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腕がまるごと紫に―「深い出血」が指し示す後天性血友病A

第117回医師国家試験 E問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第117回 E問題 第8問

広範な筋肉内出血の原因となるのはどれか。

  1. a.後天性血友病A
  2. b.本態性血小板血症
  3. c.抗リン脂質抗体症候群
  4. d.免疫性血小板減少性紫斑病
  5. e.IgA血管炎〈Schönlein-Henoch紫斑病〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、出血のパターンから止血のどの段階に異常があるかを見抜く問題だ。キーワードは「広範な筋肉内出血」。出血が浅いところで起きるのか、深いところで起きるのかに注目してみよう。
医学生医学生
出血傾向というと、まず血小板減少を思い浮かべてしまいます。
ドクタードクター
自然な発想だね。でもまず止血の仕組みを整理しよう。止血は二段階で、最初に血小板が傷口に集まって栓をつくる一次止血、次に凝固因子がはたらいてフィブリンの網でその栓を固める二次止血がある。
医学生医学生
基礎医学の生理学で習いました。一次止血が血小板とvon Willebrand因子、二次止血が凝固カスケードですね。
ドクタードクター
その通り。そして、どちらが障害されるかで出血の出方がはっきり違う。一次止血や血管の異常では、皮膚の点状出血や小さな紫斑、鼻出血・歯肉出血・月経過多のような粘膜出血が中心になる。一方、凝固因子の異常では筋肉内や関節内、広い範囲の皮下出血といった深くて大きな出血を起こすんだ。
医学生医学生
つまり筋肉内出血は凝固因子の異常のサイン、ということですか。
ドクタードクター
そう。だから選択肢の中から凝固因子が障害される病気を探せばいい。正解は後天性血友病Aだ。もともと止血に問題がなかった人に、第VIII因子に対する自己抗体、つまりインヒビターができて発症する。高齢者に多く、分娩後や自己免疫疾患、悪性腫瘍に伴うこともある。
医学生医学生
血友病というとX連鎖の遺伝で男の子の病気というイメージでした。後天性だと女性にも起こるんですね。
ドクタードクター
そこが大事なポイントだ。後天性は男女ともに起こる。症状も先天性と少し違って、広い範囲の皮下出血や筋肉内出血が突然起こるのが典型で、輸血が必要なほどの貧血になることもある。逆に、先天性血友病で目立つ関節内出血は少ないんだ。
医学生医学生
検査ではAPTTが延びてPTは正常、になりますか。
ドクタードクター
正解。血小板数も正常で、第VIII因子活性が下がる。診断の手がかりになるのが混合試験だ。患者血漿に正常血漿を混ぜたとき、因子が足りないだけの先天性なら補われてAPTTが正常に近づくけれど、インヒビターがあると混ぜても正常化しない。インヒビターの量はベセスダ法で測る。
医学生医学生
検査医学の講義で、混合試験のグラフの形で欠乏型とインヒビター型を見分ける話を聞いた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。では他の選択肢を見ていこう。本態性血小板血症はどうかな。
医学生医学生
血小板が多いなら、むしろ血が止まりやすい気がします。
ドクタードクター
基本的にはその理解でいい。JAK2やCALR、MPLの変異による骨髄増殖性腫瘍で、主な問題は脳梗塞や心筋梗塞などの血栓症だ。ただし血小板が極端に多いと、大きなvon Willebrand因子が血小板に吸着されて減り、出血することもある。それでも出血は粘膜や皮膚が中心で、凝固因子は保たれているから広範な筋肉内出血にはならない。
医学生医学生
抗リン脂質抗体症候群はAPTTが延びるので、ひっかけっぽいですね。
ドクタードクター
鋭いね。ループスアンチコアグラントは試験管の中ではリン脂質依存性の凝固反応を邪魔してAPTTを延ばすけれど、体の中ではむしろ血栓ができやすい。動静脈血栓症や習慣流産などの妊娠合併症を起こす病気で、出血の原因にはならないんだ。
医学生医学生
免疫性血小板減少性紫斑病は、小児科の実習で点状出血のある子を診ました。
ドクタードクター
まさにそれが典型像だ。血小板に対する自己抗体で血小板が壊されて減る、一次止血の異常だから、点状出血や紫斑、口腔内出血、鼻出血など浅い出血が中心になる。凝固因子は正常なので筋肉内出血は通常みられない。IgA血管炎も同じく浅い出血の仲間だね。
医学生医学生
IgA血管炎は下腿やおしりに触れる紫斑が出て、腹痛や関節痛、腎炎を伴う病気でした。血小板も凝固も正常なんですよね。
ドクタードクター
その通り。血管の炎症による紫斑だから、深部出血の原因にはならない。最後に臨床での注意点だ。後天性血友病Aは凝固因子を補っても抗体に打ち消されてしまうので、止血にはバイパス止血製剤、例えば遺伝子組換え活性型第VII因子製剤を使い、抗体を消すために副腎皮質ステロイドなどの免疫抑制療法を行う。
医学生医学生
高齢の方に突然大きなあざができても、ぶつけただけと思わずにAPTTを確認すべきなんですね。
ドクタードクター
そう。出血傾向の既往がない人に広範な皮下出血や筋肉内出血がみられ、PTが正常でAPTTだけが延びていたら、この病気を必ず思い出そう。筋肉内の大きな出血では、コンパートメント症候群などの合併にも注意が必要だ。

