学生
身体に出るという点では、大人の悲嘆でも身体症状は起こりますよね。
ドクタードクター
その通りで、「身体的影響を生じる」は正しい記述だ。不眠、食欲不振、疲労感、頭痛、胸が締め付けられる感じ、動悸などがよくみられる。さらに配偶者を亡くした後には、遺された側の死亡率や心血管疾患の発症が一時的に高まることも知られている。悲嘆は心だけの問題ではないんだ。
医学生医学生
不眠や食欲低下があると、うつ病の症状とも重なってしまいそうです。
ドクタードクター
だから「うつ病との鑑別が必要である」も正しい。手がかりとしては、悲嘆では故人を思い出させるきっかけで悲しみが波のように押し寄せ、楽しい思い出には温かい感情も混じり、自尊心はおおむね保たれる。一方うつ病では抑うつ気分が持続的・全般的で、無価値感や自己否定感が目立つ。ただし悲嘆が長引いてうつ病を合併することもあるので、希死念慮の評価も含めて注意深く見る必要があるよ。
医学生医学生
経過はどうでしょう。時間が解決する、とよく言いますが。
ドクタードクター
多くの人では死別直後が最も強く、時間とともに和らいで故人のいない生活に適応していく。だから「時間とともに軽快する」も正しい。ただ、命日や記念日に一時的に悲しみが強まる記念日反応はよくみられるし、一部の人では強い悲嘆が長く続く。そして遺族を支え、回復を助ける援助を「グリーフケア」と呼ぶ、という記述も正しいね。
医学生医学生
つまり、年齢を限定した記述だけが悲嘆の性質に合わない、ということですね。
ドクタードクター
その通り。ここから発展知識だ。悲嘆が長期間続き、故人へのとらわれから日常生活に支障をきたす状態を、遷延性悲嘆症、あるいは複雑性悲嘆という。目安はICD-11で死別後少なくとも6か月、DSM-5-TRでは成人で少なくとも12か月とされている。突然の死、自死、子どもの死、社会的支援の乏しさなどが危険因子だ。
医学生医学生
緩和ケア科を回ったとき、患者さんが亡くなる前からご家族と面談していたのが印象的でした。あれもグリーフケアなんですか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。死が予測される段階で家族が先に悲嘆を経験することを予期悲嘆といい、その時期から家族を支えることも死別後の適応に役立つと考えられている。死別後の訪問や手紙、遺族会の紹介、そして何より話をよく聴いて感情を表出してもらうことが基本だ。
医学生医学生
患者さんが亡くなったら医療は終わり、ではなく、ご家族へのケアは続くんですね。
ドクタードクター
そう。臨床では、悲嘆を無理に「治す」のではなく正常な反応として受け止めつつ、長引く場合やうつ病・希死念慮が疑われる場合には専門的な支援につなぐ、という見極めが大切だよ。

まとめ

悲嘆反応は、身近な人との死別などの喪失に対して起こる正常な心理的・身体的・行動的反応であり、成人に限らず子どもにも起こります。子どもでは死の理解が発達段階によって異なるため、腹痛などの身体症状や退行、かんしゃくといった形で表れやすい点が特徴です。悲嘆は不眠・食欲不振などの身体症状を伴い、うつ病と症状が重なるため鑑別が必要で、多くは時間とともに軽快しますが、長引く場合は遷延性悲嘆症(複雑性悲嘆)を考えます。遺族への支援をグリーフケアといい、死別前の予期悲嘆の段階から家族を支えることも含まれます。患者の死後も家族の心身に目を向けるという視点は、緩和ケアや在宅医療に携わるすべての医師に求められる基本姿勢です。

解答・解説

正解はaです

本問は、大切な人を亡くしたときに生じる悲嘆反応(grief reaction)の基本的な性質を問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、悲嘆反応の特徴として正しくない記述を一つ選ぶ。 悲嘆とは、死別などの喪失体験に対して起こる心理的・身体的・行動的な反応の総称であり、それ自体は病気ではなく、喪失に対する正常で自然な反応である。押さえるべき性質は次のとおりである。 ・年齢を問わず誰にでも起こる(小児や高齢者でも起こり、発達段階によって表れ方が異なる)。 ・悲しみ、怒り、罪責感、思慕といった情動面だけでなく、不眠・食欲低下・疲労感・頭痛などの身体症状も伴う。 ・抑うつ気分や不眠などの症状がうつ病と重なるため、両者を見分ける必要がある。 ・多くの場合、時間の経過とともに和らいでいく。ただし一部の人では強い悲嘆が長引き、遷延性悲嘆症(複雑性悲嘆)として治療の対象になる。 ・遺族を支え、悲嘆からの回復を助ける取り組みをグリーフケアと呼ぶ。 これらに照らすと、「成人特有の反応」という記述だけが悲嘆の性質に合わない。

