StudyMed医師国家試験

ヘパリンが血栓を呼ぶ―投与5日目の血小板減少と脳静脈洞血栓症が示すHIT

第120回医師国家試験 A問題 第55問

国試問題にチャレンジ

第120回 A問題 第55問

52歳の男性。胸痛を主訴に来院した。緊急冠動脈造影後,冠動脈バイパス術を予定して,ヘパリン投与を継続しながら冠動脈疾患集中治療室〈CCU〉に入室した。ヘパリン投与開始5日後から頭痛と悪心を訴えるようになり,7日後に急激な頭痛の増悪,嘔吐および軽度の構音障害を認めた。既往歴に血栓症はなく,家族歴に特記すべきことはない。意識は清明。体温36.8℃。脈拍88/分,整。血圧138/82mmHg。呼吸数18/分。SpO2 97%(room air)。血液所見:赤血球420万,Hb 12.5g/dL,Ht 37%,白血球7,800,血小板4.1万,PT-INR 1.1(基準0.9~1.1),APTT 31.0秒(基準対照32.2),フィブリノゲン390mg/dL(基準186~355),Dダイマー4.5μg/mL(基準1.0以下)。末梢血塗抹標本で破砕赤血球を認めなかった。頭部造影MRIで脳静脈洞血栓症と診断された。  血栓症の原因検索のために行うべき検査はどれか。

