歯みがきと禁煙で防げる病気はどれ?―「生活習慣病」の本当の意味を見極める
第117回医師国家試験 E問題 第10問
国試問題にチャレンジ
生活習慣の改善で発症予防が期待できる疾患はどれか。
- a.歯周病
- b.1型糖尿病
- c.悪性リンパ腫
- d.急性骨髄性白血病
- e.原発性アルドステロン症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
生活習慣病とは、食習慣・運動・休養・喫煙・飲酒などの生活習慣が発症や進行に深く関わる疾患群で、生活習慣の改善による一次予防が可能だという考え方に基づく概念です。歯周病は細菌感染が原因の炎症性疾患ですが、歯みがきや歯石除去などの口腔ケア、禁煙、食生活や血糖の管理で予防でき、生活習慣病の一つに位置づけられています。一方、自己免疫による1型糖尿病、遺伝子異常を背景とする悪性リンパ腫や急性骨髄性白血病、副腎の腺腫・過形成による原発性アルドステロン症は、生活習慣を改めても発症を防ぐことは期待できません。生活習慣病に含まれるのは「2型」糖尿病であることや、歯周病と糖尿病が互いに悪化させ合う双方向の関係にあることも押さえておきましょう。疾患の成因から予防可能性を判断する視点は、公衆衛生の問題だけでなく、日常診療での生活指導にも直結します。
解答・解説
正解はaです
本問は「生活習慣病」の概念を理解しているかを問う問題である。 生活習慣病とは、食習慣・運動習慣・休養・喫煙・飲酒などの日常の生活習慣が、発症や進行に深く関わる疾患群をいう。1996年に、それまでの「成人病」(加齢を主な要因と捉えた呼び名)に代わって導入された概念であり、生活習慣を改めれば発症を防げる(一次予防が可能である)という考え方が込められている。代表例は2型糖尿病、高血圧症、脂質異常症、肥満、虚血性心疾患、脳血管疾患、肺がん・大腸がんなどの一部のがん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アルコール性肝疾患、そして歯周病である。 選択肢を検討する際は、それぞれの疾患の主な成因が「生活習慣」なのか、「自己免疫」「遺伝子異常(体細胞変異)」「内分泌臓器の腫瘍・過形成」など生活習慣では左右しにくいものなのかを見分けるとよい。歯周病はプラーク(歯垢)中の細菌が原因の感染性・炎症性疾患であるが、歯みがき習慣、喫煙、食習慣、糖尿病の管理状態といった生活習慣が発症と進行を大きく左右するため、生活習慣の改善による予防が期待できる。それ以外の4疾患は、生活習慣を整えても発症を防ぐ効果は乏しい。
選択肢考察
- ○a. 歯周病
歯周病は、歯と歯ぐきの境目にたまったプラーク中の細菌(Porphyromonas gingivalis などの歯周病原細菌)により歯肉に炎症が起こり(歯肉炎)、進行すると歯根膜や歯槽骨が破壊される(歯周炎)疾患である。プラークは毎日の歯みがき・歯間清掃で除去でき、定期的な歯科受診による歯石除去も有効である。さらに喫煙は最大級の危険因子で、ニコチンによる歯肉の血流低下や免疫機能の低下を介して発症・重症化を促す。間食の多い食習慣、肥満、コントロール不良の糖尿病も危険因子である。これらはいずれも生活習慣の改善(口腔ケア、禁煙、食生活の見直し、血糖管理)で是正できるため、歯周病は生活習慣病として位置づけられ、発症予防が期待できる。
- ×b. 1型糖尿病
1型糖尿病は、主に自己免疫機序によって膵ランゲルハンス島のβ細胞が破壊され、インスリン分泌が枯渇することで発症する。抗GAD(グルタミン酸脱炭酸酵素)抗体などの膵島関連自己抗体が陽性となることが多い。発症には遺伝素因(HLA型など)やウイルス感染などの関与が考えられているが、食事や運動などの生活習慣とは基本的に無関係で、生活習慣の改善で発症を防ぐことはできない。治療にはインスリン補充が欠かせない。これに対し、生活習慣病に含まれるのは過食・運動不足・肥満が関与する2型糖尿病である。