まとめ

出血の部位は止血異常のタイプを映す鏡で、点状出血や粘膜出血など浅い出血は血小板・血管の異常、筋肉内や関節内などの深部出血は凝固因子の異常を示唆します。後天性血友病Aは第VIII因子に対する自己抗体によって起こり、高齢者に多く、男女ともに発症し、広範な皮下出血や筋肉内出血が突然起こる一方で関節内出血は少ないのが特徴です。検査ではAPTT延長・PT正常で、混合試験で正常化しないことがインヒビターの存在を示し、治療はバイパス止血製剤と免疫抑制療法が柱となります。本態性血小板血症や抗リン脂質抗体症候群は主に血栓症を、ITPやIgA血管炎は浅い出血を起こす病気として区別しておきましょう。出血の「深さ」から病態を推定する視点は、出血傾向の患者を前にしたときの最初の重要な手がかりになります。

解答・解説

正解はaです

出血の起こる部位から原因となる止血異常を見分ける問題である。 止血は大きく二段階に分けられる。まず血小板が傷口に集まって固まり(一次止血)、次に凝固因子がはたらいてフィブリンの網で血小板の塊を固める(二次止血)。どちらの段階が障害されるかで、出血の出方が違う。 ・一次止血の異常(血小板の減少・機能異常、von Willebrand病)や血管の異常:皮膚の点状出血や小さな紫斑、鼻出血・歯肉出血・月経過多などの粘膜出血が中心になる。出血は浅いところで起こる。 ・二次止血の異常(凝固因子の欠乏や、凝固因子に対する抗体):筋肉内出血、関節内出血、広い範囲の皮下出血(斑状出血)など、深いところに大きな出血を起こす。 したがって「広範な筋肉内出血」は凝固因子の異常を示す出血であり、選択肢の中で凝固因子の障害による出血性疾患を選べばよい。後天性血友病Aは、第VIII因子に対する自己抗体(インヒビター)ができて第VIII因子が働かなくなる病気で、広い範囲の筋肉内出血や皮下出血が典型的である。他の選択肢は、血小板や血管の異常による浅い出血か、むしろ血栓を起こしやすい病気である。

選択肢考察

  1. ○a.  後天性血友病A

    もともと止血に問題のなかった人に、第VIII因子に対する自己抗体(インヒビター)ができて発症する。高齢者に多く、ほかに分娩後、自己免疫疾患(関節リウマチ、SLEなど)、悪性腫瘍に伴って起こることもある。広い範囲の皮下出血や筋肉内出血が突然起こるのが特徴で、輸血が必要なほどの貧血になることもある。先天性血友病と違い、関節内出血は少ない。検査ではAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)が延長し、PT(プロトロンビン時間)と血小板数は正常で、第VIII因子活性が低下する。患者血漿と正常血漿を混ぜてもAPTTが正常化しない(インヒビターのパターン)ことが診断の手がかりになり、ベセスダ法でインヒビターの量を測る。治療は、止血のためにバイパス止血製剤(遺伝子組換え活性型第VII因子製剤など)を使い、抗体を消すために副腎皮質ステロイドなどの免疫抑制療法を行う。

