StudyMed医師国家試験

「控えめな食事」が老いを早める?―フレイル予防の4本柱と蛋白質の落とし穴

第117回医師国家試験 F問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第117回 F問題 第20問

フレイルの予防策として誤っているのはどれか。

  1. a.毎日歯を磨く。
  2. b.運動習慣をつける。
  3. c.よく嚙んで食べる。
  4. d.蛋白質摂取を制限する。
  5. e.ボランティアなどの社会活動に参加する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はフレイルの予防策を問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式なので、フレイルがどんな状態で、何が予防の柱になっているかを押さえておけば迷わない。まず、フレイルとはどういう状態か説明できるかな。
医学生医学生
高齢者が弱って要介護に近づいた状態、というイメージです。老年医学の講義で聞いた気はするんですが、要介護と何が違うのかがあいまいです。
ドクタードクター
大事なところだね。フレイルは、加齢で心身の予備能、つまりストレスから回復する力が落ちて、軽い病気やけが、入院をきっかけに要介護や死亡に陥りやすくなった状態をいう。健康と要介護の「中間」にあって、適切に介入すれば健常に戻りうる、つまり可逆性があるのが最大の特徴なんだ。
医学生医学生
戻れるからこそ「予防」や「介入」が意味をもつわけですね。
ドクタードクター
その通り。そしてフレイルには身体的・精神心理的・社会的の3つの側面がある。身体的にはサルコペニア、精神心理的には軽度認知障害やうつ、社会的には独居や閉じこもりが代表例だ。だから予防策も多方面から考える。柱は栄養、運動、口腔機能の維持、社会参加の4つだよ。
医学生医学生
その4本柱で選択肢を見ると、運動習慣と社会活動への参加はそのまま当てはまりますね。歯磨きとよく噛むことは口腔機能でしょうか。
ドクタードクター
いい整理だ。毎日の歯磨きはう歯や歯周病を防いで歯を保ち、噛む力を維持する。口の中の細菌を減らすことで、高齢者に多いむせのない誤嚥、つまり不顕性誤嚥による誤嚥性肺炎のリスクも下げられる。滑舌の低下や食べこぼし、わずかなむせといった口のささいな衰えはオーラルフレイルと呼ばれ、全身のフレイルの入口になると考えられているんだ。
医学生医学生
歯科の話が全身の話につながるのは意外でした。よく噛むことも同じ流れですか。
ドクタードクター
そう。よく噛むと咀嚼筋が鍛えられ、唾液が出て食塊がまとまり、飲み込みもスムーズになる。噛めれば肉などの蛋白質に富む食品も食べやすくなるから、結果として栄養状態の維持につながるんだ。
医学生医学生
そうなると残るのは蛋白質摂取の制限ですね。ただ、腎臓内科を回ったときにCKDの患者さんに蛋白制限を指導していたので、高齢者でも制限したほうが体にいいのかと一瞬思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだね。蛋白質は筋肉の主な材料で、制限すると筋肉量と筋力が落ちるサルコペニアを促し、フレイルを進める方向に働く。しかも高齢者は蛋白質を摂っても筋肉をつくる反応が鈍い、いわゆる同化抵抗性があるので、むしろ若い人以上にしっかり摂る必要がある。目安としては体重1kgあたり1.0g/日程度以上が勧められている。だから「蛋白質摂取を制限する」がフレイル予防として誤りだ。
医学生医学生
CKDの患者さんの場合はどう考えればいいんでしょう。
ドクタードクター
良い疑問だ。腎機能を守るための蛋白制限と、フレイル・サルコペニアのリスクとのバランスを個別に判断することになる。高齢のCKD患者では、厳しい制限がかえって低栄養を招くこともあるから、一律に当てはめないことが大切だよ。
医学生医学生
運動については、どんな運動が勧められますか。
ドクタードクター
中心はレジスタンス運動、つまり筋力トレーニングで、筋肉量と筋力の維持・増強に有効だ。そこにウォーキングなどの有酸素運動やバランス訓練を組み合わせると、歩行速度の維持や転倒予防にも役立つ。体を動かすと食欲が出て、栄養改善にもつながるんだ。
医学生医学生
社会参加は、外出のきっかけになるのが大きいんでしょうか。
ドクタードクター
それもあるし、人との交流で意欲や生きがいが保たれることも大きい。孤立はうつや認知機能低下を招き、活動量が落ちて身体的フレイルにも波及する。3つの側面はつながっているんだ。ここで「フレイル・サイクル」も覚えておこう。低栄養から筋肉量が減り、筋力低下や疲れやすさで活動量が落ち、エネルギー消費が減って食欲も落ち、さらに低栄養になる、という悪循環だ。
医学生医学生
栄養、運動、口腔、社会参加のどこからでも、その輪を断ち切れるということですね。
ドクタードクター
その通り。最後に診断基準も確認しておこう。Friedの基準では、体重減少、疲労感、身体活動量の低下、歩行速度の低下、握力の低下の5項目のうち、3項目以上でフレイル、1〜2項目でプレフレイルと判定する。日本ではこれを日本人向けに改変したJ-CHS基準が使われている。
医学生医学生
臨床実習で高齢の患者さんを診るときも、病気だけでなく、食事や歯、外出の様子まで聞いてみようと思います。
ドクタードクター
それが一番大事な姿勢だよ。外来で「最近やせた」「疲れやすい」「出かけなくなった」といった訴えがあれば、フレイルを念頭に置いて多面的に評価しよう。