- ×c. 悪性リンパ腫
悪性リンパ腫はリンパ球(B細胞、T細胞、NK細胞)が腫瘍化した造血器腫瘍で、リンパ球に生じた遺伝子異常(染色体転座など)が発症の中心にある。一部の病型では感染症が関与し、たとえばEpstein-Barr(EB)ウイルスとBurkittリンパ腫・Hodgkinリンパ腫の一部、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)と成人T細胞白血病・リンパ腫、Helicobacter pylori と胃MALTリンパ腫の関連が知られる。しかし食事・運動・喫煙などの生活習慣の改善で発症を予防できる疾患とはいえない。
- ×d. 急性骨髄性白血病
急性骨髄性白血病(AML)は、骨髄系の造血前駆細胞に遺伝子異常が蓄積し、分化能を失った幼若な芽球が増殖する造血器腫瘍である。多くは原因が特定できないが、既知の危険因子として電離放射線被曝、ベンゼンなどの化学物質への曝露、アルキル化薬やトポイソメラーゼII阻害薬などの抗がん薬治療(治療関連AML)、Down症候群などの先天的素因、骨髄異形成症候群からの移行がある。喫煙もリスクをいくらか高めると報告されているが、生活習慣の改善によって発症予防が期待できる疾患としては位置づけられていない。
- ×e. 原発性アルドステロン症
原発性アルドステロン症は、副腎皮質からアルドステロンが自律的に過剰分泌される疾患で、主な原因はアルドステロン産生腺腫(片側性)と両側副腎の過形成(特発性アルドステロン症)である。高血圧、低カリウム血症、血漿レニン活性の抑制などを示し、高血圧患者の5〜10%程度を占めるといわれる二次性高血圧の代表疾患である。生活習慣が原因ではないため、生活習慣の改善で発症を防ぐことはできない。治療は片側性なら腹腔鏡下副腎摘出術、両側性ならミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノンなど)による薬物療法が基本である。
生活習慣病とその主な危険因子
・食習慣:2型糖尿病、肥満、脂質異常症(家族性のものを除く)、高尿酸血症、循環器病(家族性のものを除く)、大腸がん(家族性のものを除く)、歯周病など ・運動習慣:2型糖尿病、肥満、脂質異常症、高血圧症など ・喫煙:肺扁平上皮がん、循環器病、COPD、歯周病など ・飲酒:アルコール性肝疾患など (1996年の公衆衛生審議会の意見具申で示された整理に基づく)
歯周病と全身疾患
歯周病は糖尿病と双方向の関係にあり、糖尿病は歯周病を悪化させ、歯周病による慢性炎症(TNF-αなどの炎症性サイトカイン)はインスリン抵抗性を高めて血糖コントロールを悪くする。このほか、動脈硬化性疾患、誤嚥性肺炎、早産・低出生体重児との関連も指摘されている。成人が歯を失う主な原因はう蝕(虫歯)と歯周病である。
生活習慣病対策の施策
国の生活習慣病予防対策として、身体活動・運動の推進、栄養・食育の推進、たばこ対策、アルコール対策、睡眠・休養の確保などが進められている。健康日本21(第三次)では歯・口腔の健康も目標領域の一つであり、歯周病を有する者の割合の減少が目標に掲げられている。
POINT
・生活習慣病=食習慣・運動・休養・喫煙・飲酒などの生活習慣が発症・進行に関与する疾患群であり、生活習慣の改善による一次予防が可能である。 ・歯周病は生活習慣病の一つで、口腔ケア(歯みがき・歯間清掃・歯石除去)と禁煙が予防の柱である。喫煙は最大の危険因子。 ・1型糖尿病(自己免疫)、造血器腫瘍(遺伝子異常)、原発性アルドステロン症(副腎の腺腫・過形成)は生活習慣の改善では予防できない。 ・生活習慣病に含まれるのは「2型」糖尿病である点に注意。
