StudyMed医師国家試験

裂けた赤血球が告げる「血管の中の血栓」―TTPとHUSを見抜く血栓性微小血管症の考え方

第120回医師国家試験 D問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第120回 D問題 第14問

破砕赤血球と血小板減少を認める疾患はどれか。2つ選べ。

  1. a.鉄欠乏性貧血
  2. b.再生不良性貧血
  3. c.骨髄異形成症候群
  4. d.溶血性尿毒症症候群
  5. e.血栓性血小板減少性紫斑病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、末梢血のふたつの所見の組み合わせから疾患を絞り込む問題だ。カギは「破砕赤血球がなぜできるのか」と「血小板がなぜ減るのか」、この2つの機序を結びつけること。まず、破砕赤血球ってどんな赤血球か説明できるかな。
医学生医学生
三角形やヘルメットのような形の、壊れた赤血球ですよね。基礎の血液学の講義でスライドを見た記憶があります。
ドクタードクター
そう。赤血球が血管の中で物理的に切り裂かれてできた断片なんだ。細い血管に血栓ができて内腔が狭くなると、そこを無理やり通る赤血球が引っかかって裂ける。こういう血管内での機械的な溶血を微小血管障害性溶血性貧血と呼ぶよ。
医学生医学生
血栓が原因なら、血小板が減るのも血栓づくりに使われるからでしょうか。
ドクタードクター
その通り、消費性の血小板減少だね。全身の微小血管に血小板主体の血栓が多発する病態を血栓性微小血管症、TMAと呼ぶ。特徴は3つ。血小板の消費による減少、破砕赤血球を伴う溶血性貧血、そして血流が妨げられた臓器の障害だ。
医学生医学生
TMAの代表といえば、溶血性尿毒症症候群と血栓性血小板減少性紫斑病ですね。
ドクタードクター
正解。この2つが答えになる。まず溶血性尿毒症症候群から。どんな患者さんを思い浮かべる?
医学生医学生
小児科実習で、O157の血便のあとに尿が出なくなった子のカンファレンスがありました。
ドクタードクター
まさに典型例だ。腸管出血性大腸菌が産生する志賀毒素が腎臓などの血管内皮を傷害し、微小血栓ができる。3主徴は溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害。下痢の数日後に発症するのが典型だね。なお、補体の制御異常による非典型HUSもあるから覚えておこう。
医学生医学生
血栓性血小板減少性紫斑病のほうは、ADAMTS13が関係していましたよね。
ドクタードクター
そう。ADAMTS13は、血管内皮から出る超高分子量のvon Willebrand因子を適切な大きさに切る酵素だ。この活性が著しく低下すると、巨大なVWFに血小板がどんどんくっついて全身に血小板血栓ができる。後天性の多くはADAMTS13に対する自己抗体が原因で、先天性のものはUpshaw-Schulman症候群と呼ばれる。古典的5徴は、血小板減少、溶血性貧血、腎障害、発熱、動揺する精神神経症状だ。
医学生医学生
じゃあTMAなら全部ADAMTS13が下がるわけではないんですね。
ドクタードクター
いい確認だ。ADAMTS13の著しい低下はTTPに特有で、HUSは志賀毒素や補体の異常による。最終的な病像は似ていても、機序は分けて考えよう。では残りの選択肢。再生不良性貧血も血小板は減るけど、どう違う?
医学生医学生
再生不良性貧血は骨髄が脂肪髄になって汎血球減少になる…つまり作れないだけで、壊されているわけではないですね。
ドクタードクター
そう、産生低下なので破砕赤血球は出ない。網赤血球も減るのが特徴だ。骨髄異形成症候群も同じ考え方で、骨髄の中で血球が成熟しきれずに壊れる無効造血が本質。偽Pelger核異常や環状鉄芽球などの異形成はみられるけれど、血管内で赤血球が裂けるわけではない。
医学生医学生
鉄欠乏性貧血はヘモグロビンの材料不足なので、小球性低色素性の赤血球になるだけですね。
ドクタードクター
その通り。しかも血小板はむしろ増えることがある。持続する出血に伴う反応性の血小板増加だね。ここで整理しておくと、血小板減少の機序は「産生低下」「破壊・消費の亢進」「脾臓への分布異常」の3つに分けられる。TMAは消費の亢進に入る。
医学生医学生
CBTの問題でDICでも破砕赤血球が出るって選択肢があった気がします。TTPとはどう見分けるんですか。
ドクタードクター
鋭いね。DICでは凝固系が全身で活性化されるので、PT延長、フィブリノゲン低下、FDPやDダイマーの上昇が目立つ。一方TTPやHUSでは凝固検査はほぼ正常なことが多い。人工弁や大動脈弁狭窄による機械的溶血でも破砕赤血球は出るから、鑑別に入れておこう。溶血の証拠としては、間接ビリルビンとLDの上昇、ハプトグロビン低下、網赤血球増加。直接Coombs試験が陰性なのは自己免疫性溶血性貧血との鑑別点だ。
医学生医学生
治療で気をつけることはありますか。血小板が低いなら輸血したくなりますが…。
ドクタードクター
そこが臨床で一番大事な落とし穴だ。TTPで血小板輸血をすると血栓を悪化させるおそれがあるから、原則として避ける。治療の中心は血漿交換で、ADAMTS13の補充と自己抗体の除去を同時に狙う。ステロイドやリツキシマブ、VWFと血小板の結合を阻害するカプラシズマブも使われる。典型HUSは輸液や透析などの支持療法が中心、非典型HUSには抗C5抗体が用いられるよ。
医学生医学生
「血小板が少ないから輸血」と反射的に考えず、まず破砕赤血球を探すことが大事なんですね。
ドクタードクター
その通り。血小板減少を見たら末梢血塗抹を自分の目で確認する習慣をつけておこう。TTPは治療が遅れると命に関わる、血液内科の緊急疾患なんだ。