  1. a.骨髄穿刺
  2. b.HIT抗体測定
  3. c.尿素呼気試験
  4. d.第Ⅷ因子活性測定
  5. e.抗ADAMTS-13抗体測定

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、抗凝固療法の最中に血栓症が起きてしまった、という一見矛盾した状況の原因を探る問題だ。注目してほしいのは、ヘパリンを始めてからの「日数」、血小板数、そして凝固検査と末梢血塗抹の結果の組み合わせ。血小板が減っているのに出血ではなく血栓が起きている、という点をどう解釈するかがカギになるよ。
医学生医学生
血小板が少ないなら普通は出血しやすくなるはずなのに、逆に血栓ができているのが不思議です。
ドクタードクター
その違和感が出発点だね。血小板減少と血栓症が同時に起こる病態は限られていて、代表はDIC、TTPやHUS、抗リン脂質抗体症候群、そしてヘパリン起因性血小板減少症、つまりHITだ。まずはDICから検討してみよう。凝固検査をどう読む?
医学生医学生
PT-INRもAPTTも正常で、フィブリノゲンはむしろ高めです。DダイマーはDICなら上がりますけど……。
ドクタードクター
そう、Dダイマー上昇は血栓ができていることを示すけれど、DICなら凝固因子が消費されてPTが延び、フィブリノゲンが下がるはず。それがないからDICは考えにくい。では、破砕赤血球がないことの意味は?
医学生医学生
TTPやHUSでは微小血管に血小板血栓ができて赤血球が壊れるので、破砕赤血球が出るはずです。ないならTTPは否定的ですね。
ドクタードクター
その通り。だからADAMTS13に対する自己抗体の測定も、今回の原因検索としては的外れになる。ADAMTS13はvon Willebrand因子の巨大多量体を切る酵素で、これが抗体で働かなくなるのが後天性TTPだったね。
医学生医学生
基礎医学の講義で習いました。そうなると残るのはヘパリンそのものが原因、ということでしょうか。
ドクタードクター
まさに。ヘパリン開始後5〜10日目あたりに血小板が減り、新たな血栓症が起きる――これはⅡ型HITの典型像だ。ヘパリンと血小板第4因子、PF4が結合した複合体に対してIgG抗体ができ、この抗体が血小板を活性化させる。すると血小板は消費されて減る一方、トロンビンの産生が増えて動脈にも静脈にも血栓ができるんだ。
医学生医学生
脳静脈洞みたいな珍しい場所の血栓も、HITで起こるんですね。
ドクタードクター
そう、通常とは異なる部位の静脈血栓もHITの合併症として知られている。だから原因検索で行うべきなのは、抗PF4/ヘパリン複合体抗体、いわゆるHIT抗体の測定だ。免疫測定法は感度が高く、陰性ならHITの可能性は低い。ただ陽性でも血小板を活性化しない抗体のこともあるので、確定にはセロトニン放出試験のような機能的測定法を使うことがある。
医学生医学生
骨髄穿刺はどうでしょう。血小板減少の原因を調べるなら定番の検査のような気がします。
ドクタードクター
骨髄穿刺は、白血病や再生不良性貧血、骨髄異形成症候群のように「作られない」タイプの血小板減少を調べる検査だ。今回は赤血球や白血球に異常がなく、血小板は末梢で活性化され消費されていると考えられるから、意義は乏しいね。
医学生医学生
尿素呼気試験はピロリ菌の検査ですよね。ITPで除菌すると血小板が増えることがあると、血液内科の実習で聞きました。
ドクタードクター
よく覚えているね。ただITPは血栓症を起こす病気ではないから、今回の組み合わせは説明できない。第Ⅷ因子活性も同じで、血友病Aや後天性血友病Aのような出血性疾患を調べる検査だ。APTTが正常で、問題は出血ではなく血栓なので測る理由がない。
医学生医学生
出血か血栓か、凝固検査、破砕赤血球、そして薬剤歴で絞り込んでいく流れですね。
ドクタードクター
その通り。臨床的な疑いの強さは4Tsスコアで評価するんだ。血小板減少の程度、発症時期、血栓症の有無、他の原因の有無をそれぞれ0〜2点で採点する。本例はどれもHITに合致していて、事前確率は高いと言える。
医学生医学生
検査結果が出るまでは、ヘパリンを続けていいんですか。
ドクタードクター
そこが臨床で一番大事なポイントだ。HITを強く疑った時点で、結果を待たずにすべてのヘパリンを中止する。ヘパリンロックやヘパリンコーティングのカテーテルも含めてね。そして中止するだけでは血栓リスクが残るので、アルガトロバンのようなヘパリン以外の抗凝固薬に切り替える。
医学生医学生
血小板が4万台なら、血小板輸血も考えたくなります。
ドクタードクター
そこは落とし穴。HITでの血小板輸血は血栓を悪化させるおそれがあるから、出血がない限り原則として避ける。急性期のワルファリン開始も、プロテインCが先に下がって凝固傾向が強まり、四肢の静脈性壊疽を起こすことがあるので避け、血小板が回復してから重ねて導入するんだ。もう一つ、最近ヘパリンを使った人は抗体をすでに持っていて、再投与当日〜翌日に急速に発症することもあるから、投与歴の確認も忘れないでほしい。
医学生医学生
今回の患者さんはバイパス術を控えているので、術中のヘパリンをどうするかも課題になりそうですね。
ドクタードクター
鋭いね。HITの既往がある患者で心臓手術にヘパリンが必要なときは、抗体の陰性化を待って短期間に限って使うなど、循環器内科・心臓血管外科・血液内科で連携した慎重な対応が求められる。

まとめ

ヘパリン投与開始から5〜10日目ごろに血小板減少と新たな血栓症が起きた場合は、免疫機序によるⅡ型ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)を疑います。ヘパリン・PF4複合体に対するIgG抗体が血小板を活性化し、血小板の消費とトロンビン産生亢進によって動静脈血栓をきたすため、原因検索ではHIT抗体(抗PF4/ヘパリン複合体抗体)を測定し、臨床的な疑いの強さは4Tsスコアで評価します。PT延長やフィブリノゲン低下がなければDICは、破砕赤血球がなければTTPやHUSは否定的であり、骨髄穿刺や第Ⅷ因子活性測定は病態にそぐいません。HITを強く疑った時点で全ヘパリンを中止し、アルガトロバンなど代替抗凝固薬へ切り替え、血小板輸血や急性期のワルファリン開始は避けます。「抗凝固薬が血栓を招く」という逆説を理解しておくことは、ヘパリンを日常的に使う病棟やCCUでの安全な診療に直結します。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・52歳男性。冠動脈造影後、冠動脈バイパス術待機のためヘパリンを持続投与中である。 ・ヘパリン開始5日後から頭痛・悪心、7日後に頭痛の急激な増悪、嘔吐、軽度の構音障害が出現し、造影MRIで脳静脈洞血栓症と診断された。 ・血小板4.1万/μLと減少している。入院時の値は示されていないが、冠動脈造影や手術予定がある患者で入院時からこれほど低かったとは考えにくく、ヘパリン投与中に新たに減少したと読むのが自然である。 ・PT-INR 1.1、APTT 31.0秒と凝固時間は正常、フィブリノゲンはむしろ高値(390mg/dL)で、凝固因子の消費はみられない。Dダイマーは4.5μg/mLと上昇しており、血栓が形成されていることを示す。 ・破砕赤血球はみられず、Hbも保たれている。 ・既往歴・家族歴に血栓症はない。