  2. ×b.  本態性血小板血症

    骨髄増殖性腫瘍の一つで、JAK2、CALR、MPLなどの遺伝子変異により血小板が持続的に増える(45万/μL以上)。主な問題は脳梗塞や心筋梗塞などの血栓症である。一方で、血小板の機能異常があったり、血小板が極端に多い(100万/μLを超える)と大きなvon Willebrand因子が血小板に吸着されて減る(後天性von Willebrand症候群)ため、出血も起こりうる。しかしその出血は鼻出血・歯肉出血・消化管出血などの粘膜出血や皮下出血が中心であり、凝固因子は保たれているため広範な筋肉内出血の原因にはならない。

  3. ×c.  抗リン脂質抗体症候群

    抗カルジオリピン抗体、抗β2-グリコプロテインI抗体、ループスアンチコアグラントなどの抗リン脂質抗体によって、血栓ができやすくなる後天性の病気である。動脈・静脈の血栓症(脳梗塞、深部静脈血栓症など)や、妊娠合併症(習慣流産・不育症、妊娠高血圧症候群など)を起こす。ループスアンチコアグラントは試験管内でリン脂質に依存する凝固反応を妨げるためAPTTが延長するが、体の中ではむしろ血栓ができやすい。したがって筋肉内出血の原因とはならない。

  4. ×d.  免疫性血小板減少性紫斑病

    ITP(immune thrombocytopenia)と略される。血小板に対する自己抗体により血小板が脾臓などで壊され、また骨髄での血小板産生も抑えられて血小板が減る。出血は一次止血の異常によるもので、手足や体幹の点状出血・紫斑、口の中の出血、鼻出血、歯肉出血、月経過多などの浅い出血が中心である。凝固因子は正常なので、筋肉内出血や関節内出血のような深部出血は通常みられない。

  5. ×e.  IgA血管炎〈Schönlein-Henoch紫斑病〉

    IgAを含む免疫複合体が小さな血管の壁にたまって起こる血管炎である。小児に多く、上気道感染の後に発症することが多い。下腿やおしりに左右対称にさわると盛り上がった紫斑(触知可能な紫斑)が多数でき、腹痛、関節痛、腎炎(紫斑病性腎炎)を伴う。出血は血管の炎症によるもので、血小板数や凝固検査は正常である。広範な筋肉内出血の原因にはならない。

出血部位と考えるべき疾患

・関節内出血:先天性血友病A・B(関節内出血をくり返すと血友病性関節症になる) ・筋肉内出血:先天性血友病A・B、後天性血友病A ・広い範囲の皮下出血(斑状出血):凝固因子の異常(後天性血友病Aなど) ・粘膜出血(鼻出血、歯肉出血、月経過多):von Willebrand病、血小板の数や機能の異常 ・点状出血:血小板の異常や血管の異常 ・下肢を中心とした左右対称の触知可能な紫斑:IgA血管炎 ・臍帯からの出血、傷の治りが遅い:先天性第XIII因子欠乏症 ・高齢者の前腕伸側や手の甲の境界のはっきりした赤紫色の紫斑:老人性紫斑

先天性血友病と後天性血友病Aの比較

・原因:先天性は第VIII因子(A)または第IX因子(B)の遺伝子異常(X連鎖潜性遺伝で、ほぼ男性)。後天性は第VIII因子に対する自己抗体で、男女ともに起こり、高齢者に多い。 ・出血:先天性は関節内出血と筋肉内出血。後天性は広い範囲の皮下出血と筋肉内出血が中心で、関節内出血は少ない。 ・検査:どちらもAPTT延長、PT正常。混合試験では、先天性(因子の欠乏)は正常血漿を混ぜるとAPTTが正常に近づき、後天性(インヒビター)は正常化しない。 ・治療:先天性は不足した凝固因子を補う。後天性は凝固因子を補っても抗体に打ち消されるため、バイパス止血製剤による止血と、免疫抑制療法を行う。

POINT

・広範な筋肉内出血、関節内出血などの深部出血:凝固因子の異常(血友病、後天性血友病A)。 ・点状出血、粘膜出血などの浅い出血:血小板や血管の異常(ITP、von Willebrand病など)。 ・後天性血友病A:高齢者、第VIII因子インヒビター、APTT延長・PT正常、混合試験で正常化しない、関節内出血は少ない。 ・本態性血小板血症と抗リン脂質抗体症候群は、主に血栓症を起こす病気。 ・IgA血管炎:下肢の左右対称の触知可能な紫斑、腹痛、関節痛、腎炎。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。