まとめ

破砕赤血球と血小板減少が同時にみられたら、微小血管に血小板血栓が多発する血栓性微小血管症(TMA)を考え、代表疾患が溶血性尿毒症症候群(HUS)と血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)です。典型的HUSは腸管出血性大腸菌の志賀毒素による内皮障害で溶血性貧血・血小板減少・急性腎障害をきたし、TTPはADAMTS13活性の著しい低下により巨大なVWFを介した血小板血栓が生じます。再生不良性貧血や骨髄異形成症候群は産生低下による血球減少、鉄欠乏性貧血はヘモグロビン合成障害であり、血管内で赤血球が裂ける機序はないため破砕赤血球は出ません。DICとの鑑別には凝固検査が有用で、TTPでは血小板輸血を原則避けて血漿交換を行う点が臨床上きわめて重要です。血小板減少を「産生・消費・分布」の機序で整理する視点は、血液疾患全般の鑑別の基礎となります。

解答・解説

正解はd, eです

テーマ

破砕赤血球(schistocyte)は、赤血球が血管の中で物理的に切り裂かれてできる、三角形・ヘルメット形・半月形などの断片状の赤血球である。微小な血管に血栓ができて内腔が狭くなると、そこを通過する赤血球が血栓に引っかかって裂ける。こうした血管内での機械的な溶血を「微小血管障害性溶血性貧血」と呼ぶ。

考え方

「破砕赤血球」と「血小板減少」が同時にみられれば、まず血栓性微小血管症(TMA:thrombotic microangiopathy)を考える。TMAでは、全身の細い血管に血小板を主体とする血栓が多発するため、 ①血小板が血栓づくりに使われて減る(消費性の血小板減少) ②狭くなった血管を通る赤血球が壊れる(破砕赤血球を伴う溶血性貧血) ③血栓で血流が妨げられた臓器が障害される(腎障害、意識障害などの精神神経症状) という3つの特徴がそろう。TMAの代表的な疾患が、溶血性尿毒症症候群(HUS)と血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)である。 一方、選択肢の貧血や造血の病気は、骨髄で血球を十分つくれない(産生の低下)か、ヘモグロビンの材料が足りないことが原因であり、血管内で赤血球が壊される機序はない。したがって破砕赤血球は出現しない。 なお、播種性血管内凝固(DIC)や、人工弁・大動脈弁狭窄などによる機械的溶血でも破砕赤血球はみられることがあり、検査値の読み取りでは鑑別が必要である。

選択肢考察

  1. ×a.  鉄欠乏性貧血

    ヘモグロビン合成に必要な鉄が足りないため、小さく色の薄い赤血球(小球性低色素性)が目立つ貧血である。血管内で赤血球が壊れる機序はないため、破砕赤血球はみられない。血小板数は通常正常であり、出血が続く例などではむしろ増加(反応性血小板増加)することがある。

