StudyMed医師国家試験

「やる気」の段階に合わせて声をかける―行動変容ステージと支援のベストマッチ

第117回医師国家試験 E問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第117回 E問題 第11問

行動変容のステージと患者へのアプローチの組合せで適切なのはどれか。

  1. a.無関心期 ―― 目標の設定
  2. b.関心期 ―― 情報の提供
  3. c.準備期 ―― 行動計画の作成
  4. d.実行期 ―― 罰則の設定
  5. e.維持期 ―― 支援の終了

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、禁煙や減量などの健康行動を身につける過程を5つの段階に分けた「行動変容ステージ」と、それぞれの段階に合った支援の組合せを問う問題だ。着眼点は、患者さんが今どの段階にいるのかを見極めて、その段階にふさわしい働きかけを選べるかどうかだよ。
医学生医学生
ProchaskaとDiClementeのトランスセオレティカルモデルですね。行動科学の講義で習いましたが、各段階の区切りがあいまいになっています。
ドクタードクター
じゃあ、まず整理しよう。6か月以内に変えるつもりがないのが無関心期、6か月以内に変えるつもりはあるがまだ行動していないのが関心期、1か月以内に変えるつもりがあって小さな取り組みを始めていることもあるのが準備期。行動を変えて6か月未満が実行期、6か月以上続いているのが維持期だ。
医学生医学生
「6か月」と「1か月」がキーワードなんですね。それぞれに合った支援はどう考えればいいですか。
ドクタードクター
大まかに言うと、無関心期は「気づき」、関心期は「動機づけ」、準備期は「目標設定と具体的な計画」、実行期は「意欲の強化と環境調整」、維持期は「逆戻り予防と周囲の支援」だ。これを当てはめると、どの組合せが適切かな。
医学生医学生
準備期に行動計画を作る、という組合せがぴったりですね。
ドクタードクター
正解。準備期の人はもう近いうちに始める気になっていて、「何から始めればいいか」を知りたい段階にある。だから本人と一緒に、達成できそうな目標を立てて、いつ・何を・どれだけやるかを決める。開始日を決めたり、家族や職場に宣言してもらったりするのも後押しになるよ。
医学生医学生
無関心期に目標を設定するのはダメなんですか。早めに目標を示したほうが意識してくれそうですが。
ドクタードクター
そう思いがちだけど、本人に変える気がない段階で目標を押しつけても実行にはつながりにくいし、かえって反発を招くこともある。無関心期にはまず、今の生活習慣にどんなリスクがあるか、検査結果が何を意味しているかを伝えて、問題に気づいてもらうことが先なんだ。
医学生医学生
そうすると、情報提供は無関心期向けで、関心期には合わないということですか。関心期でも情報はほしい気がします。
ドクタードクター
鋭いね。関心期でも情報を伝えることはあるけれど、この時期の人は必要性はすでにある程度わかっている。そのうえで「変えたいけど面倒だ、自信がない」と迷っている、いわゆる両価性の状態なんだ。だから知識を足すより、変えることの利益と不利益を一緒に整理したり、変わった自分を前向きに思い描いてもらったりして、自己効力感を高める動機づけが中心になる。最も適した支援という意味では、情報提供は無関心期に重視されるものだよ。
医学生医学生
実行期の罰則は、さすがに違和感があります。
ドクタードクター
その感覚は正しい。実行期は始めてまだ日が浅く、逆戻りしやすい不安定な時期だ。罰則を設けると失敗への不安が強まり、自己効力感も下がって継続を妨げかねない。この時期は、できたことをほめる、記録を一緒に振り返る、自分へのごほうびを用意する、誘惑になる状況を避けるといった、意欲の強化と環境調整が大切なんだ。
医学生医学生
維持期まで来たら、もう支援を終えてもよさそうに思えますが。
ドクタードクター
そこも落とし穴だね。6か月以上続いていても、ストレスや生活環境の変化をきっかけに元の習慣に戻ってしまうことは珍しくない。だから支援は終わらせず、逆戻りしやすい場面を予測して対処法を準備しておく、家族など周りの協力を得る、といった形で続けることが重要だ。
医学生医学生
整理すると、気づき、動機づけ、計画、強化、逆戻り予防の順番で、患者さんの段階に合わせて支援を切り替えるということですね。
ドクタードクター
その通り。もう一つ大事なのは、ステージは一方向にだけ進むわけではないということ。行きつ戻りつしながら移っていくから、逆戻りしても責めずに、その時点のステージに合わせて支援を組み直せばいい。
医学生医学生
総合診療科の実習で禁煙外来を見学したとき、何度も禁煙に失敗している患者さんに先生が「また挑戦しに来てくれたこと自体が大事」と声をかけていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい場面を見たね。まさに逆戻りを前提にした支援の姿勢だ。この考え方は特定保健指導や禁煙支援などで広く使われていて、まず対象者のステージを把握してから支援内容を選ぶのが基本になっている。関心期のように迷いがある人には、本人の中にある「変わりたい理由」を引き出す動機づけ面接法も役に立つよ。
医学生医学生
OSCEの医療面接でも、一方的に説明するより、患者さんの考えを引き出すように言われました。つながっているんですね。
ドクタードクター
そう、医療面接の技術がそのまま行動変容の支援に生きてくる。生活習慣病の診療では薬と同じくらい、こうした関わり方が治療の成否を左右するんだ。