診断へのプロセス

「ヘパリン投与開始から5〜10日目の血小板減少」と「新たな血栓症」の組み合わせは、ヘパリン起因性血小板減少症〈HIT:heparin-induced thrombocytopenia〉、なかでも免疫機序によるⅡ型HITの典型像である。HITでは、ヘパリンと血小板第4因子〈PF4〉が結合した複合体に対してIgG抗体(HIT抗体)が作られ、この抗体が血小板を活性化させる。その結果、血小板は消費されて減少する一方、トロンビン産生が増えて動脈・静脈の両方に血栓ができる。出血ではなく血栓が問題になる点がHITの特徴である。脳静脈洞血栓症のような通常とは異なる部位の静脈血栓もHITの合併症として知られている。 臨床的な疑いの強さは4Tsスコアで評価する。本例は、血小板の減少(2万/μL以上を保った減少)、時期(ヘパリン開始5〜10日目)、血栓症(新たな脳静脈洞血栓症)、他の原因がないこと、のいずれもHITに合致し、事前確率は高い。

鑑別

・播種性血管内凝固〈DIC〉:PT延長やフィブリノゲン低下がなく否定的である。 ・血栓性血小板減少性紫斑病〈TTP〉・溶血性尿毒症症候群〈HUS〉:破砕赤血球がなく、溶血を示す所見もないため否定的である。 ・抗リン脂質抗体症候群や先天性血栓性素因(アンチトロンビン欠乏症、プロテインC・S欠乏症など):鑑別にはなるが、ヘパリン曝露後の時間経過に一致した血小板減少と血栓症をもっともよく説明するのはHITである。

設問の考え方

血栓症の原因としてHITを確かめるために行う検査は、HIT抗体(抗PF4/ヘパリン複合体抗体)の測定である。ただしHITを強く疑った時点で、検査結果を待たずにすべてのヘパリンを中止し、アルガトロバンなどヘパリン以外の抗凝固薬に切り替える。

選択肢考察

  1. ×a.  骨髄穿刺

    骨髄穿刺は、血小板減少が産生の低下によるもの(白血病、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群など)かどうかを評価する検査である。本例は他の血球系に異常がなく、血小板が末梢で活性化・消費されて減少していると考えられ、血栓症の原因検索として骨髄穿刺を行う意義は乏しい。

  2. ○b.  HIT抗体測定

    ヘパリン投与開始5〜7日後の血小板減少に新たな血栓症(脳静脈洞血栓症)を伴っており、HITが最も疑われる。HITはヘパリン・PF4複合体に対する抗体が血小板を活性化して起こるため、原因検索としてこの抗体(HIT抗体)を測定する。免疫測定法は感度が高く、陰性ならHITの可能性は低い。一方で陽性でも血小板を活性化しない抗体のこともあるため、確定には血小板活性化能をみる機能的測定法(セロトニン放出試験など)が用いられる。

  3. ×c.  尿素呼気試験

    尿素呼気試験はHelicobacter pylori感染の診断法である。H. pylori除菌は免疫性血小板減少症〈ITP〉で血小板数の改善が期待できるため、ITPの診療で行われることがある。しかしITPでは血栓症は起こらず、本例の血小板減少と血栓症の原因検索には結びつかない。