まとめ

フレイルは加齢により心身の予備能が低下し、要介護や死亡に陥りやすくなった状態で、健康と要介護の中間に位置し、介入によって改善しうる可逆性が特徴です。身体的(サルコペニアなど)、精神心理的(軽度認知障害・うつなど)、社会的(独居・孤立など)の3側面があり、予防は栄養、運動、口腔機能の維持、社会参加の4本柱を組み合わせて行います。高齢者は蛋白同化の反応が鈍いため、蛋白質はむしろ十分に摂取すべきであり、制限するとサルコペニアを促してフレイル・サイクルを加速させます。歯磨きや咀嚼といった口腔ケアもオーラルフレイル対策として全身の栄養状態の維持に直結します。Friedの基準とあわせて多面的な評価と介入の考え方を身につけることが、高齢者診療の基本になります。

解答・解説

正解はdです

フレイルとは、加齢に伴って心身の予備能(ストレスに対する回復力)が低下し、軽い病気やけが、入院などをきっかけに要介護状態や死亡に陥りやすくなった状態をいう。健康な状態と要介護状態の中間に位置し、適切な介入によって健常な状態に戻りうる(可逆性がある)ことが重要な特徴である。 フレイルは身体的・精神心理的・社会的という多面的な要素から成り立つため、予防策も多方面から考える必要がある。柱となるのは、(1) 栄養(十分なエネルギーと蛋白質の摂取)、(2) 身体活動(筋力トレーニングを含む運動)、(3) 口腔機能の維持(咀嚼・嚥下機能や口腔衛生)、(4) 社会参加(人との交流、地域活動)の4つである。 本問は「誤っているもの」を選ぶ形式であり、上記の柱に反する選択肢を探せばよい。筋肉の材料となる蛋白質を制限すると、筋肉量・筋力の低下(サルコペニア)を促し、フレイルを進める方向に働く。

選択肢考察

  1. ×a.  毎日歯を磨く。

    フレイルの予防策として適切である。毎日の歯磨きによる口腔ケアは、う歯(虫歯)や歯周病を防いで歯を保ち、咀嚼機能を維持することにつながる。また口腔内の細菌量を減らすことで、高齢者に多い不顕性誤嚥(むせを伴わない誤嚥)による誤嚥性肺炎のリスクも下げる。歯や口の機能が保たれれば食欲や食事摂取量が維持され、栄養状態の悪化を防げる。口腔機能の軽微な衰え(オーラルフレイル)は全身のフレイルの入口になるとされ、その対策として重要である。

  2. ×b.  運動習慣をつける。

    フレイルの予防策として適切である。運動、特にレジスタンス運動(筋力トレーニング)は筋肉量と筋力の維持・増強に有効で、身体的フレイルの中核であるサルコペニアの予防・改善に欠かせない。ウォーキングなどの有酸素運動やバランス訓練を組み合わせることで、歩行速度の維持や転倒予防にも役立つ。さらに、運動により食欲が増し、栄養摂取の改善にもつながる。

