「前の晩から絶飲食」はもう古い―清澄水は麻酔導入2時間前までOKの根拠
第117回医師国家試験 F問題 第19問
国試問題にチャレンジ
待期的に行う全身麻酔下の手術で,術前に確保すべき清澄水の絶飲時間はどれか。
- a.15分
- b.2時間
- c.6時間
- d.12時間
- e.24時間
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
全身麻酔の導入時には咽頭・喉頭反射の抑制や下部食道括約筋の弛緩によって胃内容物の誤嚥が起こりうるため、予定手術では術前に絶飲食を行います。清澄水は胃排出が速く、日本麻酔科学会・米国麻酔科学会のガイドラインとも、年齢を問わず麻酔導入2時間前まで摂取してよいとしています。母乳は4時間、人工乳・牛乳は6時間が目安で、脂肪や蛋白を多く含むものほど長い時間を空けます。かつての前日夜からの長時間絶飲食は胃内容量やpHを改善せず、脱水・低血糖・苦痛を招くため不要とされていますが、消化管通過障害、妊婦、高度肥満、緊急手術などでは誤嚥リスクが高く、個別の対応が必要です。根拠に基づいて絶飲食時間を最小限にする考え方は、周術期の安全性と患者の快適さを両立させる術前管理の基本となります。
解答・解説
正解はbです
全身麻酔の導入時には意識消失と咽頭・喉頭反射の抑制、下部食道括約筋の弛緩が起こるため、胃内容物が逆流すると気道へ流れ込み、誤嚥性肺炎(胃酸による化学性肺臓炎であるMendelson症候群を含む)を起こす危険がある。これを防ぐために、予定手術(待期手術)では術前に一定時間の絶飲食を行う。 かつては「手術前日の夜から絶飲食」が慣例であったが、長時間の絶飲食は口渇・空腹による苦痛、脱水、低血糖、ケトーシスなどをもたらし、しかも胃内容量や胃液のpHを改善しないことが研究で示された。そこで、摂取物ごとに胃からの排出に要する時間に基づいて最小限の絶飲食時間を定める考え方に変わっている。 清澄水(クリアウォーター)は胃からの排出が速く、摂取後おおむね1〜2時間で胃内にほとんど残らない。このため日本麻酔科学会の術前絶飲食ガイドラインでは、年齢を問わず麻酔導入2時間前まで清澄水の摂取を安全としており、米国麻酔科学会(ASA)のガイドラインも同様である。したがって確保すべき絶飲時間は2時間である。
選択肢考察
- ×a. 15分
麻酔導入の15分前に飲水すると、液体であってもまだ胃内に相当量が残っている。麻酔導入時に逆流・嘔吐が起これば誤嚥性肺炎の原因となるため、絶飲時間としては短すぎる。なお、内服薬を少量の水で服用することは導入直前でも許容されることが多いが、これは飲水量がごく少ない場合の扱いであり、清澄水の自由摂取の基準とは異なる。
- ○b. 2時間
清澄水は胃排出が速く、2時間あれば胃内にほぼ残存しない。日本麻酔科学会のガイドラインでは清澄水の摂取は年齢を問わず麻酔導入2時間前まで安全とされ、ASAも同じく2時間を推奨している。2時間前までの飲水を許可することで、口渇・空腹感の軽減、脱水や低血糖の予防が得られ、術前の患者満足度も向上する。術前経口補水療法(炭水化物を含む清澄な飲料を術前に摂取させる方法)も、この2時間の基準に基づいて行われる。
- ×c. 6時間
6時間は、人工乳(調製粉乳)や牛乳の絶飲時間として推奨される値である。ASAのガイドラインでは軽食(トーストと清澄水程度)も6時間とされ、揚げ物・脂肪分の多い食事や肉類は胃排出が遅いため8時間以上空けることが推奨される。清澄水に6時間の絶飲を課すのは不必要に長い。なお母乳は4時間とされる。
- ×d. 12時間
以前は麻酔導入時の嘔吐・誤嚥を避けるため、前日夜から(結果的に12時間前後)の絶飲食が広く行われていた。しかし、長く絶飲しても胃内容量や胃液pHはそれ以上改善しないことが示され、現在の一般的な待期手術では必要とされない。ただし、消化管の手術や消化管通過障害がある場合など、手術内容や病態に応じて前日から絶飲食とすることはある。
- ×e. 24時間
24時間もの絶飲は医学的根拠がなく、口渇・空腹感などの苦痛に加え、脱水、循環血液量減少による麻酔導入時の低血圧、小児や糖尿病患者での低血糖、ケトーシスなどの合併症を招くおそれがある。待期手術の清澄水の絶飲時間として不適切である。
術前絶飲食の目安(日本麻酔科学会ガイドラインおよびASAガイドラインに基づく)
・清澄水:2時間(年齢を問わない) ・母乳:4時間 ・人工乳(調製粉乳)・牛乳:6時間 ・軽食:6時間(ASA) ・揚げ物・脂肪の多い食事・肉類:8時間以上(ASA)
清澄水とは
水、茶、果肉を含まない果物ジュース、ミルクを含まないコーヒー、炭酸飲料、スポーツドリンク、経口補水液など、透明で固形物や脂肪・蛋白を含まない飲料をいう。牛乳や果肉入りジュース、ミルク入りコーヒーは含まれない。アルコール飲料は含めない。
絶飲食時間をより長くとるべき、あるいは迅速導入を考慮すべき患者
・消化管狭窄・腸閉塞、消化管運動機能障害(糖尿病性胃不全麻痺など) ・妊婦(特に妊娠後期)、高度肥満 ・食道裂孔ヘルニア、胃食道逆流症 ・緊急手術(胃内容物があるものとして扱い、輪状軟骨圧迫を併用した迅速導入:rapid sequence inductionを考慮する) これらでは2時間前の飲水でも嘔吐・誤嚥の危険があるため、待期手術であっても個別に絶飲食時間を延長する。
POINT
・待期手術の清澄水の絶飲時間は麻酔導入2時間前まで(年齢を問わない)。 ・母乳4時間、人工乳・牛乳6時間、軽食6時間、脂肪の多い食事・肉類8時間以上。 ・前日夜からの長時間絶飲食は不要であり、脱水・低血糖・苦痛の原因となる。 ・消化管通過障害や妊婦、緊急手術などでは誤嚥リスクが高く、個別対応が必要。