  2. ×b.  再生不良性貧血

    造血幹細胞が減少し、骨髄が低形成(脂肪髄)となって赤血球・白血球・血小板のすべてが減る(汎血球減少)。血小板減少はみられるが、原因は産生の低下であり、赤血球が血管内で壊されることはないため破砕赤血球は認めない。網赤血球も減少する。

  3. ×c.  骨髄異形成症候群

    造血幹細胞の異常により、骨髄では細胞がつくられていても成熟した血球として末梢に出る前に壊れてしまう(無効造血)。その結果、血球減少(しばしば汎血球減少)と、血球の形の異常(異形成:偽Pelger核異常、環状鉄芽球など)がみられる。血小板減少は起こり得るが、破砕赤血球は特徴ではない。

  4. ○d.  溶血性尿毒症症候群

    TMAの代表疾患の一つで、①破砕赤血球を伴う溶血性貧血、②血小板減少、③急性腎障害を3主徴とする。多くは小児で、腸管出血性大腸菌(O157などの志賀毒素産生性大腸菌)感染による血便を伴う下痢の数日後に発症する。志賀毒素が腎臓などの血管内皮を傷害して微小血栓ができ、血小板が消費され、狭くなった血管で赤血球が破砕される。補体の制御異常による非典型HUS(aHUS)もある。

  5. ○e.  血栓性血小板減少性紫斑病

    TMAの代表疾患の一つである。血管内皮から放出される超高分子量のvon Willebrand因子(VWF)を適切な大きさに切断する酵素ADAMTS13の活性が著しく低下(多くは10%未満)しているため、巨大なVWFに血小板がくっついて全身の微小血管に血小板血栓ができる。血小板減少と、破砕赤血球を伴う溶血性貧血を生じる。古典的には5徴(血小板減少、溶血性貧血、腎障害、発熱、動揺する精神神経症状)が知られる。後天性の多くはADAMTS13に対する自己抗体(インヒビター)によるもので、先天性(Upshaw-Schulman症候群)もある。

血栓性微小血管症(TMA)の整理

共通する特徴:微小血管障害性溶血性貧血(破砕赤血球)、消費性の血小板減少、微小血栓による臓器障害。 ・TTP:ADAMTS13活性の著しい低下が原因。精神神経症状が目立ちやすい。治療は血漿交換(ADAMTS13の補充と自己抗体の除去)を中心に、副腎皮質ステロイド、リツキシマブ、カプラシズマブ(VWFと血小板の結合を阻害する抗体薬)など。血小板輸血は血栓を悪化させるおそれがあるため、原則として避ける。 ・STEC-HUS(典型HUS):志賀毒素による血管内皮障害が原因。腎障害が目立つ。治療は輸液・透析などの支持療法が中心。 ・非典型HUS(aHUS):補体の制御因子の異常による。抗C5抗体(エクリズマブなど)が用いられる。 ・その他の二次性TMA:薬剤性、悪性腫瘍、造血幹細胞移植後、膠原病、妊娠関連(HELLP症候群など)。

溶血を示す検査所見

間接ビリルビン上昇、LD(乳酸脱水素酵素)上昇、ハプトグロビン低下、網赤血球増加。直接Coombs試験は陰性(自己免疫性溶血性貧血との鑑別点)。

DICとの違い

DICでも破砕赤血球や血小板減少がみられることがあるが、DICでは凝固系が全身で活性化され、PT延長、フィブリノゲン低下、FDP・Dダイマー上昇などの凝固異常が目立つ。TTP・HUSでは凝固検査はほぼ正常であることが多い。

血小板減少をきたす主な機序

・産生低下:再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、白血病など ・破壊・消費の亢進:免疫性血小板減少症(ITP)、TMA(TTP・HUS)、DICなど ・分布異常:脾機能亢進症(肝硬変など)

POINT

・破砕赤血球+血小板減少=血栓性微小血管症(TMA)を考える。代表はTTPとHUS。 ・TTPはADAMTS13活性の著しい低下、典型的HUSは腸管出血性大腸菌の志賀毒素による。 ・HUSの3主徴:溶血性貧血・血小板減少・急性腎障害。TTPの古典的5徴:これに発熱・精神神経症状を加える。 ・再生不良性貧血・骨髄異形成症候群は産生の低下による血球減少であり、破砕赤血球は出ない。 ・TTPでは血小板輸血は原則避け、血漿交換を行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。