  3. ×c.  よく嚙んで食べる。

    フレイルの予防策として適切である。よく嚙むことで咬筋などの咀嚼筋が鍛えられ、口腔機能の維持につながる。また、唾液の分泌が促されて食べ物がまとまりやすくなり(食塊形成)、飲み込み(嚥下)が円滑になる。咀嚼機能が保たれると、肉類など蛋白質に富む食品を含めた多様な食品を摂取しやすくなり、栄養状態の維持に寄与する。

  4. ○d.  蛋白質摂取を制限する。

    フレイルの予防策として誤っている。蛋白質は筋肉の主要な材料であり、高齢者では蛋白同化の反応が鈍くなる(同化抵抗性)ため、むしろ若年者以上に十分な蛋白質摂取が求められる。摂取を制限すると低栄養と筋肉量の減少を招き、筋力低下→活動量低下→食欲・摂取量のさらなる低下という悪循環(フレイル・サイクル)を加速させる。フレイル・サルコペニアの予防には、蛋白質を少なくとも体重1kgあたり1.0g/日程度を目安に摂取することが勧められている。なお、慢性腎臓病などで蛋白制限が必要な高齢者では、フレイル・サルコペニアのリスクとのバランスを考慮して個別に判断する。

  5. ×e.  ボランティアなどの社会活動に参加する。

    フレイルの予防策として適切である。ボランティアや趣味の集まり、地域活動などへの参加は外出の機会を増やして日常の身体活動量を保ち、他者との交流を通じて意欲や生きがいを高める。閉じこもりや孤立は社会的フレイルの要素であり、うつや認知機能低下(精神心理的フレイル)、さらには身体活動量の低下(身体的フレイル)にもつながるため、社会参加はフレイルの悪循環を断ち切るうえで重要である。

フレイルの3つの側面

・身体的フレイル:サルコペニア(加齢に伴う筋肉量・筋力・身体機能の低下)、ロコモティブシンドロームなど ・精神心理的フレイル:軽度認知障害(MCI)、うつ、意欲低下など ・社会的フレイル:独居、閉じこもり、社会的孤立、経済的困窮など いずれも日常生活は自立しているが、わずかな健康上の問題をきっかけに要介護へ移行しやすい状態である。

フレイルの診断(Friedの基準)

(1) 体重減少、(2) 疲労感(易疲労感)、(3) 身体活動量の低下、(4) 歩行速度の低下、(5) 筋力(握力)の低下の5項目のうち、3項目以上でフレイル、1〜2項目でプレフレイルと判定する。日本ではこれを日本人向けに改変したJ-CHS基準が用いられている。

フレイル・サイクル

低栄養→筋肉量減少(サルコペニア)→筋力低下・基礎代謝低下→歩行速度低下・疲れやすさ→活動量低下→エネルギー消費量減少→食欲低下・摂取量減少→さらなる低栄養、という悪循環であり、どこかで断ち切ることが予防・改善の要点となる。

オーラルフレイル

滑舌の低下、食べこぼし、わずかなむせ、嚙めない食品の増加など、口腔機能のささいな衰えを指す。放置すると食事の偏りや低栄養を経て全身のフレイルにつながるため、歯科受診や口腔ケア、咀嚼・嚥下機能の維持が推奨される。

フレイル予防の柱

栄養(十分なエネルギー・蛋白質、多様な食品の摂取)、身体活動(レジスタンス運動を含む運動)、口腔機能の維持、社会参加の4つを組み合わせて行う。

POINT

・フレイルは健康と要介護の中間状態で、介入により可逆的である。 ・身体的・精神心理的・社会的の3側面がある(代表例:サルコペニア、MCI・うつ、独居・孤立)。 ・予防の柱は栄養(十分な蛋白質)、運動、口腔機能の維持、社会参加。 ・高齢者では蛋白質を制限せず、むしろ十分に摂取させる。 ・Friedの基準:体重減少、疲労感、活動量低下、歩行速度低下、握力低下のうち3つ以上でフレイル。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。