  4. ×d.  第Ⅷ因子活性測定

    第Ⅷ因子活性の低下は血友病Aや後天性血友病A(第Ⅷ因子に対する自己抗体による)でみられ、APTT延長と出血症状をきたす。本例はAPTTが正常で、病態は出血ではなく血栓症であり、第Ⅷ因子活性を測定する理由はない。

  5. ×e.  抗ADAMTS-13抗体測定

    ADAMTS13はvon Willebrand因子の巨大多量体を切断する酵素で、これに対する自己抗体により活性が低下すると後天性TTPを発症する。TTPは微小血管に血小板血栓が多発し、血小板減少と破砕赤血球を伴う溶血性貧血をきたす。本例は破砕赤血球がなく溶血の所見もないこと、ヘパリン投与との時間関係が明確なことから、TTPは考えにくい。

HITの分類

・Ⅰ型:ヘパリンが直接血小板に作用して起こる非免疫性の軽度の血小板減少。投与開始後2〜3日以内に起こり、ヘパリンを続けても自然に回復し、血栓症も起こさない。臨床上問題にならない。 ・Ⅱ型:免疫機序によるもので、一般に「HIT」というとこちらを指す。通常、投与開始後5〜14日に発症する。ただし最近(おおむね100日以内)にヘパリン投与歴があると、すでに抗体を持っているため投与開始当日〜翌日に急速に発症することがある(急速発症型)。

4Tsスコア(各0〜2点、合計0〜8点)

・Thrombocytopenia(血小板減少):50%を超える減少かつ最低値2万/μL以上なら2点。 ・Timing(時期):ヘパリン開始5〜10日目の発症(または100日以内の投与歴があり1日以内の発症)なら2点。 ・Thrombosis(血栓症):新たな血栓症、注射部位の皮膚壊死、ヘパリン静注後の急性全身反応があれば2点。 ・oTher causes(他の原因):血小板減少の他の原因がなければ2点。 合計6〜8点が高確率、4〜5点が中等度、0〜3点が低確率とされる。

HITの治療

・未分画ヘパリンも低分子ヘパリンも、ヘパリンロックやヘパリンコーティングカテーテルを含め、すべてのヘパリンを直ちに中止する。 ・ヘパリンを中止するだけでは血栓リスクが残るため、抗トロンビン薬のアルガトロバンなど、ヘパリン以外の抗凝固薬を開始する。 ・血小板輸血は血栓を悪化させるおそれがあり、出血がない限り原則として行わない。 ・ワルファリンは急性期に開始すると、プロテインCの低下が先行して凝固傾向が強まり、四肢の静脈性壊疽などを起こすことがある。血小板数が十分に回復してから、代替抗凝固薬と重ねて導入する。 ・HIT既往のある患者に心臓手術などでヘパリンが必要な場合は、HIT抗体が陰性化するのを待って短期間に限って使うなど、慎重な対応が必要となる。

血小板減少と血栓症をともにきたす主な病態

HIT、DIC、TTP、HUS、抗リン脂質抗体症候群、発作性夜間ヘモグロビン尿症〈PNH〉などがある。凝固検査(PT、フィブリノゲン)、破砕赤血球の有無、薬剤投与歴を組み合わせて鑑別する。

POINT

・ヘパリン開始5〜10日目の血小板減少+新たな血栓症 → HIT(Ⅱ型)を疑う。 ・HITの本態はヘパリン・PF4複合体に対するIgG抗体による血小板活性化。出血ではなく動静脈血栓が問題となる。 ・確認検査はHIT抗体(抗PF4/ヘパリン抗体)測定。臨床的評価には4Tsスコアを用いる。 ・HITを疑ったら結果を待たずに全ヘパリン中止+アルガトロバンなど代替抗凝固薬。血小板輸血は原則避け、急性期のワルファリン開始も避ける。 ・PT・フィブリノゲン正常 → DICは否定的、破砕赤血球なし → TTP/HUSは否定的。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。