まとめ

トランスセオレティカルモデルでは、健康行動の変化を無関心期(6か月以内に変える気がない)、関心期(6か月以内に変える気がある)、準備期(1か月以内に変える気がある)、実行期(開始後6か月未満)、維持期(6か月以上継続)の5段階に分けます。支援は段階に合わせて選ぶのが原則で、無関心期は情報提供や問題点の指摘による気づき、関心期は利益と不利益の整理などによる動機づけ、準備期は目標設定と具体的な行動計画の作成、実行期は意欲の強化と環境調整、維持期は逆戻り予防と周囲の支援が中心となります。罰則の設定は自己効力感を損ない、維持期での支援終了は逆戻りを招きやすいため不適切です。ステージは行きつ戻りつするものであり、逆戻りしても責めずに支援を組み直す姿勢が大切です。この枠組みは特定保健指導や禁煙支援などで広く用いられ、日常診療で患者の生活習慣改善を支えるうえでの基本となります。

解答・解説

正解はcです

本問は、Prochaska と DiClemente が提唱したトランスセオレティカルモデル(多理論統合モデル)の「行動変容ステージ」と、各ステージに適した支援の組合せを問う問題である。 このモデルでは、人が禁煙・運動・減量などの健康行動を身につける過程を、行動を変える意思と実行の有無によって次の5段階に分ける。 ・無関心期(前熟考期):6か月以内に行動を変えるつもりがない ・関心期(熟考期):6か月以内に行動を変えるつもりはあるが、まだ行動していない ・準備期:1か月以内に行動を変えるつもりがあり、すでに何らかの小さな取り組みを始めていることもある ・実行期:行動を変えて6か月未満 ・維持期:行動を変えて6か月以上継続している 重要なのは、患者が今どのステージにいるかを見極め、そのステージに合った働きかけを選ぶことである。行動する気のない人に具体的な計画を押しつけても効果は乏しく、逆に行動する準備が整った人に一般的な情報提供だけをしても前進しにくい。おおまかには、無関心期は「気づき(情報提供・問題点の指摘)」、関心期は「動機づけ(メリット・デメリットの比較、自信の強化)」、準備期は「目標設定と具体的な行動計画」、実行期は「意欲の強化と環境調整」、維持期は「再発(逆戻り)予防と周囲の支援」と整理すると判断しやすい。この整理に照らすと、準備期に行動計画を作成する組合せが最も適切である。

選択肢考察

  1. ×a.  無関心期 ―― 目標の設定

    無関心期の人は、行動を変える必要性をまだ感じていないか、変えることに否定的である。この段階で具体的な目標を設定させても、本人に取り組む意思がないため実行にはつながりにくく、かえって抵抗感を強めることもある。この時期には、現在の生活習慣に伴う健康上のリスクや検査結果の意味を伝える情報提供、問題点の指摘、行動を変えた場合の利点の説明などによって、まず問題に「気づいてもらう」ことを目指す。目標の設定は準備期に適したアプローチである。