選択肢考察

  1. ○a.  成人特有の反応である。

    誤った記述であり、本問の正解である。悲嘆反応は年齢に関係なく起こり、子どもも親やきょうだいなどとの死別で悲嘆を経験する。ただし、子どもでは死の理解(もう戻らない、誰にでも起こるといった概念)が発達段階に応じて変わるため、悲しみを言葉で表現できず、腹痛などの身体の訴え、退行(赤ちゃん返り)、かんしゃく、学業不振、遊びの中での再現といった形で表れることが多い。このため、死別を経験した子どもを対象とするグリーフケアも行われている。

  2. ×b.  うつ病との鑑別が必要である。

    正しい記述である。悲嘆反応では抑うつ気分、興味の低下、不眠、食欲低下、集中力の低下などが起こり、うつ病と症状が重なる。鑑別の手がかりとして、悲嘆では故人への思慕や故人を思い出させるものをきっかけに悲しみが波のように押し寄せ、故人との楽しい思い出に触れると肯定的な感情も混じり、自尊心はおおむね保たれる。一方、うつ病では抑うつ気分が持続的・全般的で、無価値感や自己否定感が目立つ。また、強い悲嘆が長引くとうつ病を合併したり発展したりすることがあり、希死念慮の評価も含めて注意深く見る必要がある。

  3. ×c.  身体的影響を生じる。

    正しい記述である。悲嘆は心の反応にとどまらず、不眠、食欲不振、疲労感、頭痛、めまい、胸が締め付けられる感じ、動悸などの身体症状を伴うことが多い。さらに、配偶者との死別後には遺された側の死亡率や心血管疾患の発症が一時的に高まることが知られており、悲嘆は身体の健康にも影響を及ぼしうる。

  4. ×d.  提供されるケアをグリーフケアという。

    正しい記述である。死別を経験した人が悲嘆の過程を経て喪失を受け入れ、新しい生活に適応していけるように支える援助をグリーフケア(遺族ケア)という。話をよく聴いて感情の表出を促すこと、遺族会などの集まりの紹介、緩和ケア病棟や在宅医療における死別後の訪問・手紙などが含まれる。死別が予測される場合には、亡くなる前から家族を支援する(予期悲嘆への対応)こともグリーフケアの一部と考えられている。

  5. ×e.  時間とともに軽快する。

    正しい記述である。悲嘆反応は死別直後に最も強く、多くの人では時間の経過とともに徐々に和らぎ、故人のいない生活に適応していく。ただし、命日や記念日に一時的に悲しみが強まる記念日反応はよくみられる。また、少数ながら強い悲嘆が長期間続き日常生活に支障をきたす人がおり、遷延性悲嘆症(複雑性悲嘆)として専門的な対応が必要となる。

悲嘆反応の内容

・情動面: 悲しみ、思慕(故人に会いたい気持ち)、怒り、罪責感(もっとできたことがあったのではないか)、不安、孤独感、無力感。ショックや現実感のなさ(感情の麻痺)が死別直後にみられることもある。 ・認知面: 故人のことばかり考える、死を信じられない、集中困難、故人の存在を感じる。 ・行動面: 引きこもり、故人ゆかりの場所や物を避ける、または逆に探し求める。 ・身体面: 不眠、食欲不振、疲労感、頭痛、動悸など。

悲嘆のプロセス

死別直後の衝撃・否認から、強い悲しみや思慕の時期を経て、喪失を受け入れ新たな生活へと再適応していく、という段階的な経過で説明されることが多い。ただし実際の経過は一直線ではなく、行きつ戻りつしながら進む。

遷延性悲嘆症(複雑性悲嘆)

死別後、長期間にわたって故人への強い思慕やとらわれが続き、社会生活や職業生活に支障をきたす状態である。ICD-11では死別後少なくとも6か月、DSM-5-TRでは成人で死別後少なくとも12か月(小児・青年では6か月)を目安とする。突然の死、自死、子どもの死、故人との依存的な関係、社会的支援の乏しさなどが危険因子とされる。治療には悲嘆に焦点を当てた心理療法が用いられる。

予期悲嘆

患者の死が予測される段階で、家族が死別前から悲嘆を経験することをいう。緩和ケアでは、この時期から家族を支援することが死別後の適応に役立つと考えられている。

POINT

・悲嘆反応は喪失に対する正常な反応であり、年齢を問わず子どもにも起こる。 ・心理的反応だけでなく、不眠・食欲不振・頭痛などの身体症状を伴う。 ・症状がうつ病と重なるため鑑別が必要で、うつ病を合併することもある。 ・多くは時間とともに軽快するが、長引く場合は遷延性悲嘆症(複雑性悲嘆)を考える。 ・遺族への支援をグリーフケアという。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。