  2. ×b.  関心期 ―― 情報の提供

    関心期の人は、行動を変える必要性はある程度理解しているが、「変えたい気持ち」と「面倒だ、自信がない」といった気持ちの間で迷っている(両価性)状態にある。必要性の理解はすでにあるため、単なる知識・情報の提供だけでは次の段階に進みにくい。この時期には、行動を変えることの利益と不利益を一緒に整理する、変化した自分の姿をポジティブに思い描いてもらう、小さな成功体験を想定して自信(自己効力感)を高めるなど、積極的な動機づけが中心となる。情報提供は主として無関心期に重視されるアプローチである。

  3. ○c.  準備期 ―― 行動計画の作成

    準備期の人は、近いうち(1か月以内)に行動を起こすつもりがあり、何から始めればよいかを知りたい段階にある。この時期には、本人と一緒に達成可能な具体的目標を立て、「いつ・何を・どれだけ行うか」を決めた行動計画を作成する支援が有効である。開始日を決める、周囲に宣言してもらう(コミットメント)といった働きかけも、行動の開始を後押しする。意思が固まりつつある時期に具体的な計画を示すことで、実行期への移行を促せるため、この組合せは適切である。

  4. ×d.  実行期 ―― 罰則の設定

    実行期は行動を変え始めてまだ6か月未満で、逆戻りしやすい不安定な時期である。この時期に求められるのは、達成をほめる・記録を一緒に振り返るといった意欲の強化、自分へのごほうびなどの報酬づけ、誘惑となる状況を避ける・健康行動を取りやすくする環境の調整などである。罰則を設けると失敗への不安や自己効力感の低下を招き、行動の継続を妨げかねないため、行動変容の支援として適切ではない。

  5. ×e.  維持期 ―― 支援の終了

    維持期は行動変容を6か月以上続けている段階であるが、ストレスや生活環境の変化などをきっかけに元の習慣へ逆戻り(再発)することは珍しくない。そのため支援を終了するのではなく、逆戻りしやすい場面を予測して対処法を準備しておく、継続を妨げる要因を取り除く、家族など周囲の協力を得るといった形で支援を続けることが重要である。

行動変容ステージと有効な働きかけの整理

・無関心期(前熟考期):意識の高揚(情報提供、リスクの説明、問題点の指摘)、感情的体験(健康を損なった場合を想像してもらう) ・関心期(熟考期):動機づけ、行動変容による利益と不利益の比較(意思決定バランス)、自己の再評価(変化後の自分を肯定的に描く) ・準備期:目標設定、具体的な行動計画の作成、自己の解放(実行を決意し周囲に宣言する) ・実行期:意欲の強化、報酬(強化マネジメント)、環境の調整(刺激統制)、援助関係の利用 ・維持期:逆戻り(再発)予防、継続の障害への対処、家族・周囲のサポート

補足

・ステージは一方向にだけ進むものではなく、行きつ戻りつしながら移行するため、逆戻りしても責めずに現在のステージに応じて支援を組み直す。 ・特定保健指導や禁煙支援などの保健指導で広く用いられており、対象者のステージを把握してから支援内容を選ぶことが基本となる。 ・関心期のような迷いのある人には、本人の中にある変わりたい理由を引き出す動機づけ面接法(motivational interviewing)も有用である。

POINT

・行動変容ステージ:無関心期(6か月以内に変える気なし)→関心期(6か月以内に変える気あり)→準備期(1か月以内に変える気あり)→実行期(開始後6か月未満)→維持期(6か月以上継続)。 ・対応の要点:無関心期=情報提供・問題点の指摘、関心期=動機づけ、準備期=目標設定・行動計画の作成、実行期=意欲強化・環境調整、維持期=逆戻り予防・周囲の支援。 ・罰則の設定や維持期での支援終了は不適切である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。